オープニング詳細|WTRPG11 グロリアスドライヴ
  1. グロリアスドライヴ

  2. SALF本部

  3. 【堕天】微睡み沈め霧中にて

連動 【堕天】微睡み沈め霧中にて ガンマ

形態
ショート
難易度
危険
価格
1500(EX)
ジャンル
堕天 バトル 救出  
参加人数
83~8人
予約人数
10010100
基本報酬
250000G
250SP
2500EXP
おまけ報酬
20000G
相談期間
5
締切
2019/05/27 20:00
完成予定
2019/06/11 20:00
機体使用
関連シナリオ
-

●錆び付いた凱旋
「……ナイトメア殲滅完了、これより帰還します」
「やれやれ、終わったか。しかし霧が深いなぁ……」
「ニュージーランドの方でも皆がんばってるんだ、ロシアも負けてられないよ」
「お疲れ様。さあ、帰りましょう」

 ――ロシア辺境、針葉樹が並ぶ寂れた道路。

 四機のアサルトコアは無事にナイトメアを討伐し、訪れた平穏に一息を吐いていた。
 時間としては夕方に近く、うっすらとだが霧が発生しており、辺りは仄暗く冷たかった。

「おかしいな……」
 通信を行ったパイロットが怪訝げに呟く。
「支部からの応答がない」
「忙しいのかも」
「いや、それにしたって――」
「ちょっと待って下さい、霧の向こうに何かいます!」
 張り上げられた声に、アサルトコア達が一斉に武器を構える。

 灰白む霧中――
 聞こえてくる、重い足音。

「あ、れは……」

 一人のパイロットが目を見開いた。
 霧の中から現れた巨人。
 それは初期型のギラガースで――
 ――かつてインソムニア『ネザー』に挑み、二度と帰らなかった機体だった。

「あれから月日が経ちましたね」

 霧の中から声がする。
 それは、ギラガースの頭頂に立つ男の姿をした『何か』からだった。

「人類、貴方達の日進月歩の成長にはいつも驚かされてばかりです。奪わずして進化できぬ我々にとって、原初からの進化を可能とする皆様は実に――素晴らしい」
「お前は――」
「私はエヌイー。深き奈落より、煉獄の皆様に挑む者」

 刹那である。
 霧中より奔る銀が――思念の盾もアサルトコアの装甲も、コックピットごと貫いたのは。


●致命
 ロシアは混沌を極めていた。
 インソムニア『ネザー』の戦力が、ロシア各地の支部やライセンサーに強襲を仕掛けたのである。

 ――この状況もその一つ。
 ナイトメア討伐に出撃したアサルトコア部隊が音信不通である、と。
 
 状況を鑑みれば、ライセンサーを拉致せんとネザー戦力が動いている可能性が高い。
 君達は彼らの安否確認及び救助の為に、彼らの作戦地点へと出撃した。

 ――まだその時には分かっていなかった。
 そこに、奈落の主がいることに。
 混乱した状況では、情報がとにかく少なかったのだ。
 なにせ情報中継ないし統括地点である支部が、滅茶苦茶になってしまっているのだから。

 かくして君達は見ることだろう。
 仄暗い霧の中、倒れたアサルトコアと。
 使徒に侵蝕された不気味な機体二つと。
 そして、君達を笑みと共に出迎える怪物――ロシアインソムニアの主、エルゴマンサー『エヌイー』を。

「来ると思っていました。さて……持ち帰るか、人類への挑戦状として皆殺しにするか、悩ましいですね。では始めましょう」

 ……先の見通せない霧にて。
 奈落の悪夢を乗せた巨影は、この世ならざる怪物のようなシルエットをしていた。

●目標
味方全員の救助

●登場
エルゴマンサー『エヌイー』
 やや防御型。基本バランス型。特殊抵抗高。広範囲制圧型。
 リプレイ開始時は飛燕の頭頂部にいる。液体状の体を伸ばして機体に侵蝕させ、使徒が人体を操作する要領で機体を操っている。機体武器はリーネア。
 機体が壊れれば、他の機体に乗るか、素の状態になるかは状況次第。
・イマージュスナッチ
 パッシブ。あらゆる攻撃に微量の生命力吸収効果を持つ。
・みずがねの体
 パッシブ。部位破壊無効。最大三回の行動ステップを持つ。
・腐食する白銀
 複数回行動をしない場合のみ使用。相手の防御値を半減してダメージを算出すると同時に、命中対象に「免疫低下(5)」付与。
・自動浄化
 不利な変調を、生命1d6消費ですぐさま回復。
・高度学習体
 回避されるごとに、その対象に対する命中補正が上昇していく。
etc…

NV-01『使徒』*2
 かつてネザーへ向かったギラガースの成れ果て。
 多数の使徒が合体し、その肉体を膨張させることで、使徒が人体を操作する要領で機体を操っている。
 両腕が刃状に変形している。耐久性は高いが、動きは遅い。
 下記【非搭乗】者はあらゆる手段で移動を妨害できず、移動sq上に【非搭乗】者がいる場合、踏みつけによる物理大ダメージを与える可能性がある。

救助対象*4
 HN-01、飛燕、FF-01*2。
 機能停止状態。搭乗者は重体。

●状況
 ロシア某所、針葉樹が横に並ぶ広い道路。
 時間は夕方。ターン経過で夜にならない。
 霧が発生中。3sq以上の視認性が劣悪。


――――
ギ 使  ←
Hエ   ←PC登場
H 使  ←
――――


●注意
このシナリオでは限定的に「生身での参加」を許可。
ACに乗らない場合、プレに【非搭乗】と明記すること。
【非搭乗】者はACに乗らず終始生身で任務に参加しているとして扱う。
特に宣言のない者はAC搭乗者として扱う。

