●新たなる敵 恐るべきエルゴマンサーである異形の巨大蜘蛛・ボマーは姿を消した。しかし親玉が消えたとて、瓦礫散らばり粉塵渦巻く名古屋からナイトメアが残らず消え去ったわけではない。 伊勢湾から別のエルゴマンサーが率いる巨大ナイトメアの群れが押し寄せているが、そちらはアサルトコアを駆る仲間たちに任せる。こちらはこちらで後始末が欠かせないのだ。 「広いと掃除が大変だな!」 劉 黒晶(la2079)は市街地で残党を捜索・始末していたが、不穏な気配を感じて振り向いた。 やや遠くに、球体を連結したようなものがふわりと宙に浮いている。その球の一つ一つが発光し、黒晶は警戒を高めた。 と、彼の横をさっきまで見かけなかった大きな蜘蛛が進んでいく。まるで球体塊に接近しようとするかのように。 それこそはボマーの置き土産である子蜘蛛。剣呑極まりない、自走して透明化すらする爆発物。 「いかん!」 黒晶は子蜘蛛を抱えると、その起爆装置たる赤い筋を切り裂きながら、素早く飛びのく。直後、子蜘蛛のいた空間を、球体塊から放たれた光線が薙いでいた。あれが起爆解除前の蜘蛛に当たっていたら、大爆発は避けられなかったろう。 「大変なのです!」 装備に乏しいため、ビルの屋上から観測に努めていたいせ ひゅうが(la3229)は、慌てて自分の目撃した情報を伝達する。 ライセンサーが初めて目にする新種の敵――アグリスフィアが名古屋に現れた最初の瞬間だった。 ●街を守るために 新種の敵の登場と、潜伏していた子蜘蛛の顕在化と活性化。そして地にはマンティス、空からはアーマーバードと、おなじみの敵もまだまだ多い。 「ま、立ち止まってる暇はねぇな! サクサク片付けさせてもらうぜぇッ!」 斧を振るうサイ=ストランド(la2666)の言う通り。戦いながら考える。 個々人と各小隊はその中で思考を巡らせ、方針を決めていった。 「新しい敵がいる……あいつ賢いのかな?」 「得体が知れないな……先んじて潰すぞ!」 【小隊・天満月】を率いる高柳京四郎(la0389)は、ローゼリィア(la0396)に答えて言った。子蜘蛛を効果的に爆破させられたら、あるいは他のナイトメアの指揮まで取れたら、恐ろしいことこの上ない。 「新種か……どんなものか、じっくり調べさせてもらおう」 【サンクチュアリ】のアキレイア(la2618)は刀を抜いて戦闘態勢を整える。 「新種ですかあ。だとしても丸裸にしてあげたいですねえ」 ブラン・ジオレッド(la0322)はどこか胡散臭い笑みを浮かべる。 「何をしてくるかわかんないし、先手で潰す気持ちで行くよ!」 【【百鬼夜行】】のナナシ(la2638)は仲間たちに告げた。分析やら何やらは人間どもに任せればいい。もちろん考えなしに突っ込むわけではなく、子蜘蛛には最大限警戒するし、敵の指揮系統には注意を払うが。 「あのないとめあ、ぶどーみたい」 灰空 散華(la2998)はよだれを垂らす。 「正義のカマキリ、此処に見参なの! 悪いマンティスは昇天すると良いなの! カマァァ!」 「どっちが本物のマンティスか勝負なんだよ! カマァァ!」 「俺もマンティス狩りであるか……まあ、構わんが。カマァァ」 カマキリの着ぐるみに身を包む香奈沢 風禰(la3155)に私市 琥珀(la3157)は悪しきカマキリと戦う【マンティスの館【MvsK】】を率いる。付き合っている高河 水晶(la3171)だけは恥ずかしそうだ。 「抜かせるな。一匹残らず地に墜とせ」 【【Gullinkambi】】は、アグリスフィアの対処を優先する小隊を存分に戦わせるべく、アーマーバードを中心に対処することにした。