オープニング詳細|WTRPG11 グロリアスドライヴ
  1. グロリアスドライヴ

  2. SALF本部

  3. 【OL/堕天】アポルオン

連動 連動 【OL/堕天】アポルオン ガンマ

形態
ショート
難易度
危険
価格
1500(EX)
ジャンル
堕天 OL バトル 
参加人数
83~8人
予約人数
10010100
基本報酬
250000G
250SP
2500EXP
おまけ報酬
20000G
相談期間
5
締切
2019/06/26 20:00
完成予定
2019/07/09 20:00
機体使用
-
関連シナリオ
-

●喇叭の音に耳澄ませ 01
 エルゴマンサーの上半身が『ふわり』と銀色の花のように開いた。それはアギトのようでもあった。
 ばつん、と閉じる銀は、目の前のライセンサーの上半身を捕食する。
 上がなくなった下が、血をぴゅうぴゅう噴かせながら、膝を突いてへたり込んだ。
 もう助からないほど引き裂かれた者が、燻ぶる大地に横たわって「死にたくない!」と泣き叫んでいる。
 君達の方へ走ろうとした者は、銀の腕達に絡めとられ――五馬分屍のごとく、絶叫と共に、毟られる。喰らわれる。
 完全に戦意喪失し、うずくまったまま叫ぶしかない者もまた然り。
 綺麗に後頭部を齧られた者は、鼻血を垂らしながら目を見開き、懺悔のように座り込んでいた。

 草原の中、ぬうと立ち君達を見るのは、顔面に何もない男。

 ――これが、たった今、君達の目の前で繰り広げられた惨劇。


●喇叭の音に耳澄ませ 00
 ニュージーランド、レイクサムナー攻略戦の戦線より離れた、とある辺境。
 この一帯を、ライセンサー部隊は二班に分かれて探索を行っていた。一つは民間人捜索、もう一つはナイトメアの索敵や調査の為である。

 天気は快晴、敵影もなく、任務は平穏に過ぎて行く。
 もともとこの辺りではナイトメア目撃情報もなく、難易度の低い任務であった。
 小休止を挟みつつ、君達は任務を遂行していった――。

 ――そんな時であった。

 遠くの空に何かが見えた。
 黒い三つの、鳥のような。
 そこから銀色の何かが、流星のように落ちた。

 ぞっ、と嫌な予感がした。

 あの位置は。
 もう一つの班が、調査を行っている場所――

『敵襲、敵襲です!』

 ひっくり返った声が通信機より響く。続けて聞こえたのは悲鳴だった。
 君達は、仲間の元へと急行する――。


●喇叭の音に耳澄ませ 02
「ちょっとは殺しておかないと、ザルバ君にもラディスラヴァにも怒られそうですからね」
 なぜ殺した、という問いを先んじるように、それは片手で自分の顔を覆いながら言った。その手を退ければ、涼やかな男の顔が現れる。

 ――ロシアインソムニア『ネザー』の司令官エルゴマンサー、エヌイーである。

「さてと」
 エヌイーは、穏やかに両腕を広げた。そこに血の染み一つとてなかった。足元には数多の肉片が転がっている――ついさっきまで君達へ通信機越しに快活に会話をしてきた者達だった。依頼開始時に「よろしくお願いします」と笑んでくれた者達だった。あるいはSALFで見かけたことのある者だった。休憩時には共に食事をしたり、会話を楽しんだ、人間達だった。
「あんまり長居をすると、いよいよザルバ君に怒られてしまいますので、始めましょうか。今日はせめて一人ぐらいの片腕は持って行こうと思っていますので、どうぞよろしく」
 怪物は笑った。愉快も愉悦もそこにはない。興味と感心だけがある。

 ――この戦いは、【OL】作戦の戦略的には一切の意味がない。
 ゆえに。
 君達のオーダーは唯一。

 死ぬな。
 

※危険!
 敵は戦闘不能者へも攻撃を行う。重篤な状態になる危険性が高い。

●目標
敵の撃退
失敗条件:PC半数以上の戦闘不能
※PL情報↓
 5ターン経過で、敵は撤退する。
 5ターン未満に撤退した場合、どこまでも追跡してくる。

●登場
エルゴマンサー『エヌイー』
 やや防御型。基本バランス型。特殊抵抗高。広範囲制圧型。
・イマージュスナッチ
 パッシブ。あらゆる攻撃に微量の生命力吸収効果を持つ。
・みずがねの体
 パッシブ。部位破壊無効。最大三回の行動ステップを持つ。
・腐食する白銀
 複数回行動をしない場合のみ使用。相手の防御値を半減してダメージを算出すると同時に、命中対象に「免疫低下(5)」付与。
・自動浄化
 不利な変調を、生命1d6消費ですぐさま回復。
・高度学習体
 回避されるごとに、その対象に対する命中補正が上昇していく。
・奈落の主
 パッシブ。グラートからいかなるダメージを与えられることはない。
etc…

ナイトメア『グラート』*3
 全翼機型爆撃機のような見た目。
 地上から6sq上空を飛行。
・焔の雹
 アクティブ。知覚攻撃。範囲(2)。命中対象に【継続ダメージ】(3)付与。
 着弾点は1d6ターン炎上する。ターン終了時にそのスクエア内にいるナイトメア以外の存在の生命に3d6点の実ダメージを与える。
・リフレッシュ
 パッシブ。不利な変調が付与された際、生命力を1d6点消費することで、直ちにそれを解除する。
・嘆きの翼
 パッシブ。戦闘不能になり墜落し地面に激突した際、範囲(3)の爆発。物理大火力および1d3スクエアノックバック。

