オープニング詳細|WTRPG11 グロリアスドライヴ
  1. グロリアスドライヴ

  2. SALF本部

  3. ゆめなきけだもの

ゆめなきけだもの ことね桃

形態
ショート
難易度
普通
価格
1500(EX)
ジャンル
冒険 バトル 続編予定 
参加人数
83~8人
予約人数
10010100
基本報酬
200000G
200SP
2000EXP
おまけ報酬
20000G
相談期間
5
締切
2020/01/19 20:00
完成予定
2020/02/03 20:00
機体使用
-
関連シナリオ
-

●A blue frost

 その女は生きながらにして死の匂いを纏っていた。
「ねえ、新しい情報は入ったのかしら」
 戦場から帰ってくる彼女は常に消失寸前のイマジナリーシールドを纏っていて。
「私、彼に早く会いたいの。彼に会うためだったら何でもするわ。たとえどれだけこの身体が傷ついたって構わない」
 全身が血と砂にまみれて息があがっていてもまるで平気そうなツラでいて。
「だからお願い。早く見つけて。彼が日本にいると聞いてからもう2年経つのよ。ずっと待ち続けてるの」
 そして透き通った藍の瞳を三日月の形に細める。
 だけどそれは何も見てはいない。そもそも何も見えてなどいない。
「彼を殺した彼を殺さなきゃ……私の命はそのためにあるのよ」
 女はまるで真冬の結氷のように。
 怨敵を求めて殺意を広げていく。
 藍色の中に広がる射干玉の闇。
 この女は端から未来など望んでいない。
 死を越えた先にあるものはいつだって虚無。
 破滅を望むだけの心はナイトメアと何が違うものか。
「……今日はもう何もない。早く帰って寝ろ、どうせ明日も戦うんだろう」
 俺こと平凡なるSALF職員は苦い顔で別れの挨拶を告げ、女の背を押す。そんな無作法な俺を彼女は軽く睨んだ。微かに台湾訛りのある声で「また来るわ」と告げて、硬い足音を響かせて――。


●Hopeful monster

 夜のS市駅前では人々が白い息を吐きながら帰途を急いでいた。
 今日は空気がからからに乾いていて寒い。誰もが一刻も早く家で暖をとりたいと思っていたその時――奇妙な光景が彼らの目に留まった。
 地上6mのデッキの向こう側から若い女が手すりにぶら下がっていたのである。
「何だ、あれ。あんなとこに人が」
「もしかしてデッキから落ちようとしてんのか!? やべえって。すぐに止めねーと!」
 危機的状況を感じ取った若いサラリーマン達は慌てて女に手を差し出した。
 だが彼らはすぐに顔を引きつらせ、悲鳴をあげる。
 なぜなら女の下半身には――ぐねぐねと動く太い節足がついていたからだ。
「な、ナイトメアだ! 皆、逃げろおおッ!!」
 彼らの叫びを耳にした人々が一斉に駅ビルや後方に広がる繁華街に向かって駆けていく。
 その中で彼らと同じく帰途についていたライセンサーの一団は小さく舌打ちするとEXISを起動させた。
「本部に至急連絡。これからナイトメア討伐に入るってな。報酬ははずむように伝えといてくれ」
「は、はいっ」
 新人ライセンサーが先輩の指示に従い通信機にメッセージを吹き込む。
 だがほんの数秒後、その内容が変更されることになった。
「悪い、方針転換だ。ナイトメアの数は合計5体……俺達がナイトメアを足止めする間に討伐隊を送るよう伝えといてくれ」
 ――暗闇に浮かぶ顔は5つ。
 蜘蛛の足がアスファルトを、デッキにあつらえられたタイルの上をがさがさと音を立てて徘徊する。
 新人は震える手で通信機を腰につけると最近使い始めたばかりのハンドガンを握った。

「……こんな場所でもライセンサーに出くわすとは、どうも俺は運が悪いらしい」
 ここは駅前のロータリーを一望できるホテルの屋上。軍人然としたいでたちの男は眉を顰めながら顎髭を撫でた。
「『新兵』どもを次のステージに導くには丁度いい場所だと思ったんだがな。奴らにほんの少しの慎ましさとほんの少しの時間があれば先に行けたはずだ」
 男は「全く、勿体ないことをした。大損害だ」と無念そうに息を吐くと、足元から響く銃声に背を向ける。
「次の『指導』では第一に新兵に辛抱強さと慎重さを教えないといかんな。目の前の餌につられてそれまでの教育を無にされるなんざ、たまったもんじゃない」
 ――彼は綺麗に撫でつけていた前髪を不機嫌そうにぐしゃぐしゃと手で崩し、歩き出した。優れた兵を育てるにはまずは個々を知ること、同時に自分自身も良き教官として成長せねば……そう自戒しながら。


●Cruel power

「S駅前ロータリー区画にナイトメアが5体出現! 現地に居合わせたライセンサーが対応していますが、持ち合わせの装備では足止めが精一杯とのこと。討伐作戦に参加してくださる方はいませんか!」
 SALF宮城県支部の職員は通信を確認するとロビーに向けて声高に叫んだ。
 足止めには経験の浅いライセンサーもいるという。時間を経るほど彼らの身が危険に晒されるのは明白だ。
 そこに菫青(lz0106)と呼ばれる女は表情ひとつ変えずにカウンターに向かうと書類にサインをさらりと入れた。
 続けて発された彼女の声は台湾訛りの影響でイントネーションこそ軽やかなのに、どこか陰鬱な彩を宿している。
「逃げ遅れた民間人や人質はいないのね?」
「はい。足止めをしているライセンサーが現地の無人状態を確認しています」
「そう。ならば後は全部殺すのみね。シンプルな仕事だわ」
 剣呑な言葉を躊躇なく吐くと菫青はコートを羽織り、戦場に向かう。
 続いて腕利きのライセンサー達も書類にサインし、出立の準備を整えた。
 現地のライセンサーが限界を迎える前に倒さねばと。

