オープニング詳細|WTRPG11 グロリアスドライヴ
  1. グロリアスドライヴ

  2. SALF本部

  3. 【堕天】義務なる重責、あるいは矜持

連動 【堕天】義務なる重責、あるいは矜持 ガンマ

形態
ショート
難易度
普通
価格
1500(EX)
ジャンル
堕天 バトル 
参加人数
83~8人
予約人数
10010100
基本報酬
200000G
200SP
2000EXP
おまけ報酬
20000G
相談期間
4
締切
2019/06/01 20:00
完成予定
2019/06/16 20:00
機体使用
-
関連シナリオ
-

●Monolog

 ロシアに行く。

 それだけで恐怖で震え、ないはずの胃袋と脳がざわめいたものだ。
 思い出すのは奈落で刻まれた数多のトラウマ。ナイトギアという悪夢。
 かの地は、私にとっての恐ろしく忌まわしい記憶が喚起されてしまう――。

 それでも私は今、ロシアにいる。

 戻って来た、というべきか。
 処分すべきだ、死ぬべきだった、という存在否定の言葉の刃に刺されながら、それでも。
 克服したかった。己の弱さを。
 貢献したかった。戦う仲間達に。
 だって、酷いことを言う人だけじゃない。支え、寄り添ってくれる人の温かさを改めて知った。
 こうしてまた任務に復帰できたのは、ひとえに彼らの励ましによるところである。

 ……堕ちて、逃げて、否定されたこの身なれど。

 未だ、何か価値があるのなら。
 否定と背中合わせに存在している存在意義を、誰かが祝福してくれるのならば。


●Ciriatto
 ロシアインソムニア『ネザー』が送り込んでくるナイトメア『使徒』とは、対人兵器だ。
 一見して人間との見分けが付け難く、ある日突然、隣人が使徒として化け、人間を襲う危険性があるのだ。
 その最大の特徴は『精神兵器』としての運用だろう。コミュニティ内の疑心暗鬼を煽り、結束を揺らがせ、精神を疲弊させ士気を削ぐ。あるいは――敵対心を刺激することで、人類側の対抗発案を促し戦術を進化させるような。

 とかく。
 ナイトメアである以上、ただの市民が太刀打ちできる存在ではなく、ゆえに彼らにとっては恐怖でしかないことは事実。
 特に、人々の中に紛れ込むという特性がその恐怖を加速させる。

 そこでSALFは、定期的にロシアの町々へライセンサーを派遣し、巡回任務に当たらせていた。
 新たな使徒発生の防止、使徒の発見、発見時はその速やかな討伐が任務であり、「SALFが市民を守っている」と行動によって示すことで、市民らへの安心を促す意味もあった。

「こちらは調査完了です。異常はありませんでした」
 ソラリスはそんな巡回任務に就いていた。声をかけたのは四人のSALFライセンサー。新人訓練を終えたばかりの、まだ実戦経験のない者達だった。
「こちらも異常なしでした」
「不審な目撃情報などもなく……」
 ソラリスの言葉に、新人達は事務的に返す。
 ……その眼差しがどこか余所余所しいことに、ソラリスは気付いていた。
 無理もない、とソラリスはそのことについて言及はしない。自分に関する噂は、尾鰭背鰭がついてドス黒くなり、あちこちに駆け巡ってしまっている。敵のスパイではないのか、利用されているのではないか、仲間を見殺しにするクソ売女――……。
 それは、これからの任務での貢献で示せばいいのだ。ソラリスは自分にそう言い聞かせて、一同に「お疲れ様です」と返事をした。

 任務は無事に終了。使徒もおらず、平和に終わった。
 後は帰還するのみ――だった。

「あれ? おかしいな。支部に繋がらない」
 通信機で最寄りの支部に中継連絡を入れたライセンサーが、不思議そうに首を傾げる。機械の故障かと不思議そうにしているも、結局理由が分からず、困った様子で先輩であるソラリスの方をおずおずと見た。
「妙ですね。応答がないなんて――」
 多忙、にしても様子がおかしい。ソラリスはどうすべきか思案し、

 ――視界の端で蠢く不穏な影に、反射的にそちらを向いた。

 それはネズミだ。だが自然発生にしては明らかに数が多い。なによりその背中には、不気味な肉塊がへばりついていたのだから。

「使徒ッ――!?」

 人間以外にも寄生しているタイプがいるなんて。咄嗟に手にした銃器を向けて攻撃態勢に入るソラリス。銃弾はネズミ数匹を吹き飛ばすも、数が多い。
 その間にもざわざわとネズミは湧いて溢れて来て――ぐずぐずと肉のスープのように、互いに溶け合い始めるではないか。それはすぐに不気味で巨大な黒いヘドロのようになり、瞬く間に膨れ上がり……五つの怪物へと変貌する。
「市民の避難誘導を! 早く!」
 あちこちで人々の悲鳴が上がる中、ソラリスは大声で仲間に指示を下した。新人達はひっくり返った声で「はいッ!」と返事をし、走り出す。