 こんにちはガンマです。
 チラシの裏ですが、この人達の所属支部はイメージノベルでエヌイーに破壊された所です。
 よろしくお願い申し上げます。

ACで出るわ。

まー、大体状況は分かった。
飛燕の上の、あのワケ分からんこと言ってるヤバい感じの人が元凶でしょ。
やられた機体の操手を全部回収して、最速でとんずら決めるわよ。

とりま私は目の前のエヌイーを引き付けることに全力を注ぐ感じで。
ライフルの射程範囲ギリギリの間合いを保ちつつ、引き撃ちを慣行。
敵を引っ張り、生身の仲間が救助対象の元へ向かいやすいよう、段取りを整えたい。

霧による命中率の低下は然程気にせず、嫌がらせじみた攻撃に終始してしまって良し。
エルゴマンサーの戦闘力は確かに高いし、この戦力差なら余裕を持って立ち回れるだろうけど。
それでも、少しでもこっちに意識を向けさせられれば、救出作業側へのちょっかいは減るだろうし。
冷や汗かきながら粘りつつ、仲間が救助対象を引っ張りだしてくれるまでこっちに注目してくれたら御の字。
インカムで連絡取りながら、その一連の過程で継戦無理っぽな人がいれば、救助者抱えて離脱してもらう流れで。

飛燕の乗り手も助け出したいところだけど、エヌイーが離れないようなら一発勝負。
それまで単調な引き撃ち一辺倒だったところからの、意を決したランスチャージでゴー。
他のAC組とタイミング合わせて、飛燕の破壊と搭乗者の引っ張り出しを試みるわ。
後は霧に乗じて逃げるだけね。ブースター吹かせてアラホラサッサー。

ま今回はこのくらいで許しておいてやるわ!

  • 竜殺し
    七瀬 葵la0069
    放浪者14才|ネメシスフォース×セイント

■アサルトコア搭乗
■基本
 アサルトコア5体で戦闘を行い、その間に救助を行う
 基本的には全員の救助を目指すが、状況次第では諦めて撤退も視野に入れる

■役割
 対使徒

■戦闘
 プレーンブースターで上昇し、上からアサルトバルカンを射程限界から撃つ
 相手の跳躍攻撃を回避する為、常時機動は行う
 プレーンブースターの使用回数が尽きたら、リーネアによる接近戦闘に移行
 攻撃時はファングブーストは出来るだけ使う

 接近戦時は主に脚部を狙った薙ぎ払いを行い、脚部の損壊(移動能力の低下)を狙う。
 片脚でも壊れれば移動能力は極端に低下するので、動けない相手にアサルトバルカンを集中的に叩き込める

「……ん、敵の攻撃が届かない位置から、撃つのは、正義」


 また、相手の攻撃は関節の構造上、振り上げるor腕を引く事前動作が必ずあるハズ。
 腕を振り上げた場合は斬撃、腕を引いた場合は刺突になるので事前動作に合わせて後退、アサルトバルカンによる射撃を行う。
 回避しきれない場合、予想される軌道上にリーネアを構えて受け止める。

「……ん、見切るのは、簡単」

 使徒を撃破した後はもう片方の使徒に向かう

■撤退
 他の人にタイミングを合わせる。戦闘継続が困難になる損傷を受けた場合は素直に後退

  • 人魚の揺り籠
    そよぎla0080
    人間15才|ネメシスフォース×セイント

持ち帰るか皆殺しかって、二択なの?ふたつしかないの?
それはちょっと寂しいかもしれない(ぷく


機体:ひーちゃん
味方と通信機で連絡取合
相手性格上必死感出さず

隠密救出に勘付かせぬ様真っ向からの救出と思わせる
ランスで接近戦
相手をエヌイーか使徒かは限定しない
飛燕の駆動力活かし3体間駆け回る…事によって音を出す(隠密救出の為
飛燕以外3人救出完了の連絡受け次第、エヌイー乗る飛燕破壊
脚狙い行動不能=使用不可を図る
救出気付かず未だ中に人いると思ってる機体が残ってれば其方に移ると予想
離れ次第、飛燕の人をコックピット又は周辺部位ごと救出
周囲抑え足りなくば其方へ回る

ダイブモード:
エヌイー攻撃の回避に。飛燕以外救出迄は最大3、退避用に必ず1残

機体での追撃はエヌイーに限り対処取る
銃で機体破壊
救出悟られ生身組へ向かわれる際は間に入って抑えに回る
機体破壊者→手に乗せ回収

エヌイーの関心を“次”に
その二択は寂しいから、だからみっつめを掲示する!

  • スターゲイザー
    エドウィナla0837
    放浪者12才|ネメシスフォース×セイント

「何を今更。挑戦状も招待状も散々ばら撒いた後だろう、エヌイー?」
2回目なので、そろそろ会話も楽しみたいところ
「ご所望のアサルトコアなわけだが……遊んでいくだろ?」

エヌイー対処兼救助役の盾係
エヌイーの側面(地図上の上下)まで飛行で移動
当人ではなく機体狙いで、向こうの攻撃に合わせて腕を狙うなどして動きを邪魔する
エヌイーが救助役に狙いを向けるようなら割り込んで射線を妨害
初めは機体のみ動かし、途中から本人が範囲攻撃を行うようなら、救助役に気付いているものと判断
特に要救助者がアサルトコアから引き出されたタイミングが狙われるものと警戒
「私でもそうするからな。その方が『効く』。」

気を引くため半分興味半分で積極的に話しかける
「お前、本当人間好きだよな……」
「味方なら絶賛してたさ。される側としては当然キツいわけだが。」
目的に対する手段としては正しいという評価
「人類も、敵がいる時が1番育つ。そういう意味では大差ないさ。互いの尾を食む蛇のようなものかな?」
「しかし勿体無いな。お前程の情念を持つ者すら有しながら、なぜナイトメアはIMDを使えない?その問題さえなければ、こんな大それた真似も必要なかったろうに。」

