グロリアスドライヴ

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　エオニアの砂浜の上に白いレフ板が並ぶ。
　少し眩しそうにしながら、白神 凪(la0559)は砂の上に跪かせたアサルトコア「破軍」の上から降りた。
「……さて、どこで着替えればいい？」
　凪が選んだのは、「BAQUTA」の真作アイテムだった。
　シャツとロングパンツを合わせたジャケットをややラフに着こなし、凪は「破軍」をバックに浜辺に立つ。
（まぁ、これが国の宣伝になるっつーなら、俺も少しがんばるとしようか）
　海は穏やかで、海面がきらきらとさざめいている。
　ちょっと表情が真面目過ぎますね、とカメラマンに言われながら、凪は「破軍」に背中を預けた。
　シャッター音を浴びながら、凪は「……本当はモデルは乗り気じゃないからな」と心の中で返した。
（前回のショーからの流れで参加させてもらっただけだ。エオニアは気に入っているからな）
　撮影はエオニアの海を眺め、戦い終えた憩いの一時のイメージで。
　これがこの国の宣伝になるのなら――そんな事を考えながら撮影に臨むうち、撮影クルーから「OKです！」の声が上がった。

「おばちゃん見て！　あたいとお揃いのウェディングドレスを着せてもらったのよ」
　ミーベル畑に立つエイラ・リトヴァク(la3147)は、撮影に集まったミーベル農家の人々にアサルトコア「シルバーシックル」を紹介した。
　大人向けにデザインされた「AULOS」のウェディングドレスを選んだエイラに合わせ、「シルバーシックル」もウェディングドレスを着せてもらっているようだ。
「おじちゃん、おばちゃん達も一緒に写ってくれるでしょ？　みんなで、幸せな雰囲気で撮りたいのよ」
　ギリシャの女神を思わせるようなクラシックなエンパイアラインのドレスを身に着けたエイラは、アクセサリーもその雰囲気に合わせて選んでいる。
　古さと新しさをマリアージュさせた仕上がりだ。
「これがエオニアのミーベルのPRになるのよ。だってこれ、世界中の人が見るんだから。そうよね？」
　撮影に参加したゲストや撮影クルーと笑い合いながら、エイラはミーベル畑での撮影を進めた。
　出来上がった写真や動画は世界中の人々にその楽しい空気を届けるものとなったようだ。

「僕ねぇ、このまえお誕生日だったの！」
　そよぎ(la0080)は「AULOS」のスタイリストに対し、そう声を弾ませた。
「１５歳になったのよ！　おにーさんになったの！　だからねぇ、おにーさんのカッコするの！」
　ふわっと着れるお洋服がいい！　とオリエンタルな雰囲気のある衣装を選び、やって来たのはノルトブローゼの湖。
　そよぎはその湖畔にアサルトコア「ひーちゃん（飛燕）」を立たせ、銀梅花の花束を手によじ登った。
「僕もひーちゃんもお花さんいーっぱいね♪　よかったねぇひーちゃん、可愛いお花さんいっぱい咲いてたねぇ♪」
　撮影に合せて服を着たように装った「ひーちゃん」にもノルトブローゼで採ってきた銀梅花の花飾りをつけ、いざ撮影へ。
　野の花でつくった花冠を被ったそよぎは「ひーちゃん」の肩に乗り、「あのねぇ」と虚空に向かって話しかけた。
「あのねぇ、僕はそよぎなの。こっちはひーちゃん！　ひーちゃんとは仲良しさんなのよ、仲良しショット撮るのー！」
　きゃ、きゃ、と笑い声を立てるそよぎの姿に、撮影クルーからは「かわいい！」と声が上がる。
　写真や動画は神話やおとぎ話のようなどこかファンタジックな仕上がりになったようだ。