マサト・ハシバ(la0581)の声の下、各員が準備に取り掛かる。 「街、壊されちゃったね」 坂本・アレクサンドラ(la0063)は近くに現れた子蜘蛛を処理するバニー・S=バニラ・ラビッツ(la2458)を支援しながら呟いた。 名古屋はこの国有数の大都市だが、人も避難した今、破壊の跡ばかりが目につき、戦闘の喧噪ばかりが耳につく。 「これ以上は街を破壊させねェさ……、悪夢から目ェ覚まさしてやんよォ……」 バニーは言うと、【小隊・天満月】に合流していく。その背にアリーも答えた。 「うん、これ以上はさせないよ!」 「大切な人たちが安心して暮らせる場所を取り戻したいです」 硴間 真架(la0798)のその言葉に、多くのライセンサーの思いは集約されていた。 ●包囲戦術 最初のうち、各地からは爆発音が聞こえていた。 「敵を見つけ次第狙撃する……」 そんな風に考えていた者が子蜘蛛を撃ってしまって爆発に巻き込まれたり。 「透明化は意味ないぞ!」 「直に当てちゃダメ!!」 子蜘蛛へペイントボールを投げつけたはいいが直撃させてしまい爆発に巻き込まれたり。 「赤い筋を攻撃すればいいんだな?」 情報を半端に得た者が、フォースアローなど遠距離攻撃で赤い筋を狙うという曲芸じみた真似をして失敗し爆発に巻き込まれたり。 「おっと、油断は良くないよ?」 「今のオレにできることは少ないが、せめて一人でも多く手当てして回る」 セレナ・セレスタイト(la1007)や神戸 若葉(la3230)がそんなライセンサーたちを回復させ、撤退を援護する。 だが、そうしたしくじりが最初は見られたものの、徐々に情報は周知されていく。そそっかしい者を、危険を知る周囲の者が止めたりもする。 やがて、攻勢が明確になった。 * 「ここはお前らの居場所じゃねーんだ! 返してもらうぞ!!」 【一番槍】の茅野 敦(la2650)が吼える。子蜘蛛を警戒して範囲攻撃は迂闊に使えないが、藤井 亜梨紗(la2744)に束ね連なる因果を用いて二人の攻撃力を高める。そして敵が群がれば惑い写す青! 「俺は防御が紙で盾にはなれねーが、こういう守り方もあんだぜ!」 「幸せな空間。帰る家。皆が居る場所。……奪わせません! 皆さんが安心できるように、貴方たちを討ちます!」 「我こそはコレット・アストレア(la0420)、ESPOIR騎士団――前へ!」 【ESPOIR騎士団】は今回九人からなる。 「……そいつを攻撃はさせねえよ。……さあ来い。オレたちが相手だ」 マクシアン・ヴェラム(la2683)が先行して、子蜘蛛へ接触しようとする敵を惹きつけ、やや後を凹状に進軍する八人が包み込んで仕留めていった。 「連携して速攻で潰していこう! 子蜘蛛に攻撃なんてさせやしない!」 「一回裏ぁぁ! しまっていこうぜぇぇぇ! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」 空(la0099)が叫ぶ。EXIS使用で若返りテンションが高まったか、森之松(la1629)が絶叫する。 個性豊かな仲間を率いながら、コレットはかつてのことを思い出しそうになる。悪に立ち向かい、しかしさらなる恐怖を国にもたらしてしまった過去。 だが少なくとも今、ナイトメアを倒すことは間違っていないはずなのだ。 「敵が何処に潜んでいるかもわからぬ。安全な場所を確保して優位に進めよう」 【エルロード】を率いるシオン・エルロード(la1531)が先頭に立つ。 