オープニング詳細|WTRPG11 グロリアスドライヴ
  1. グロリアスドライヴ

  2. SALF本部

  3. 【堕天】奈落からの物体X

連動 【堕天】奈落からの物体X ガンマ

形態
ショート
難易度
危険
価格
1500(EX)
ジャンル
堕天 バトル 救出 
参加人数
83~8人
予約人数
10010100
基本報酬
250000G
250SP
2500EXP
おまけ報酬
20000G
相談期間
4
締切
2019/04/26 20:00
完成予定
2019/05/11 20:00
機体使用
-
関連シナリオ
-

●星の美しい夜だった。

「我々は、進化すべきだと思いませんか? より良く、より強く、より効率的に……」

 集められた者は皆、この世界では上手く生きられない者だった。
 上手く進学できなかった者。
 上手く職に就けなかった者。
 上手く人と馴染めなかった者。
 上手くできなかった者。
 人間として生きることに失敗してしまった者。
 不運と不幸と失敗と、軽視と侮蔑と迫害と。
 空っぽな人生に無意味な努力、報われない希望に永劫の孤独。
 見返る過去は恥だらけで、見据える未来に展望もない。

「奈落を知らない存在が、はたして至高を語れましょうか。弱いからこそ……強くなれる」

 空虚な礼拝堂だった。月明りを映すステンドグラスの前で、かの者は手を広げる。
 ピエタ。御子の骸を抱く聖母のように。

「皆で乗り越えましょう。奈落を這い、煉獄を辿り、遥かな至高を目指しましょう」

 かの者は、ステンドグラスの欠落から覗く星空を指差した。
 煌く一等星。彼方の煌き。手を伸ばしても届き得ないモノ。

「奈落で見上げるからこそ、星は美しいのですよ。さあ、その進化に祝福を」


●月は静かに見下ろしていた。
 ロシア某所、郊外、冷え切った夜。
 ぽつねんと在る礼拝堂が、ライセンサー達の目標地点であった。

 君達の頭には、あるいは懐にしまった資料には、行方不明になった人々のリストが記録されていることだろう。
 性別、名称、顔、特徴、エトセトラ――彼らには共通点があった。
 あるいは借金地獄。あるいは社会不適合。あるいは失業。あるいは不治の病。何かしら、生きることが困難になってしまった者ばかり。
 彼らの足取りはいずれも、かの礼拝堂に向かっていた。
 調査によると集団自殺ではなく、ロシアで起きている人さらい事件に関連している可能性が高い、とのことである。
 なぜか。
 彼らはいずれも、何者かによって呼び出されていたからだ。

 かくして――君達は礼拝堂の扉を開ける。
 雲一つない夜、星と月が廃墟を照らしている。
 欠けたステンドグラス。差し込む光が照らしていたのは――

「やあ。迅速な到着……見事な手腕です」

 周囲に倒れ伏した、十二人の人間。
 その内の一人、意識のない少女は――資料には記されていない十三人目の男に抱かれていた。
 ……君達の目にも映ることだろう。
 意識のない人々の首から背中にかけて、悍ましい怪物がへばりついていることに。

「使徒(レヴェル=ナイトメア)。ナイトメアを人体に寄生させ、自我を捕食させ、神経から細胞にまで隅々に伸ばした触腕によって人体パーツの補強と操作を行う対人兵器……我々の努力の結晶ですよ。ロシアにはたくさんいます」

 そう言って、男は月夜の逆光の中、人間の真似をして笑ってみせた。

「私がその開発者、ネザー所属のエルゴマンサーです。さあ、皆さんの対応を見せて下さい」
 

●目標
 敵戦力の撃退
 一般人6人以上の生存

●登場
エルゴマンサー『???』
 積極攻勢はしない。一般人救助の妨害は積極的に行う。
 PCが撤退すれば撤退をする。深追いはしてこない。
 能力不明。
(以下PL情報:能力一部)
 広範囲制圧型
・イマージュスナッチ
 パッシブ。あらゆる攻撃に微量の生命力吸収効果を持つ。
・みずがねの体
 パッシブ。部位破壊無効。複数回の行動ステップを持つ。
(/PL情報)

一般人*12
 全員倒れている。寄生型ナイトメア付着。
 3ターン目の開始時、各自1d6。1が出た者は使徒となる。(リプレイ開始時が1T目)
 以降、ターン経過ごとに-1の累乗する補正がかかる。(4T目は1d6-1、5T目は1d6-2……)
 使徒化した人間は死亡したとして扱う。
 救助の為には、一般人の首~背中上部に付着しているナイトメアを攻撃によって破壊する必要がある。
 人体にどれだけ損傷を与えずに除去できるかは命中値を用いた判定の達成値による。
 損傷が大きかった場合、即死・時間経過で死亡する可能性がある。
 一体化している為、範囲攻撃でナイトメアだけを選ぶことはできない。

 このシナリオにおいて、PCは以下の特殊行動をとれる。
【集中】アクティブ。行動ステップ消費。次Tに行うナイトメア除去の成功率10%アップ。繰り返しで効果累乗。集中宣言中にダメージを受けると効果が切れる。

使徒
 上記一般人が変生するもの。
 外骨格のようなモノを纏った人型。鋭い爪、棘のある尾を持つ。
 身体能力が高く、原始的な物理攻撃のみを行う。
 個々の戦闘力はあまり高くないが、エルゴマンサーが戦場に居る限り、その指揮下にて行動する。
 一度使徒化した人間は既にナイトメアに精神を完全捕食されている為、二度と戻らない。

●状況
 ロシア某所、郊外、月が明るい夜(視界ペナルティなし)
 オブジェクトのないガランドウの廃教会、その礼拝堂。広い。

●状況(続き
 奥にステンドグラス、左右にガラスのない窓、手前は扉。
 一番奥にエルゴマンサー、その半径5m以内に一般人がまばらに倒れている。
 内一名はエルゴマンサーに抱きかかえられている。
 PCが教会内に突入したところからリプレイ開始。