　ナーイアスの湖の傍らに、アサルトコア「ゾディアック」は恭しく片膝をついて傅く。
　その前に「AULOS」製作のトーガ風のシンプルな白いロングドレスを身に着けたツィー・プラニスフェル(la3995)が立ち、己の騎士にキスを許す女主人のように手を伸ばす。
（素敵な場所……見えない誰かに見守られているような感じがするわ）
　草の上にフィッシュテール風の美しいレースのトレーンを長く伸ばし、月桂樹の冠を頂いたツィーはミーベルの入った花籠を手にしている。
　ドレスのフロントスリットから覗かせた素足にはネックレスと合わせた細い金の鎖を巻き付け、撮影のセットは古代神話を思わせる雰囲気に。
　撮影クルーはそのまま、自然光が木々の間から丁度よく差し込むタイミングを待った。
（遥かな古代、機械と人が出会い、契りを結んだ）
　好奇心と、少しの畏怖を窺わせる表情を浮かべ、ツィーは「ゾディアック」を見つめる。
　昇り始めた陽光は、木々の間から差込み人と機械の主従を神々しく照らす――そんな物語をイメージしながら、撮影は進む。
（ここでしか撮れない画になったはず。これがエオニアの発展に繋がれば嬉しいわね）
　ツィーはそう思いながらすべての撮影を終えた。

「まさか、ロジーが誘いに乗ってくれるとは思ってなかったよ」
　湖畔に立ち、「VOLANTE」の白いタキシード身に着けたロベル(la2857)が手を伸ばす。
　ロジー・ビィ(la1006)は「ええ」と微笑み、レースのグローブを付けた手をその掌にそっと乗せた。
「こんな機会、滅多にありませんもの！　どうかしら。このドレス、素敵でしょう？」
　白い「ROMET」のマーメイドタイプのロングドレスを身に着けたロジーはくるりと回り、ロベルに見事なレースが折り重なったドレスの背中側を見せた。
　すると、ロベルは戯れにロジーの背に腕を回し、そのままひょい、と横抱きにした。
　ロジーが驚いて「きゃ」と声を上げる。
「こういう体勢のほうがドレスが映えるだろう。よく似合っているぞ、ロジー」
「まぁ。では、これで撮っていただきましょうか」
　お願いします、とロジーは撮影クルーに微笑みかける。
　角度と場所を変えながら、互いに見つめ合う幸せな雰囲気に。
　だがあくまで――この２人にお互いへの恋愛感情はない。
「俺が相手でよかったのかいロジー？　こういうのは好きな男と参加したかったんじゃないのか？」
「だけどあたしも、ロベルのタキシード姿がは気になってたんですのよ」
　抱え上げられた格好のまま、ロジーがころころと笑う。
「ロベルこそ……お相手がいらっしゃるんじゃありませんの？」
　そうロジーが言うと、ロベルは「いや」と笑って返した。
「お前さんは結婚願望はあるかね？」
「結婚願望……そうですわね、あまり、実感は有りませんわね。ロベルはどうですの？」
「生憎と俺は誰かと結婚したいという気は無くてね。ずっと一緒、というのが想像出来ないんだよ」
　カメラから離れた位置で、２人はそんな会話を交わす。
　音声は多分、動画には入っていないだろう。
「飽きられたら終り、で生きてた時が長いからね。ロジー、お前さんはどうだね？　ずっと一緒に居たいと想える奴は居るかね？　そしてそれを叶えたいかね？」
「さぁ……けれど、ロベルの言う『ずっと一緒に居たい』と想える人と巡り会えたら……それはとても素敵なことだと思いますわ！」
　シャッター音を聞きながら、ロジーがそう言って笑う。
「でもそれは結婚に限ったことではない、とも思いますの。だってそうじゃありません？　『結婚』だけが『ずっと一緒』ではないと……あたしは思いますわ」
　いつか愛する誰か、あるいはそれとは違う関係の大切な人と生きる道を選ぶ日が来るのだろうか。
　ふとそんな事を考えながら、２人は撮影を終えた。