●状況
 ニュージーランド。大規模作戦の本戦場からは離れた場所の広い草原。
 日中、快晴、遮蔽物なし。
 冒頭の『もう一つの班』の面子は全員死亡している。

 こんにちはガンマです。
 アバドン。
 よろしくお願い申し上げます。

  • 空の目
    好野 渚la0076
    人間25才|ネメシスフォース×スピリットウォーリア

状況は困難を極めるが最悪では無い。ならば俺は俺の成すべき事を為すだけだ。
全員で生きてこの極地を切り抜ける

敵略称
グラート:G
エヌイー:NE

●目的
全員で生きて帰る

●行動
味方連携重視
状況確認(敵の場所把握
G対応
位置:付かず離れすな距離維持(回復職とは5sq以内を保つ
Gの位置次第だがNEの有効射程を測る為なるべく10sq以上の距離を保つ
敵行動後に行動(緊急時のみその限りでは無い
Gの行動が、爆撃→移動だった場合:G行動後PC有効射程迄移動攻撃
それ以外:爆撃範囲外のG攻撃
G優先攻撃順
NE付近個体>味方攻撃した個体>遠い個体

NEの攻撃対象の系統確認
(セオリー通りならば回復職。高命中と火力持ち、紙防御だが…どうでる?因みに俺は紙防御だ
今後の戦闘に活かすデータを一つでも多く持ち帰る

●戦闘
惑い写す青使用しBS付与
凍り閉ざす銀で複数攻撃(不可の場合は1体攻撃(1発温存
味方巻込み注意し咲き乱れる赤で草原含めG攻撃(エヌイーが体伸ばすか確認
NE対応組にて戦闘不能者出た場合凍り閉ざす銀をNEに使用
敵視を引く事で味方救出の時間を稼ぐ
「皆で生きて帰るのだ!こんな所で死なせはしない!
スキル切れ→主武器:★5知覚銃変更

  • 星々を結ぶ絆
    水樹 蒼la0097
    人間20才|スピリットウォーリア×グラップラー

心情
こんなところにまでエルゴマンサーが……!今度は、そう簡単に負けません!

行動
前衛でエヌイー対応、味方と連携波状攻撃、回復スキル持ちへの射線を封じる立ち位置
上空からの攻撃に注意しつつ燃えるエリアを可能な限りよけながら行動
初手からスキル回数なくなるまではエヌイーへ接近し崩撃で攻撃、パッシブによるBS解除を利用して余分なダメージを与える
あまり有効でなく、炎上によるダメージが近接戦闘では避けられない際、射撃武器に切り替える

エヌイーがこちらの動きを見極める前、回避ができる前半は上記の通り崩撃か射撃武器
後半にかけ、回避が難しくなった際、被ダメージ/ターンの計算と、味方の回復スキルの回数、エヌイーがどの程度の相手に対し攻撃を仕掛けるかを、下記のうちより自身を含めた味方全体が長く無事でいられる作戦を選択
①武器をデザイアアックスによる勇猛なる行軍を使用して体力回復を図る
②武器をフォートレスシールドに変更しダメージを耐える

生命力に余裕があれば、回復スキル使用者が危険な際や気絶した味方への攻撃に対し、実際に射線を防いで攻撃をかばう
特にエヌイー撤退前の最終ターンで、最後だからと全員に対し攻撃を仕掛けることを想定
可能な限り接近しデザイアアックスによる旋空連牙・技で相手に攻撃し、相手の攻撃に対する余裕を削るとともに、できるだけ射線を封じて被害人数を抑える

  • メシのメシア
    モーリーla0149
    放浪者18才|セイント×ネメシスフォース

■心情
なんの理由もなく、人の命を簡単に奪うエヌイーは許せるはずがないよ!
でも今は極めて不利な状況
なんとかしのいで窮地を脱出しないと……

■目的
味方みんなと生き残る

■行動
エヌイーの目的は一体なんだろう?
ボク達の調査を妨害するため?
わざわざ?
エヌイー自ら?
調査で発見されたら不都合なモノが、この近くにあるとでもいうのかな?
「ロシアにいるはずの君が、いったい何のためにこんな場所へ!?」

殺しておかないと怒られる

長居をしたら怒られる

矛盾していると思う
SALFと戦うなら長居しなきゃならないハズだし
でも長居したら怒られるなんて……

ボクはグラート対応だよ
とにかく味方の傷やBSの回復をして戦闘不能者を出さないように努めるよ
メンバー中で最後に移動するようにして、みんなの移動位置をみてから移動するよ
回復スキルの射程に、特に【神恵の雨雫】の射程になるべくたくさん入るようにね

エヌイーはヒーラーを狙ってくるかも
ボクが回復スキルを使っているのがバレないようにさりげなーくスキルを使う
ノコノコ族は生き残るための擬態も得意なんだ

あの見た目ならグラートは急降下爆撃タイプじゃないと思う
それもすぐにわかるさ
もし墜落してきたら、落下予想地点から逃げる

生命力が減った味方に【神恵の雨雫】【ハイヒール】使用
BSを【ホーリーライト】で回復

  • 人を助けるヴァルキュリア
    桜壱la0205
    ヴァルキュリア10才|セイント×ゼルクナイト

長居負荷/腕1本(長期殲滅せず早期撤退予定?)&敵能力から逃走が難しい
→戦闘選択
対NE、基本行動はNE→他PCへの射線妨害&回復スキル使用
NEが範囲/複数攻撃を行ったターンは、対NE班(近くにG対応人がいる場合はなるべく含める様に位置を調整)雨滴使用
生命が約40%近くになった自身/対NE班に対してハイヒール使用
対NE二人に対する射線妨害が距離/立位置的に出来ない場合は盾→杖に持替え回復量を上げる
NEに肉薄する事になった場合、弓矢に持替え人で言う心臓の位置を狙ってみる
また、肉体の変化で硫化物にならない箇所(核?)が無いか確認を試みる
対Gは味方の落下警告にのみ意識を向ける

対NE班で気絶者が出た場合、NE対応人数が減らぬ様その場から動かさず気絶者に被さるような形で射線妨害/庇うを継続
同時にG班に連絡し、こちらへ来られる人がいた場合はその人に任すor来た人がNEへの対応を行う場合は交代しNE攻撃範囲外/未延焼地帯まで気絶者を運んだ後戦闘復帰

NEに話しかけ答えがある様なら
遙々ニュージーランドに来た理由(様子見、増援、これからどこへ行くのか)
なぜわざわざ主戦地から離れたここを着地に選択したか
を聞く

また、周囲への攻撃を減らす目的で腐食する白銀を自身に多く使ってもらえる様に対話/啖呵で誘導できないか試みる
白銀を使用された際は同時に祭祈の灯を使用しBS罹患を防ぐ