「真新しい敵戦力に視点を固定するなよ、目を離した相手ほど面倒はねえ」 「………敵が軍として動いてたら面倒だよな」 アークレディア・クレセント(la0542)と薄衣 千利(la0907)は、敵の思惑も探ろうとしていた。 「さあ、残党狩りの時間だ!」 【戦闘支援機関「オーケアノス」】のキャプテン・ブロッサム(la2215)は、高らかに宣言した。 「これはまた骨が折れますな……もう少し老人を労わって欲しいものです」 護鋼 刀夜(la2104)は斧や大剣を使い分け、近場の敵を斬り伏せていく。 「ふふ~ん♪ 名古屋はこれ以上壊させません。無敵お姉さんが守りますよぅ♪」 「一匹残らず駆除しないとね、ここはまた再興するんだからさ」 紅迅 斬華(la2548)と雨崎 千羽矢(la1885)が言い交わす。 四人全員が前衛として戦えるこの小隊は円陣に近い隊形を組み、刀夜と斬華を前衛としつつも、ブロッサムと千羽矢は死角を潰す意識の元、後ろに控える。 「がんばらなきゃ。私の力は、みんなを守る力なんだからっ」 【Ericales】では阿伊染 莉杏(la0222)が拳をぎゅっと握りしめる。 「んまー、無理せず行こうぜー」 「う、うん! エージくん!!」 何度か依頼には出たものの、戦闘は今回の大規模が初参加。そのため必要以上にエージ(la0235)の動きや指示に反応してしまう。 「びぎなーですけどお手伝いがんばるのです。エージ、前衛おサボり禁止なのです」 「わーってるよ」 一方のスフレ(la0835)は落ち着いたものである。エージに当たりの強い言葉を投げかけつつ莉杏と手をつないだ。 「莉杏とはぐれないようにペアで行動するのです」 「この曲がり角の先にナイトメア多数という情報です。気をつけて!」 【小隊【ライトスタッフ】】はアンネローゼ・マーラー(la0135)の声に一旦足を止める。カンナ・カブラギ(la0617)はサイと肯き合って、タイミングを一致させて踏み込んだ。 「はあっ!」 「うらぁッ!」 カンナの剣とサイの斧が一番手近なマンティスを仕留める。残る数体のマンティスが彼らに向かおうとするが…… 「こっちです!」 後方にいた真架のロードリーオーラに惹かれ、前衛を無視して動き出す。 「食らいなさい!」 アンネローゼのエナジーガンが足を止め、背後から斬りかかったカンナらがとどめを刺す。 小隊は順調に機能していた。 さて、これらの小隊の多くは、他小隊との緊密な連携のもとに移動していた。 市の外縁部から網を絞るように、中心――ボマーが大爆発を起こした現場へ向けて。 ●力を束ねて 戦闘がメインでない小隊も、連絡を取り合って動く。 【カウンターPt【DTN】】の高圧洗浄機を借りて色水噴射という案は、子蜘蛛に当たったら爆発を起こすためもあって却下されたものの、子蜘蛛捜索に専念して戦果を挙げていく。【心宿星】も同様だ。 その後を補っていくのが、【【Sirius】】や【White-Angel】、【テニサー☆LEGEND】の行動だった。 「俺だって、やるときはやるからなー!」 例えば、【テニサー☆LEGEND】の源川 政斗(la1588)は、無音 凛(la1598)とツーマンセルで行動する。 二人ともペンキをたんと背負って移動して、子蜘蛛が掃討された地区を見て回り、弱っている仲間がいたらヒール。 そして子蜘蛛がいないと確認した後は、路面など確実に通過せねばならない場所にペンキを撒く。入れ違いで子蜘蛛がやってきたとしても足跡は残さざるを得ないので、追跡は容易になるのだ。 「平和を取り戻したら、復興のお手伝いをしたいですね」 理想のイケメン顔をしたヴァルキュリアの凛は、放浪者の少年に微笑んだ。 * 「これだけ広いと一小隊の動きだけだとな。計画は練った、囲んでいこうか」 この包囲戦術を立案・周知させたのは【遠距離攻撃特化部隊「LRA」】の赤羽 恭弥(la0774)だ。 今は射撃によって自身の小隊での戦闘を進めながら、各小隊との連絡も怠らず、区域の掃討が完了したらすぐに全体へ報告して調整し、手のすいている小隊や個人に確認と封鎖のための手を打ってもらう。 「……皆を守るために、僕ができることをする。ただ、それだけだ……!」 内心に生じる抵抗に心を少しずつすり減らしながらも、シグニット・ミッドフォード(la2773)は気丈に言って、銃撃に隼の幻をまとわせる。 「さァて、居着いた野良どものメシ代くれェはぶんどらねえとなァ」 顔は怖いが気は優しいパティシエの藤丘 雅(la3211)が、ドスの利いた声で言う。「野良ども」が捨てられた動物などではなくあたかも舎弟のチンピラのごとく聞こえてくるのが不思議だ。 「背中はお守りいたします。皆様はただ、古今無双の進撃を」 戦闘用自動人形 参式(la2357)が言って、現れた子蜘蛛にカラーボールを投擲しようとする。 「それはやめて!」 * その一方で、独自に動いて大きな作戦の隙間を埋めようとする動きも多々見られた。 【小隊・天満月】はアグリスフィアと子蜘蛛を主な相手としながら、ボマーによる爆心地の周囲へ急ぐ。確実を期すローラー作戦では、中心地付近の無事なエリアに達するまでに時間がかかると判断しての行動だ。 「そんじゃ、おじさんも頑張るんでしっかり殴ってちょーだいな!」 【プラネタリウム】の小隊長、ジョナサン・M・エインズワース(la0419)は小隊員にそう言い残し、戦闘区域を駆け回る。 マンティスやアーマーバードに遭遇してもその場では本格的には戦わず、一発移動攻撃を叩き込んだ後は付かず離れずの距離を保ちながら敵を引き連れて更に移動を開始。 そうしてある程度の数を引きつけて走っていった先には、小隊員が待っていた。 「入れ食い……とも言い難いですね」 夕凪 沙良(la0116)は路地にやってきたナイトメアに向け銃口を向けながら、そう呟いた。 【苺谷古書店】の苺谷 荘汰(la0833)と苺谷 雨(la0834)の夫妻は、二人だけという身軽さを活かし、病院・変電所・通信関係等ライフラインを見回っていった。 「倒すのが俺たちの任務だが、ここを守るのはその後を守ることになる」 「うん」 特に気にかかっていたのはガソリンスタンドだが、そこで子蜘蛛を見つけ出す。しかもやや離れたところからアグリスフィアが向かってくる。すでにだいぶ傷を負っているのはラッキーだが…… 「させない!」 雨が盾で壮汰ごと子蜘蛛を庇う。壮汰はまず周囲へ協力を要請。 アグリスフィアは、一瞬体を膨張させたように見えた。 「う……」 戦闘中に普通あり得ない猛烈な眠気。しかしどうにか耐える。 「そこだ!」 壮汰のフォースアローが球体塊を破壊する。当面の安全を確保したところで子蜘蛛の処理をした。 「早く安心して住めるように、しっかりお掃除しないと。荘汰さん、行こう!」 「ああ、行こう」 アグリスフィアの催眠能力などについて報告し、夫婦は街を守るべく次の場所を目指す。 ●アグリスフィアの猛威 ただし、戦線を狭めていけば倒しきれぬ敵の密度が上がるのは必然。 アグリスフィアによる広範囲の催眠物質散布が、威力を発揮し始めていた。 「滅死のディエスフィデス(la2755)、叩くのですよ、ひたすらに」 「むしろ瀕死のディエスフィデスになっとるで?!」 かつて不死者の王女、今は一介のライセンサーとしてよれよれになっている仲間を、ンダルカ=ノクトゥナ(la2750)は制止せずにいられない。 