 そうなれば、五体の悪夢を前にするのはソラリス一人だ。

 同時に通信機から緊急連絡が入る。告げられるのは、ロシア中でライセンサーを狙ったナイトメアの侵略が起きているということで。
(コイツらッ……目的は私達ライセンサー……!?)
 ならばライセンサーはここから離れれば、ナイトメアを誘導できるのではないか? いや、もし誘導できず市民に襲いかかったら? 使徒を増やされたら? ならばこの場で殲滅? まずは市民の避難誘導が先決だ、だとしても彼等は実戦経験のない隊員、勝てるか? そもそも避難誘導が終わるまでに遅延戦闘を遂行できるか? もし奴らに捕まってしまったら――?
 ソラリスは電子の脳で目まぐるしく考える。
 手が震えた。
 だがその時、通信機から援軍を派遣する旨が伝えられる。

 ――仲間が来てくれる。

 ならばとソラリスは表情を引き締め、銃を握り直した。
 希望は、ある。そう信じる。大丈夫だ。もう失敗はしない。
 そうして鉄の戦乙女はナイトメアを睨み付け、自己暗示のように告げるのだ

「大丈夫。できる。私はもう――私の目の前で。もう二度と、誰一人として、死なせない」

●目標
敵勢力の殲滅

●登場
ナイトメア『チリアット』*5
 動物に寄生した複数の使徒が集まった異形。
 牛ほどの大きさ。不定形の獣。物理アタッカー型。
・獣の殺気
 アクティブ。周囲4sq対象全て(識別可)に【注視(3)】付与。
・鋭き牙
 アクティブ。移動後に攻撃。「チリアットが付与した【注視】」状態の者に対する命中に補正大。
・連なる牙
 パッシブ。別個体のチリアットがそのターン内に攻撃した対象に攻撃する場合、攻撃と命中に補正中。
・異常再生
 パッシブ。毎ターン終了時に生命を5d10回復。

ソラリス
 セイント×スナイパー。実力は高い。
 武装はアサルトライフル、サブでスナイパーライフル。
 スキルについては指示があるものを使用。凡そ使用可。
 PCの指示に従う。特に指示がなければ後方からの射撃と回復支援を行う。

SALFライセンサー*4
 戦闘未経験の新人達。
 一般人の避難誘導を行うので戦闘不参加。
 彼らの働きにより、PCは戦闘専念可能(一般人へのアプローチ不要)

●状況
 ロシア某所、郊外の町。
 時間帯日中。ナイトメアとソラリスが相対しているのは広い道路上。

 こんにちはガンマです。
 やらねばならないこと。使命は重く、しかして気高く。
 よろしくお願い申し上げます。

目的は敵の殲滅。

相手の注視の範囲に入らないように徹底的にアウトレンジから攻撃する。
狙う敵は一体に集中攻撃をして一体ずつ回復されて粘られる前に倒す。
戦闘が開始されたら一番最初に狙う敵に倒して支援射撃で攻撃して行動妨害をを付与して味方の攻撃の支援をする。
後方に位置するため戦場全体を見渡して敵の動きをよく見て前衛の味方に伝える。
一体を倒したら次の攻撃の相手を即決めて攻撃を途切れさせないようにする。
グレイロウとはうち場所を変えて射線に気を付けての攻撃にする。

味方が集中攻撃されて危険な場合は心射撃で攻撃して行動不能にさせて集中攻撃させないようにする。

敵がこちらに来た場合は後退して注視の範囲に入らないように気を付ける。
逆にこちらに来て突出した敵を味方と連携して各個撃破するぐらいの余裕を持って行動する。

  • メシのメシア
    モーリーla0149
    放浪者18才|セイント×ネメシスフォース

■心情
ソラリスはボクの大事な仲間
ノコノコ族は仲間の危機には絶対に駆けつけるよ

■目的
仲間と息を合わせた攻撃

■準備
カイロを持っていくよ
寒そうだからね

■行動
仲間と一緒に現場に急行
「ソラリス、お待たせ!ここからはボク達の反撃ターンだよ!」

みんなで集中攻撃して、敵の自動再生能力を上回る火力で各個撃破だよ!
邪魔なのは敵の【注視】だけど、抵抗値をアップして対策したからね!
ナイトメア、破れたり!
優秀な戦士は準備からして万全なんだよ
ノコノコ族の戦士は、ときに理知的に、用意周到なんだよ!

●戦闘
プリンセスロッドによる近接知覚攻撃が基本
仲間と狙う敵を合わせて、集中攻撃→敵を各個撃破するよ

。(見通しの良い道路上。これなら思いっきりヤレるね。なるべく街には被害を出さないようにするけど、壊しちゃったらゴメンね)

火力が足りていて、でも仲間の負傷が重いようなら
ちょっと下がって回復メインで動くよ
ノコノコ族は臨機応変に対処できるんだよ

生命力半分以下の味方に【ヒール】【ハイヒール】使用
BSを【ホーリーライト】で回復


●戦闘後
市民達が不安がってるだろうからその対処にあたるよ
新人ライセンサー君達が頑張ってくれているだろうけどね
ボクもまだまだ新人だけど、実戦経験はちょっとあるからね!
「みなさん、ナイトメアは撃退しました。もう大丈夫ですよ!」