 銃声と共に高鳴る虫の鼓動――ここに新しい戦いが始まろうとしていた。

目的:ナイトメアの殲滅

戦場:
宮城県にあるS市駅前のロータリー区画。広さは20スクエア×37スクエアほど。
ライセンサー到着時には現地在住のSALF職員の指示のもと中堅ライセンサー数名が区画を封鎖している。
彼らはナイトメアを威嚇することで逃走経路を封じているため戦闘には参加できず、
もしナイトメアが本気で逃走を図った場合は突破される可能性が高いので注意すること。
なおロータリー上部には柱に支えられたデッキが存在している。
デッキの高さは6mほど。15mごとに階段が設置されているので移動に困ることはない。
各所に照明がついており視界は悪くない。

敵情報:
●アラクネ型ナイトメア5体。
 一般的な成人女性ほどのサイズのナイトメア。上半身は妖艶な女、下半身に蜘蛛の肢体がついている。
 知恵があるため高所や外に向かって逃げる、敵の動きを封じる、連携攻撃などの手段をとる可能性あり。
 主な行動は
 高速移動(通常の5割増しの速度で移動。ただし直後の行動の成功率は落ちる)
 アクロバティックアクト
 (柱にのぼったりデッキにさかさまになって張りつくなど奇妙な動きをみせる。移動速度は3割減)
 糸(手から粘着力のある糸を吹きだす。命中すると移動妨害が付与される+小ダメージ。射程は4スクエア)
 薙ぎ払い(前脚を目一杯伸ばし、前方横3スクエアを薙ぐ。中ダメージ)
●???
 軍人風の精悍な中年男。今回はある場所から皆さんの戦いを見ているだけで、戦闘には直接関わりません。

同行NPC
菫青
過去に国連軍で軍医を務めていたライセンサー。
武器はナイフをメインに、サブで射程5のライフルも所持。装備スキルは威圧、無命殺、ソウルインパクト。
やってほしいことがあればプレイングで指示してください。

大変お世話になっております、ことね桃です。

今回はNPC菫青の初登場シナリオとなります!
倒れる時は前のめり、何があろうとナイトメアだけはブチ倒すという
あらゆる意味で危ないキャラクターですがよろしくお願いします……。
それと怪しげなキャラクターもおりますが、今回直の接触はできませんのでご了承くださいませ。
また、色々な思惑が交錯するシナリオですのでEXにしております。

それではなにとぞよろしくお願いします!

  • 雛鳥の紅緒
    ツギハギla0529
    ヴァルキュリア18才|セイント×ゼルクナイト

「待たせたわね、戦友!助けに来たわよ!

菫青に
「私達が敵を惹き付けるからデッキの上から狙撃して

注視がかかってない敵に誘敵灯
逃げようとする敵やデッキの上に行こうとする敵を優先する
「私から壊しなさい、化物!
全敵にかかったらデッキから狙いやすい位置に誘導
「こっちにきなさい、化物

生命力半分以下の味方にヒール
「死なせないわよ、戦友!
複数いるなら福音の雨雫
「纏めて癒すわ、近寄って!

菫青が接近戦をしだしたら
「ああもう!嫌な目をしてたからもしかしてと思ったけど。悪いけど私の前では死なせないわよ。皆、彼女のフォローをお願い!

手番時誘敵灯や誘導や回復の必要がないなら遅らせる
最後まで遅らせたら攻撃
敵の足を狙い逃亡防止

〇戦闘終了後
スキルと救急治療セットで皆の回復
「皆、お疲れ様。治療するわよ

菫青に
「こんな戦い方を続けたら今に死ぬわよ?特定の仇がいるのか化物全てが標的なのかは知らないけど、死んだら仇は取れないし化物を殺せなくなるわよ?それが嫌ならもう少し自分を大事にしなさい
「それはそれとして治療の仕方が手馴れてるわね。医療の資格を持ってるのかしら?よかったら他の人の治療も任せていい?

出撃前に済ませた装備チェック、再び手早く済ませては戦闘開始
機械的に、冷静に、偏執的に、苛烈に、過剰な位に敵に銃弾を当てていく

高所に陣取る見方から敵の動きの動きの情報を貰いつつ、遊撃
正面ではなく敵の側面、後方に回りつつノンストップで“狩りに”いく

戦闘中も、一応は菫青とか言う職員に注意
別の味方が支援を頼んだそうだが、実力は未知数。最悪敵に突っ込んでいきかねない
そうなった場合はフォロー、からの連れ戻し。ついでに一発殴る……一応元軍人らしいので、さすがにそれはないと思うが
仮に冷静に支援を行い始めたら、遊撃をいったん中止し遠巻きに護衛。接近してきたアラクネがいたら集中的に嬲る(こんな風に思考するあたり、冷静ながらもどれだけナイトメアをルチアが嫌っているやら……)

目につけば即銃撃、高速移動、もしくはテラス裏に等に張り付き視界から消えれば即周囲の味方に連絡
おおよその方位と位置を伝え味方に警戒を促しつつ、発見したら教えてもらうようにする

  • 我が脚は昏き氷を砕く光刃
    柳生 響la0630
    人間16才|グラップラー×セイント

※アドリブ大歓迎!