●MSより
 こんにちはガンマです。
 特設ページもあわせてどうぞ!
 よろしくお願い申し上げます。


  • 竜胆la0094
    放浪者19才|グラップラー×スピリットウォーリア

見せて、ね…
試すような、物言いは気に入らない…けど、あれは…あと

〇行動
一般人救助優先
集中は使用せず
武装は刀身の短く取り回しの良い小太刀
槍や銃、刀身の長い剣は貫通の恐れがあるので救助に使用しない
失念してるのがいたら懸念は伝える
攻撃角度は一般人の背中を見つつナイトメアの側面、横から刺して水平に皮を削ぐように引き裂く
縦や斜めは貫通して人体損傷の可能性
ナイトメアの厚み、耐久力次第では刺す動作のみで
ナイトメアを排除した後は味方に任せる
エルゴマンサーの妨害は飛雀舞踊、飛雀幻舞も使用して回避
この状況で邪魔をしないなんてあり得ない
視界に常に入れておき単体、範囲両方の攻撃に警戒

使徒化した一般人は味方に対応出来る人がいなければ対応
使徒になっても首後ろのが本体と仮定
爪と尾の動きに注視し姿勢低く、最小限の動きで攻撃を回避
懐に入るか、背後に回ってブラッドアサシンで依代の人ごと刺突で貫き引き裂く
後ろを潰しても動くかもだから、念のため…ね

人を殺す事には特に思う事はなく
それが私の仕事だったから
それにあれは人だったもの
形が人に近いだけ
もう人じゃない

一般人の救助、使徒殲滅後は状況を見て対応
エルゴマンサーに一刺しするか撤退するか判断
抱えられる一般人を抱えて撤収

  • ちょっとだけ現実主義
    桐生 柊也la0503
    人間15才|セイント×スナイパー

礼拝堂の広さに比べて倒れている人間が偏ってるような気がするが
もしかしてあれが敵が即座に取れる攻撃範囲という事だろうか?
すぐには寄生型担当の手が回らない一般人と集中を使う人には
少し下がって貰う方が良さそうだ

エルゴ対処役の人とは別の方向から進入
一般人の初期位置から運べる限り(出来れば一度に2人程度)
解放の手が回らない一般人を次々と運ぶ
出来れば集中を使う人に待機して貰う
又は寄生型から解放された人を同程度のマスに下げた状態にして
敵の攻撃がありそうなら盾に持ち替えて守る
敵の妨害攻撃に備えて祝福使用
範囲攻撃を受けた場合は「エルゴのみを敵」と認知して審判の雨雫を使用し
味方の回復とエルゴマンサーへの嫌がらせを行う
その後は一般人か寄生型対処の人を守りつつ広範囲の回復を行う
使徒が発生した場合は上記の守りを優先するが他に対処する人がおらず
こちらに近ければ盾で殴る

至高?無理です
他の抜け羽で鳥の王になろうとした童話の烏と同様に
喰う対象に依存しなければならない時点でそれは無い
ナイトメアは自分の脚で歩けば辿り着けたかもしれない至高に自ら背を向けたのだから
エルゴマンサーがこんな真似をするのはこちらを煽るか
一般人の恐怖や絶望、或いは不信を煽る意図なのかしれないが
最終的にそれは無駄に終わるだろう
ヒトの武器は強さ弱さだけで無く多様さでそのどれかが残って勝つだろうから

  • スターゲイザー
    エドウィナla0837
    放浪者12才|ネメシスフォース×セイント

「対人兵器ねぇ。買い被りすぎに思うが」
名古屋防衛の最後を思えば、およそ勝ちの目があるようにも思い難い

「名前くらい名乗ったらどうだ。それとも変な渾名を付けられたいか?」

救助を行う者を、敵射線の遮断やBS解除で補助
救助を行う者に行動不能や命中低下などを付与された場合ホーリーライト
行動不能や即失敗に繋がりそうな命中低下ならば命中の高い者を優先
命中の高い者なら問題ない程度の命中低下なら命中の低い者を優先
特に問題にならない程度の命中低下は無視
補助が不要そうな場合は自分も救助に
9割方成功しそうな程度までは集中を続けるが、誰かが使徒になった場合即諦める

使徒化した者が居た場合、魔導書に持ち替え排除
「もう死んだ奴を慮れる程、人間出来ていないのでな」
レールガンで巻き込めるか単体相手ならレールガン
無理なら凍り閉ざす銀
ともかく可能な限り素早い殲滅を試みる

撤退時、まだ寄生されたままの一般人を見捨てるならば
一般人ごとで構わないので寄生型を殺してから退く

■心情
一連の出来事の背後にいるやつの一角がこのエルゴマンサーってことか
それと直接向き合うのは危険が大きいが、一般人は救い出さないとね
■目的
一般人を可能な限り救出
■行動
寄生型ナイトメアを破壊する
「大鷲の爪翼」で「インパクトアタック」を使い、細やかなコントロールをして、人体を傷つけないようにね
エルゴマンサーとの交戦を長引かせるわけにはいかない。【集中】は使わずに次々と寄生型ナイトメアを攻撃するよ
エルゴマンサーの攻撃の対象となった際は「飛雀幻舞」を使って避ける
物理ダメージを受けた際は「祝福」で耐える

あたしの手元が少し狂えば一般人が死ぬ
だからエルゴマンサーはあたしの邪魔をしてくるだろう
攻撃によって、そして弁舌によって
だが攻撃に当たってやるつもりはないし、やつの言葉に心を乱されるつもりもない
一般人を殺すかもしれないことは覚悟している
例え殺してしまっても、他のやつを救う試みを止めはしないよ