依頼を遂行する
◆目的
敵の殲滅

◆方針
集中攻撃を行い一体ずつ確実に倒していく

◆戦闘
前衛盾役
先陣を切りチリアットに接近しロードリーオーラ使用
二撃目以降の連なる牙にはオービットシールド使用
他はシールドのカット値使用
敵引き寄せ完了後ジャイアントシールドに換装
ヒールは自身生命五割以下で使用
【注目】解除されたらロードリーオーラ再使用
生命の余裕があった場合のみ味方が狙っている敵に攻撃を行う
ヒールができなくなれば攻撃に移行

敵が不利と判断し別々に逃走する場合
逃げた方を追いかけるため部隊を分け足止めするよう指示
足止め部隊を少数、撃破部隊を多数とし数の利を活かす
剣に換装し目の前の敵の進行方向を塞ぐように攻める
目の前の敵倒した後味方援護に向かう

  • 戦場のActress
    三代 梓la2064
    人間34才|スピリットウォーリア×グラップラー

◆心情・台詞
「Ciriatto──ですか。それであれば、背中を見せる事はできませんね
信条があるならそれに従って生きるよう、ソラリスを勇気づける

◆準備
『ライセンサーは悪夢から民草を守る者。その姿、篤とご覧召されよ!
一般市民および新人にソラリスの在り様を注目させる

◆方針
敵の【注視】→連携は、抵抗で耐えるor距離を取っての射撃にて対抗
複数体の連続攻撃に対してはアリーガード/盾役カバー併用し、特定個人へ攻撃が集中せぬよう対応
敵の高速回復を警戒し、集中攻撃にて一体ずつ確実に撃破を狙う

◆行動
『奇怪な敵よ……その本質は瀝青の池に潜むものかの?
まずは敵の特性を探るよう、敵集団の側面から包囲を避けつつ接敵し、牽制する
・核となるような部位/個体の有無
・牙その他攻撃の射程/威力/精度
・敵の回避力/防御力
上記を中心に実力差を測る
離合集散による損傷部位切り捨て/回復には注意

『某は鋭く打ち砕く者ぞ
命中優位が取れる場合には連牙・心にて手数を増やし、早期に敵の頭数を減らす
被注視時は範囲攻撃にて注視対象以外の巻き込みを狙う

「使徒も個体によっては斯くも強敵か──!
個別で不利の場合は集団にて当たる
スキルの生命消費は抑え、回避経戦重視
消耗した味方は庇い、これを狙う攻撃はカットを試みる

✠動機
ソラリス、下がりたまえ

✠準備
煙草に火を点け紫煙くゆらせ

✠行動
現場に辿り尽きかけたら声を掛けよう

「後ろだ、走れっ!

アシュレーとは別方向からの攻撃になるよう軽く相談し
ふらり、前線立つ者と敵を線で結ぶ位置に付き<精密射撃>
コートの下から取り出すVF-X構え、出来るだけ敵を複数貫く機動を物理学的に思考し
すっと自然に構える立射

「――その位置だ

オーバーストライク(OS)を放つ

「一歩、引いて。全体を見るように。回復も射撃も、それが出来る『技術』だ
「距離を離れても対応できる、これは活かせる部分だよ

リロードせず次のライフル構え、再度OS

「距離感を身につける。思考と想像は立体的、階層的に
「使える物はなんでも使う、その為には現場に何があるかよく見るんだ

更に次のライフルでOS
それが終わればXR7,こちらはリロードする
OS撃ち終われば心射撃で的確に現れる咥内撃ち抜き
撃ち方はガンサイト使わず片手撃ち
射線は他の者の攻撃や動きの隙間をすり抜ける様な、遮蔽を使い撃つ動きを見せない不意打ち気味に

「敵が居ると前に前にと出やすいが、相手に誘導もされやすい
「相手が頭がいいと、引く戦い方、駆け引き等も必要になる
「個人の強さでの戦い方ではない、仲間を使う戦い方…ソラリス、君が身に付けるのはそちらではないかな?

使徒ってこんなのもアリなのか…随分と厄介なモノを作ってくれたものだな。
おのれエヌイー!(←ちょっと流行らそうとしている

まずソラリスに指示を伝える。
使ってもらいたいスキルは心射撃・ロングヒール・高速装填。
最優先は味方の回復。回復の必要がない時は心射撃や高速装填を使ってもらう。
できるだけ獣の殺気の射程に入らないように。
んじゃ、よろしく…当てにさせてもらうよ。

俺自身は、自分の攻撃がぎりぎり届くくらいの距離をキープ。
新人たちにも気を配っておいて、万が一があれば全力移動で駆けつける用意を。

攻撃時に狙う対象は味方と合わせ集中攻撃。
死霊沼で敵の体の至る所をまんべんなくねらい、弱点らしきポイントがないか調べる。
もし弱点があるならそこを、無いなら体の中心部辺りを、レールガンで狙い撃つ。

基本的に攻撃を優先するが、よほど味方が危なそうなときはヒールを。
もし狙われてる味方が1ターンの敵の集中攻撃で生命削り切られそうな状況なら、あえて俺の行動順を遅らせ、敵の集中攻撃の間に割って入って回復をいれる。

スキルを使い切ったら以降の攻撃は知覚銃で。
どこまで肉体を破壊すれば活動停止するのか見極め、倒し切るまでは油断しない。

戦闘終了後、新人と合流し安否の確認。
ちゃんと感謝しとけよ?
ソラリスに、だよ。もし彼女の指示が無くてもあんたら、自分で的確に判断して動けてた自信はあるか?