【目的】
ナイトメアの殲滅

【行動】
攻撃時はデザイアアックス、回復時はミニスター

全力移動でロータリーに上がり、戦場を俯瞰できる位置を取る
高所から敵の位置取りを把握したら、ロータリーから飛び降りアラクネに攻撃
その際、アラクネの背後から飛び掛かり、不意打ちを狙う
可能ならスキル「正中線三連撃」でダメージの蓄積を狙う
飛び降りで落下ダメージが入ったとしても20ダメージなら、きっと大丈夫!

飛び降りた後は、普通に白兵戦を行う
「正中線三連撃」は惜しまずにガンガン使う

「三撃必殺で速攻だぁ♪」

味方の生命が減ってきたら武器をミニスターに持ち替え「審判の雨雫」を使用

アラクネが高所に逃げた場合は、武器をワイヤーウィップ「アクタガワ」に持ち替え攻撃

戦闘終了後は菫青ちゃんに話しかけてみる
「ちゃんと夜は眠れてるかい?」

「彼女…菫青だったかしら…のあの瞳。何故か気になるわ

事前
人数分のインカム貸与願

行動
ロータリー上部デッキからの攻撃
高さを活かし、敵位置/行動などのナビを兼ねる(インカム使用
尚、菫青には同じくデッキからの遠距離攻撃担当を提案
→あくまで菫青が近接に拘る際は菫青のフォローも視野に入れる
位置取りとして可能であれば、レイヴと対角線上のデッキに配置
→死角を可能な限り潰す
→レイヴが移動すれば自身も移動

戦闘
広い視野を持ち、敵を確実に討って行く
→仲間との交戦中の敵や手負い、逃走態勢の敵を優先
→確実に仕留められるならワンポイント使用
また、仲間(特に近接攻撃中ならば菫青)のフォローを考える
→仲間の死角や攻撃モーション中の隙、危険時など
→距離によってはロングレンジスナイプ使用
見える範囲でデッキ真下に居る敵に対しては落下させることを考慮
→自身の攻撃範囲内の敵に関しては攻撃し対処
→攻撃時は一番、重心が掛かっていそうな箇所を狙う
→自身が居るデッキ下に手を掛けた際はXR7使用で取回し良くする
逃走しそうな敵に対し心射撃使用
敵攻撃は敵の一挙手一投足を良く観察することで対応
→何等かの挙動の予兆があり次第、潰すように攻撃し封殺

「蜘蛛に良いようにされる程、馬鹿な蝶じゃないの(微笑

【心情】
シンプルな殲滅戦です。Show No Mercy.
【目的】
敵の迅速な殲滅
【行動】
デッキに陣取り射撃支援を行う
菫青さんにもデッキからの射撃支援に加わって欲しいと伝える

友軍と常に通信を行い、敵の位置等伝達
デッキに登る友軍と対角線上となる位置取りし、なるべく死角を無くすようにする
デッキから落下攻撃をする際、そちらの援護を行う

ライフルで射撃する際はデッキの手すり等を使って依託射撃を行い、なるべく精度を高める
移動力を削ぐ為に敵の脚部を狙う
敵が逃走しようとする場合や友軍に対して連携攻撃を行おうとする場合は心射撃や足止めを使用、友軍にも警告する

敵の射程内に入らないように注意しつつ、接近されたりデッキに浸入された場合はSMGに持ちかえ射撃してデッキから追いやる

自身を含めて友軍ライセンサーにシールド値50%以下になった人がいる場合、そちらに近づいてヒールを行う

目的:
ロータリーに出て来たナイトメアを撃破。
繁華街のど真ん中にやってくるとは良い度胸だ!許せん!

準備:
・作戦
前衛・後衛・遊撃に別れて行動。
前衛が抑えている間に後衛が集中攻撃で各個撃破を行う。
後衛の立ち位置はロータリー上から狙撃等を行って支援攻撃。
遊撃は状況に応じて死角や前衛をすり抜けてくる敵の迎撃や、
逃走する敵を先んじて狙う事で一人も逃さず撃破を目指す。
NPCについては基本後衛で支援射撃してもらいつつ、
後衛に流れた敵の迎撃をお願いする。

・準備
戦闘終了後に備えて救急キットを用意。

行動:
前衛として行動。
ロードリーオーラを使用して敵の注意を引きつつ戦闘を行う。
敵の数が多いようであれば範囲攻撃を使用して一気にダメージを稼いでいくが、
集中攻撃を受けるようであれば盾に切り替えて防戦を優先。
敵が近づいてこないか壁や天井に張り付く等で攻撃が届かない場合は遠隔スキルで攻撃。
攻撃時はなるべく脚を優先的に狙う事で、脚を使った攻撃や逃走の阻止を狙う。
他のロードリーオーラ要員がピンチだったり後衛が狙われそうなら、アリーガードでブロック。

  • 比翼となりし黒鴉
    アクイレギアla3245
    放浪者17才|ゼルクナイト×スピリットウォーリア

「にひっ。単純な依頼、イイねイイね!俺バカだけどこれならわかるぞ!」
基本前衛、菫青が前に出すぎるならアリーガードで防御役
アリーガードは菫青用、可能な限り盾に持ち変えて行う
「ッぶねぇなァ!シールド使うならちったぁ考えやがれ!」
自分が単体で狙われるならウォールスキン、生命減れば勇猛なる行軍
「だっっっしゃオラァ死ねェ!!」攻撃手段は斧で素殴る(
壁に張り付くなどでどうしても届かない場合射撃武器に持ち変え
「俺こっちはニガテなんだよなぁ!?」
敵の逃亡防止に、逃げそうな敵から撃破
退路を塞ぐ位置取りなど心がける