生き延びさせた責任も取る
救った一般人の話を傾聴して、これから生きていくための手助けをしよう

  • 白の守護者
    音切 奏la2594
    放浪者17才|ゼルクナイト×セイント

▼準備
集められた人が怪我をしている場合に備え
すぐ病院に搬送出来る様に12人分の救急車を戦闘区域外に待機申請

▼行動
ひゅうが様とマクシアン様が敵を引きつけているうちに
1T目集中
一般人の位置から1〜3マス後ろで使用
(敵の妨害を防ぐ&次ターンで攻撃が届く距離
わざと順番を遅らせて敵がメイン行動を行ってから集中を使う

2T目ナイトメア除去
命中が高くはないので救助の際は多少手荒でも死なない成人男性か浸食が少ない者を優先
人の命に優先順位などつけたくないですが救える命だけを確実に救う、その覚悟が求められているのだと思います
救助した一般人は守りやすいよう一箇所に纏めておく
集中が途切れてしまっても仲間の除去成功状況(救助出来た人が6人以下)の場合は除去に踏み切る
6人以上除去成功していれば集中がない限りは除去を行わない

3T目以降は一般人から距離取り
ロードリーオーラでエルゴマンサーと使徒を引き付ける
使徒になってしまったものは刀で切り裂き倒す
「せめて次の生が穏やかなものとなりますよう。」
祈りを込めて、でも容赦なく
ロードリーオーラが効かない場合はアリーガードで除去を行う仲間と救助した一般人を守る
(アリーガード使用時盾換装
自分生命半分以下でヒール
囮として倒れない事を重視
マクシアン様の指示で撤退行動に移る
撤退の際は殿を務めアリーガードで味方への追撃防ぐ

方針:ナイトメア化した一般人に対して慈悲はない
併せて、これまでのナイトメアとは一線を画したエルゴマンサーへの純粋な興味。できれば名前も聞いておきたいところ

行動:相手が話しているとかそういうのを一切無視し、初手で全力移動→攻撃を繰り出す
標的:少女へ寄生したナイトメアに見せかけ実際はエルゴマンサー本体
「……やっぱそう簡単には放してくれないよな
以降エルゴマンサーの死角に回る→隙を伺いつつの攻撃を繰り返す
いせの動きに敵が傾注しているようであれば隙を伺って少女にとりついたナイトメアへ攻撃を向け、無力化成功後に救助を試みる
早期にインパクトシェルを使う以外スキル不使用。但しダメージを受けた仲間がいればツインヒールで自分を含めて治癒
敵からの攻撃は回避を選択

腕の中の少女が使徒化したら即標的を切替、インパクトシェル使用
「……こういう結果も織り込み済だ。オレの役割は……いや、お前なら言わなくてもわかりそうなものか
時折煽りを交ぜてヘイトを稼ぎつつ、攻撃の癖や性質を分析
ある程度見えてきた傾向から経験則で有効そうな挑発を重ねる

少女の使徒を撃破し、仲間の救助活動が終わったところで撤退
「……全員の対応は終わったか? なら長居は無用だ、逃げるぞ!
救出できた一般人を抱え上げて撤退。可能なら全力移動併用

心が折れた人間を操り、呼び寄せ、人を襲う使徒へと変貌させる……
それを進化と呼称する
なんという悪辣で皮肉なエルゴマンサーなのだろうか


寄生型への攻撃メインで動く
集中は不使用
ワンポイントを使用

観察して分かるかは不明だが、一般人の中で、寄生型の付着が他より浅そうな者
生気が多少でも残っていそうな者
等、少しでも生存性が高そうな者を優先的に選択する

本当ならば……生きる意思がある者
やはり生きたいと願う者を優先したいが……
意識が無いのならば、問うことは叶わない

エルゴマンサーの1ターンの行動回数は不明だが、エルゴマンサーが行動終了後に自分の行動を行うことにする
複数回行動するようなら、エルゴマンサーの動いた直後のタイミングを突いて動く

エルゴマンサーが妨害しづらいよう、視線を固定せず、どの人物の寄生型を狙うか悟られ難いようにする
また、フェイント等も用いる(左を見つつ、右を攻撃する等)

人体を傷つけないよう、寄生型の上部を狙う
射線上に他の一般人がいないか注意
寄生型の時点では動かない?
頭部等に衝撃がいかないよう、首よりも背中寄りの位置を狙う
寄生型の形状にもよるが、破壊しやすそうな、誤射しにくそうな箇所を狙う


撤退時、使徒が妨害して来るならば、心射撃・足止めを使用


余裕があれば、エルゴマンサーに名を問う
「あんたを罵ろうにも、名を知らねば会話にならん」

聞こえた言葉に反応し、嫌悪感丸出しで。
「へ~、あなたが開発者さんですか、覚えていただかなくて結構なのですがひゅうがというのです。あなたがエヌイーさんとやらですかね?その面記録させていただいたので、いずれご自宅のネザー事消し飛ばしてぶち殺してやるのでその子を置いてとっとと帰りやがれなのです陰険サイエンティスト」

束ね連なる因果を自分とマクシアンさん(la2683)に使用
救助目的に見せかけるため腕部へ攻撃を集中させる。
エヌイー?が抱えている女の子を傷つけないように主にブラッドアサシンで移動攻撃を使いながら近接攻撃を仕掛ける。

もし相手が女の子を手放したり、女の子の奪還に成功、もしくは使途化した場合。即座にST-1エクスプローラーに持ち替えてエヌイー?の頭部に向かってポイントショットで射撃を撃ちこむ。
「いずれとは言わず今ここで死ねなのです!」


戦闘終了後。
生存者には救急治療セットを使い手当てを施す。
使途化したりして亡くなった人の頭部に白いハンカチをかけて手を合わせる。
「願わくば安らかな眠りと救いがありますように」