撤退は基本他に続く形で、自分が遅れる分には気にしない
ライフルに持ち替え、牽制は入れつつ退避重視
「……単に、1番効果のありそうな餌を選んだだけさ」

『機体に侵食して操るか、その状態でどこまで対応制御できるか試させてもらうか』

右からバルカンで牽制を入れながらみあがら右側に回り込んでいく、この時可能な範囲でお遣いもしておく

攻撃は本体を狙った近接格闘攻撃を主として攻撃は必ず右側面としておき注意を引くように行動する
『視界のデメリットは消せるが、機体の損耗は跳ねそうだが致し方あるまい』

条件を満たして神風が成功し本体の位置を確認できていた場合、脱出を兼ねて生身での強襲を仕掛ける
やることは単純O距離でショットガンを叩き込む
『至福の悲鳴をあげろ』
この時のエルゴの反応と対応状態を確認して状態にかかわらず一撃離脱といった感じでにげる、離脱成功したら
ヘルムのインカムで味方機に通信を入れて拾ってもらう

本体の位置が確認できなければ脱出を優先する

【非搭乗】

囮を使って手薄な場所を作り出し、襲う……
エヌイーほどの圧倒的な戦力があれば、小細工などせず正面から来てもよさそうだが
裏をかくことで悔しがらせたいのだろうか
知能でも上位であるとの誇示だろうか
理解したいとも思わんが

エヌイーの言動を鑑みるに、人間の成長に一目おいているものの
捕食者としての驕りと油断はあるかもしれない



生身班3人で飛燕以外の機体搭乗者を各々分担して救助
誰がどの機体かは、被らないように臨機応変に

AC班とエヌイーらが交戦を始めたら、霧に紛れ、針葉樹を全力移動
イマジナリードライブを察知したり、音や臭いを察知したり等の能力があるかもしれないので
少し大回りして距離を取ったり、落ち葉がない、音のたちにくい部分を走る

エヌイーらがAC班に気をとられている隙に、エヌイーらの死角の方角から回り込み、機体に取り縋り
外部からコクピットを開閉できる装置があればそれを利用し
無ければ槍をテコのように用い抉じ開ける

余裕があれば救助者にヒールを

コクピットに潜み、エヌイーらの行動終了後に救助者を担いで、全力移動で離脱

救助者を安全地帯に移動させ、AC班と連絡をとり、飛燕の救護が必要であれば戻る

エヌイーが救助者を殺そうとした場合
「ここで生かして帰したら、この者は更に強く成長するだろう。それが望みなのだろう?進化の目を摘むのか?」

『絶対、助ける』
【行動】
【非搭乗】
味方と常にインカムで通話。敵と味方の位置を把握しておく
可能な限り隠密を心掛ける。捕捉されたら迅速に行動
開幕及び救助対象到着まで味方ACが行動した後に行動。木と霧で隠れながら全力移動して素早く救助対象の元へ移動
敵ACが離れたときに救助対象の元に行き、救助に入る前に機体に使徒及びエヌイーらしきものが付着してないか軽く確認。付着してる場合処理してから救助を始める。コックピットを開き救助。開かない場合はビーストネイルナイフでこじ開ける。救助時、対象に使徒が付着してないか確認。
救助後、味方ACにインカムで報告。救助対象を背負い再び全力移動を使用し行きと同じルートで味方ACの後方へ移動。味方ACの撤退時に救助対象を委ねる
自分に損害がなければ待機。ある場合はハイヒール使用。常に生命6割以上維持
味方に被害がある場合、ハイヒール及びヒール使用。生命を4割以下にはしない
非搭乗者の味方が救助に手間取ってる際は手助けを行う。自分が救助した対象は撤退する味方ACに委ねるか、攻撃が飛んでこない、安心と思われる場所に安置。手助けの際も移動に全力移動使用。自分が手間取ってる際は味方に余力がある時のみ救援を求める
撤退は味方ACに合わせる。もしくはスキルを使い切り戦場にいるのが困難になった場合。その際は撤退することを味方に通信する

【非搭乗】

一般人からライセンサーに狙いを移したか……

捕食者による動物実験
そこに倫理などあろうはずはない


霧に紛れて針葉樹を全力移動
大回りになっても、気づかれないように、距離をとるようにするよ
アサルトコアのみなが、敵を救助機体から引き離すように動いてくれると幸いだね

交戦音の激しい瞬間を選んで、敵から見えづらい位置から救助機体へ(飛燕以外の3機)
他の生身の人たちと被らないよう、適宜分担するよ

外に、緊急時脱出用のボタンとかあるのだろうか……
なるべく音がしないように、そっと開けたいのだけれど

アサルトコアの装甲やコックピットは既に貫かれているようだから
そこに剣等を差し込んで抉じ開けたり

戦闘音が響いているタイミングで開けるようにするよ
大開きしないで、隙間から滑り込むように

重体者にヒールって効くのだっけ?
敵に気づかれなそうなら、コクピットの陰に潜みながらヒールを

そっと救助者を抱えて、敵がアサルトコアに向かっている隙に、全力移動で離脱するよ

飛燕の中の搭乗者については
エヌイーが他の機体に移る、生身で行動する等で助けるチャンスができて
かつアサルトコアが救助不能の状況なら、そちらも対応(状況により判断)

エヌイーは範囲攻撃で救助を妨害してくるようなので
エヌイーと使徒の行動が終わったタイミングに離脱するようにするよ

●The Mist 01

「何を今更。挑戦状も招待状も散々ばら撒いた後だろう、エヌイー?」

 MS-01J『Nguyen Mauria』のコックピット内、エドウィナ(la0837)は霧中の怪物――エヌイーに告げた。あれと遭遇するのも二回目である。
「ご所望のアサルトコアなわけだが……遊んでいくだろ?」
「ええ、もちろん。その為にこうして、こっちも大きなものを用意してきたのですから。……いずれ完成したナイトギアに乗って、皆様と戦いたいものですね」
「……今回の『作戦』も、そのナイトギアとやらの開発の為、か?」
「皆さんなら察しておられるのではないでしょうか。私がただの食欲の為に皆さんを襲うのではないことを」