はじめてのお仕事なんだよ
お金がなくて、抵抗をあげられなかったから、後ろの方で戦うね
もっと強くなって、ナイトメアを簡単に蹂躙できるようになりたいな

合体するナイトメアなんだね
小さいのをチマチマ倒すより、大きいのにおもいっきり攻撃した方が楽しいよね

敵は回復スキルがあるみたいだから、1体ずつ集中攻撃していくよ
もし誰か注視にかかっちゃったら、そのナイトメアをみんなで攻撃するといいのかな?

まずはアシッドショットかディープフォースを使って、継続ダメージを与えられたら、ハイフォースで攻撃する感じかな
注視を受けても問題無さそうな場合は、レールガンで纏めて攻撃しちゃうよ

どこが弱点なのか分かんないから、足みたいな部分を狙おうかな
接近されると困るし、動けなくしちゃいたいな

目があるなら、目とか?
命中が下がるように

スキル回数がなくなっちゃったら、和弓を使って戦うよ
もっとたくさん、色んなスキルを覚えたいな

一般人さんの生存が最優先
ゆえに、目の前の使徒に集中
避難は仲間がやってくれている、元より不安はない
ならば彼らの町を、紡いてきた思い出を守るためにも
「行きます」

前衛から距離3内でオートマチック
対象は一体に絞り異常再生で長引く前に撃破を

形が形だけに、攻撃次第では分裂したり、するのかな
見た感じ、知覚の方が有効そうにも見えるけれど…
試して、みようか
前に出ます
ビーストネイルナイフで近接
物理と極端に差がつかない限り、以降振るうのは十文字槍「氷月」
各個体へ初撃の場合フォールバッシュ乗せ回避下げる
旋空連牙・技は氷月>ビースト使用時に
誰かが連なる牙による集中攻撃を受けそうならアリーガードでひとつ分請け負う

・終了
今回の戦闘記録は細かに報告
それから懸念を、2つほど

――それでも、伸ばせる此の手がある限り

●JUST-DO-IT 01

 おぞましきは使徒、人の安寧を脅かす悪意なり。
 五体の悪夢に相対するのはたった一人の機械乙女。
 牙剥くそれらに、彼女は決意の表情と共に銃を向ける、が――

「後ろだ、走れっ!」

 日常が失われつつあるロシアの町に響いたのは、Noli me Tanger(la2823)の声だった。
 その声にソラリス(lz0077)は振り返り、状況を把握すると、指示通り大きく後ろに飛び退いた。
 それと同時、グレイロウは外套の下よりVF-X「アレクサンドル」を取り出し構えるのだ。濡羽鴉の瞳は瞬く間に弾道を計算し、狙いを定める。

「――その位置だ」

 研ぎ澄まされた合理性は機能美となる。あくまでも優雅に、どこまでも瀟洒に。狙撃銃より放たれた弾丸は想像の力をまとい、二体のチリアットを貫いた。
 グレイロウの咥え煙草、そして狙撃銃の銃口、二つの熱より煙が立ち上る。

「ソラリス、お待たせ! ここからはボク達の反撃ターンだよ!」

 下がるソラリスとすれ違うのはモーリー(la0149)だ。
「先日ぶりだね。ソラリスはボクの大事な仲間、ノコノコ族は仲間の危機には絶対に駆けつけるよ!」
「モーリーさん……!」
 ソラリスは見知った顔に安堵の表情を浮かべた。
 と、その時だ。初夏のロシアの空に、高らかに響く声がある。

『ライセンサーは悪夢から民草を守る者。その姿、篤とご覧召されよ!』

 三代 梓(la2064)の凛と澄んだ声だ。
 それは市民と新人に、ソラリスの在り様を注目させる為の声。同時に、「信条があるならそれに従って生きるように」と鉄の乙女を勇気付ける詩だ。
「無事みたいだな、よかった」
 張りのある梓とは対照的に、どこか気だるげな声でソラリスに声をかけたのは詠代 静流(la2992)だ。
「早速だけど作戦内容の共有なんだけど――」
 かくかくしかじか、と静流は手短にソラリスへ作戦内容を共有した。
「以上。んじゃ、よろしく……アテにさせてもらうよ」
「お任せ下さい、尽力致します」
 生真面目な声だ。そんなソラリスの様子に、アシュレー・ウォルサム(la0006)はへらりとした物言いでこう言う。
「ほらほら、そんな緊張しすぎると当たるものも当たらないよ、気楽に気楽に」
 のんびりした口調は、ソラリスに関する『噂』を気にもしていない気軽さだった。そんなアシュレーの言動に、ソラリスは己の心が張り詰めていたことを自覚する。
「……ありがとうございます」
「いいっていいって。じゃ、がんばってこうか」

 ――視線を前方へ向ける。
 そこにはナイトメア、使徒チリアット共が明確なる敵意を人類へ向けている……。

「わぁ。これが本物の任務なんだねぇ。こんなに近くでナイトメアを見るの、はじめて」
 好奇心に満ち溢れた子供のような声で、スカーレット・フォーサイス(la3308)が言った。
「はじめてのお仕事なんだよ。がんばるね、よろしくね、一生懸命やるからね」
 人形めいた美貌を無邪気に笑ませ、スカーレットはまだ真新しい魔導手引書ピカトリクスを開いた。