●The Thing 01

 迅雷のごとく駆けたマクシアン・ヴェラム(la2683)が、男の眉間に大鷲の爪翼を深々と突き立てた。

「素晴らしい。迷いのない刃ですね」
 回避行動も防御行動もなかった。男は間近のマクシアンを見ている。一切の嘲りがなく、ゆえに気味が悪かった。
 何よりも。まるで刃に手応えがないことにマクシアンは眉根を寄せる。
 まるで水に剣を突き立てたような――動いてはいないが回避されたことを直感する。流石に全力移動後の攻撃をエルゴマンサーに当てるのは難しいか。
「……やっぱそう簡単には放してくれないよな」
 マクシアンは、ちらと抱えられたままの少女に目をやった。
「へ~、あなたが開発者さんですか。覚えていただかなくて結構なのですがひゅうがというのです。あなたがエヌイーさんとやらですかね?」
 飛び退いたマクシアンに束ね連なる因果を施しつつ、いせ ひゅうが(la3229)が男を睨む。すると月光の下、怪物はまるで穏やかに微笑むのだ。
「開発者であるとヒントを出した甲斐がありました。素晴らしい。ひゅうがさんですね、覚えました。ロシアインソムニア司令官のエヌイーです。現場主義なものでして。どうぞよろしく」

 ――エヌイー。
 ロシアインソムニアを統括する、【堕天】事件全ての元凶。

 あまりに危険な存在が、そこにいた。

「その面、記録させていただいたので、いずれご自宅のネザーごと消し飛ばしてぶち殺してやるのでその子を置いてとっとと帰りやがれなのです陰険サイエンティスト」
 普段の快活さとは対極的な嫌悪と敵意を、ひゅうがはエヌイーに叩き付ける。奴の成した所業を思えば、この罵倒すらも生ぬるいのだろう。
「おや。こうも積極的に関わって下さるとは、ありがたいですね。ではその健闘に敬意を」
 エヌイーの眉間の傷から、ドロリと伝ったのは銀色の血――いや、血ではなかった。エヌイーの頭部全てがどろどろと銀色に崩れていく。
 そして水銀のような不定形の『物体』が、棘だらけの枝のように幾つも幾つも枝分かれして、凶器となって二人に襲いかかったのである。
「――!」
 あまりに幾重のそれは、もはや檻のようだった。
 イマジナリーシールドを持たぬ人間であれば、今の一撃だけで肉片になっている。

 ……いや、想像の盾を以てしても。

 マクシアンはその卓越した反射神経で一切を回避してみせる。
 だがひゅうがは、一気に盾が砕けてしまった反動で片膝を突いた。

「う、あ……!?」
 ヴァルキュリアの視界にノイズが走る。
 まるで体の内側をまさぐられたような不快感があった。ひゅうがの思念の力が微量にだが奪われている。
「攻撃にドレイン効果……? 下劣な野郎なのです!」
「……来い、斃してみせろ」
 マクシアンも敵の気を引くべく挑発を口にする。
 エヌイーは激昂しそうな存在にはとても見えないが――いや、それどころか目の前の存在はあまりにも理解不能な怪物だった。
「健気ですね。素敵です」
 頭部が丸ごと変形しているエヌイーが、口も見当たらないのにそう言った。不定形の物体に目も鼻もない。マクシアンは奴の死角を取らんと考えたが、これではエヌイーのどこが死角なのかも分からない。何を以て知覚しているのかも分からない。
(……隙がないな)
 マクシアンにもひゅうがにも、いや――この場にいる全てにエヌイーは等しく意識を向けているではないか。奴は見ている。じっと見て、観察している。籠の中の虫を見るように。

 エヌイーはあまりにも人間離れし過ぎていた。人間を想定した戦いは全く通用しないだろう。
 これがエルゴマンサー。ただのナイトメアではない。エルゴマンサーの中でも頂点に位置するインソムニア司令官クラス。

 世界を超えて幾千幾万もの生物を殺し尽くした蹂躙者。
 それは正しく、想像を超えた『物体/怪物』だった。



●The Thing 02
 やはり、と思った。
 的中した悪夢に、ガラスのない窓から飛び込んだ桐生 柊也(la0503)は唇を噛む。
 一般人が倒れているのは、エヌイーから凡そ半径五メートル範囲。礼拝堂の広さに比べて偏っている印象がある。『半径五メートル以内』は、エヌイーにとってのキルゾーンなのだろう。
(いや、待てよ……)
 本気を出せばもっと範囲は広い可能性がある。なにせあの不定形の水銀(みずがね)のような体。あれだけ流動体ならば……もしや……

(……礼拝堂内すべてが……奴の射程内……?)

 そうだとすると。
 あまりにこの状況は危険すぎた。
 やろうと思えばエヌイーは、ここに居る『全ての人間』を一度に攻撃できるのだから。

 ――それでも、目の前の人間を救わなければならなかった。

 不定形なる銀の物体が蠢くキルゾーンへ柊也は駆ける。
 手近な者を二人、それぞれ両手に掴んだ。武器を持っていては二人同時に運べない。無防備とも取れる状態だが、今は武器でエルゴマンサーを殺すことが任務ではないのだ。
 動ける限り、人間をできるだけエヌイーから離す。そして同時に、エルゴマンサーへ相対する二人を支える為に思念の光を降らせるのだ。それは仲間を癒し、敵を害する審判の雨雫。