「ちょうど一年前に『キャリアーを舞台に、結婚式とドレスをメイキングする』ってお仕事があって。だから、今回もご縁があったのかもしれないと思ったんです」
　飛鳥 ナツ(la2131)は「AULOS」の撮影クルーに対しそう口にした。
　選んだのは清楚でシンプルなデザインのドレスだった。
「エオニア、風光明媚な土地で、自然豊かで癒されますよね。ここ、杢さんと一緒に選んだんですよ」
　メイクを施されながら、ナツはなんだかウキウキしていた。
「他のブランドとか、アウロスさんの他のデザインもすごく素敵で迷っちゃったんですけど、結局これに決めました」
　男だけど……と気にするナツに対し、デザイナーもスタイリストも全く問題ないと笑っていた。
　自分らしく着こなせれば誰がどんな服を着てもいいという考えのようだ。
「んうぉー！　深い森だんず！　これ、どこに降りたらいいだんず？」
　 杢(la1639)はアサルトコア「SL-X」に乗り、上空から湖を見下ろしていた。
　ふと見ると、白いレフ板を手にした撮影クルーがこちらに手を振っていた。
「ナツさん隊長いたいた、だんずー♪　今行くだんずよー♪」
　撮影セットを確認し、杢は「SL-X」をゆっくりと降下させる。
　その様子を、ナツはドキドキしながら見上げていた。
（杢さんは……初めてのお仕事の時に、色々有ってたまたま着たドレスを、まだまだライセンサーにも不慣れで緊張していたボクを助けてくれて）
　ナツは、胸に抱いたブーケをぎゅっと握りしめる。
（ボクの精神的な支えだった杢さんが褒めてくれたのがすっごい嬉しくて。……結局、ボクは今も自分の気持ちはまだうまく言葉に出来ないけど、また褒めて貰えたらなぁ）
　湖畔に降り立った「SL-X」が跪き、ウェディングドレス姿のナツに対し、マニュピレーターの腕を差し出す。
　そしてコクピットハッチが開き、「AULOS」のタキシードを身に着けた杢が顔を出した。
「お待たせだんず。とっても似合ってるだんずよ」
　湖の畔で待つ姫を迎えに来た王子様――そんなイメージで。
　待ちわびていた姫は、王子のもとへ駆け寄った。
「ボク、杢さんにそう言ってもらえて嬉しいです。今回、ここに来て本当に良かったです！」
「おらもその一言が何よりだんずよー。そうやって喜んでもらいたくて参加しただんず」
　満面の笑みのナツに対し、杢もそう答える。
「いつも、一生懸命作戦立ててくれでありがどー。おらもお役に立てるようにけっぱるだんず」
　笑顔溢れる幸せな雰囲気で。
　２人はエオニアの景色を楽しみつつ、撮影を終えたのだった。

●
　アサルトコア「シグルドリーヴァ」は揺らぐ青白い火焔を纏い、「ハーデース地下神殿」の祠に向かって傅く。
　オリエンタルな装飾が付いたクラシックなコートを身に着けたラルフ(la0044)は、その傍らに立ち、祠を見上げる。
　そして、「AULOS」のスタイリストの指示を聞きながら、真っ赤な柘榴の実を手にした。
（ハーデースの妻、ペルセポネーは冥府の柘榴を食べてしまい、地上に帰れなくなった……だったな）
　揺らぐ火影を背景に、石灰岩でできたハーデースの妻・冥界の女王ペルセポネーの像を見つめ、ラルフは手を伸ばす。
「どの角度なら上手く画になりそうですか？　もう少し前に出ます？」
　プレゼンするように語りかけつつ、ラルフはシャッター音を聞きながら動く。
　自分が、そして身に着けた「AULOS」のアイテムがよりよく写るのはどんな姿勢がいいのか。
　ラルフはほの暗い洞窟の空間の中で「シグルドリーヴァ」と共にベストな１枚を探った。
（花嫁ペルセポネーを連れて……「未だ果て見えぬ冥府への旅」へ）
　全長１２ｋｍにも渡って続く神殿の奥を見つめ、ラルフは祠の前に立つ。
　二度とは戻れぬその旅路へ。
　最後はそんなイメージで写した１枚に、ラルフと撮影監督がOKを出した。