目的はグラートの早急な撃破と戦闘不能者を出さない事
「遠い地に指揮官自ら御登場とは、随分と現場主義でいらっしゃいますね。良い事です

可能な限り味方との距離を取り範囲攻撃に備えながら、味方と狙う標的合わせてグラートを一体ずつ集中砲火
地上から赤をグラートに届く様に放つ
赤尽きれば真下から通常射撃
エヌイーやグラート複数体を共に巻き込めるなら銀使用で纏めて攻撃
グラートの下に位置する際は様子を良く観察し下部が開けば爆撃が来ると想定し即座に移動または回避行動に動く
また射程が届くならグラートの後方から攻撃行い墜落時には巻き込まれるのを防ぐ為にグラートの進行方向と逆向きに回避・移動して少しでも墜落地点から距離を取って避ける
「形状からすれば攻撃手段は爆撃でしょうかね。
「爆弾だけでも厄介ですが、倒して墜落でもしたら、押しつぶされてはかないませんね

炎上地点は避けて位置取り・移動
また味方が炎上地点に存在する場合は引き摺ってでも離してダメージを抑える
負傷率が半分を超えた味方(自身含む)が居ればヒールやロングヒール
「この状況下で動けなくなるのは拙いですからね

四・五ターン目はエヌイーの様子に可能な限りの留意しておき、怪しい動きを見せたり自身に視線や身体が向いたら攻撃を警戒し、即座に回避行動を取れる様にしておき狙われたら回避
「貴方の様な『素敵』な性格の方の取る行動は大体読めるものです

グラート対応
「な、なんで水銀スライムやろうがこんな地球の裏側に居やがるです!?」
殺された仲間たちを思いながら、ここにいるはずのない相手の出現に驚く。

エヌイーに絶対背中を晒さないよう(できれば側面も))警戒をしつつグラートの相手をする。
「あの陰険サディスト水銀スライム男に背中なんて見せたら何されるかわかったもんじゃないのですよ!」
主に爆撃体勢に入ったグラートの腹にST-1で射程ギリギリから狙撃を撃ちこみ撃墜を狙う。(あわよくば攻撃の誘爆も狙う)
撃墜し墜落を始めたら咲き乱れる赤や凍り閉ざす銀でできる限り離れた場所にはじき出す。

高高度のグラートに愚痴を吐きつつ必死に撃ち落とす。
「対空用の超射程兵器を寄越せなのです!というかわざわざこんなところまでこんな厄介なの持ってくるんじゃないのですよ!」

エヌイーからの攻撃は攻撃が始まった段階で無様でも何でもいいので全力で攻撃を回避する
「前回みたいにはやられないのです!」(一撃で叩き割られたのがトラウマになっている)

グラートを撃墜出来たらエヌイー対応。
アシッドショットを撃ちこみBS解除によるダメージを狙う。
「さっさと帰りやがれなのです!」

  • 凪の果てへと歩むもの
    東海林昴la3289
    放浪者18才|ゼルクナイト×ネメシスフォース

◆目的
状況打破、生還
〔心情〕
ちょっと前に、話してた奴等が…『テメェ!よくもやりがやったなッ!』
相手が何だろうが、許さねェ。そう思った侭に剣を取る。熱情。
状況、戦況を考慮し、クールダウン。(…無傷で帰すかよ…)あいつ等の無念は俺達で晴らす。
〔行動〕
エヌイー対応。グラートにも意識は向けつつ、基本的に集中。
頭に血が上った後、落ち着いてからは連携、位置取りに留意。

〔戦闘〕
『食らいやがれッ!』「フォースアロー」刺突で繰り出し。エヌイーに対し、牽制。
積極的に攻める方に動き。敵との実力差を肌で感じてからは、立ち回りに改める。
(…くそ、ムカつくけど強い…!)
都度、力の差を感じても、精神力で戦意は保ち。防御、回避、カウンターを狙って行動。
盾を使った防御を視野に入れつつ、隙を探す。
『切り飛ばす…千照流・飛燕ッ!』「エクストラバッシュ」での攻撃。
背後からの奇襲。体術。剣術、試せる事はすべて試す。
『…まだまだァ!』
エクストラバッシュ使用時、剣の振りとは逆手から斬撃を飛ばす『裏飛燕』
意表を突く。
連携重視。視界の阻害等にもフォースアローでの攻撃。盾でのカバーを行う。
※アドリブ等は歓迎。

■グラート対応

行動は回復を最優先
神恵の雨雫で複数の味方を癒す

エヌイー対応者へはロングヒールで対応
BS対応が必要と思われる際はホーリーライトを

負傷者が居ない時は(他の癒し手が回復を行った際等)フィッシャーM800LTRでの射撃

反応によらず、敵の攻撃後に行動
攻撃/回復、最適と思われる行動を選択



■余裕があれば/起死回生が必要な際
他の味方が対応していない個体に対して、薙刀で棒高跳びして、グラートの上に飛び乗れないか試す(味方対応中の個体だと、誤射等で迷惑をかけるため)
上に負荷がかかる想定はしていなかったとしたら、上に乗ったらバランスを崩して命中が下がったり、墜落するかもしれない
頭上に対しての攻撃手段は無いかもしれない(あったとしても、被弾を恐れていては何もできない)
乗れたら主翼の破壊を試みる
墜落時は、地面に薙刀を刺した反動で遠くへ跳躍
もしくは盾で爆風を防ぐ

●Abaddon 01
 マリオン・ミィシェーレ(la3309)にとって、今日は記念すべき初任務の日だった。
 今は【OL】作戦の真只中だが、流石にいきなり最前線も気が引ける。だから激しい戦闘も起きないだろう周辺警戒任務を希望した。頼もしい先輩達の話を聞きながら、このまま順風満帆に作戦も完了できるのだろう、次はナイトメアと直接戦闘する任務でも……そういう風に思っていた。

 ――だから。
 ナイトメアに惨殺された死体なんて見るの、初めてだった。

 肉体が有り得ざる削れ方をした肉片に、マリオンは呆然と意識が凍り付いた。
 人間は、人体は、あんな風に呆気なく、あんな風に残酷に、壊れて死んでしまうものなのか?