 風見 雫鈴(la3465)は深呼吸を一つする。市民の避難は仲間が行ってくれている、元より不安はない。だがここで自分達が下手を打てば、チリアット共は市民へと襲いかかるだろう。
 ならば彼らの町を、紡いできた思い出を守る為にも。
「行きます」
 目の前の敵に集中を。銀眼の瞳孔が、まるで鬼か獣のように細くなった。

 ロシアの風に神無月 零(la0616)の銀の髪がなびく。深紅の瞳は凛然と、敵を見澄ましていた。
 かくして乙女は、毅然として告げるのだ。

「これより戦闘を開始する」



●JUST-DO-IT 02
「使徒ってこんなのもアリなのか……随分と厄介なモノを作ってくれたものだな。おのれエヌイー!」
 実は「おのれエヌイー」をちょっと流行らそうと思っている静流である。
 とはいえ任務は真面目に。創造と想像の手引書ピカトリクスを開くと、その背に悪魔の翼の幻影が現れた。遺伝子に刻まれた半魔の血を想起し、彼はイメージの力を活性化させる――
「開け、地獄の門」
 想像は現実に。チリアットの足元に現れるのは冥府の沼だ。死霊の手がチリアットに絡みつく。驚異的な呪詛を以て命を蝕む。
 だがその拘束については振り払ったようだ。
 ならば――続けてそのチリアットを、アシュレーのスナイパーライフル「ドロレス」が狙う。
「うっへえ、なんというか、とてつもなく趣味の悪いオブジェみたいだねえ。あんなの作った連中はよっぽど美意識とかないんだろうね」
 スコープを覗けば拡大される、おぞましい異形の姿。なまじ拡大率にこだわった銃なだけに、間近に顔を寄せているような心地だ。ドブめいたにおいすら錯覚しそうである。
 そんな風に顔をしかめながらも――アシュレーの獲物を狙う眼差し、その集中力から繰り出される一射は本物だ。凄まじい精度の弾丸が、チリアットの足元を穿つ。牽制し相手の動きを阻害する支援射撃だ。
 怯んだ使徒へ、踏み込むのは梓。

『某は鋭く打ち砕く者ぞ』

 心に火を点け、燃え上がらせる――武装籠手バトルアクターが流星のように銀の尾を引いた。
 小指の一閃、踊らせるは深き斬撃。
 立て続けに掌打、衝撃を傷口から魔物の肉全てに響かせる。
 旋空連牙・心。その圧倒的な速さは彼女自身すら摩滅させるが、破壊力は折り紙付き。
 使徒は濁った声と共に全身から血を噴き出すと、べちゃりとヘドロのように崩れ落ちた。数多の生命だったモノが交じり合った肉のスープが、不愉快な臭いを立ち上らせる。そこにいわゆる『コア』のようなモノは見受けられない。人間状態の使徒と同様、殺す為にはその肉にダメージを与え続けるしかない。
「Ciriatto──ですか。それであれば、背中を見せることはできませんね」

 チリアット。それは『神曲』に現れる悪魔の名前。「牙の鋭い者」を意味するかの魔は、捕えた男の背をその牙で切り裂いたという。

「なんだか良く分かんないけど、ノコノコ族は負けないよ!」
 梓に続けとモーリーもチリアットへ踏み込む。狙うは、最初にグレイロウがオーバーストライクを命中させたもう一体だ。
(見通しの良い道路上。これなら思いっきりヤレるね。なるべく街には被害を出さないように――でもまあ、壊しちゃったらゴメンナサイだねっ!)
 周囲への気配りができるのもノコノコ族の凄さなのだ。モーリーはプリンセスロッドを手に、ピンクのハートの光を散らしながら、想像の力をチリアットへと叩き付けた。
 横っ面を殴打されたチリアットが唸り声を上げる――ケダモノの殺意を迸らせた。

 ――だがその殺気に、ライセンサーが飲まれることはない。

「優秀な戦士は準備からして万全なんだよ。ノコノコ族の戦士は、ときに理知的に、用意周到なんだよ!」
 フフン、とモーリーは得意気にロッドを回した。
「ナイトメア、破れたり!」
 モーリーが高らかに言うように、ライセンサー達はしっかりと作戦を立ててこの場に臨んでいたのだ。
「……同じようなことをしてやろう」
 意趣返しとでも言うべきか。ナイトメア達へ立ち塞がるのは零だ。巨大にして強大なる鉄壁、ジャイアントシールドを重く構え――我こそ討つべき存在なりとロードリーオーラを発動する。
 そうすれば使徒共が一斉に零の方を向いた。メキメキ、とチリアット共のアギトが花のように裂ける。咥内に隅々にまで立ち並ぶのは数多の牙だ。攻勢に出たのは三体。一撃、二撃、三撃、立て続けに牙は連なる。連携によってその鋭さは増加する。