（うぅ……は、恥ずかしいよぉ……）
　銀龍(la4012)は俯いたまま、一言も喋らずに「ハーデース地下神殿」の中を歩き続けていた。
　真っ白な「BAQUTA」のドレスを身に着けた銀龍の傍らには、同じく「BAQUTA」のスーツを身に着けた黄昏　空(la0099)の姿がある。
　長い長い地下神殿を歩く２人の傍には動画を撮影する「BAQUTA」のスタッフが同行している。
　だが……。
（やっぱり……誰か友達に一緒してもらった方が良かったかな）
　空は心の中でそう呟いた。
　ガチガチに緊張している銀龍は、どうやら、「男性と２人での撮影」というシチュエーションに対し、頭が真っ白になってしまっているようだ。
（本人は大丈夫だって言ってたんだけどなぁ……あと何ｋｍだろう）
　どうしたものか、と空は頭を掻いた。
銀龍の表情はずっとガチガチで、出来上がった写真は図らずも「クールでドライ」な演出をしたような仕上がりになっていた。
「だけど、これはこれで良いかも、って。モデルが笑わない演出も『BAQUTA』の撮影なら違和感ないらしいですよ」
「……あ……はい」
「銀龍さん、足、痛くないですか？　ここからまだ長いですし、さっきのスニーカーにまた履き替えましょうか？」
「べ、別に……大丈夫、です」
「そうですか？　辛かったら言ってくださいね」
「……」
　洞窟内に沈黙が流れる。
　まさか、今日はずっとこんな感じなのだろうか。
　しかし――洞窟が切れ、外の光が差し込んだ時だった。
「わぁっ……！　綺麗！！」
　銀龍が声を上げ、突然飛び出していった。
　吸い込まれるようにして降り立ったのは、針葉樹の生い茂る砂州に守られた潟湖（ラグーン）、「ペルセポネーの入り江」だった。
　空の色を映す美しい渚と、白砂の輝き――その光景に思わず満面の笑みを浮かべた銀龍の表情を、すかさずカメラマンが捕らえる。
「イイねぇ！　最高のスマイルだ！　ほら、空くん！　今がチャンスだよ！」
　空もスタイリストに促され、銀龍のもとへ。
　すっかり緊張が解けた銀龍と共に渚に素足を浸し、貝殻を拾ったり、楽しげに語り合いながら浜辺を歩いたり、明るい自然な表情で撮影を終えたのだった。

「折角ですから、『弓張月』の特殊兵装を演出として使いたいんです。目標地点を上空にして……ええ、普段は敵を散らすものですが、今回は祝福の花火として」
　黒帳 子夜(la3066)は「AULOS」の撮影スタッフに対し、そう口にした。
　同ブランドのワンピースを身に着けた子夜は、銀梅花の花束を手に「エイロースの館跡」に立つ。
　そしてアサルトコア「弓張月」と共に撮影を開始した。
（この石の床の上なら、「弓張月」が歩いても大丈夫そうだな。銀梅花の花を踏んでしまうのも十分な破壊行為だ）
　遺跡には在りし日の記憶を感じ取れるよう、建物の遺構や彫刻、通路の石畳などが屋外保全されている。
　アサルトコアが遺跡を破壊してしまわないよう、撮影はその一番広い場所で行われた。
（大きな柱があるな……当時の女性も、こんな感じで庭園を散策したんだろうか）
　銀梅花の枝の伸びる館跡の遺構や彫刻を背に、子夜はポーズをとった。
　そして「弓張月」の肩の上に上がると、その頭部に大きな銀梅花の花冠を編み始めた。
「大きな花冠……ああ、あの子の結婚式を思い出しますね」
　優しい昔の記憶を語りつつ、動画を撮る撮影スタッフとやり取りしながら子夜は次の演出へと移る。
　空に向け、眩く貫く雷撃を。
　その風圧に、銀梅花の白い花弁がふわりと舞い上がった。