「テメェ! よくもやりがやったなッ!」

 東海林昴(la3289)の怒りの声が鼓膜を打ち、マリオンはハッと我に返る。
「許さねェ……お前が何だろうと……!」
 昴の獣の尾が怒りに逆立つ。ちょっと前に和気藹々と話していた者達を、あんなにも呆気なく殺した侵略者に対し、少年は熱情のまま無意識的に抜刀していた。
「……っ――」
 マリオンも深呼吸を一つする。手が震えるのは恐怖ではない、感情を圧倒する怒りだ。侵略者の居丈高な態度への義憤だ。
「こんなところにまでエルゴマンサーが……!」
「な、なんで水銀スライムやろうがこんな地球の裏側に居やがるです!?」
 水樹 蒼(la0097)は眉根を寄せ、いせ ひゅうが(la3229)は双眸を見開いた。二人の心にはいずれも驚愕があり、そして仲間が目の前で殺害されたショック、敵への怒りがあった。
「遠い地に指揮官自ら御登場とは、随分と現場主義でいらっしゃいますね。良いことです」
 リゥ=センジュ(la3040)は涼やかな眼差しで敵を睨め付ける。
 それらの声に対し、ナイトメア――インソムニア『ネザー』司令官エルゴマンサーであるエヌイーは、穏やかな表情のままなのだ。
「……どうして、遙々ニュージーランドに……!」
「そーだよ! ロシアにいるはずの君が、いったい何のためにこんな場所へ!?」
 桜壱(la0205)は生体反応が完全に消失した人間からエヌイーに目を移し、問うた。モーリー(la0149)もそれに指を突き付けて問い質す。
「……」
 エヌイーははたと片眉を上げた。数秒の沈黙の後、瞳孔を動かし、桜壱を見やると、
「理由。そういえば深く考えていませんでした。賑やかそうでしたので行ってみたくなったから、というのは人間の思考的には回答と見なされますかね?」
「そんな、理由で――」
 桜壱は言葉に詰まった。
「私は『ネザー』の主ですからね。管轄外エリアに足を運ぶとなると、ええ、ナイトメアも一応は縦社会ですから、色々と手続きが要るのですよ。今回は特別に、短時間だけ、ラディスラヴァ達に直接介入はしないということで許可されました」
 つまりはただの、祭囃子に誘われて出かけたような、興味から来る様子見。そして最前線ではなく僻地に現れた理由もまたエヌイーは語った。
「ザルバ君に直接お願いして、持ち場を離れてわざわざ来たのに、戦果の一つも上げないと……ほら、雰囲気的にね、ラディスラヴァにもザルバ君にも困った顔をされるでしょう?」
「自由行動の代価に……ボク達の仲間をッ……!」
 拍子抜けするほどなんてことはない理由だった――だからこそモーリーは手が白むほどにプリンセスロッドを握り込んだ。「殺しておかないと怒られる」「長居をしたら怒られる」、一見矛盾しているようで、奴の中では矛盾していないのだ。あんな理由で呆気なく殺された仲間のことを思うと、やるせない気持ちと不条理への怒りが込み上げてくる。
 許さない、ぶちのめしてやる――そんな激情に駆られるが、モーリーはぐっと奥歯を噛んでそれを堪えた。
(インソムニア司令官クラスのエルゴマンサー……【OL】作戦みたいに、本来なら大規模な作戦で挑むような相手……!)
 加えて上空にナイトメアが三体。対するライセンサーはたった八人、よもやエルゴマンサーと戦闘するなど想定もしていない状況で。
 つまりライセンサーは極めて不利な状況だ。
「なんとかしのいで窮地を脱出しないと……」
 モーリーの言葉に、昴が頷く。彼もなんとか気持ちを抑えつつも、なれど殉職者らの無念を晴らす為にも無傷で返さぬ意志を目に宿す。
(状況は困難を極めるが最悪では無い。ならば俺は俺の成すべきことを為すだけだ)
 好野 渚(la0076)は緊張に伝う汗を頬に感じながら、表情を引き結ぶ。
「……全員で生きて、この極地を切り抜けるぞ!」
 自己暗示、あるいは仲間への鼓舞のように、渚は声を張り上げた。
「はい! ……今度は、そう簡単に負けません!」
 蒼は勇気を振り絞り、大きく一歩前に出た。
 対するエヌイーは、緩やかに両腕を広げた。
「素晴らしい。瞬時の判断、迷いのない行動、綿密な統率――では、こちらも参ります」

 そして、エヌイーの上半身がドロリと形を崩す――



●Abaddon 02
 銀色が閃いた。一見して美しい。だが本能がどうしようもなく警鐘を鳴らす色だった。
 ライセンサーが移動を始めるより先に、エヌイーの流動体の体が幾重の刃となって、彼ら全員のシールドを猛烈に傷つける。

(速い――!)