 霧の中、エヌイーの表情は見えない。
 だが異様な空気が、静かな世界を包んでいた。

「持ち帰るか皆殺しかって、二択なの? ふたつしかないの? それはちょっと寂しいかもしれない」
 MS-01J『ひーちゃん』の中、そよぎ(la0080)はぷくっと頬を膨らませた。
「『みんな無事に帰してあげますよ』、ならば皆さんも戦う気は起きないでしょう?」
「あ。それは確かに……」
 そよぎの口調はエルゴマンサーを前にのんびりしたものだ。そもそも彼に敵意はなく、ゆえに怒りもなく、それに由来する大きな感情もない。元々、会話が成立しないナイトメアにもよく話しかける性格なのだ。

 エヌイーとそよぎのやりとりは、声音だけを切り取れば穏やかなものだ。
 だが状況はあまりにも対極的であった。

(囮を使って手薄な場所を作り出し、襲う……エヌイーほどの圧倒的な戦力があれば、小細工などせず正面から来てもよさそうだが)
 ヴァシリー(la2715)はその身を霧と木の陰に隠しながら、彼方の巨影を見やる。
 裏をかくことで悔しがらせたいのか、知能でも上位であるとの誇示か――あるいは不意を打つことでよりライセンサー捕獲の成功率を上げる為か。理解はできず、したいとも思わない。
 確かなことは、『捕食者による動物実験に倫理などあろうはずはない』ことだ――グザヴィエ・ユリエル(la3266)はヴァシリー同様にアサルトコアには搭乗しない状態、霧に隠れながら眉根を寄せた。

「まー、大体状況は分かった」

 FF-01のアンヌ・鐚・ルビス(la0030)は大きく溜息を吐いた。
「飛燕の上の、あのワケ分からんこと言ってるヤバい感じの人が元凶でしょ。やられた機体の操手を全部回収して、最速でとんずら決めるわよ」
 それが今、ライセンサー達の成すべきオーダーだ。
 通信機越しのアンヌの声に、フェーヤ・ニクス(la3240)は小さく、しかししっかりと頷いた。
『絶対、助ける』
 コックピットに護られていない素顔を霧の中に晒し、フェーヤは仲間達と共に作戦を開始する。



●The Mist 02
 アサルトコアに搭乗しているのは、アンヌ、七瀬 葵(la0069)、そよぎ、エドウィナ、ヴラム ストークス(la2165)。
 生身であるのはヴァシリー、フェーヤ、グザヴィエ。

 作戦はこうだ。
 アサルトコア五機で敵勢力と交戦し、その間に生身の三人が森を抜けて救助対象にアプローチ。
 この作戦の要は、生身の者達が気付かれないことにかかっている。
 ゆえに――

「オラーッ! かかってきなさいよぉぉおお」
 アンヌは後退しながら、エヌイーへとG37アサルトライフルを射程限界からぶっ放す。霧の中ゆえに距離をとれば狙いはそれだけ精度が下がるが――これでいい。端からエルゴマンサーをここで討ち取れるとは思っていない。敵を引き付けることが、アサルトコア部隊の任務なのだから。

 けたたましく銃声が響く。

「……ん、いくよ、みけきゃっと」
 同時、FF-01『みけきゃっと』――名の通り、黒白茶の三毛柄にネコミミ状のセンサーユニットを搭載した機体――を駆る葵はプレーンブースターを噴かせて空に飛び上がった。
 一面の白い世界。霧は葵の視界を阻害し、敵の姿を朧な影にしてしまう。だが、通信は密にしている。仲間同士の位置取りは把握している、誤射の危険性はあるまい。
 おそらくはこれが使徒、と思しき影めがけ、みけきゃっとはC-203アサルトバルカンの射程限界から発射した。飛行状態かつ霧の中ゆえ、精度は保証できないが、それでもいい。
「……ん、敵の攻撃が届かない位置から、撃つのは、正義」

 後方、上、敵の認識を向ける方向をバラけさせる。
 ならばもっとだ。

「ひーちゃん、いくよっ」
 そよぎはアサルトランス「マフルート」を握り締め、敵戦力へと吶喊する。
 細身なれど巨体が勢い良く地を蹴れば、それだけ大きな音がする――そよぎの行く手を阻むのは使徒だ。ぐじゅぐじゅとした肉をまとうギラガースが、異形に変生したその身で穂先を受け止める。

 もう一体のギラガースは、ヴラムの操るMS-01Jの眼前にいた。
 ヴラムは霧に紛れて回り込み、後方の破損した機体の脚を潰そうと目論んでいたが――生身ならば霧と木の影で紛れることもできたろうが、流石に巨体と稼働音のあるアサルトコアではそうもならないか。結果として進路を使徒のギラガースに阻まれてしまう。
 止むを得まい、思い通りにならないのが戦況というのなら、そんなじゃじゃ馬のご機嫌取りが戦士の務めだ。
「視界のデメリットは消せるが、機体の損耗は跳ねそうだが致し方あるまい」
 武装をC-203アサルトバルカンからアサルトソード「リーネア」に持ち替え、男は笑みに目を細めた。正面には、肉の襤褸切れをまとった憐れなるギラガース。肉と機械の調和は、ロボットというよりサイボーグのようか。
「機体に侵食して操るか、その状態でどこまで対応制御できるか試させてもらうか」
 言葉と共に、振り抜く剣。使徒の肩口にめり込む刃。霧の白の中、赤い血が飛んだ。

 一方、エヌイーは飛燕を操り一歩前へ。あまりに後方のアンヌ、葵へ一気に肉迫する様子は見せない。向こうも様子見をしているのだろう。代わりに手にしたリーネアを振るうのではなく、エヌイー本体がその体をどろりと崩し、拡げ、伸ばし――五機のアサルトコアへと襲いかかる!