(あいつがエヌイー……)
 ヴァルヴォサ(la2322)は蜥蜴の目を細めた。一連の出来事の元凶であるエルゴマンサー。本来ならばもっと大部隊で挑まねばならぬ災厄。全滅すらもあり得る状況。
(シアン、信じてるよ――!)
 そんな存在へ、たった二人で挑む仲間。その中の一人、マクシアンはヴァルヴォサの友人だ。あまりに危険な状況に彼が飛び込んだことは理解している。だからこそ、ヴァルヴォサは「シアンなら必ずやり切る」と信じるのだ。
「あたしはあたしの仕事を、やり切らないとね」
 呼吸を整える。ヴァルヴォサは大鷲の爪翼を構えて、ひゅっと軽やかに振り上げて――刃の先に居るのは人間だ。正しく形容するならば、その背にへばりついたナイトメアだ。
(あたしの手元が少し狂えば一般人が死ぬ)
 だがヴァルヴォサは、既に『殺した』ことがあった。手遅れだったが、あれは間違いなく人間だったのだ。
(だからこれは、あたしが『適任』なんだ)
 己を卑下している訳ではない。脳味噌花畑の夢見る乙女でもない。現実を知るからこそ、ヴァルヴォサの刃は迷いなく――決定的な精度を以て、ナイトメアを切り離す。多少の血は出てしまうが、皮が剥げた程度、死には至らない最小限の軽傷だ。

「先ずは、一人……」
 竜胆(la0094)は横目にヴァルヴォサの動作を確認すると、自分も続くべくと小太刀「五月雨」を構えた。
 ふ、と息を止めて。雨音に身を委ねるように、明鏡止水。倒れた人間の背中へ水平に、皮を削ぐように、最大限の注意を以て――ナイトメアを切除する。
「見せて、ね……」
 刃についた血糊を振るって払いつつ、竜胆はエヌイーを見やった。
「試すような、物言いは気に入らない……けど、あれは……」
 言葉を切る。ともあれ今は人々を救うことが任務だ。粛々と、暗殺者は殺す為ではなく活かす為に再び剣を構える。集中はしない、今は数多くを救わねば。
 最中。
「……銃は貫通の恐れが」
 竜胆はヴァシリー(la2715)に短く伝える。が、後方でサブマシンガンミネルヴァP8000を構える犬顔の狙撃手は静かな声で答える。
「上手くやるさ。狙撃手なんでね」
 言葉の終わりに引き金を引く。ワンポイント。二点バースト。弾丸は的確にナイトメアのみを、凄まじい精度で穿ち、殺す。一体化しつつあるがゆえにどうしても多少は出血させてしまうが、それでも損傷はできるだけ背中側を狙ったことも相まって、最小限の最低限だ。動かない相手で幸いだ。
(次――)
 ヴァシリーは狙撃の為に止めていた息を再動させながら、次の者へと照準を合わせた。
 一見して、ナイトメアの付着の深度さは分からない。ならばと狙うのは若い者だ。少しでも生存性が高そうな存在だ。
(本当ならば……生きる意思がある者、やはり生きたいと願う者を優先したいが……)
 意識がないのならば、問うことは叶わない。もしかしたら今助けた者は、この中で一番死を願っていた者かもしれない。この救助は押しつけの感情かもしれない。それでも、殺人兵器にされるよりは。

 切除されたナイトメアについては、床の上で不気味に痙攣を繰り返している。エドウィナ(la0837)はそれを躊躇なく踏み潰した。生理的嫌悪を煽るような、嫌にぬめった感触がした。
「対人兵器ねぇ。買い被りすぎに思うが」
 名古屋防衛の最後を思えば、およそ勝ちの目があるようにも思い難い。エドウィナがエヌイーに呼びかければ、それはずるずると顔の半分だけを涼やかな人間のそれに戻し、彼女を見る。
「窮鼠猫を噛む、とこの世界には良い言葉がありますね。貴方達の想像、想いの力は無限の可能性を秘めている……実に興味がそそられます」
「噛み付いて欲しくて鼠をいたぶるか、底なしだな。ああ――その節はどうも。次からもっと平和に渡せ。ただの引き渡しに、アサルトコアまで出撃させよって」
「貴方は――エドウィナさんでしたね。テンペストとの戦い、お疲れ様でした」
「……見ていたか」
「あのナイトメアはネザーのものですから。しかしアサルトコア、素晴らしいですね。空中戦は未だ課題を感じるものの、それでも空戦特化のテンペストを見事に撃破されました」
「ほぼ撃破させる為に寄越したのだろうに……」
「前にギラガースの相手をして以来です。ああ、またアサルトコアと一戦交えたいものですね」
「お前がいると分かっているなら、アサルトコア部隊を引き連れてやったのだがな」
 エドウィナは顔をしかめた。義憤とは縁のない気質の彼女にとって、ナイトギアも使徒も目の前のこの物体も、生理的不快感以上の感慨はない。
 そう、ただただ不快なのだ、この連中は。
 だからこそその目論見を少しでも邪魔してやる為に、エドウィナはナイトメア切除の為に集中をする。

(私達を軽んじている訳でも、見下している訳でも、悪意をぶつけている訳でもない……)
 音切 奏(la2594)は下がった地点から集中を行いつつ、エヌイーを見やる。
 その考えは凡そ理解のつくものではないし、分かり合えるものですらないのだろう。エヌイーから感じるのは『期待』だ。この危険極まりない状況で人間がどう動くのかを見たいのだ。
(悪辣な……!)
 目的の為に手段を選ばないとはまさに。