 蒼は顔をしかめる。それはエルゴマンサーという上位種としての基礎能力の高さだ。反応力はエルゴマンサーの名相応にあるらしい。今までの任務では様子見からわざと行動を遅らせるようなことをしていたようだが、その気になれば、こいつは。
 それにしても人外めいたレンジの範囲攻撃だ。また、回避に関しても、流石に熟練の特化型でなければ安定回避は厳しそうか。
 などと、蒼が分析している間にも、エヌイーは彼女と桜壱へ追撃に出るのだ。
「有名な方ですよね、お二人は」
 インソムニアに拉致されていた経緯を知っているようだ――エヌイーは範囲攻撃ではなく二人だけを狙い、槍状にした器官を二人に二度、突き立てる。
「う、ッ……!」
 蒼、そしてとくに桜壱はひときわ頑健なライセンサーだ。生半可な者であれば肉片として散らされていたのだろう。桜壱はイマジナリーシールドから伝わる衝撃に眉根を寄せた。
(一撃は耐えられる、でも何度も何度も来られたら……!)
 想像の盾は一撃をしのいでも、余波に少しだけ削れてしまう。つまりどれだけ堅牢であろうと、手数による最低保証ダメージの蓄積という危険性があるのだ。
「色んな世界を見てきましたから。非常に頑健、非常に俊敏――削れない当てられないでは勝てないじゃないですか。対策せずして侵略者を名乗れましょうか」
 胴から上が人間の形をしていない怪物が、見当たらない口で喋る。銀色の不定形物体がずるずると天におぞましく伸びている。
(何か、核のようなモノは……)
 桜壱は生理的嫌悪感すらもたらす不定形に目を凝らす。先ほどの攻撃で流動体にならなかったのは脚だ、そういえば報告書でも彼は上半身を溶かしてばかりだったが、もしや。
「ああ」
 眼差しの意図を察した異形は、このように応える。
「使徒やテンペストの時もそうでしたが、皆様は私の弱点部位、コア、というものがどうも気懸りなようですね。そんなものはありませんよ。使徒にもテンペストにも、グラートにもチリアットにもね。逆に私は不思議でならないのですよ。なぜコアなどという弱点をわざわざ作るのか?」
 エヌイーは不定形の体から人体に姿を戻した。その姿には首がなかった。左胸にもポッカリ穴が開いていた。『コアのような弱点部位などない』と示すかのように。
「なんとも、デタラメですねッ!」
 蒼が先陣を切り、エヌイーへと踏み込み挑む。何だろうと背を向けて逃げることを許してくれる相手ではあるまい。乙女は大鷲の爪翼に想像力を注ぎ込むと、人の形をしていないバケモノへと一気加勢に振り下ろした。崩撃、それは相手の防御姿勢を崩す一撃だが、事前情報にあった通りに流石に抵抗力が高い、状態異常の付与は難しそうだ。
 だがダメージは入っている――と信じたい。手応えはあるのだが呻き声もなければ血も出ない。切り裂かれて震えた銀の物体は水面のように元に戻るが、再生ではないはずだ。
「食らいやがれッ!」
 攻勢に続くのは昴だ。ルーンソードを突き出し、広い間合いからフォースアローで強襲する。シールドに罅が入ったバックファイアとじくじく脳を焼く怒りで、少年はふうふうと肩を弾ませていた。
(……くそ、ムカつくけど強い……!)
 本能的が叫んでいる。アレは危険な存在だと。強さもそうだが、性質もそうだ。何もかもが人の基準を逸脱している。
「Iと蒼さん、昴さんでエヌイーを抑えます、皆さんは頭上のナイトメアを!」
 声を張り上げるのは桜壱だ。想像力で具現化するのは温かな癒しの雨。光が桜壱、蒼、昴のシールドの亀裂を修復していく。
(あの言動から考察するに……長居はしない、はず……!)
 ならばその時間まで耐え切るしかないのだろう。逃げるにしても、エヌイーの射程、飛行タイプであるグラートのことを考慮すれば難しい。
「了解だよ! さあ、全員で戻ろうねっ」
 モーリーは快活に言いながら、静かに想像力を練り上げる。周囲に降らせる神恵の雨雫で、仲間達のシールドを一気に修復するのだ。本当ならばプリンセスロッドを掲げてハートのエフェクトをキラキラさせながら――であるが、ヒーラーは狙われる危険性がある。回復職は生命線だ。敵ならば優先して断つべき存在と認識されるがゆえに、モーリーはコッソリと術を使ったのだ。
(ノコノコ族は生き残るための擬態も得意なんだ!)
 降る神恵の雨雫には、マリオンが放つ光も含まれていた。
「これしきで……まだ……!」
 マリオンは砕けた盾を元に戻していきながら、ぐっと表情を引き締める。
「あいったたたたたた~……! チームネメシス、全員無事か?」
 光に身を委ねてシールドを修復しながら、渚はネメシスフォースの仲間達――自分、リゥ、ひゅうが、マリオンを見渡す。エヌイーの居間の攻撃は物理攻撃。ネメシスフォースの天敵だ。
「……首の皮一枚、ですが」
「ワンパンキルされてたまるかですよっ!」
 リゥもひゅうがもシールドに甚大なダメージが発生していたが、モーリーとマリオン二人分の治癒で戦闘続行可能だ。
(とはいえ……流石に『連打』されると)
 リゥは柳眉をわずかにひそめる。周囲一切を薙ぎ払う範囲攻撃よりも、狙う人数の少ない複数攻撃の方が攻撃力は高いようではあるが、それでも今の範囲攻撃はあまりに危険だ。
(……更に狙いを絞った攻撃は……)
 そして考察する。エヌイーが攻撃のリソースを一点集中したならどうなるか。考えたくもないことだ。
 だが幸いにして。
 この状況、「倒せば勝ち」ではない。「耐え切れば勝ち」だ。この不利にして理不尽極まりない状況において、相手を倒すことを考えなくていいのは、ある種の救いである。
 なれど。どんな状況であろうと。リゥが願うことは唯一、誰も欠けないことだ。
「形状からすれば攻撃手段は爆撃でしょうかね」
 グラートを見上げリゥが言う。モーリーが頷いた。
「あの見た目なら急降下爆撃タイプじゃないと思う……けど、それもすぐにわかるさ」
「全くなんなんですかあの高度は! アサルトコア前提ですよねアレ!? 対空用の超射程兵器を寄越せなのです! もしくは人間用のプレーンブースターをライセンサー全員に配備するのです! というかわざわざこんなところまでこんな厄介なの持ってくるんじゃないのですよあのネチョネチョ水銀!」
 愚痴を続けたのはひゅうがだ。小さな小さな体を怒りにぴょんぴょんさせながらも、キッと彼方の敵を見澄ます。

 かくしてグラート達が動き出した。一機はエヌイー対応の者らへ、残る二機はそれ以外の者らへ、降らせるのは一発の光弾。中空で炸裂するそれは、燃える雹となってライセンサー達を包み込む。大地を焦がし、炎上させる。
 着弾の衝撃ももちろんそうだが、燃え上がる大地がライセンサー達を苛んだ。