 なれど――

「この程度か、獣め」
 その全てを、零は受け切った。
 零が掲げている命題は人類の救済。護り救うというその意志は不動の力となり、想像の盾は砦と化す。
 牙が通じぬ相手を取り囲み、チリアット共は唸り声を上げた。いかにしてその砦を崩してやろうかと画策しているかのようだった。
「さすが、頼もしいね」
 獣の殺意の届かぬ後方、スカーレットは堅牢なる零に称賛を送りつつ、指先をくるりと動かし想像の力を練り上げる。飴細工を練るように――生み出し放つのは深紅の魔弾。
「えいっ」
 放たれたそれは一体のチリアットにぶつかるや、猛毒の血潮となって使徒を蝕んだ。
 仲間の一連の動作を見――雫鈴はチリアットの物理・知覚の防御面にあまり差異がないことに気付いた。また、五体以上に分裂する様子も見られない。もう一つ、零のあの堅牢さ、そして仲間全体の回復術の充実さを考慮すれば、雫鈴が防御の一端を担う強い必要性もなさそうだ。
 ならばと雫鈴は、武装をオートマチックB1から十文字槍「氷月」に持ち換える。
「頼りにしていますね、ソラリスさん」
 後方のソラリスへそう告げて――地を蹴った。信頼しているからこそ、背中を預けられる。
「――はぁッ!」
 想像の力を込め、薙ぐように上段からの一閃。鋭く重いその一撃は、チリアットを怯ませ、その動きを鈍らせる。
 そのほぼ同時、銃声が響く。雫鈴が動きを鈍らせたチリアットへ、後方よりソラリスが的確に弾丸を撃ち込んだ。頭部を吹き飛ばされたチリアットが、血を噴きながら倒れ込む。
「やりましたね……! お見事です」
「こちらこそ。おかげで狙いが定めやすかったです」
 雫鈴の言葉に対し、後方、次弾装填の動作に入りながらソラリスが言う。
 さて、と雫鈴は短く呼吸を整えた。
 残るチリアットは三体。奴らの戦法に対しては対策済み。防御面は零の尽力で万全。市民の避難誘導もうまくいっている。新手の気配はなし。
 これは雫鈴だけでなく梓も気にかけて観察していたことだが、チリアットは数で連携するタイプなだけに、個体の能力がズバ抜けて高いというわけでもなさそうだ。いわゆる雑兵か。ライセンサーの火力を集中させれば問題なく落とすことができる。対策をした上で丁寧に当たれば、困難という壁のほとんどを除去できる。
(この調子ならば)
 私は、私のできることを――雫鈴は凛と十文字槍を構える。

「さあ、戦闘続行ですね。引き続きがんばりましょう」



●JUST-DO-IT 03

 銃声が響く。

 高速装填を行ったソラリスの弾丸が、チリアットの体に突き刺さる。
 立て続けに銃声が鳴った。声は連なれば歌である。ノヴァ社製狙撃銃を手放したグレイロウは、既にスナイパーライフルCT-3を構えていた。スコープを覗かぬままの片手撃ちで、オーバーストライクの軌跡が戦場を縫う。
「一歩、引いて。全体を見るように。回復も射撃も、それが出来る『技術』だ。距離を離れても対応できる、これは活かせる部分だよ」
 二体をまとめて貫く弾丸。ナイトメアの肉片が飛び散る。その精度、その破壊力は凄まじい。まるで悠然と楽器でも奏でるような気楽さと気品を併せ持ちながら。
「距離感を身につける。思考と想像は立体的、階層的に。使える物はなんでも使う、その為には現場に何があるかよく見るんだ」
 グレイロウは教えることは好きだ。ソラリスは銃口の先の敵に集中しながらも、彼の言葉に耳を傾けている。あるいは仲間の声が機械乙女を安堵させ、その士気を高めているのだろう。
「――了解」
 装填動作に入りながらソラリスが答える。同時にグレイロウも、スナイパーライフルを手放すと初撃のものとは別のVF-X「アレクサンドル」を構えた。

 銃声の残滓が消え切らぬ内に、今度は連続した銃声。

「阻止線展開、っと。好きに動かれたら困るからねぇ」
 アシュレーの支援射撃はチリアットの足元に火花を巻き上げ、その動きを牽制する。武装は一射ごとにリロードが必要となるスナイパーライフル「ドロレス」から、サブマシンガンミネルヴァP8000に持ち替えていた。
 銀の髪をした彼の飄々とした物言いは相変わらずだ。だがその青い瞳は悪夢を狙う瞬間、冷酷なる死神へと変じるのである。
 スナイパー達は散開して、立ち位置調整の連絡を密に行っていた。そして熟練した射手達が誤射することなどあるはずもない。適確に、確実に、戦線を維持する。
 作戦勝ちの要素もあり、現時点で誰かが窮地に陥っている状況もない。零のロードリーオーラ、前線にいる雫鈴やモーリーの存在から、チリアットがあえて後方に突っ込んでくることもない。アシュレーは広く戦場を見渡し把握しながら、前線の者に言った。
「今の内によろしくね~」
「ああ、そのつもりだ」
 アシュレーの支援射撃によって足止めはしっかり成されている。彼の声に答えたのは静流だ。
(この分なら、回復は大丈夫そうだな――)
 戦況のコントロール権はライセンサーの手の中にあると言っていいだろう。戦闘がズルズルと長引けばそうも言ってられないかもしれないが、このままならば。
(あっちもうまくやってるか)
 時折チラと気を配る新人達も、緊張しているようだが必死に自分のするべきことをこなしているようだ。おかげで戦場に一般人が紛れ込むような事態は起きていない。
 だからこそ慢心や油断はできない、と静流は集中する。掌に集めるのは極限まで凝縮した想像の力だ――過剰なまでに渦巻く力に、静流の薄紅色の髪がひるがえる。
「……吹っ飛べ……!」
 かくして放たれる光は、彼の瞳の色に似た黄金色。雷撃のようなエネルギーの奔流がチリアットに直撃し、その体をバラバラに爆ぜさせた。