 さて――

 一般人は十二人。
 三人がナイトメアを無事に切除された。

 残る九人。
 一人はエヌイーに抱えられている。
 二人は柊也によって後方に下げられた。
 他の六名はまだエヌイーの周囲にいる。

 時計の針は進む。



●The Thing 03
 マクシアンはイマジナリードライブの力を強く伝えた大爪をエヌイーの胸に突き立てる。
 やはりエヌイーは大きな防御動作も回避動作もない。ただ、ずぶりと沈んだ刃からは手応えをあまり感じ取れない。水かクッションに刺しているような心地だ。
(……『堅い』な)
 目立った隙がない。防御寄りのバランス型か。なれど特化させたマクシアンの動きはなかなか掴み切ることはできないか。範囲制圧に優れているだけに、一点集中の凄まじい命中精度を誇る……というわけではないようだ。
 しかしながら。そもそも全体的な基礎能力が高い。なにより相手は手数が多い。百撃てば……の言葉が現実になる危険性が常にあった。インパクトシェルで防御面は補強したが、直撃すればどうなるか……それでもマクシアンはこう挑発するのだ。
「……愚鈍だな。動きも、頭も」
 対するエヌイーが気を立たせる様子はない。
「リジェクションフィールド……それを以て我々ナイトメアは無類の優位性を持っていました。それを中和することのできるイマジナリードライブ……素晴らしいですね。解明し、克服し、更なる進化を遂げたいものです」
「この世界を……あなたたちの足場になんかさせないのです!」
 ひゅうがは柳眉を吊り上げと、言葉終わりには小さな体でエヌイーの懐に踏み込み、血赤の刃ブラッドアサシンをその腕に振るった。
 エヌイーの痛覚の有無は不明だ。だが腕を攻撃されたことでエヌイーが抱えている少女を落とすことはなかった。部位を消し飛ばすならばもっともっと攻勢を重ね続けねばならないだろう。
「戦意旺盛ですね。そうこなくては――」
 物体が理性ある声で言う。蠢く銀が、無機質に煌いた。
 またあの刃がマクシアンとひゅうがに襲いかかる。

 それと同時に――

 救助された人間が、消し飛んだ。
 正しくはエヌイーによる攻撃で引き裂かれ、肉片に変わった。
 びしゃ、と人間だったモノが救助対応の者達にかかる。

「は、――」
 奏は目を見開いた。
 きっとそれは、ネザーに挑んだ者達が目にしてきた光景なのだろう。
 ……範囲攻撃に対してはアリーガードも行使できない。
「ほら……」
 月夜の逆光。
 天井一杯にまで伸びる物体を、ライセンサー達は仰ぎ見ることになるだろう。
 ――それはあまりにも怪物。

「永劫の進化。至高への挑戦。まだ終わってはいませんよ。種の滅亡を懸けて、切磋琢磨しましょうね」

 蜂の巣をつつけば蜂が湧き出すように、ライセンサーの攻撃でエヌイーは反撃の意思を持った――エヌイーにとっては、「目の前の二人だけしか攻撃をしない」理由なんてあるはずもなかった。戦意がそこまで刺激されなければもう少し穏便に様子見をしていたか。エヌイーは挑発で激するほど愚かではない。だが「挑発されたならば相応に乗ろう」という好奇心だけが、悪意的に旺盛だったのだ。
 その帰結が、「救助した人間を殺せばもっと彼らは必死になるのではないか?」という発想で。
 エルゴマンサーは知性ある存在だった。もしもエヌイーが近接単体攻撃しか持たず、目の前のことしか考えられない知性の低い者であれば、この侵略者は目の前の二人に釘付けになっていただろうが……。

 ――やろうと思えばライセンサー全員を攻撃対象にできたろうに。

「次はもう少し多く狙います。さあ、逆境ですよ」
「ッ……!」
 それでも残酷なほど、諦めるという選択肢はなかったのだ。
 奏は集中力を乗せた大太刀、獅子王を構える。
(今の私に必要なのは、『覚悟』――!)
 人の命に優先順位など付けたくない、だが救える命だけを確実に救わければならない。引っ掴んだ成人男性を柊也が他の者を運んだ後方に下げると、多少手荒でもとその背に刃を突き立て、ナイトメアを切り裂きながら引き剥がした。傷は最低限、上出来だ。

 竜胆、ヴァルヴォサ、ヴァシリーも先ほどと同様にその精度を以て切除を成功させる。焦りを生みそうな状況だが、三人は鋼の意志を以て、どこまでも冷静に役目を果たす。
 エドウィナも同じく。エヌイーは状態異常をばらまくタイプではないようだ。ならばと救助活動を始める。サブマシンガンA&H FD5Aで、ヴァシリーのように精密にナイトメアのみを撃ち抜いてみせた。
 柊也は先ほどと同じく、仲間を治療しながら、両手で救助対象二人を掴んでエヌイーから引き離す。だが、この礼拝堂全てがエヌイーの射程内だろうし――なによりエヌイーには足があった。そう、移動されてしまえば下げても追いつかれてしまう。
(どうする、……!)

 これで一気に五人が救助された。
 死亡済は三人。
 残るは四人。



●The Thing 04
 エヌイーの腕の中の少女が、ギョロリと目を見開いた。
「ああ、目覚めの時のようです。ようこそ、新たなる進化へ」
 その言葉の瞬間、エルゴマンサーに抱えられていた少女は自立し――背中から赤黒い装甲を、嫌な音を立てながら全身に展開する。一瞬の出来事だ。妨害もできない。瞬きの後にはもう、それが人間だった面影は二つの脚で立っていることぐらいになってしまった。
「たすけて……たすけて……」
 ズシリと重い足音を立てて、使徒がマクシアンとひゅうがの前に立ち塞がる。
「……!」
 ひゅうがのシールドは割れ切ってしまっている。マクシアンはすぐさまツインヒールを彼女に施したが、またエヌイーの攻撃を二重三重と受けてしまえばどうなるか……。
 攻めあぐねている。足止めをできているかと言えば答えはNO.手傷を負わせた感覚もほとんどない。
 エヌイーはエルゴマンサーとしての基礎力のまま膨大な手数と制圧力で攻めてくる。攻撃方法は複数対象攻撃だけでなく範囲攻撃も行使する。反応力もライセンサーの平均以上はあるのだろうが、それでも様子見するようにあえて後手で動くこともある。
 ……分かっていることはとても少ない。データも揃っていない難敵へ、たった二人で挑む、それはあまりにもあまりにもリスキーだった。劣勢だ。いつ気絶してもおかしくない。そして、気絶したライセンサーにトドメを刺さない理由が、エヌイーにはない。