「うッおわここまで届くの!? 奴はバケモノなの? バケモノだわ……!」
 霧の中にて銃を撃っていたアンヌは、思念の盾に突き刺さった銀色の刃に目を見開いた。
「うっわーこれ生身で直撃するとマズいな、絶対ヤバいな……!」
 思念の盾に穴を開け、霧の奥へと消えて行った物体。アンヌの頬を冷や汗が伝う。心臓がドクドク嫌に打つのはイマジナリーシールド損傷のフィードバックだけが理由ではない。

 先の見えない霧の中、見えないところから攻撃が飛んで来るのは、人の本能的な警戒心や恐怖を煽る。

「……、」
 葵の心は恐怖で震えることはない、が、「厄介だな」という思いに眉根を寄せる。霧の中では事前動作も見えず、飛行していれば回避も難しくなる。
 しかしながら報告書やデータベースによれば、エヌイーは一度に複数回攻撃をするとあったが、本体による攻撃は一度しか来なかった。
 二度目は――アサルトコアで戦いたいのだろう。リーネアを手にした飛燕を操り、ヴラムのMS-01Jへと振り抜いていた。
 刃とイマジナリーシールドがぶつかり、白い世界に火花を散らす。
「……!」
 ヴラムは片眉をもたげた。
 エヌイーの操る飛燕は想像の力が使えない、だからこそ質量をそのまま武器に変えた猛打だ。エヌイー本体の攻撃よりも生温い。
「それは温情か?」
「ああ、やはり、皆さんのように上手くは使えませんね」
 その筈だ。想像の力で動く兵器を、物理的に無理矢理動かしているのだ。スープをフォークで飲むようなモノだ。
 だがこの場に限っては――思念の盾もなく無理矢理に酷使される『フォーク』は、使われる度に機体に亀裂が走っているのだが。
 ならば、とプレーンブースターによって空中からエヌイーを強襲するのは、エドウィナ操るグエンマウリアだ。
「喰らえッ……!」
 狙うは機体の腕だ。振り抜いた切っ先は、しかし、飛燕の剣が受け止める。リーネア同士が交差する。
「大した捕捉力だな、レーダーでも搭載しているのか? それとも魔法の千里眼か」
 拮抗した剣を振り払い、地面に着地して間合いを測りながらエドウィナが問う。
 飛燕の頭上、エヌイーは柔らかに笑むと、次の瞬間――何の躊躇もなく、自らの両目玉をその指で抉った。
「私にはこんなもの、飾りでしかないのですよ」
 そのまま目玉をポイと口に放り、ぷちゅりと噛み潰して飲み込めば、ぐずぐずと眼窩に目玉が戻ってくる。それは自らの知覚能力に関する人類へのヒントか。

 エヌイーが救助班に気付いている様子は――まだない、と思われる。
 だが疑心暗鬼が一同の心臓を早打たせる。気付いていて、気付かないふりをしていて、最悪のタイミングを狙っている可能性もある。
 ポジティブに「気付いていない」と捉えるならば、やはり知覚は「見る、嗅ぐ、聞く」がメインなのだろうか? 目玉も鼻も耳も人間と同じ機能を果たしているようには思えないが――思考を逆転させると共に先程の言動を思い出せば、エヌイーというあの銀の体自体が知覚器官なのかもしれない。
 つまり体を伸ばせば伸ばすだけ、知覚力は広がっていくのだろう。とするならば、全方位と思われる知覚を処理する脳(あるか不明だが)の処理能力は……成程バケモノだ。道理であれだけの同時攻撃を成してみせる。そして武器が知覚器官でもあるがゆえに、この濃霧の中でも精度が下がることなく遠距離攻撃を果たせるのか。

 エドウィナはエヌイーが救助班に気付いていないことを祈りながら、かの異形の気を引くべく――興味半分も事実ながら――話しかけた。
「お前、本当人間好きだよな……」
「それはもう。好きの反対は無関心というでしょう?」
「……味方なら絶賛してたさ。される側としては当然キツいわけだが」
 エヌイーはナイトメア、人類の絶対敵である、が。エドウィナは、エヌイーの目的に対する手段としては正しいという評価を下していた。
「人類も、敵がいる時が一番育つ。そういう意味では大差ないさ。互いの尾を食む蛇のようなものかな?」
「ええ、全くです。我々ナイトメアにとって、イマジナリードライブを用いる皆さんは脅威ですから……これを乗り越えた時、我々がどのように進化するのか、非常に興味深い」
「ポジティブだねぇ。しかしもったいないな。お前ほどの情念を持つ者すら有しながら、なぜナイトメアはイマジナリードライブを使えない? その問題さえなければ、こんな大それた真似も必要なかったろうに」
「そう、そこは私も疑問なのです。これは私の仮説ですが、ナイトメアに『そのような機能がない』からなのでしょう。種がなければ花は芽吹きません。ゆえに我々は皆さんに挑むのです。皆さんを食い尽くせば、我々にもそのような機能が生まれるかもしれない。あるいは皆さんの感情の渦の中、我々は『種』を発見せしめるかもしれない」

 エヌイーは人間の想像の力を高く評価し、そして憧れている。
 だからこそ、それを得られないかと試行錯誤しているのだ。
 ヴァシリーは「その気になれば制圧も容易いだろうに」と訝しんでいたが――どれもこれも人間の想いの力を刺激する為なのだ。
 なぜ? 挑発ではない。嘲笑でもない。『見たい』のだ。人間の感情というものを。観察し、調査し、記録し、その真理を解き明かしたいのだ。
 そして2024年からのこの30年でエヌイーは学んでしまっている。人間の感情の中で、怒りや憎悪や恐怖がとてもとても強く引き出し易く長引くものであると。