 残るは二体、あともう一押し。

 そして敵の数が減れば、それだけ味方の被弾も減る。攻撃は最強の防御である。
 ゆえに――ロードリーオーラに惹かれたチリアットが左右から零に襲いかかるも、それは鉄壁なる盾と、零の不退転の意志の壁によって、久遠のごとく隔てられる。
 零の身長は女性の中では高い方だ。だがその手が構えるジャイアントシールドは、その身すら小さく見えてしまうほどの巨大さである。その大きさと強固さは、いかなる攻撃に屈せず留まり続け、守り続けるという意志そのもの。
「……ふッ!」
 力を手にした以上は護り抜く。一歩、零はタックルの要領で巨大盾をチリアットへと揮った。生命には余裕がある、今は防御よりも攻勢だ。あまり相手に不利という状況を長く刻み過ぎては逃亡される可能性もあった。それだけは許さない。許すものか。逃がすものか。
 迫る巨壁にチリアット共が飛び退く。質量そのものが武器であるあれにぶつかれば負傷することは必至だろう。
「そこです――!」
 攻撃を途絶えさせてはいけない。雫鈴はすぐさま、チリアットの片方――グレイロウのオーバーストライクで傷付いている個体を狙った。
 旋空連牙・技。嵐のように二連撃、氷月をひょうと揮う。

(――それでも、伸ばせる此の手がある限り……!)

 切り裂かれる悪夢が唸る。
 そこへ跳びかかったのは、プリンセスロッドを大上段に振りかぶったモーリーだ。
「エンジンはあったまってるよっ! 汗ばんじゃうぐらいにねっ! ――喰らえーっ!」
 力の限りの振り下ろし。物理に見えるが知覚である。想像の力に悪夢の頭がひしゃげて砕けた。
「あと一体っ! ……それにしてもあっついっ!」
 モーリーは胸元のリボンを緩めてシャツのボタンを二つほど開けていた。なんでこんなに暑いんだろう。まあロシアの気温相応に厚着はしているが……
(……あ! カイロ貼ってるからか!!)
 ロシアは寒そうだからと貼って来たカイロ。戦闘で動いたことも相まって凄く熱い。
「まずい、こ……このままだと!」
「どうかしたの?」
 汗を流すモーリーに、スカーレットが首を傾げた。
「低温火傷しちゃうかもしれない……!」
「どうして?」
「カイロ貼ってるから!」
「はずしたら?」
「なるほどそうか!」
 モーリーはカイロを投げ捨てた。ノコノコ族は臨機応変に対処できるのだ。
「よかったねぇ」
 スカーレットは人形のように微笑みながら、今度はその手に魔法の矢を創り上げた。もっといろんな『攻撃手段』を覚えたいなぁと思いながら、その心は初めての実戦に昂揚している。
 戦うことは好き。楽しいから。赤い色が好き。流れて飛び散り滲み広がるその様はルビーのように綺麗だから。
「んー、どこか弱点か分かんないなぁ」
 なにせ相手は数多の動物の集合体だ。ゆえに心臓やら目やらといった弱点部位はなく、部位破壊も残った質量を分配することで対応してしまう。一体ずつを集中狙いしているから発生していないが、異常再生力によって部位破壊に対してはかなりの耐性を持つと言えるだろう。
 これは静流も注視していたことだが、その生命力を停止させるには肉体に強烈なダメージを与えるしかなさそうだ。
「うん。まあ、ド真ん中にドーンすればいいよね。その方が楽しいよね」
 つまりそういうことである。
 スカーレットの手より放たれるハイフォースが、リジェクションフィールドを突破しチリアットの胴に突き刺さる。
『奇怪な敵よ……その本質は瀝青の池に潜むものかの?』
 翡翠煌めく川のような、梓の長い緑髪が彼女の動作に翻った。台詞のように謳う声はその想像の力を十二分に発揮する為の自分ルールだ。
『奈落の悪魔よ、終幕の時ぞ! 地獄界でこそ我が魂は白百合の如く!』
 バトルアクターより白銀の刃を指先に。瞬間、引き締まった長い手足が美しい弧を描く。魂を燃やし、梓は踊る。余りにも鮮やかで、あまりにも残酷なる二連撃。それはハイフォースによって開かれた悪夢の傷口をこじ開け、切り裂き、千々に引き裂く復讐の刃。