　エオニアの伝統的な礼服を着てみたい――吉良川　鳴(la0075)のそんな提案に、「AULOS」のデザイナーも気合を入れたらしい。
　地元の祭礼衣装を研究し、仕立てた衣装は水無瀬　奏(la0244)の身に着けるウェディングドレスに見事にマッチしていた。
「たまにはエスコートしますかね……じゃあ、撮るのはあのへんで」
　肩にマントを装備した鳴は、三連のブレスをした手で「エイロースの館跡」の中庭を指す。
　そこへ、奏が「始めましょう♪」と言って飛び出していった。
「動画メインで撮影できたら嬉しいです！　テーマは『心の解放』で！　この通路、ランウェイみたいに使えますよね？」
　伝統的なエオニアの衣装を思わせるデザインに仕立てられた丈の長い豪華なウェディングドレスを身に着けた奏は、ティアラを髪に飾り、鳴と手を取る。
　そして静かなエオニアの伝統音楽に合わせ、ダンスを始めた。
（最初はこんな雰囲気で……衣装、綺麗に映ってるかな）
　奏が鳴に微笑みかける。
　彫刻を背に、見つめ合いながらくるくると回り、衣装を見せるようにダンスする２人。
　そして奏がそっと姿勢を低くすると、鳴がその髪に飾られたティアラを銀梅花の花冠に変える。
　暗転――場面は変わり、銀梅花の咲き乱れる庭園に出る。
（ここからは情熱的に！　スポットライト、よろしく！）
　眩しい光の中に、丈の短いミニスカート丈のドレスに変わった奏が飛び出す。
　その手を、マントを外し動きやすい格好になった鳴が受け止め、ダンスを促す。
　エオニアの太陽を浴びながら、アクロバティックで情熱的なダンスを。
　そして２人は見つめ合う――。
「想いの熱よ！」
「世界中に届け！」
　そして、パティちゃん、王女パルテニアに届け。
　そんな奏の思いに、鳴が応える。
　そして――。
（はわ……っ……！）
　奏が驚き、目を見開く。
　情熱的な雰囲気の中、鳴は奏を抱き寄せ、その唇を奪った。
「え……な、鳴くん……？」
「だってそういうダンスしてたし」
「……あ……じゃあ」
「んむ？　だいじょぶ？」
「あ、あの……これって」
「まぁ、今更？」
　照れ臭そうに、鳴が笑う。
　その表情に、「これは鳴なりの告白なのだ」と気づいた奏の頬も赤く染まった。

●
「やって欲しいことがあれば、遠慮なく言ってくれ。撮影の演出とか、いろいろ」
　葛城　武蔵介(la0849)はハードなデザインの「BAQUTA」のスーツを少し着崩し、「ランテルナ」のローズガーデンに立つ。
　ユリア・スメラギ(la0717)は彼に対し、「サンクスよ」と微笑み返した。
「今日はお手伝いありがとう。葛城君、義理堅いのね」
　先日、エルゴマンサー、コウル（lz0125）に捕らえられた武蔵介を助けるため、ユリアはモデルの仕事をキャンセルしている。
　だから、その礼に「手伝いに」来たのだ、と武蔵介はいう。
「俺は義理堅いんじゃなくて、借りを作りたくないだけさ。それに、俺はユリアと違って素人だし、こういうイベントは女性が主役で男はオマケなんだろ？」
「あら。でも、葛城君が着てるその『BAQUTA』のスーツ、とっても素敵よ」
「そうかな……なんかホストみたいじゃないか？」
　２人はそんな会話をしつつ、撮影を始めた。
　撮影のメインとなるユリアは、「ROMET」の新作フォーマルスーツにタイトスカートと、薔薇の紋様の入ったストッキングを合わせている。
（さぁ、あたしに見とれなさい♪）
　香水を一吹きし、最初はシックな雰囲気で。
　ローズガーデン内を歩きながら、ユリアは動画を撮影するカメラに向かって、エオニアの魅力をアピールする。
「エオニアにランテルナあり、ってね。このローズガーデンも、ぜひ直接見に来て欲しいわ」
　最初の撮影が終わり、いよいよ武蔵介の出番となった。
　武蔵介はローズガーデンに立つユリアの頭上に、イマジナリードライブの花吹雪を雨のように降らせた。
　ユリアはその花吹雪の中で、演出に合せてダンスする。
「あら、綺麗な赤い薔薇ね。素敵だわ」
「それだけじゃないぞ。ほら、紅……緋……朱……色を少しずつ変えると綺麗だろう？」
「いいわね。私ね、実は実家が花屋なのよ」
「そうだったか。じゃあ薔薇は詳しいな」
「まぁね」
「俺さ、昔、足元を見ずに青い鳥を追い掛けてて、肥溜めに落ちた事があるんだ」
「ええっ？」
「お、良いなその表情」
「ちょっと待って葛城君。今の、変な顔になっちゃったんじゃない？」
「そんな事ないって。ほら！」
　武蔵介は戯れに、ローズガーデンで集めた薔薇の花びらの入った袋を投げ上げ、薔薇鞭「ミセス・スカーレット」で軽く打つ。
　本物の花弁とイマジナリードライブの花弁が降り注ぎ、ユリアが「きゃー！」と笑い声を立てる。
　撮影は終始、楽しい雰囲気で終わったようだ。