「我が神よ、生きる世は変われども信仰は変わらず――勝利を齎し給え」 そんなディエスフィデスをヒールで癒すのはフレア・M・ドリアーデ(la2763)。異世界で神官だった者が、異世界で魔王軍だった者を回復させる。そんな小隊――騎士団が【VOLKNIGHTS】だ。 そして今回は魔界出身のゲルセミナ=エレガンティーア(la2437)も参加。 「悪魔と騎士の、悪夢に供するアンサンブル、ですわね」 ライトバッシュで目の前のマンティスを屠っていたゲルセミナ。だがその身ががくんと倒れ込む。 「一撃でくたばった? あ、違う」 回復すべきか邪魔な死骸と蹴飛ばすべきか確認に近寄ったモナ美(la0646)は、彼女が眠りこけていることに気づく。 二十メートルほど先を見れば、球体塊がどこか不穏な動きを見せていた。 「寝たら死んでまうやん、起きぃやー」 「クゥもがんばりますよ、えいやーとー」 てくたん(la1065)とてくたんを抱えるクゥ(la0875)のコンビである【てくたん】は、アグリスフィアに眠らされた仲間をこつこつと起こし続ける。【AXTE】も同様の方針だし、小隊内でも起こし合っている。もちろんアリーのようにホーリーライトを用いたりも。 しかしそれらの分、人手は確実に割かれてしまう。 「みんながみんな万全の態勢で来られるわけでもないしねー」 「ここは無敵お姉さんたちの踏ん張りどころ!」 【戦闘支援機関「オーケアノス」】は小隊全員の抵抗力が高く、アグリスフィアの催眠効果を物ともしない。 「それでも、多勢に無勢というところですな」 幻想之刃で近寄る敵だけを斬っていく刀夜だが、ライセンサー優勢で進んできた戦局はじわじわバランスを崩していると見て取れた。 「数は力たぁよく言ったもんだ。ま、雑魚どもにあたしらが止められるわけもねえけどよ!」 戦闘時に性格の変わるブロッサムは、尊大に言い放つ。 「おっと逃げたか……子蜘蛛の爆破はさせねえぞ!」 【一番槍】の九十九里浜 宴(la0024)のマンティスへの攻撃は外れてしまった。不意に訪れた眠気は、あのアグリスフィアによるものか。 横をすり抜け子蜘蛛と接触しようとする敵の前へ、アリーガードで移動! 「ナイトメアをかばい立てする日が来るたあ思わなかったぜ」 「うふふ、油断は禁物よ」 野津 雪信(la0182)がヒールを使うが、その口からも可愛いあくびが漏れそうになる。 散華はSALFピンバッジを手に持ち、握り締めることで手に針が刺さるようにしておく。催眠物質の散布に無理やり耐えて、アグリスフィアに攻撃を加えていった。 「でも、これもたべられなさそう……」 動きの止まったアグリスフィアは残骸と呼ぶにふさわしい有り様。噛み砕けそうにないほど硬くなったかけらを試しに口に含んでも、石に似た味しかしなかった。 「前回の借りは返させてもらうぜ! まとめて灰にしてやる!!」 「すまないが病み上がりにつき手加減ができぬでな。灰になることを覚悟したまえ」 【戦闘組織【ティアマト】】が、ヴォルフガング・ブレイズ(la2784)とダスク・L・オーゼン(la2698)の火力を中心に敵を蹂躙する。 さりながら催眠という搦め手は侮れないもので、戦場に安定して立ち続けていられる者はわずか。 そんな中、白龍(la2691)はじっと戦場を観察していた。元の世界での力を失い充分に取り戻せていない、そして狙撃という新たな戦い方を身に着けつつある彼にとっては、情報こそが生命線。 「スフィアの催眠は、自身を中心に広範囲に放出されているな。