「進化か。絶滅か。生き物として、極めて原始的な欲求です」

 この侵略者に罪悪感などというものはない。理知的なれど共存は不可能。人間とは根本的に違うモノ。
 奴は涼しく笑んで見せるが、それは人間を模倣した動作に過ぎないのだと、相対するエドウィナは本能的に感じた。
「全く……人間の形をした『何か』だな」
 言いながら、霧の中にてざわざわと立ち上るおぞましい銀色に身構える。



●The Mist 03

 ――仄暗い霧の森を駆ける。

 ヴァシリー、フェーヤ、グザヴィエは散開し、針葉樹の中を一心に走っていた。できるだけ最短距離、しかし気付かれないよう大回りもしつつの、かつ枝やらを踏んで物音を立てないような、ギリギリの走行ルート。
 聞こえてくるのは戦闘の音だ。激しい銃声、鋼の巨体が争う音。おかげで一同の足音や息遣いは掻き消されている。
 いつエヌイーが気付くか分からない。緊張感が限界まで神経を尖らせている。
 時間にして十数秒――なれど、先の見通せない世界を一人で走り続けるプレッシャーが、体感時間を残酷に引き延ばしていた。
 そして一同は森の出口に到達する。霧の向こうに見えるのは、横たわっている三機のアサルトコア。いずれも損傷し、沈黙している。

「こちらヴァシリー。到達した」
「僕も同じく、いつでもOKだよ」
『フェーヤ、到達した』

 通信機で極力小声でやりとりを。
 道路に飛び出せば、エヌイーに気付かれる可能性が非常に高い。
 それでも行くしかない。
 ここからが本番だ。

「カウントを始める。3、2、1――」

 ヴァシリーのカウントに合わせ、救助班の三人は霧に紛れ、身を低くしつつ、一斉に道路へ――アサルトコアへと走り出した。
 ライセンサーである以上、コックピットのハッチ解放手段は知っている。幸いにして破損によって解放不可能という状態もなかった。
 ガチャリ、と音がする。戦闘音に紛れつつなれど、その物音だけで肝が冷える。

『機体やパイロットに、使徒やエヌイーは、付着していない……そっちは』
 フェーヤは警戒心を目に周囲を見渡しつつ、ヴァシリーとグザヴィエに問うた。
「こちらもだ」
「こっちも。よかったよかった」

 パイロットはいずれも大怪我を負って気絶していた。息はしているが、今この時も血が流れている。迅速に処置せねばならないだろう。
 三人はパイロットらにヒールを施そうと思ったが、ヒールはあくまでもシールドを修復する手段だ。肉体の損傷には適用できない。それに――

「ああ、そう来ましたか。実に……素晴らしい」

 ――奴に気付かれた。

「気付かれた。走るぞ!」
 ヴァシリーは唸るように一同に声を張る。応急処置の一つでもしてやりたかったが、今は一秒でも早く離脱することが命に繋がる。ヴァシリーは急いでパイロットを担ぎ上げた。
「恐ろしいほどの知覚能力だねぇ……!」
 他の救助班、グザヴィエも同様。困ったような笑みを穏やかに浮かべながらも、動きはテキパキと俊敏に。
『安心して。もう、大丈夫、だから』
 フェーヤは機械音声で意識のないパイロットに呼びかけながら、救助対象を背負おうと手を伸ばした。

 その時である。

 エヌイーの水銀の体が伸びて、それぞれのコックピットへ槍のように襲いかかった。
 だが。
「そんなこと、させないよっ」
「そうするのは分かっていたさ。私でもそうするからな。その方が『効く』」
 そよぎが、エドウィナが、その間に割って入って思念の盾で一撃を受け止めた。エヌイーの性格を考慮すれば、おそらく高確率でやるだろうと懸念していた、ゆえにできた行動だった。
 なれど、あと一本の銀はフェーヤがいる機体へと突き刺さる。潜り込む銀がコックピットに現れたのは一瞬で――
「ッ!」
 針のような銀が、フェーヤの目の前で止まった。
 幸運だった――アサルトコアの装甲を貫通する上で威力が落ちた一撃は、思念の盾で止められるほどに勢いが削がれていたのだ。アサルトコアがその装甲を以て護ってくれたのだ。壊されてしまったが、それでもなお、搭乗者とその救助者のことを。
 この機体は奇しくもHN-01、NV-01ギラガースの後続機だった。堅牢なる装甲によって、HN-01のパイロット生存率は90%という成果を記録しているという。
『……ありがとう』
 フェーヤは人間を護ってくれたHN-01を一つ撫でた。
『貴方のお友達は、絶対に、助ける』
 物言わぬHN-01にそう告げて、フェーヤはパイロットをしっかりと背負った。きっとこの子に託されたのだ。護れなかった己の代わりに護って欲しいと。
「大丈夫だった? 走れる?」
 グザヴィエから通信が来る。フェーヤは変わらず淡々とした声で答えた。
『大丈夫』
「そっか、よかった。じゃあ引き続き作戦通りに!」

 そして救助班三人は、無事にパイロット達を確保してコックピットから飛び出した。
 霧の向こう、白兵武器を交わし合う巨影が見える。

 エヌイーがパイロット殺害に躍起になって来ないのは、妨害をする存在がいることを目の当たりにしたからだろう。もう一つ、アサルトコアとの戦いに興じたいからか。エドウィナとの会話で、今エヌイーは彼女に興味が向いていることもあった。