 地に落ち、蠢く肉片は踏み潰された。
 悪夢が終わる。夢から覚める時である。



●JUST-DO-IT 04
「はい、お疲れー」
 アシュレーの間延びした声が戦いの終わりを告げる。ナイトメアは全て倒され、辺りには静寂が戻った。
「損傷は最低限……まあ、上出来か」
 零は重たい盾を下ろし、ふっと息を吐いた。イマジナリーシールドの小さな傷については、自前のヒールで手早く修復してしまう。一先ず周囲に敵の気配はなく、これ以上この場で戦いは起きないだろうが、念の為というやつだ。
「お疲れ様です。大きな怪我もなくて、良かった……」
 梓は構えを解くと、柔らかく微笑んで仲間達を労った。
「お疲れ様でした」
 ソラリスは一礼すると、旋空連牙・心によって消耗した梓の精神の力を、ロングヒールによって修復する。
「あ。どうもありがとう、ソラリスさん」
「いえ。……援軍に来て下さって、こちらこそありがとうございます」
「どう致しまして。間に合ってよかったです」
 と、梓はソラリスへニコリと笑った。

 雫鈴も、無事の任務達成にホッと胸を撫で下ろす。だがライセンサーとしての仕事はまだ終わっていない。少女は表情を引き締め、どろどろの粘液状となったチリアットの死骸を覗き込んだ。
 今回の戦闘記録は細やかに報告する心算だ。それから懸念が二つある。

 一つは、使徒同士が溶け合ったことだ。これは他の寄生体でも可能と思われる。
 このことについては、ほぼ同刻に発生した任務――エヌイーが出現したもの――にて、複数の使徒が合体してギラガースに付着し動かして見せた報告書内容の通り、可能なのだろう。

 もう一つは、動物――それもネズミのような小さな生物に寄生している事実についてだ。
 小さいということは、潜みやすいということ。例えば下水道。例えば地下鉄。町の地下に張り巡らされていることを考慮すれば――想像以上に厄介な状況になっているかもしれない。

 一方で、モーリーは市民達への対処にあたっていた。無事にナイトメアは倒したけれど、それでも人々にとっては不安が残っていることだろう、と。
「みなさん、ナイトメアは撃退しました。もう大丈夫ですよ!」
 彼女の呼びかけで、町の緊張は徐々に和らいでいくことだろう。幸いにして市民の中に負傷者はいない。人々は尽力してくれたライセンサーに心からの礼を述べた。
 それに「どういたしまして!」と胸を張りつつ。モーリーは避難誘導を行ってくれた新人ライセンサー達へと向いた。
「がんばってくれてありがと! おかげでナイトメアを倒せたよっ。ボクもまだまだ新人だけど、これからも一緒にがんばってこうね! あ、何かあれば教えるよ! これでも実戦経験はちょっとあるからね!
 ノコノコ族は人材育成力もあるんだよ、とモーリー。
 安堵している新人らだが、静流が彼らの肘をちょいとつついた。
「ちゃんと感謝しとけよ? ……ソラリスに、だよ。もし彼女の指示がなくてもあんたら、自分で的確に判断して動けてた自信はあるか?」
 彼らとソラリスへのどことない壁を感じて、静流は彼らにそう尋ねた。新人らは反省するように俯く。静流は肩を竦めた。
「まあなんにしても、お互い怪我もなくてよかった」

 そこから少し離れた場所では、グレイロウがソラリスへと教示の言葉をなげかけていた。
「敵が居ると前に前にと出やすいが、相手に誘導もされやすい。相手が頭がいいと、引く戦い方、駆け引き等も必要になる。……個人の強さでの戦い方ではない、仲間を使う戦い方――ソラリス、君が身に付けるのはそちらではないかな?」
「瞬時の判断……難しいものですね。ですが少し、気負い過ぎていることも事実だと感じました。此度はありがとうございました」
「構わんさ。仲間が無事だった、怪我人も出なかった、それは紛れもなく幸運な結果なのだから」

 そんなソラリスを遠巻きに眺めつつ。
「ねえ、ソラリスって何かあったの?」
 新人ライセンサーの一人に、スカーレットが不思議そうに尋ねた。
 すると、「それは……」と重い口調で彼等はソラリスに関する話や、その状況を教えてくれる。
「ふゥン」
 それからスカーレットが思い出すのは、到着当時のソラリスのどこか悲壮な顔だった。事情を聞いた今も、「なんだか苦しそう」「どこか痛いのかな?」という表層的な思考しかできない
「死ななくて、またお仕事できて、嬉しくないのかな? 義務のために戦うの? 生きるために逃げるのは、いけないことなの? よくわかんない」
 ソラリスの苦悩も、彼女に死ねという人間の理屈も、このヴァルキュリアには理解ができなかった。
 そうしていると、静流に促された新人ライセンサーがソラリスの方へ駆けて行き、頭を下げている。任務中での態度を詫び、それから使徒が現れた際の指示について感謝をしていた。
 ソラリスはそれにビックリしつつも、彼らの態度について咎めることはしなかった。ただ、ほんのりとだけ微笑んでみせた。
 その表情は、スカーレットには「痛そう」には見えなかった。それに笑っているのだから、きっと良いことなのだろう。ヴァルキュリアは電子の脳で、そう判断した。
 それから人形は、こう呟く。

「もっと強くなって、ナイトメアを簡単に蹂躙できるようになりたいな」



『了』

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