範囲はおよそ……半径三十メートル」 見極めた情報を周囲に伝える。知ると知らぬで各人の立ち回りはまったく違う。 「態勢を立て直す! ここから反転攻勢だ!!」 ダスクの大喝一声、戦に長けた者たちは気持ちを切り替えていった。 【Ericales】の三人も苦労していた。 「ヒール頼む……って寝るなよー!」 戦いに慣れたエージが前衛、莉杏とスフレはどちらもヒールとフォースアロー持ち。初戦闘のパーティとしてはバランスが悪くない。最初のうちは快調に進んだ。 しかし催眠が入るとたちまちバランス崩壊、起きてる人間が四苦八苦しながらどうにかこうにか切り抜けていく。 「えっと、手伝おうか?」 そこへ声をかけたのはリメリア(la3212)。 「わりー、よろしく!」 襲ってきたマンティスをどうにか倒し、寝ていた二人も目を覚ます。 「どうもありがとうございます……」 「こっちこそ、この世界に来たばかりで不安だし、共闘させてもらえるのはありがたいよ」 恐縮し内心ちょっと落ち込む莉杏にリメリアは手を軽く振る。 「次の相手が来たですよ!」 スフレが指さす上空から、アーマーバードが降下してくる。 「空からの敵はきついなー。何でだか数が減ってるのがありがてーけど」 エージはぼやきながらも銃で応戦するが、剣しかないリメリアにはなお分が悪い。それでも彼女は降りてきたところを狙ったり、莉杏たちを身を挺してかばったり、奮闘し続ける。 「私、元の世界じゃただの町娘だったんだよ。まあ家業の酒場の看板娘でもあったんだけど」 問わず語りにリメリアは語る。 「でもこっちへ来て、何か力があるってわかって……騎士になるって決めたんだ。最後まで諦めずに、行きますよ!」 「リメリアさん……」 莉杏は自分を落ち着かせるように大きく息を吸った。 力にみんなを守りたいという思いを込めて、リメリアにヒール! 「もう少し! がんばるです!」 「この!」 スフレがフォースアローで援護し、エージがとどめを刺す。 「ありがとう!」 リメリアに礼を言われ、莉杏は微笑んだ。 【ESPOIR騎士団】の近くで、アグリスフィアのレーザーが子蜘蛛を爆発させた。全員がイマジナリーシールドにかなりの傷を負い、気絶した者もいる。 そこへアグリスフィアの催眠物質も加わった。仲間を手刀で起こし続けていた森之松もついに自身が眠ってしまう。 ごく小規模ながら、その光景は紛れもない崩壊。コレットは前の世界での経験を思い出してしまう。 ――また自分は間違ったのだろうか? 「コレットさん……」 コレットの手を、上体を起こしたノラ・フリスト(la2037)が取った。 「大丈夫だよ。まだ終わってない。行こう」 ――この子はいつも、私の欲しい言葉をくれる。 「は、はいっ!」 【ESPOIR騎士団】の代わりに周囲の面々が前線を再構築してくれる。その間にコレットらは寝てしまったメンバーを起こし、気絶した者らをヒールなどで回復した。 「もっと大崩れしてもおかしくなさそうだったけど……アーマーバードの圧が、やや弱まっている?」 情勢を分析しつつ、なぜだろうと空は首を傾げた。 ●鳥葬 【ぐろりあすしXXX支店】の加倉 一臣(la2985)はアーマーバードの群れに集られて、ついばまれつつあった。 アーマーバードは動く相手に襲い掛かってくる。だから誰かが囮になっておびきよせよう。ここまではわかる。何かノリで自分から手を挙げてしまった。そこも、まあわかる。 胸を抑えて苦しみ悶えて芸術点を狙う。倒れて静かなのはダメみたいなので、もがいてアピールしたところ、昔の映画みたいな勢いでやってきた。来なかったら寂しすぎたので、そこもよかった。 