 と、今にも二人に襲いかからんとしていた使徒が別方向を向いた。
 奏がロードリーオーラを展開したのだ。我こそが討ち取るべき君主である、と姫君の覇気に使徒が口先だけで助けを求めながら襲いかかって行く。
 一方でエヌイーがそれに反応する様子はない。状態異常に対する耐性があるのだろうか。

「……こういう結果も織り込み済だ。オレの役割は……いや、お前なら言わなくてもわかりそうなものか」
 聞こえてくる助けの声。マクシアンは慈悲なく告げた。
「強い意志ですね、素晴らしい。そうでなくては」
 エヌイーである物体は、空になった手を称賛のように広げた。
 ひゅうがは狙撃銃ST-1エクスプローラーに武装を持ち替えると、その蠢き枝分かれする頭部に照準を定めた。
「いずれとは言わず今ここで死ねなのです!」
 瞬間的に集中力を高め、引き金を引く。想像の力を持った弾丸はリジェクションフィールドを突破し、エヌイーの悍ましい頭部に突き刺さるだろう。見た目だけ人体のエルゴマンサーに部位狙いがどこまで有効なのかは不明だ。

 奏に引き付けられた使徒は、その剛腕を乙女へと叩き付ける。だがおぞましい爪先は、思念の盾に隔てられる。
 その横合いから一閃に煌いたのは電撃の奔流、魔導書「沈黙の予言」をその手に持ったエドウィナのレールガンだ。
「もう死んだ奴を慮れるほど、人間ができていないのでな」
 凛然と告げる。容赦はない。苦難も、受難も、それがどうした。

 ――かつて奈落の底から見上げた星は確かに美しかった。
 でもそれは、気付くかどうかという話でしかなく。

(星はいつどこから見上げても、美しい)

 ゆえに相容れぬ。
 至高を騙る奈落の主の思想になどとは。

「永劫の進化、至高への挑戦?」
 一人でも多くを救わんとしながら、柊也はエルゴマンサーを冷ややかに見た。 
「無理です。他の抜け羽で鳥の王になろうとした童話の烏と同様に、喰う対象に依存しなければならない時点でそれはない。ナイトメアは自分の脚で歩けば辿り着けたかもしれない至高に自ら背を向けたのだから」
「素敵な観点ですね。心に刻みましょう」
 やはり穏やかにエヌイーは言った。
 その言動、意図、いずれも人間のあらゆる感情を煽ることが目的なのだろう。だが柊也は確信している。それは無駄に終わるだろう、と。
「ヒトの武器は強さ弱さだけでなく多様さで、そのどれかが残って勝つだろうから」

 ――言葉の間にも、刃が閃く。銃声が響く。

 竜胆とヴァルヴォサは目を見開く。ナイトメア除去の為に振り下ろした刃は。エヌイーの体の一部によって庇われているではないか。
「邪魔してくるとは思ったが……」
「……相手のして欲しくないことをする。……定石では、ある」
 二人はそう言うも、狼狽することはない。ならばもう一度と刃を構えた。

 その時だ。
 再びエヌイーが攻撃行動を取る。狙うのはマクシアンとひゅうが、そして救助済みの四人。
 奏がアリーガード、柊也が射線妨害で一人ずつを守るも――護る者が増えれば、護り切れなくなる。全体を通して助けた後にどうするか、そこに隙があったかもしれない。

 あの怪物が動く度に、人が死ぬ。
 守り切れなかった二人の体が、嘘のようにバラバラになる。

 一般人だけでない。
 ついに思念の盾を保てなくなったひゅうがの体を、銀の棘が貫通した。
「っぐ――!」
 持ち上げられ、床に叩き付けられる。小さな体が、パーツをこぼしながら崩れ落ちた。

「……」
 一方でヴァシリーの弾丸はナイトメアを除去することに成功する。妨害し辛いようにと狙いを悟られぬよう視点を固定せず、エヌイーの行動後を狙って。
(心が折れた人間を操り、呼び寄せ、人を襲う使徒へと変貌させる……それを進化と呼称する。なんという悪辣で皮肉なエルゴマンサーなのだろうか)
 そしてかの怪物は、本気を出していない。あの手数だ。やろうと思えば一瞬で救助済み生存者を皆殺しにできるだろうに。人間をなめているからではなく、人間をもっともっと追い込んで本気にさせたいから――。
(……いっそナイトメアが恋しいな)
 知性もないケダモノ。御しやすく対策もしやすく、戦いやすい存在。……考えて動く敵が、ここまで悪意的だったとは。

 生存している救助済みの者は五人。
 死亡済は五人。
 未救助者二人。



●The Thing 05
 また一人の人間が、気味悪い痙攣の後に使徒として変生する。
「……任せて――」
 最後の一人の救助は仲間に託した。竜胆は武装を血刃ブラッドアサシンに持ち替えると、矢のごとく異形の懐に潜り込んだ。
 狙うは喉、首の後ろごと貫通するように。使徒の装甲に堅い音を立てて切っ先が刺し込まれる。一撃、では流石に倒せないか。使徒化するまではナイトメア本体は首の後ろの部分だけだったが、使徒となってしまっては既にその身全てが本体だ。殺すには、肉体をある程度損傷させねばなるまい。
「いたい……たすけて……」
 使徒がごぼっと血を吐いた。だが血液も言葉も全て、人間の戦意を削ぐ為のものなのだろう。そして竜胆はそれに惑わされることはない。
(……これが私の仕事。それに、あれは人だったもの)
 形が人に近いだけ。もう人じゃない。
 躊躇いはない。刃を捻り、使徒を蹴り飛ばして剣を引き抜く。