「反撃行くぞ、リゥ、ひゅうが! 俺達の力を見せてやるんだ!」
 シールドを焼く熱に声に苦痛を滲ませながらも、渚は力強く二人に呼びかける。頷く二人が、天を仰ぐ。
 エヌイー対応の者が射線の妨害をしてくれている。回復役が、シールドの損傷を治してくれる。
 ならば仲間を信じ、空を飛ぶあの忌々しい悪夢をどうにかすることこそ、彼らの役目なのだ。
 グラートの一撃は範囲が広く継続ダメージが厄介だが、直接的な火力はそこまで高くもないようだ。特に知覚攻撃となればネメシスフォースの者らならば物理面よりも得意である。
 渚はできるだけエヌイーから距離をとりつつ、射程限界からグラートを睨んだ。その瞳が黒から金の色へと変じる。
「惑え――!」
 掌をかざせば、宙に展開されるのはイマジナリードライブによる水のスクリーンだ。それは一体のグラートを包み込む。本来であればそれは知覚を阻害し命中精度を下げるものだが、かのナイトメアは生命力を代価にそこからすぐさま復帰するのだ。
「ぐ、あっちも対策済みか……!」
「ならば」
 続くのはリゥだ。先程の爆撃は回避して見せた彼は渚が狙った個体を見やり、かつてまとった尽きぬ光を想像力で模倣する。炸裂させるのは咲き乱れるような炎の大華だ。正真正銘の大火力が、グラートを強烈に焼き焦がす。
「あの陰険サディスト水銀スライム男に背中なんて見せたら何されるかわかったもんじゃないのですよ!」
 ひゅうがは鮮烈な炎を見上げつつ、ST-1エクスプローラーを頭上のグラートに向けた。彼女はロシアのナイトメア勢力が大嫌いだ。人命を容易く踏み躙り、下らぬ理由で蹂躙し、悪意の行為で恐怖させる。そう、一片たりとて許容できるはずがないのだ。引き金を引けば、復讐の弾丸が放たれる。

「では、その戦意に祝福を」

 銀色の悪夢は、両腕を広げた。



●Abaddon 03
 燃える沃野を踏み砕き、鋭い銀がしなる槍のように降る。
 それはエヌイーへ挑んだ蒼、桜壱、昴、そして後方で次の治療術への想像力を練り上げているマリオンへ向かっていた。先程の全方位薙ぎ払いからは趣向を変えたようだ。
「ッ!」
 動いたのは蒼と桜壱だった。
 蒼はマリオンへの射線を防いで庇い、桜壱は同様に昴を護る。範囲攻撃に関しては護ることはできないが、複数対象のものならば。だがそれにはそれのデメリットがある。どういうことか。庇った蒼と桜壱は、肩代わりする分に加えて、本来自分が狙われている分の攻撃も身に浴びるということだ。
 猛連撃だ。いかに頑健であろうとあまりに削られ致命的だ。
「う、あッ……」
 辛うじて一発は。蒼は必ず仲間達の元へ戻るという意志の下にかわしてみせたが、形を失った盾に片膝を突いた。周囲は火がめらめらと燃えていて、今この時も彼女の命を奪わんとしている。
(こんなところでッ……!)
 蒼は自らを奮い立たせる。立ち上がり、跳び下がり、武装をフォートレスシールドに変更した。
 侮っていたかも、しれない。……攻撃をすれば相手の余裕が削れるかもしれない、そう思っていた。もしこれが大規模作戦で、多人数の小隊が一斉に全方位から攻勢すればそれもまた可能性ではあっただろう。だがエヌイーを攻撃しているのは蒼と昴の二人、たった二人でエルゴマンサー級を「余裕がなくなるぐらいまで攻められる」など……あまりにもあまりにも難易度の高いことだった。
 更にエヌイーはグラートの攻撃を受け付けない。奴に近接戦闘をしかけるのならば、否が応でも火の中に入らねばならぬ。ここで必ず倒さねばならない相手ならばそれでも火の中に進むべきだろう。だが今は、大将首を狙おうなど月を掴むも同義である。ゆえに耐久だ。攻撃をかなぐり捨ててでも耐久だ。

 エヌイーはエルゴマンサーという恐るべき『基礎力(ハイスペック)』は勿論、奴は完全に『対人戦闘』の対策を徹底的にしている。防御型対策、回避型対策、部位狙いの難しさもものとしない命中型対策……。
 人類がナイトメアへの対策を日進月歩で推し進め、知恵を合わせて作戦を立てるように、この怪物もまた――ナイトメアからすれば伝家の宝刀リジェクションフィールドを突破する『怪物』への対策に、心血を注いでいたのだ。

(慎重? 傲慢? 臆病? 関心? 愛国? 真率? いったい……)
 マリオンは不気味さを感じて眉根を寄せた。いずれも異なり、いずれも当てはまるような気がする。だが今はそんな考察よりもしなければならないことがあった。
「蒼さん、ありがとうございます。まだ倒れさせはしません……!」
 彼女へ飛ばすのはロングヒールだ。
 同時に桜壱も、神恵の雨雫によって仲間達の傷を癒す。状況が良くないことを電子の脳が目まぐるしく演算している。相手の打つ手が全て、こちらにとってあまりに厄介なのだ。グラートによるじわじわとしたスリップダメージ、エヌイーによる強烈な複数攻撃。今すぐにでも誰かが脱落してもおかしくはない。
(どうしたら……どうしたら……!)
 桜壱は手を震わせながら、懸命に命綱たる盾を構える。
「切り飛ばす……千照流・飛燕、裏飛燕ッ!」
 小さなアンドロイドに護られながら、攻勢を仕掛けるのは昴だ。ルーンソードを鋭く揮い、エヌイーへと剣撃を飛ばす。命中はしたが、それがどれだけダメージになっているのかは、あまりに相手が人外的な外見をしているので分からない。
(隙が、ないッ――!)
 エヌイーと対峙すればするほど昴は思い知る。隙がない。あの不定形の体は背後のクソもない。目玉もないので視野という概念も皆無。だから「背後を狙って奇襲する」「目を狙って視界を塞ぐ」なんてことは全く以て意味がないのだ。報告書にも、かつてエヌイーへ挑んだ者が同様の戦法をとり、効果を得られなかった記述があったことを思い出す。
(なんだよ、こいつ……なんなんだよ……!)
 人間じゃない。人間に通用する手段が通用しない。見開かれた昴の目に映るのは、生き物の本能を逆撫でするような銀色の物体が、形を保たず空に蔓延っている状態だ。
 そして同時に思い出すのは、「アレは人間を食う」ことで。目の前で繰り広げられた惨劇の記憶に、昴の喉がひゅっと鳴った。
(親父も……こんなバケモノと、戦ってきたのか?)