だが、別に自分は不死身でも無敵でもないわけで。 「待って待って、え、みんな、ちょ……バードちゃん撃破しよ???」 時折ヒールはもらえるが、一向に敵が減る気配がないのはどういうことか。 一応、仲間も彼を完全に見殺しにしたかったわけではない。 「アーマーバードを(囮役の所を後回しにして)撃ち落とすのです!」 フィノシュトラ(la0927)は攻撃しつつも、一臣が気絶しないレベルを見計らって適度にヒールをかけていた。 「なんでフォースアローは焼けないんです。焼き鳥にならないじゃないですか!」 吉野 煌奏(la3037)はナイトメアで焼き鳥を作るのに夢中。 「生焼けは腹を壊しますから、しっかりと火を通して下さいね」 夜来野 遥久(la2984)も回復担当だが、アグリスフィアや子蜘蛛の動向も気にかけているせいか、やや手が回らないところがあった。 「食中毒が怖いので、じっくり念入りに強火の遠火で焼かなければな……」 88(la0088)は、一臣が誰にも助けてもらえず悶える様をしばし眺めた後、彼には直撃せず炙る程度の位置で、アーマーバードに咲き乱れる赤を使用していた。 しかし群がられた状態でそれらがわかるわけもなく。 孤立無援気分でポイントショットを使い切り、旋空連牙を振るうも命中率が悪すぎて、おもちゃ屋の床に転がった駄々っ子のようなもの。その愉快な動きがさらに敵を呼ぶ。 「……ちょっと鳥が集まりすぎてますね」 フィノシュトラと遥久が少し慌て出した時には、一臣は気絶に突入してさらに悪い段階に達していたのである。 ただ、これによって、アーマーバードをかなりの数惹きつけることができたとは言えるだろう。 なお、彼らの別メンバーが考えていたもう一つの案、何体もの子蜘蛛を宙に浮くアグリスフィアに投げつけていく遊びは、爆発直径が七十五メートルにおよぶ威力なために、周囲の者に止められて実現しなかった。 ●勝利 「鳥は宵空に消えるべきだ。マジュカルパワー、フルオープン」 密度の薄い鳥の群れへと、渡月海 真珠(la0140)はフォースアローを撃ち放った。 「目障りです、頭が高いです、跪くといいのです」 地上の敵には薙刀をぶんぶん振り回すFlucticulus(la0602)も、空の相手へフォースアローを叩き込む。 「私に、できることを精一杯……そして、皆を守り、ます!」 【【Gullinkambi】】の紫雲 桜紅(la3132)もフォースアロー。さらに小隊やその他周囲の仲間をヒールで回復させていった。 アーマーバードは彼らが、マンティスは【マンティスの館【MvsK】】と【悪夢粉砕機構『蜜月猟』】が落としていく。 催眠物質でライセンサーを眠らせても、子蜘蛛に体当たりする肝心のナイトメアが減らされていけば効果は出にくくなる。 一方、アグリスフィアに的を絞って入念に観察していた【サンクチュアリ】は、催眠物質放出前の予備動作を確信した。 わかってみれば単純なことで、球体の一つ一つが瞬間的一時的に大きくなるのだ。タイミングとしてはややシビアなのだが、それに対応できれば息を止めるなり風を起こして散らすなり、個々人レベルである程度の対策は可能となる。 「後はこれさえ伝えればあ、って、これ殺される前振りみたいですねえ」 ブランの言葉に応じたわけもあるまいが、アグリスフィアがこぞってレーザーを撃ってきた。さらにマンティスやアーマーバードも加わり、アキレイアの勇猛なる行軍しか回復手段を持ち合わせず、ブランらが元より傷を負っていたことも重なって、【サンクチュアリ】は壊滅しそうになる。 「死んだら負けよ! 