「なー菫青のねーちゃん。俺気になったんだけどー」
「アンタどんだけ傷ついてもって言うけどさ。無茶しすぎてケガしまくって、会う前にシんじまったり再起不能になっちまったらそっからもーどうやったって会えなくなるんじゃね?心中がオノゾミなら納得だけども」純粋に疑問。
納得されるなら「だろ!?」と喜ぶ。そうでなくとも「ふーん?そーいうモンか」くらい

  • 竜殺し
    杉 小虎la3711
    人間18才|グラップラー×ゼルクナイト

「ラッキーですわ、あの大きさだと敵はまだまだ幼生体。今のうちに駆除できれば今後の・・・」
などと新人ライセンサーの小虎は早計にもそう判断した。
しかし、杉家の乙女に油断の二文字はない。幼体なら幼体で全力で叩き潰すだけである。手加減などは知らない。常に全力全開が小虎の本懐である。

遊撃担当。それにあわせてスキルセッティングは高速機動戦を意識したものに換装している。
つまり、全力移動、武芸百般走術、ライトバッシュだ。

デッキから飛び降りつつ、他の遊撃担当、ルチア様、柳生様と協調。

主攻担当の前衛、後衛とやりあっている蜘蛛女の後背を襲って奴らの連携を寸断する。
目的は仲間同士の速度を変えてしまえば連携を取るのが難しかろうというもの。
走術に乗った勢いで、ハンマーを一閃。腹部に叩き込んで体をくの字に折らせた後で、ついで脚部を破壊していく。先に足からやると1本や2本破壊したくらいでは速度を落とすことは難しいと判断。そこでまずは立て直しに時間のかかる腹バット(その用語はなんか違う)をぶち込んでから速度殺しに挑戦することにした。

一たび連携を崩せば後は各個撃破あるのみ。

全力移動で逃走に移った蜘蛛女に先回りしつつ、その行く手をはばむ。

デッキ上に逃れるようなら、即座にハンマーから弓矢に持ち替えての射撃で、射落とす。

「わたくしたちに会ったのが運の尽きとお思いになってよくて」


●疾走する夜に

 S駅前に向かう車中でケイ・リヒャルト(la0743)は同行者達にインカムを配った。
「こちら、支部から借り受けた通信機一式よ。念のため周波数を確認してくれるかしら」
「わわっ、助かるよー。一応スマホは持ってきてたけど、戦闘中の通信は難しいからね。ありがと、ケイ!」
「どういたしまして」
 早速喜んで装着する雪室 チルル(la2769)に会釈した後、ケイは奥に座す同行者へ最後のインカムを渡す。
「今日はよろしくお願いするわ」
「ありがとう。こちらこそよろしく」
 言葉に反して同行者の態度は極めて無愛想だ。しかしそれ以上に異質に感じるものが存在した。
(彼女……菫青だったかしら……のあの瞳。何故か気になるわ)
 諦観で曇った青――だが奥に埋火のように燻る何かがある。ケイの翠の瞳はその危うさを確かに見通していた。

(銃のメンテは支部への帰還中に行ったばかり。銃弾の数も十分……これでノンストップで戦えるはずよ)
 ルチア・ミラーリア(la0624)は所有する銃を一通り確認し、ホルスターへ戻した。
 彼女は先の任務から間を空けずに今回の任務に参加したものの、疲れを顔に出すことはない。
 だが戦支度を終えた直後。ルチアは窓の隅に昏い貌の女が映っていることに気づき、片眉を吊り上げた。
(菫青、だったかしら。ナイフを得物にしているあたり接近戦を好むようだけど実力は未知数なのよね)
 菫青はスピリットウォーリアとして戦っていると支部で耳にした。彼らは多勢を巻き込む業に長けていると聞くが。
(ナイフでは多くの敵を一挙に攻撃なんてできるはずがない。そうなると……)
 スピリットウォーリアのもうひとつの特性がルチアの脳裏に浮かびあがる。
 自身のイマジナリーシールドや守りを代償に強大な破壊力を引き出す業、まさかそれの使い手だとでもいうのか。
(もしそれで暴走でもするのなら引っ叩いてでも止めなければ。現場にいるライセンサーの救援もあるし……シンプルな任務と思ったのだけれどね)
 不安要素を数えるとルチアはため息を吐き、秀でた眉に手を当てた。
 