(罵りや煽りよりも、楽しくおしゃべりする方が気を引けるみたいだなぁ……)
 グザヴィエはエヌイーに対しそんな感想を抱いた。きっと「かかってこい」「殺してみせろ」という言葉をかけると、激昂はしないまま「そう言うのなら」と『乗って来る』タイプだ。一方で人間に対する強い興味ゆえ、声をかければ会話に応じる。その内容が興味を引けばより強い関心を見せる。
 走り出しながら――おそらく知覚的捕捉はしているのだろうエヌイーを、ヴァシリーは睨め付けた。彼にとっては、エヌイーのその態度は『捕食者としての驕りと油断』である。合理を優先すれば殺して喰らえばいいだけなものを。いたぶるとは、優位なればこそできる所業である。
「ここで生かして帰したら、この者は更に強く成長するだろう。それが望みなのだろう? お前が期待する進化の芽がどうなるのか――楽しみにしていると良い」
 そう言い残し、ヴァシリーは針葉樹の森へと飛び込んだ。霧深い森を、来た時のように全力で駆け抜ける。
 グザヴィエも同様だ。1センチでも遠くへ。この霧と木々の影に紛れてしまえば、更にそこをライセンサーの脚力を以て全力で駆け抜けてしまえば、いかにエヌイーと言えど瞬時の完全捕捉とはゆくまい。
 フェーヤも同じくと森に入ろうとするが、その寸前に。

『フェーヤ。フェーヤ・ニクス。いつかお前を狩る、極北の狼。覚えてて、エヌイー』

 少女は赤い隻眼で、霧の彼方の侵略者を見澄ました。
 ロシアは彼女の故郷である。好き勝手にされることは腹立たしい。ゆえに名乗るのだ。いずれ狩る者として敵対する為に。
「フェーヤさんですね。覚えました」
 聞こえた声は大声ではないが、不思議とよく耳に届いた。

「こちら救助班、無事に離脱できそうだよ。そっちは?」
「……ん、なんとか、やってる。現時点での、脱落者なし」
 通信機越しのグザヴィエに答えたのは葵だ。ブースターの燃料が尽きたので、そのまま落下の勢いで使徒にリーネアの一撃を叩き落す。狙いはその脚へ。ファングブーストによる加速は重く鋭く、獅子がその爪で引き裂いたかのような傷をナイトメアに刻んだ。
 同時に聞こえるのは銃声だ。アンヌは霧の奥よりの牽制射撃を続けている。
「よーしナイスナイス! あとは安全第一で下がってちょうだい!」

 一先ず。
 一先ずは、救助に成功した。
 エヌイーが目の前のライセンサーを放置してまで、森の中の救助班に襲いかかる様子はない。全力移動する三人に追いつくのも容易ではないだろう。

「お見事」
 ヴラムがエヌイー本体へ振り落とした剣を、溶かした体の一部で絡めて受け止め、エルゴマンサーは一同を賞賛する。
 きっと、真っ向からもぎとろうとすればかなりの難易度を誇ったことだろう。敵を倒して救助する、という作戦ではまだまだ救助の道は遠かっただろう。ライセンサー達の作戦勝ち、かつ個々の努力の賜物である。
 だが……

「さあ、この方はどうされるので?」

 エヌイーは軋む飛燕を操りながら、人間達にそう告げた。
 この方、というのは飛燕の中で血を流したまま昏睡しているパイロットのことだろう。

「もちろん、もぎ取るのさ。……その為に来たんだ」

 押し返されたまま跳び下がって体勢を立て直し、ヴラムは不敵に笑った。

 ――任務続行。



●The Mist 04
 救助班が迅速に救助を達成してくれたおかげで、アサルトコア部隊の損傷は大きくはない。脱落者もいない。
 そして救助班がそのようにできたのは、アサルトコア部隊の健闘と貢献によるところも一因していた。銃声、駆動音、戦闘音による救助班の気配消しに、前線でのナイトメアの抑え。連携は綿密だった。

 救助班はこのまま森を大回りし、アサルトコア部隊の後方へと移動する予定である。退避は問題なく行えるだろう。
 
 さて、では飛燕パイロットの救出をどうするか。
 もちろん、ライセンサーは作戦を立てていた。

「よし、よーーーし、プランBいくわよ」
 安堵にどっと疲労を感じるも、まだ終わりではない。アンヌは深呼吸の後、武装を弾切れしたライフルからマフルートへと持ち替えた。
「ルート確保、お願いね!」
「……ん、おっけー」
「ぷらんびーだね、任せてっ」
 応えたのは葵とそよぎだ。みけきゃっと、ひーちゃんが使徒達の前に立ちはだかる。
 ならばとギラガースの成れ果て達は、異形の爪を振り被った――
(斬撃――)
 葵の判断は速い。相手の構造上、腕を上げれば斬撃、引けば刺突だ。流石に武器を持ち替えるほどの時間の猶予はないが、それさえ見切ることができればぐっとリアクションはしやすくなる。使徒の動き自体も速くはない。
「……ん、」
 爪をいなすようにリーネアを振り抜く。標的を失った異形の爪がアスファルトに突き刺さった。
「見切るのは、簡単」
 間髪入れず、葵は使徒の脚に一撃を叩き込む。使徒の血肉が爆ぜ、血飛沫が散った。だが鈍重さの代わりに流石の耐久性か。ギラガースの分厚い装甲を使徒が補強している。それに一部の使徒の肉が削れても、別の使徒が肉を伸ばしてそれを補うのだ。部位破壊を成功させるのならば複数人の集中砲火が必要か。