 空に光が閃く。

 それはグラートの爆撃だ。
 リゥはもう一度それを回避してみせると、迎撃のよう氷の杭を――一本はエヌイーをも狙って、放った。
「もう一発ッ!」
 同じく爆撃を掻い潜り、渚はグラートに対し同じ術で追撃を放つ。立て続けに突き立てられる絶対零度の槍は、ネメシスフォースの華である知覚大火力を以て痛烈なダメージをグラートに叩き込んだ。
 するとグラートの機体のような体が割れ、火を上げながら宙でぐらつき、そのまま真下へ墜落してくる。
 ここに厄介な問題があった。ライセンサーはグラートに攻撃を当てる為には、射程面からどうしても真下付近にいなければならない。そしてその地点はグラートが攻撃を行い炎上している真只中でもあった。グラートは移動後に真下へ爆撃を行う。燃えるエリアを避ければライセンサー側の攻撃が当たらない。かつ、グラートは戦闘不能になれば真下に落ちる。
「悪意的な相手ですね――」
 攻撃をするならば相手の爆撃範囲かつ炎上範囲かつ落下地点に立ち入らねばならず、かといって放置をすれば戦場中が火の海にされる。リゥは空の悪夢をキッと睨んだ。
 今回の状況はあまりにハードだ。全てをカバーし全てを拾い上げるのは想像を絶するほど困難だ。何かを得る為に、何かを切り捨ててでも戦略を尖らせる必要があったか。特にグラートを攻撃する場合は、立ち位置にかなりの制限が発生することなどが挙げられる。
 墜落するグラートが迫る。あれに直撃したらまずいことになるのは目に見えている。だがその寸でのところで、ひゅうがが咲き乱れる赤をそのグラートに放った。
「吹っ飛びやがれなのですっ!」
 間に合うか。間に合え――鼓膜を震わせる爆発音が響いて、中空でグラートの体が木っ端に砕け、炸裂した。爆風が三人のネメシスフォースを吹き飛ばす。
「っ……九死に一生ですね」
 リゥは跳ね起きながら、もうもうと立ち上る土煙に軽く咳き込んだ。墜落による大爆発は幸いにして直撃することなく、その余波だけが直下に居た者を吹き飛ばすに留める結果となった。少々衝撃がシールドに響いてぶっ飛ばされただけで済んだのはまことに幸いだ。あのままだったら三人諸共、まとめてダウンしていたかもしれない。
「無事だね? よかった!」
 モーリーは風に晴れる爆煙の中から仲間の姿を認めると、すぐさまありったけを護れる範囲に収めながら、癒しの雫を空から降らせた。
「どんどん応援していくよっ! 大丈夫――この天才的美少女ノコノコ族のボクがついてるんだから!」
 こんな状況だからこそ明るい声で、モーリーは仲間達を鼓舞する。

 だが相変わらず状況は芳しくない。
 グラートによる範囲爆撃、炎上する大地。無傷の者はゼロと言っていいだろう。幸いにして回復術が豊富なことから脱落者こそいないが……。

 悪夢は未だ醒めない。



●Abaddon 04

「Iは人ではありません。人の形を作っているだけの、人じゃない物」

 再度攻勢に出ようとしたエヌイーへ声を張ったのは、桜壱だった。
「目的の為だけに、ただひたすら星に手を伸ばす様は、Iには貴方も人と近く見えるのです」
「ふむ?」
 言葉を促すように、人の形をしていないそれは桜壱の言葉を促した。ゆえに、科学の子は続ける。大きな盾を、力強く大地に立てながら。

「けれども! この不肖桜型1号機! 人に作られ、見えずとも心という小さな星を頂いたので! ――勝負です! 貴方の色に腐食されぬ盾、試して頂けませんか!」

 人間だったそれらに、砕けた星に、左目に炎を映す。
 皆で帰るんだ。生きて帰るんだ。桜壱は覚悟を決める。エヌイーの単体攻撃を誘発させる目論見だ。そうすれば少なくとも周りへの被害は抑えられる、回復して態勢を立て直すチャンスになる。それは自己犠牲であるが、ダメージコントロールを残酷なほど冷徹に考えれば、合理的でもあるか。
 怖くないと言えば嘘になる。折角助かったのに、助けられたのに。
 でも。
「人とそれに連なるモノを支えます、守ります、助けます。その為にIは作られました。だから、それ以外の選択肢はないのです!」
「素晴らしい」
 エヌイーの返答は早かった。
「その献身に敬意を」

 一瞬だった。

 ふわりと開いた怪物の体が、小さな桜壱を包み込んで。
 それは想像を蝕み潰し殺し尽くす、絶望の一撃。
 柔らかいアイスをディッシャーが削るように。
 桜壱の体は、膝から下だけになってしまった。
 がらん、と盾が転がる。小さな足が、立ったまま断面から火花を上げている。

「うそ、」
 マリオンは掠れた声で呟いた。
 シールドへのダメージが蓄積していたという前提はある。だがあの桜壱が。
「……よくもッ!!」
 渚はぞっと血の気の引く心地を感じながら、凍り閉ざす銀をエヌイーへと放った。何事もなかったかのように人の形になった化物の眉間に突き刺さる。だがそれで殺害をすることはできない。
「なんでロシア方面軍が豪州方面軍の領域にいるですか。総司令部に怒られるですよ? さっさと帰ってナイトメアの改良でもしてやがれなのです、主においしく食べられるように!」
 ひゅうがは怒りの言葉をなげかけながら、銃口をエヌイーに向けた。
「さっさと帰りやがれなのです!」
 放つのはアシッドショットだ。それは確かにエヌイーに命中はするが――奴の特殊抵抗は高い。変調付与するにはかなりの苦戦を強いられてしまう。