 柳生 響(la0630)は車内の端末を操作し、今回の任務関係者の情報を確認するや大きな瞳を瞬かせる。
(へぇ、これはまた軍属経験者が多いねえ。ま、ボクもそうなんだけどさ)
 米軍の士官だったルチア、軍の実験部隊に参加していた響、米国情報軍特殊部隊出身の青年、そして国連軍の元軍医。
 物々しい経歴は社会生活で警戒の理由とされることがあるが、戦場においては些かばかりの心強さになる。響は仲間の顔を見渡すとにっこり笑った。
 その視線の先、米国情報軍出身のレイヴ リンクス(la2313)は元軍人と思えないほど人好きのする笑みを隣人に向ける。
「あの、菫青さん。少しいいですか」
「何か」
「今回の戦場は高低差のある区域ですから敵はそれを利用し、立体的に動くと思うんです。戦うにしても、逃げるにしても」
「蜘蛛を模した身体ならば可能性は高いでしょうね」
「はい。ですから僕は菫青さんに狙撃を担当してほしいと思っています。もし敵が上層と下層を自由に行き来できるなら我々は移動に手間取り、逃亡成功のリスクが高まってしまう。それを防ぐためにはデッキ上で広範囲をカバーし、敵を撃ち落とす銃器使いの数が必要になるんですよ」
 彼の提案に菫青は顎に手をかけ、ほんの少し逡巡した。その表情に拒絶の色はなく、数秒の間を置いて口を開く。
「わかったわ。任務の成功に必要なら」
 だが菫青と向き合うアクイレギア(la3245)は小さく鼻を鳴らし、シートに背を預けた。鴉のマスクで覆われた瞳には胡乱気な色が宿っている。
(アイマイな顔にアイマイな返事……大丈夫なのかね。俺、前に出るつもりだったけど……このねーちゃんをほっといたらロクでもないことになりそーな気がすんぜ)
 不穏な空気を肌で感じる。
 目の前の人間は虚ろで、憎しみや義憤のような強い感情が見えない。それが逆に不気味なのだと彼は思う。
(どういう理由があっても後味の悪い展開は御免だぜ。俺、頭は良くねーけど。それでも心ってモンがあるからさ)
 溜息をつきながら無意識に己の胸元のタトゥーに触れるアクイレギア。その意匠は白のオダマキ――「あの方が気がかり」という憂いを帯びた花言葉を持つ花だった。


●夜蜘蛛回廊

 S駅西口、ロータリーエリア南側。
 新人ライセンサーは大通りに向けて直進するアラクネに銃口を向けた。
 血気に逸る新人にベテランライセンサーが叫ぶ。
「無理に当てようとするな! 威嚇で十分だ。応援が来るまで奴らの侵攻を封じればいい!」
「わかってます! でもこいつらは僕が半人前だと勘付いています。馬鹿にしてっ!」
 銃声が響き渡る。新人の放った銃弾はアラクネの右腕の表皮を浅く抉ったが、彼女達の勢いを殺すには至らない。そして。
 ――シャアアアアッ!!
 絹を引き裂くような鮮烈な音。アラクネが無防備になった新人へ接近し、巨大な脚を真横へ薙いだ。
「ぐっ!」
 腕で胴を庇おうとするも、強烈な振り抜きに全身が宙へ放り出される。すぐさまもう1体のアラクネが彼に迫った。
 だがそこに。
 ――グバアッ!
 デッキ上から小さな影が落下すると同時に、何とも言い難い重い破砕音が響き渡る。
「グガアァアッ!!?」
 新人に手を掛けようとしたアラクネが悲鳴を上げ、頭を抱えた。指の間から赤黒い液体がぼたぼたと零れ落ちていく。
「危ないところだったね。大丈夫かい?」
「あ、ありがとうございます。あなたは?」
「SALF支部から派遣された討伐隊の一員さ。こちらは総勢9名、よろしく頼むよ」
 優しい声は悶絶するアラクネの向こうから。華奢な少女、いや、熟達した戦士である響が新人を見下ろしている。
 アラクネ達は一斉に獣じみた険しい唸り声をあげた。
しかし響に臆する様子はない。敵に「ばぁ♪」と笑顔を向け、大振りな所作で斧を構えた。
「……ねえ。キミ、動けるかな?」
「はい、残弾数が心許ないので威嚇ぐらいしかできませんが」
「オッケー、それなら前線はボクらに任せて。キミはここの守りをお願いね!」
 新人の返事に頼もしく応じる響。己にどれほどの悪意が募ろうとも構うことなく、彼女は敵に刃を向けた。
 そんな響に真っ先に襲い掛かろうとした1体――の下腹部を数発の銃弾が貫く。
「グァッ!?」
「お前達を一体たりとも生かして帰すわけにはいかないの」
 マシンガンを構えたルチアが柱の陰から姿を見せ、硝煙漂う銃口をアラクネに向ける。
 かつてナイトメアを信奉する集団により愛する人々を奪われたルチアにとって奴らは不俱戴天の仇にほかならない。
 氷のような美貌は揺るがず、発される声も揺るがずとも、その胸中は激烈な熱を帯びていた。
(銃なら奴らをどの角度からも狙える。私はこの銃で奴らの守りを貫き、破壊し、葬るだけ。どれほど不利な状況だろうと、やり抜く)
 ――不利な状況。そう、実はルチアのイマジナリーシールドは先の戦で今にも破れそうなほど傷ついている。
 それでも彼女は民間人が集う都市中心部への襲撃という事態に足を止めることができなかったのだ。
(……常に一定の距離をキープし、奴らの側面か背後を狙えばシールドが心許なくとも十分に戦えるはず。ヒットアンドアウェイ……スナイパーの基本戦術。今はそれに賭ける)
 ルチアは柱や植え込み、それら盾代わりになるものの位置を頭に叩き込むとアラクネの背後に回るべくステップを踏んだ。今は遊撃手として全力を尽くすしかないと。
 その頃、デッキに上った杉 小虎(la3711)は響やルチアのいる南側から西に向かって全力で回り込んだ。
「ラッキーですわ、あの大きさだと敵はまだまだ幼生体。今のうちに駆除できれば今後の……」
 小虎はライセンサーとなってからの日が浅く、全体から判断すれば「新人」の括りに入る。
 しかし武の名門たる杉家の子として小虎に油断の文字はない。ナイトメアを一体たりと逃さず全力で叩き潰す所存だ。
(今、蜘蛛女は柳生様とルチア様に意識を傾けている……本格的な連携を組まれる前にその意思ごと崩してみせますわ!)
 小虎は重厚なハンマーを握るも、全く重みを感じさせない軽やかさで壁面を蹴った。地上でアラクネの背が無防備に晒されているのだ。柔らかな頬を乾いた風が弄るも、小虎は力いっぱいハンマーを振り下ろした!
「はぁッ!!」
 たちまち耳を震わせんばかりの凄まじい破砕音と同時に重い水音が響く。
(……手応えはありましたけれど)
 小虎がきっと前を向くと巨大な臀部が削がれたアラクネがびくびくと痙攣していた。それでも。
 ――ギャアアアアア、グアアアッ!!
 奴は猛烈な痛みに喘ぎながらも大きく旋回し、小虎へ前脚を振り下ろす。
「っ、これぐらいの攻撃は承知のうえ……っ!」
 小虎はハンマーを構え、アラクネの脚を弾いた。
 しかし腕を守るシールドが衝撃に耐えかね、儚く輝いては消えていく。
(数枚、持っていかれましたわね……やはり幼体であろうとも全力で叩き潰さねば!)
 戦では感情の揺らぎを敵に読まれてはならない――小虎は息を鋭く吐き、不敵に笑うとアラクネへハンマーの先を突きつけた。
「わたくしたちに会ったのが運の尽きとお思いになってよくて!」
 小虎の容姿は可憐な少女だが、その本質は気高き虎であり、無垢の刃でもある。
 有象無象の区別なく全力を尽くして戦う小虎の実直さをアラクネは睨みつけ、下段の構えをとった。