（やっぱり、一羽ってニグレットさんに鼻の下伸ばしてない？）
　矢花 すみれ(la3882)はメイクを施されながら、ムスッとした表情でローズガーデンの方を見ていた。
　視線の先には、「AULOS」のエンパイアラインのウェディングドレスを身に着けたニグレット(la3439)の姿がある。
（ギリシャ・ローマ時代のデザインにインスパイアされた仕立てらしいな。なるほど、いい色だ）
　ニグレットがくるりと回ると、アイボリーのドレスはサフラン色にも見える。
　その立ち姿に、天野　一羽(la3440)は思わず見とれているようで……。
（う、ニグレットさん、やっぱ綺麗……やっぱ、その、ちょっと照れちゃうっていうか……。
　そういえば、すみれちゃんがすっごいむくれてるような。……なんで？）
　きょとんとしている一羽に、ニグレットは艶やかに微笑み返すと、すみれを手招きした。
　そして、「とっても綺麗だよ」と耳元で囁く。
「ふふ、確か『TALAN LAPIN』のデザインだったな。純白の、正統派のプリンセスライン……とてもよく似合っている」
「ん……っ、ニグレットさ……」
「背中の大きなリボンの甘い雰囲気もいいな。婿殿に渡すのが惜しいよ、実に」
　よしよし、と抱き寄せるニグレットに、すみれも「ホント？」と体を寄せる。
「じゃあニグレットさんぎゅってして……」
「おやおや、いいのか？　婿殿の前だぞ？」
「いーの。一羽もデレデレしてるし、私もニグレットさんに甘えちゃうの」
　戯れにそんな事をしつつ、まずは２人で撮影を。
　続いてニグレットは一羽を呼んだ。
「ふふふ、婿殿。つくづく私の花嫁姿に縁があるようだな」
「そう……かもね。そういえばボク、『ランテルナ』って二度目かも」
「ふむ。婿殿は『VOLANTE』のタキシードか。さて、では年上の花嫁らしく、可愛らしい婿殿をリードしてあげようか。……悪魔に貸りを作ると大変だぞ、婿殿」
　ニグレットは一羽を傍らに立たせ、カメラに向かって視線を促す。
　そして、続けて一羽とすみれをガーデンの中央へ立たせた。
「……さて、すみれ。本番だ。婿殿の所に行ってこい」
　ポン、と背中を押し、ニグレットはすみれを一羽のほうへ促す。
　すみれはもじもじしている一羽の顔を「何よ」と睨みつけた。
「ニグレットさんのほうがいいんでしょ？」
「そ、そんなこと……」
「で？　仮にもお嫁さんなんだから、何か言うことあるんじゃないの？」
「う、言う事って……。その、すみれちゃんも、とっても、綺麗……」
「……今回だけよ」
　真っ赤な顔になってしまったすみれの顔を見て、ニグレットも微笑む。
　こうして３人は何だか甘酸っぱい雰囲気の中、撮影を終えたのだった。