 そしてライセンサーの視界を閉ざすのは、二機のグラートが撒き散らす三度目の爆撃だ。戦場はほぼ逃げ場がないほどに燃え続け、一同の生命を削っていく。

「う……!」
 マリオンはすぐに治癒術の準備をしながらも、空の悪夢を見た。SALFが戦略的に1スクエアと定める一辺は5メートル。グラートとの距離は戦略図的には6スクエアも離れている。棒高跳びの要領でも届くはずがない。空を飛ぶ以外でグラートに乗ることなどできない。
 治癒にはリゥも加わる。モーリーと協力して、一秒でも戦線を保てるように。
「この状況下で動けなくなるのは拙いですからね」
「でも、ど……どうしよう。桜壱さんが……!」
 モーリーは涙目になっていた。治癒をしてもしても天が地が燃え続け、痛みが止まらない。そして目の前で仲間があんな目に遭ってしまったこと。
 今更攻勢に転じることなど無理だ――蒼と昴は盾を構えたまま、燃える大地に顔をしかめ、じりと半歩後退する。
(あの親父も、こういう修羅場ってのは潜って来たんだ……!)
 恐怖を精神力でねじ伏せて、昴は戦意を保つ。



●Abaddon 05

 ――窮地、だった。

 再び、エヌイーが最初に行った全方位への範囲攻撃を行う。
 砕けたシールドの残滓と、鮮血が、青空に散った。
 ぐらつく視界。続けて蒼と昴は、己達がエヌイーに狙われていることを察する。そして後方の回復役、モーリーとマリオンが狙われていることもまた。

(オレにできねェこともねぇ!! もっと、強くなる。今よりももっと……!!)

 昴は飛び出した。モーリーを護る為に射線を防いで自ら盾となった。
 そして蒼もまた。刹那の決断に迫られていた。先ほどのように、自分と他者の分まで攻撃を受け付ければ倒れかねない。だが自分が護らねばマリオンは確実に倒れる。自分か、マリオンか。蒼は仲間と己を天秤にかけ――迷うことはなかった。
(弱い人を守って、悪い敵をやっつける、ピンチになったり、時には負けそうになったりしますけれど、それでも最後には必ず勝って、皆の笑顔を守れる――そんなヒーローに憧れて、私は)

 想像を突き破り、昴と蒼の肉と骨を貫き食い破った一撃は、後方のモーリーにまでその血飛沫を届かせた。
 鉄臭い赤を顔に散らしたまま、モーリーは震える。真横で爆撃による爆発が起きて、転倒する。地面に着いた手が炎で焼ける痛みも呆然と忘れ、モーリーはそれでも回復役としての務めを果たそうと焦げ臭い戦場を見渡した。
 遂に回避しきれなくなったリゥが火に撒かれて倒れ、マリオンも渚もひゅうがも満身創痍。範囲回復はもう尽きた。空では悪夢のようにグラートがごうごうと飛んでいる。足音が聞こえた。エヌイーが来る。化物が来る。あの怪物が来る!
「負けるもんか、負けるもんか、負けるもんか」
 ゆっくりと、人の形を崩しながら迫り来るそれに、モーリーは炎に咳き込みながらも、涙を滲ませながらも、自らにハイヒールを施して立ち上がり、それを睨んだ。
「負けない、負けない、ボク達は負けないっ……ボク達はっ……」
 震える乙女の喉へと、化物が手を伸ばした。
 刹那だ。横合いからの銃弾が、その手の甲に穴を開ける。 
「前回みたいにはやられないのです!」
 ひゅうがだった。先程の範囲攻撃を遮二無二かわした彼女は一番損傷が少ない。前にエヌイーと交戦した時にノックアウトされたことがトラウマになっていた。
(だから、無様でもなんでも――かっこ悪くても屈辱的でも、死んでたまるかなのですよ!)
 じりじりと距離を取りながら、ひゅうがは表情を引き締める。彼女の方へ振り向くエヌイーが、口が裂けたかのように口角を吊って笑った。
「野蛮で醜くて、まるで獣のようね。いえ……獣以下だわ」
 マリオンはあくまでも優雅に、しかしありったけの敵意を込めて呟いた。言葉と同時にロングヒールを渚へ行う。
 と、その時だ。エヌイーが眉をピクリと動かす。そのまま閉じた口をわずかに動かして――ぷ、と何か小さなものを吐き出した。それは機械の一部品。桜壱の記録チップ。人間でいう脳味噌の部分だ。無事だった。それは桜壱の「皆の元に戻りたい」という願いがもたらした奇跡か、あるいは桜壱の帰還を待つ人々の絆が引き留めた勝利か。
「!」
 渚の行動は速かった。それが燃える火の中に落ちる前に――滑りこむように、手を伸ばして、『桜壱』をキャッチする。これがあればヴァルキュリアの彼はまだ死んでいない。
「皆で生きて帰るのだ! こんな所で死なせはしない!」
 そうだ。まだ、この8人は生きているんだ。渚は桜壱を火から護るように強く握り込んだ。
「おや、これは幸運な。素晴らしいですね」
 ニコリと笑んだ侵略者は、こう続けた。
「……さて、そろそろ戻らねばなりませんので、あと10秒だけ」



●Abaddon 06
 痛みと、閃光と、爆発音とを覚えている。
 焦げ臭さで目を覚ましたのは、ひゅうがとモーリーと渚だった。
 身を起こせば、仲間達が焦げた大地の上で横たわっていることに気付く。自らの激痛も忘れて慌てて駆け寄り確認すれば、酷い傷を負っているが全員生きていた。
 そしてもう一度周囲を見渡せば、もうエヌイーはおらず、空にグラートもおらず。
 焼けて半ば壊れた通信機から、ノイズまみれの通信が入った。「応答して下さい」という泣きそうなオペレーターの声に、答えたのはモーリーだ。
「……好野渚、水樹蒼、桜壱、リゥ=センジュ、いせひゅうが、東海林昴、マリオン・ミィシェーレ、モーリー、以上8名生存しています。でも、みんな、みんな酷い怪我で、桜壱さんがバラバラで、蒼さんも昴さんもいっぱい血が出てて、リゥさんもマリオンさんも起きなくて、それに、一緒に作戦をしていた、ボク達以外の皆は、もう」
 我慢していた涙がボロっとこぼれた。
「お願いです。早く、早く来て下さい。お願いです――皆が、皆が――……」



『了』

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