「もう一発ッ!」
 別の使徒へは、エドウィナが今一度レールガンを放射した。凄まじい閃光の後、助けの声ごと使徒は燃え尽きる。
 これがただのナイトメア相手ならば「お見事」とでも称賛できたろう。奏は唇を引き結んだまま、竜胆が相手取る使徒へを獅子王を振りかざした。
「せめて次の生が穏やかなものとなりますよう」
 祈りを込めて、だが容赦はなく。
 大上段の刃が使徒の頭部にめりこむ。
「あああうううううう いたい いたいいたいいたい」
 血を流しながら、使徒は人間そのものの声で痛がる声を出す。だが言葉の裏腹に、長い尾を振り回して周囲のライセンサーへ攻撃を行うのだ。

 マクシアンもそれに加勢しようとした。
 が。
 その手首をヒタリと掴んだのはエヌイーだった。
「ああ、ようやっと捕まえました。少し時間がかかりました。貴方は本当に優れている」
 マクシアンは冷たいものを感じる。
 違和感はあった。
 回避する度に、相手の狙いが少しずつ調整され精度が上昇していると。
(……学習する個体――!)
 それもかなり高度な。
 ほぼ反射でマクシアンは大爪をエヌイーの腕に振るった。傷口から噴き出したのは銀の泥――

 水銀の枝は全てのライセンサーに、そして救助済みの五人に。
 先ほどのように二人は柊也と奏が護るが……三人、ライセンサーの目の前で首から上が消滅する。

「狙ってくるのは想定済みさね」
 飛雀幻舞。ヴァルヴォサ、そして竜胆は鮮やかに恐怖の流星を回避してみせる。
 ヴァシリーについてはエドウィナが、射線妨害でどうにか守る。
「っ……」
 死体になってしまった者から流れ続ける血。濡れた床を避けながら、ヴァルヴォサは被害状況を確認した。視界の中には――思念の盾ごと、その体を幾重もズタズタに引き裂かれて気絶してしまったマクシアンもいる。
(せめて、……!)
 ヴァルヴォサは刃を構えた。最後の未救助者の背中、ナイトメアを切り裂き剥ぎ取る。

 生存している救助済みの者は三人。
 死亡済は九人。
 未救助者ゼロ人。

「……撤退しましょう!」

 柊也は福音の雨雫によって仲間達のイマジナリーシールドを修復しながら声を張り上げた。同時に生き残った者を二人、抱え上げる。
「ああ! 急ごう!」
 ヴァルヴォサは今まさにナイトメアを切除した者を抱き上げる。
「せめて、あんた達三人だけは……生かし通す!」
 救えなかった、護れなかった。込み上げる悔しさと、弄ぶように悪辣なエルゴマンサーへの怒りと。ヴァルヴォサはそれらを噛み殺し、礼拝堂の硝子のない窓を目指した。礼拝堂は広いが、窓から出れば脱出はショートカットできる。
「俺が使徒を足止めする。走れ!」
 ヴァシリーの判断は早かった。すぐさま銃口を使徒に向けると引き金を引く。心射撃。それは猟犬が獲物に方々から喰らい付くように、使徒の動きを縫い留める。
「竜胆! いせは頼む!」
「……請け負った」
 その間に。エドウィナはマクシアンへ、竜胆はひゅうがへと駆け、抱え上げた。意識がないほどの傷だが幸いにして生きている。
「よし、生きてるな。そのまま死ぬなよ!」
 エドウィナはヴァルヴォサが駆けて行った窓を目指す。
「……」
 竜胆もそれに続くが、最後にちらとエヌイーを見やった。ここで下手に刺激すれば、エヌイーはもっと好戦的になるかもしれない。虎穴に入らずんばとあるが、藪蛇の危険性が高い。
「ああ、撤退されるのですね。いずれネザーへお越し下さい。奈落の底で待っていますよ――」
 ライセンサー達が撤退の意思を見せたならば、エヌイーがそれ以上の攻撃を加えてくることはなかった。
 しんがりを務める奏は、礼拝堂から出てもそこから目が離せなかった。

 ガラスのない窓。銀にうねる物体が、じっと人間達をを見つめていた……。



●The Thing 06

 まるで一瞬の。
 なれど永劫のような。

 そう、悪夢と形容していいだろう。

 奏は戦闘区域外にて救急車に待機するよう要請していた。生き残った三人は早急に病院へと運ばれて、しかるべき治療を受けるだろう。
 一同の表情は明るいものではなく、会話もなかった。
 重体者がいなかったことが不幸中の幸いか。戦いが長引けば重体者が出ていただろう。
 更けゆく夜。ただ半ば呆然と、遭遇してしまった災厄を思い出す。それから、目の前で奪われた九の命を。呆気ないほどに殺戮された、無辜の者らを。

 ――願わくばその眠りが安らかなものであるよう。救いがあるよう。

 意識を取り戻したひゅうがは、未だぼんやりとした意識の中、そう思った。


(三人……)
 たった三人と取るべきか。なれど三人と取るべきか。
 ヴァルヴォサは深く息を吐いた。手元には彼らに関するデータが紙媒体でまとめられている。いずれも人間社会の負の部分を凝縮したような、悲劇の人生を歩んできた者達。
 生き延びさせてしまった。だからこそ、責任を取らなければならない。ゆえにヴァルヴォサは、彼らが意識を取り戻したのならば、話を真摯に聴き、これから生きていくための手助けをする心算だった。

「なぜ助けた?」
「最後まで面倒を見る訳でもないのに」
「偽善者、死なせて欲しかったのに」

 ――きっと、心無い言葉がヴァルヴォサを待つだろう。
 それほどまで心が壊れ砕かれ蹂躙され、余裕が失われてしまった人達なのだから。


 窓の外。
 星々は皮肉なほどに美しかった。



『了』

成功度
失敗
拍手数
10

現在の拍手ポイント:0

あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
拍手1回につき拍手ポイントを1消費します。

MVP一覧

MVPはいませんでした。

重体者一覧

重体者はいませんでした。

参加者一覧

リンク参加者一覧


スレッド一覧

スレッドタイトル(レス数)最新投稿日時