 一方でそよぎも、使徒の攻撃を回避してみせる。エヌイーの攻撃に備えて発動していたダイブ・モードによって、ひーちゃんの身のこなしは軽い。
 そのままそよぎは、目の前の使徒――ではなく、エヌイーに槍の切っ先を向けた。
「二択しかないのは寂しい、から……みっつめを掲示する!」
 エヌイーの関心を“次”に向けるべくの言葉を発しつつ、狙うのは脚だ。
 薙ぎ払われた穂先はリジェクションフィールドを突破し、イマジナリーシールドに護られていない剥き出しの飛燕の脚に深い深い傷を刻む。
「うらッ!」
「至福の悲鳴をあげろ」
 直後、左右からエヌイーに挑むのはエドウィナとヴラムだ。
 グエンマウリアが飛燕の腕めがけて振り下ろした剣は、飛燕の剣が。
 ヴラムのMS-01Jがエヌイー本体へ差し向けた剣は、飛燕の反対側の腕が、掌から手首を犠牲に受け止める。
「素晴らしい」
 エヌイーはエドウィナの剣を、そのまま飛燕の腕を操り振り払う。そのままグエンマウリアへ剣戟を繰り出しつつ、自身は両腕を根のように分かれさせながら周辺のアサルトコアへ攻勢し、一同の思念の盾を抉り喰らうのだ。

 ――メキ、と軋む音がした。

 もともと損傷していた機体、それに飛燕は軽戦士系アサルトコア。
 イマジナリーシールドを前提とした扱いではなく、機体を使い潰すような使用方法。
 加えてエヌイーが自分の体を操り糸のようにしているだけなので、強化や硬化はなされていない。

 与えられるダメージに加え、飛燕の『酷使』の反動は如実に現れ始めていた。

「そこだぁああああああああああああッッ」

 霧の中より現れたのは、アンヌのFF-01だった。
 これまでの引き撃ち一辺倒とは正反対、決意を携え全力吶喊。
 一発勝負――やるしかない!

「……!」

 エヌイーが眉をもたげた。感心の動作だ。
 半壊した腕では防御にもなるまい。ボロボロの人形では機敏な動作もなせまい。
 ――飛燕の華奢な機体に、マフルートが突き刺さった。直撃だ。
「人類ナメんなーーッ」
 アンヌは刃を捻り、装甲を強引に剥ぎ取ばす。
 それは破壊の為ではなかった。コックピットを晒し出す為の一撃だ。
「仲間を帰してもらうよ」
 飛び散るパーツが宙を舞う中、そよぎは手を伸ばしてコックピットを引きずり出した。だが飛燕の傷口から、それを阻まんと伸ばされるのは液体の銀だ。
「させるか――!」
 割り込むのはエドウィナだ。飛燕の傷口を叩くように、銀の腕達を押し返す。振り払う。
「そよぎ、パスパス!」
「アンヌちゃん、おねがい!」
 そよぎはひーちゃんの手でしっかりと、人間を乗せたパーツを包み込む。蝶を手の中に収めるように。それをすぐさまアンヌの機体に受け渡した。
 す、っとアンヌは息を吸い込んだ。

「に! げ! る! わ! よーーーーーッッッ!!!」

 言下にブースターに点火、彼女は低空飛行で一目散に撤退を始める。
「ま今回はこのくらいで許しておいてやるわ!」
 敵への捨て台詞も忘れない。一気に霧の中へとその身を掻き消した。
「……ん、目標達成、無茶厳禁」
 葵もみけきゃっとの中でコクリと頷くと、最後に使徒を蹴り飛ばしてから大きく後ろに飛び下がり、そのまま残ったブースターに点火して霧の中へ。
「やれやれ……もう少し楽しみたかったのだが」
 ヴラムは肩を竦めた。自らを犠牲にするような作戦も頭にはあったが、うまく目的が果たされた以上はリクスを冒すまい。一体も斃せなかったことは残念だが――次の楽しみとしよう。
「ではまた今度」
 紳士はコックピットの中で帽子をちょいと上げて瀟洒に礼をしてみせる。その時にはもう、彼を乗せたMS-01Jは後方へ大きく跳んでいた。
「ダイブ・モード起動――」
 そよぎはひーちゃんに想像の力を流し込みつつ、エヌイーを見据えた。

「僕らはもっと強くなる。次会う時は、もっともっと強くなっている。だから――また会おうね、おじちゃん。次を楽しみに待っててよ」

 エヌイーは火花を上げて崩れ落ちていく飛燕から一歩――背中から伸ばした数本の銀を長い長い足代わりに、空中にてそよぎを見やった。コックピットに隔てられている、だが確かにそよぎとエヌイーの目が合った。だからそよぎはニコリと笑う。
「煉獄の皆様に挑む者と言ったのだものね。君がそれを望むなら。受けて立つの!」
「素晴らしい――承りました。私は絶望しない貴方達のことが本当に好きです」
「ありがとう。僕も嫌いじゃないよ」
「であれば、であるからこそ宣戦布告を。……『ネザー』を攻略できれば、今捕獲している人間は全て解放すると約束しましょう」
 おそらく、それは嘘ではない。
 エヌイーはおぞましき怪物であるが、嘘は吐かない存在だ。
 エドウィナは眉根を寄せた。しんがりと務める彼女はG37アサルトライフルを手に、後退しながら用心深く敵を見据える。シールドの損傷は大きく頭がくらくらするが、最後まで油断はできなかった。
 エヌイーは追って来る気配はない。グエンマウリアの今の立ち位置、およびこれまでのエドウィナの行動から、彼女が妨害に入るのが目に見えていたからだ。それを示すように使徒達も棒立ちになっている。

「スターゲイザー。どちらが先に星に手を届かせるか、勝負です」
「……『スターゲイザー(星を見る者)』、か。はァ、星は掴むモンじゃないと思うがな」

 溜息を吐いた。瞼の裏にいつでも思い出せるのは満天の星空だ。
 吐息が掻き消える頃には、二人の間を白い霧が隔ててしまう。
 一番効果のありそうな餌には、幸か不幸か無事に喰らい付いてくれたようだが。エドウィナが願うことは一つ、執着されませんように、だ。アレのやることにロクなことなんて一つもないからだ。



 その後――
 アサルトコア部隊は待機していた救助班とも無事に合流し。
 八人と三人は誰一人欠けることなく、奇跡の生還を果たす。

 それは確かに戦果であった。



『了』

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