「コンセプトは『現在・過去・未来を着こなす』ですか。それって、『僕達』に合ってますよね」
　路傍の毒(la3693)――鈴蘭は普段と違う２０代の若者の姿になると、「AULOS」の白いスーツに袖を通した。
　共に撮影するルシオラ(la3496)は「TALAN　LAPIN」のウェディングドレス風衣装を身に着け、ランテルナのローズガーデンに立つ。
「お待たせしました、鈴蘭さん。仕事なので真面目に……手短に撮りましょう」
　ルシオラはクールに振る舞おうと頑張っているようだが、明らかに浮ついているのを隠せていない。
　本当に結婚式を挙げているような空気と撮影セットが、否が応でも気分を浮き立たせてしまうのだ。
「わわ、流石ルシオラさん！　お美しいです！」
「そう……でしょうか？　ちょっと可愛らしすぎませんか？　わたしよりもっと若い子に着せるべきかなって……」
　撮影が始まり、シャッター音が響く中、照れて下を向くルシオラ。
　鈴蘭は「そんなことないですよー！」と声を上げる。
「お花がいっぱいでふわっふわで、かわいらしいです！」
「鈴蘭さんはなんだか……王子様みたいですね。とても似合っています」
「あの、後で『子供バージョン』でも撮らせてください。『僕達』のためにもう一着用意してもらえたんです！」
　姿かたちと衣装をチェンジしながら、いろいろなシチュエーションで。
　撮影を続けながら、ルシオラはふと「こうしていると」と漏らした。
「モデルというか……撮影になると昔の事を思い出しますね」
「ルシオラさんの、元の世界のお話ですか？」
「……いえ、忘れてください」
「そうですね、『僕達』にはわかりかねますが、きっと」
　鈴蘭はそう、ルシオラが誤魔化そうとするのを遮るように言った。
「素敵な思い出だったのだなと思います。大事にしてください。『僕達』は今日のことを大事にしますよ」　
　いつもと違う大きな手で。
　ルシオラの髪を、鈴蘭は優しく撫でたのだった。

●
「ふふ～ん♪　一度ウェディングドレスって着てみたかったんですよね♪　なんか私、変に有名になっちゃったじゃないですかー。だから、結婚とか将来どうなのかなー、って思うんです。だから今回は記念、って感じでやらせてもらいます♪」
　真っ赤なウェディングドレスを身に着けた紅迅　斬華(la2548)は「ROMET」の撮影クルーに対し、そう語った。
　撮影地に選んだのは首都「エオス」の市街地で、背後には城が見える。
「じゃあ、最初はその階段の上とか登ってみていいですか？　剣を構えて、こう……煽る感じで。あ、そうですそうです♪」
　儀礼用の模造体験を手に、勇ましくりりしい花嫁の姿をイメージしてまずは一枚。
　斬華は「戦うライセンサーの花嫁」というのを見せたいようだ。
「じゃあ、次はちょっと甘い感じで♪　やっぱり、頼もしさの中に女性らしさと可愛らしくのギャップをアピールしたいじゃないですか？　幸せな花嫁さんバージョン撮りましょう♪」
　ドレスに散りばめた花の衣装を生かすように、ブーケを抱いて少し清楚なイメージで。
　そして最後は力強くピースサインで撮影を締めくくった。
「意外に似合ってないです？　えへへ～♪　彼氏募集中です！　ブイ！」