 こうして遊撃班が戦いを展開するさなか、ツギハギ(la0529)は足止め役のライセンサーに「待たせたわね、戦友! 助けに来たわよ!」と溌溂と声をかけた。
 幸いなことに新人を含めた5人とも目立つ外傷はない。シールドの損傷も修復を急ぐほどではなく、彼らが粘り強く慎重に戦い続けていたことが見て取れた。
 となれば、やるべきことはひとつだけ。
 文字通り命を懸けた攻防を繰り広げるルチアにツギハギが純白の大剣をかざす。
「死なせないわよ、戦友! 癒しの力よ、今一度戦友を守る盾に!」
 剣から放たれる温かな癒しの祈り――ルチアはそれを鈍い光を宿す鋼の意思の壁に変えた。
「感謝するわ。これで存分に戦える」
「敵はこれから私が引きつける。攻撃は任せたわよ、戦友!」
 言われずとも、と僅かに口角を吊り上げるルチア。これで本来の力を発揮できようというものだ。
 ツギハギも淡く微笑む。
(深く傷ついている戦友はもういない。後は私がナイトメアを目一杯引きつけて奴らに隙をつくるだけでいい……そうすれば誰も傷つかずに済むのだから)
 次の手を打つべく、ツギハギは己の体にイマジナリードライブを集束させ始める。
 長い闘いの日々で傷つき続けた彼女は自分以外の誰かが傷つかぬよう、己を誰かの盾とする道を選択したのだから。

 遊撃手の活躍で連携が乱れたアラクネ達。そこに西から猛然と突入したチルルはスノウグレアを発動させた。
「繁華街のど真ん中にやってくるとは良い度胸だ! 許せん!」
「……ッ!?」
 夜闇の中に煌めく細雪が降り注ぐ。
 雪明りに照らし出されたチルルの姿は可憐なれど勇ましい。
 敵の視線が自身に集まっているのを感じるや、余裕たっぷりに笑って大剣を正眼に構えた。
「突っ込めば突っ込むだけ敵をやっつけるのが突撃よ! さいきょーのあたいが突撃の何たるかを見せてあげるわ!」
 狙いは敵の狙いを一身に集めてからの乾坤一擲の斬り返し。
 ここからどこまで貫けるか――チルルは上唇をちろりと舐めた。

「レイヴ、菫青、私達はデッキから死角をできるだけ潰しましょう。広い視野で確実に」
「了解です。シンプルな殲滅戦です、通信を密に取り合い確実に仕留めていきましょう。Show No Mercy」
「了解。優先順位は?」
 銃器を主として扱うケイは南、レイヴは西、そしてライフルを装備した菫青は北へ陣取りインカムで連絡を取り合った。
 東には封鎖済みの駅舎が聳え立っている。
 この状況ならばアラクネ達が東以外の方角に活路を見出すのは明白、3人は分かれて銃撃を行うことにしたのだ。
(迂闊ね……無防備だわ。痛みで我を忘れたのかしら)
 ケイは響を追うアラクネに狙いを定め、血塗れの脚に銃弾を撃ち込んだ。
 びくりと後脚が跳ね上がり動きを止める。銃弾に込めた思念が猛毒に変じた証だ。
 しかし彼女は安堵することなく畳み込むために次の銃へと手を掛ける。
「私達が優先する敵は交戦中の者、手負いの者、そして逃走体勢に入った者」
「敵の減退を最優先、逃亡時は緊急対応……肯定します、負傷者を出さないためにもね」
 ケイの通信に応答しながらレイヴは器用に手摺へライフルをセットし、トリガーを引く。
 彼の銃弾は小虎と交戦中のアラクネの前脚を貫き、奔る痛みが全ての脚を地に縫い留めた。
「グガアアアッ!!」
 身動きをとれなくなったことへの怒りかアラクネが凄まじい咆哮をあげる。
 小虎が相手の急所を狙い大きく踏み込む姿を見たレイヴは空の銃を下げた。
(僕らの銃撃はただの支援ではありません。銃弾は体に風穴を空けるだけでなく、意思の力で敵を無力化することだってできる。かつての名狙撃手が存在を示すだけで敵軍を畏怖させたようにね。……さぁ、僕もスナイパーらしく狩るとしますか)