無理をしないでね」 そこへソロで戦っていたアルフィンレーヌ(la2183)が加勢した。ヒールによって小隊各員のイマジナリーシールドを回復し、余裕が出てきたらランスを棒高跳びの要領で大地に突き立て頭上を取り、勢いに乗って引き抜いたそれで上から潰す。 彼女を盾にするように、ブランは情報を周辺に伝達した。 【A・M探偵事務所】のケイン・マクレガー(la0698)は、ブランからの情報を即座に拡散しようと決めた。アグリスフィアの位置情報を主に収集していたが、これを広めないなどありえない。 「情報の価値がわからない探偵など探偵失格だからな」 しかし重大な情報を握る探偵が襲われるというのもよくあるな、と思った矢先に襲われる。敵味方を把握しやすい見晴らしの良い場所に陣取っていたから無理もないのだが。 だがそこを、葛城 武蔵介(la0849)の盾が守る。 「作戦が片づいたら奢ってくれよ」 「片づくまで無事だったらな」 笑顔で飯をねだるお調子者に、銃で敵と応戦しつつケインはそっけなく答えた。 ケインから、ケイン以外にもブランから聞いた者から、情報は伝わりゆく。【観測所『W.Raven』】は築いたネットワークによって、得た情報をさらに素早く広げていく。 それが天秤を再び、そして決定的に傾ける要素となった。 「大きな怪我はないようで何よりだ、赤羽さん」 「お互いにな、京四郎」 中心地で【遠距離攻撃特化部隊「LRA」】らと合流した【小隊・天満月】も、【龍爪火】や【呵撃団】も、アグリスフィアとの戦闘に力を注ぐ。 「寄せ集めだからって甘くみるなよ!! アグリスフィアをきっちり始末するぞ!」 「怯んでいるわけにも参りません!」 【寄せ集め仮小隊『medley』】もアグリスフィア優先で挑んでいた。ネムリアス=レスティングス(la1966)や越月 なごみ(la0204)らが立ち向かうが、メンバーにセイントを欠き、戦いが長引いてきた現在はきつい。 しかしもう一息と思えば、耐えられる。 「そこっ!!」 戦いつつ敵の動きを注視していたネムリアスとなごみの声がきれいに重なる。 放たれた催眠物質を息を止めるなどしてかわし、踏み込んで。 すでにスキルも使い果たした二人の通常攻撃が、アグリスフィアを粉々にした。 ●成功、そして…… 【ルサールカ】が包囲の外周に設けた救護所には、セレナや若葉が運んできた爆発の巻き込まれなどを中心に、かなりの負傷者が詰め込まれた。そんな中で重体となる者がほとんど出なかったのは幸いと言えるだろう。 【PLAN FACTORY】の行動は、いささか当ての外れることとなった。レヴェル関与の証拠は特に見つからず、爆破効果を持つボマーの糸は残らず爆発してしまい回収不能だったのだ。 すべてのエリアに掃討済みのペンキが付き、子蜘蛛の姿も見かけなくなったところで作戦は終了となった。 ライセンサーの活躍により、名古屋のさらなる破壊はほぼ防がれたと言える。 * 「ありゃ軍じゃなかったな。秘めた策もなければ、そもそも指揮や用兵と言えるほどの何もなかった」 千利は苦々しげに言う。 「単純に、力押しで充分と舐められてるだけだった」 アークレディアが吐き捨て、来栖・望(la0468)は眉根を寄せる。 「我々は、為すべきことを、為せたでしょうか」 「……いや。現状でこちらがやれることはやった。大成功と言ったって罰は当たらないとおじさんは思うぞ」 おどけた口調に変わって、千利は笑みを浮かべた。 「こっちは大勝利。後は、大物狙いの強者さんたちの勝利を祈りつつ、っすねー」 三角契(la0606)は、伊勢湾の方へ南無南無と手を合わせた。