「そうね……だったら、後で『SL-X』と私の映像を組み合わせたほうが効果的よね。じゃあ最初は、アサルトコアスキルがメインの撮影から？」
　ミラ・ケートス(la0103)は首都エオスの王城の近くで「AULOS」のスタッフとそんな打ち合わせをしていた。
　そしてアサルトコア「SL-X」に乗り込み、エオス上空を飛行する姿の撮影を開始した。
『お城、映ってるかしら？　行くわよ！　ここで「天空の騎士」を発動！』
　撮影スタッフと通信でやり取りしながら、まずは無事に動画の撮影を終えた。
　続いて今度はミラが姫騎士を思わせるコルセットワンピースに着替え、エオスの街に立つ。
（どれもこれも悩ましいけれど、私らしくやるならこうかしら……）
　両刃の大剣を手に、刃に光のオーラを纏わせ、ミラは勇ましく立ち回る。
　コンセプトは城を護る女騎士、あるいはその出征といったイメージで。
　そして無事、こちらの撮影も終えた。
「どうかしら？　出来上がるのが楽しみね」
　ミラの映像と「SL-X」の映像はすぐに組み合わされ、ドラマティックな演出に仕立てられた。
　そして後日さらに編集をかけられ、世界中の人々にライセンサーの勇ましさを伝える動画となって配信されたのだった。

「動画撮るなら映画風ってどうかな？　ほら、ローマで撮った有名な映画があるじゃない？」
　神取 冬呼(la3621)はそう口にした。
　アウィン・ノルデン(la3388)は「ああ。あれか」と頷く。
「成程、映画PV風に編集するといいな。行こう」
　２人は手を取り合い、エオスの街中へと繰り出した。
　まずは気軽に立ち寄れる小さな市場（バザール）へ。
　ミーベルのアイスを用意して、さりげなく特産品をアピールする。
「あ、食べる前にちゃんと物撮りしないとね！　エオニアに来てくれた人が分かるように」
　そう言って笑う冬呼は「ROMET」の半そでのフレンチシャツにややハイウエストのフレアスカートと、青い蝶のチャーム付きストラップサンダルを合わせている。
　動画を観た人もいつか、こんな風にデートを楽しむかもしれない。
　冬呼の傍らに寄りそうアウィンは「VOLANTE」のグレーのリネンスーツに水色シャツと緑ストライプのネクタイを合わせ、茶のローファーでクラシカルに装っている。
「日が傾き始めたな。ふゆ、次の撮影ポイントに行こう」
　クラシックなデザインの自転車を借りたら、２人乗りして石畳の道を進む。
　後ろに冬呼を乗せたアウィンは、最初はゆっくりと漕ぎ始めた。
「この先が例の坂だな。ふゆ、ルート合ってるか？」
「うん。そのまままっすぐ。流石に身長差があるね……私これ、顔ちゃんと映ってるかな」
　市街地を進む２人には、撮影隊はついてきていない。
　理由は、撮影プランにあった。
「さぁ、ふゆ。この先にカメラが待っている。ライセンサーの脚力を見せるぞ」
　シャキン、と真顔になったアウィンは冬呼をしっかりとつかまらせると、蒼炎を纏った「天狼（セイリオス）」を繰り出し、その後を追って高速でペダルをこぎ始めた。
　通行人を遠ざけ、尋常でない速さで滑走する自転車。
　冬呼は表情が「ガチ」にならないよう堪えながら、必死でアウィンにしがみ付いていたという事である。
　そして、陽が落ちたら撮影の最後は夜の王城を背後に。
　アウィンはイマジナリードライブで背後に綺羅星を描き、冬呼に跪く。
「これからも貴女と共に……ラストも映画とは違うな」
「ありがとう……そこまで同じだと困っちゃうからね」
　微笑んで愛を伝えるアウィン。
　星明りの下で冬呼は心の底からの笑顔を返し、銀梅花の花束を受け取る。
　OKです、の声が上がり、拍手の中でクランクアップとなった。

　ライセンサーがモデルとなった写真や動画が公開されると、今回もやはり大きな話題になった。
　多くのメディアで取り上げられ、ウェブ検索のトレンド上位に「エオニア王国」関連のキーワードが食い込むなど、かなりの反響があったということである。