 ケイとレイヴが立ち位置を変えつつ支援射撃を行う中、菫青はノーマークのアラクネが自分の傍の柱に手を掛けるのを目撃した。
(狙撃手を仕留めるつもり?)
 教本通りにライフルを構え、トリガーを引く。
 だが菫青の射撃の腕は未熟だ。弾はアラクネの肩を軽く掠め、アスファルトを削った。
「アァアアアアッ!」
「こいつ……っ!」
 撃たれたことで感情が昂ったのかアラクネは柱を蹴り、一気にデッキに上り詰める。
 菫青がナイフに手を掛けた、次の瞬間。
「ッぶねぇなァ!」
 アクイレギアが盾を構え、アラクネの前に滑り込む。
 彼はアラクネの前脚を盾でいなすと、そのまま力いっぱい相手を宙に押し込んだ。
「だっっっしゃオラァ死ねェ!!」
 元々手摺という不安定な足場に足を突き立てていたアラクネである。
 重心のある後方、足元に何もない空間に重圧が向けば。
「ギャアアアァッ!?」
 大きく目を見開いて地に堕ちていく。
 すぐさま追撃しようとアクイレギアは階段に足をかけたが、ふいに思い直して立ち止まった。
「菫青、あんたさっき何をしようとした? そのナイフで」
「攻撃を受け止め、敵が怯んだらその勢いで斬り伏せる。近距離戦での応酬ではありふれた反応だと思うけれど」
「……そうか」
 アクイレギアは菫青のナイフに彼女の身を守るイマジナリーシールドが集束し始めていたことに気づいていたが、未遂に終わった以上は言葉を呑むことにした。
(ショージキ、このねーちゃんはどうかしてるとしか思えねえ。近距離戦が得意っつっても自爆上等の業を真っ先に使うなんてありえねーだろ。ま、そこら辺の話は後回しだ。今回はナイトメアをブチ倒すだけの単純な任務なんだからな)
 全く、同行者達が菫青を狙撃手として扱わなければどうなっていたことか。
 アクイレギアは階下のアラクネを早急に倒すため、階段を駆け下りることにした。目の前の女が無謀な行動に出る前に。


●連撃

「速攻速攻っ、三撃必殺で速攻だぁ♪」
 響はケイの心射撃で体を強張らせたアラクネに斧を振りあげると瞬く間に三度の打撃を加えた。
 胴への打ち下ろし、薙ぎ払い、かち上げ――速度を上げるため打撃のひとつひとつは軽いものとなっているが、身を守ることすらできぬ状況での連撃は体のみならず心にも深いダメージを刻み込む。
「グヒッ、グア……」
 アラクネは抵抗しようと脚を振るも体に毒が巡り続け、攻守の体を為すこともままならない。
 ケイの通信を受けたルチアはすぐさま無防備なアラクネの側面にマシンガンを向け、唇を横一文字に結んだ。
(随分と弱ってるじゃない。最後の慰めに銃弾の雨を降らせてあげるわ)
 それは機械的に、冷静に、偏執的に、苛烈に、過剰に――銃身が熱くなるほどの連射がアラクネの胸を貫いていく。
「ギャアアアアアアアアァッ!!?」
 断末魔と同時にアラクネの胸がぶつりと音を立てて折れ曲がり、アラクネの頭が地に落ちた。
 だがルチアは一向に気を緩めることなく次の獲物を睨みつける。ここで全てを終わらせなければならないのだから。
(消えろ、消えろ、消えろ……幸せに生きるはずだったあの子達が死んだのはお前達がこの世界に現れたから……!)

 小虎はレイヴの狙撃を受けて足の自由が利かなくなったアラクネと対峙していたが、1体のアラクネがロータリー外周に向けて動き始めたのを見とめるや猛然と駆けた。
「南東の蜘蛛女が逃走開始、追撃します。レイヴ様、ケイ様、こちらのアラクネをお任せしても?」
「了解しました、狙撃班で対応します。小虎さんも御武運を!」
 通信を終了すると同時にデッキ上からけたたましい銃声が響き渡る。
 小虎は彼らの支援を心強く思いながら一心に走った。
 地を蹴るごとにアラクネの背が徐々に大きくなっていく。
(逃がすわけには参りませんの! たとえこの足が届かずとも、この手が、槌が届くまで!)
 小虎がハンマーを強く握りしめる。そこでアラクネが迫る足音に気づいたのか、振り向きざまに足を薙いだ。
「一度受けた業を二度も受けてあげるほど、わたくしはお人好しではありませんのよ!」
 小虎は絶妙のタイミングで体を反らし、回避。再びアスファルトを力強く蹴った。
 これは杉家が修めてきた武技のひとつ――走術「猛虎八極導」の一手。
 瞬発的に敵の至近距離に入り込み、その勢いのまま敵を打ち砕く猛々しい技だ。
(たとえ前脚を潰しても身体機能が健全なら残り6本の脚が機能する。ならば立て直しする隙も与えないように……!)
 ハンマーは打ち落としではなく水平の軌道をとった。
 柔らかな女の腹と硬い体毛がびっしり生える蜘蛛の半身の間に三角形のヘッドが食い込み、細腰をめきりと圧し折る。
「……ッ!!?」
 声をあげることもかなわず悶絶するアラクネ。これで自在に動くことはかなうまい。
 巨大なハンマーを軽々と担いだ小虎は「次は脚ですわ」と漏らすように呟いた。

 一方、チルルは小虎達のいる区域に向けてステップを踏みながらアラクネを引きつけた。
「ほらほら、こっちよ! あたいは強いんだから本気で戦わないと倒せないよー!」
 大剣に氷のイメージを宿し、氷柱に酷似したエネルギーの矢をいくつも宙に形成する。
 剣を鋭く振ると氷の矢が複雑な軌道を描き、次々とアラクネに突き刺さった。
「……! ガアアアッ!!!」
 鋭い痛みにいきり立ったアラクネが飛び掛かる。チルルは大剣で狂暴な前脚をいなし、軽やかに後方へ跳んだ。
「もっとだよ、もっと! 頑張らなくちゃあたい達をやっつけるのは無理なんだから!」
 愛らしい顔に元気いっぱいの笑みを浮かべてチルルはアラクネを挑発する。
 しかしその裏では小さな焦りが芽生えていた。
(小虎が相手をしてくれているアラクネ、逃げようとしてた……。こいつらには知性があるのかもしれない。早めに全部仕留めないといけないわね)
 少なくとも目の前の1体は次で決めなければ。チルルは大剣にイマジナリードライブを集束させた。

 ツギハギはアクイレギアのもとにいるアラクネが正気のまま戦っているのを察するや、敵誘灯を発動させた。
「私から壊しなさい、化物!」
 彼女から放たれる光はナイトメアの意識に介入し、自身に強い敵意を抱かせるもの。
 このアラクネも例に漏れずツギハギに牙を剥いた。
 早速アラクネとの距離を保ちながらロータリーの中央部へ誘導する。
「さぁ、こっちに来なさい。化物」
 ロータリー中心部では小虎とチルルが激しい戦闘を繰り広げている。
 ツギハギは敵を中央に集めることで戦場を集束させ、狙撃手も集めた上で一気に殲滅させようと考えているのだ。
 しかしナイトメアは彼女の想定以上に獰猛だった。
 ――シャアアアアァッ!
 飛散する液が細い糸となりツギハギの脚を襲う。粘着力のある糸がぎちぎちと両脚を締め付け、自由を奪った。
「っ、化物め……!」
 イマジナリーシールドに僅かに傷が入る。敵誘灯を解除するつもりは毛頭ないが、このままでは危険だ。
 そこに菫青がデッキから飛び降り、拳ごとナイフをアラクネの胸に打ち込む。
(ソウルインパクト!?)
 イマジナリードライブの強烈な奔流がこの一打を並の攻撃ではないとツギハギに実感させた。
 アクイレギアもすぐさま顔を顰める。
「まったく……俺ってばこういうのほっておけねーんだよなッ!! さっさと消えろよ、ゲテモノっ!」
 真っ向からの全力の殴打。
 額が砕けたアラクネがもんどり打って倒れ込む。そして喉から吐息らしきものが漏れ、動きが止まった。
 しかしツギハギの顔は決して晴れ晴れしいものではない。
 アクイレギアの手を借りて立ち上がると菫青の瞳を鋭く見据えた。
「嫌な目をしてたからもしかしてと思ったけど」
「……?」
「シールドを攻撃に転化するなんて事後の対処をなくせばただの自殺行為よ。私はそんなの許さない。支援には感謝するけれど……悪いけど、私の前では死なせないわよ」
 長年にわたり戦場を駆け、無数の死を見届けたツギハギにとって命を蔑ろにする行為は到底許せるものではなかった。
 それに対し菫青は僅かに目を伏せた。
「状況を判断してそれが最善だと思ったのだけれど。どれだけ傷ついても守るものは守るし……殺すべきものは殺すしかないから」
「菫青ねーちゃんっ!」
 アクイレギアがアラクネに向かっていく菫青を追い、声を荒げる。
 だがその時――菫青がナイフを鞘に収め、ライフルに手を掛けるのがツギハギの目にたしかに映った。
(わかってくれたのかしら)
 ツギハギは一瞬だけ案じるような視線を送ったものの、小さく首を振ると再び走り出した。


●潰える

「グギャアアアアッ!」
 南西部のアラクネはレイヴとケイの銃弾を受けながらもデッキに上り詰め、猛々しく吠えた。
「レイヴさん、ケイさん! ボクらは今からルチアさんと一緒にそちらに向かう。どうか無理はしないでっ」
 響からの通信に「ありがとう」と応えるケイ。しかし彼女の顔は僅かに強張っていた。
 複数の銃創から体液を流しているにも関わらず敵意を剥き出しにしたアラクネが眼前にいるのだから。
(……この動き、糸を吐くつもりね)
 顎が外れんばかりに開いた口――拳銃を構えたケイはツギハギを襲った粘着糸を思い返す。
「ケイさん、奴の糸は中距離が限界と判断します。ですから……!」
 レイヴの声がインカムから響いた。ケイは後退しながらいくつかの言葉を交わす。
 そしてあるポイントで足を止めた瞬間、彼女は艶やかに微笑んで――敵を挑発した。
「蜘蛛に良いようにされる程、馬鹿な蝶じゃないの」
 さぁ、どこからでも……そんなまなざしに興奮したようにアラクネが駆けた。そこに。
 ――タァ……ンッ!
 迂闊な蜘蛛に2つの銃声が見事に重なる。
 ケイのロングレンジスナイプとレイヴの心射撃がアラクネの頭をクロススナイプで粉砕したのだ。
 その時、アラクネは剥き出しになった喉から喘ぐような音を漏らして天に向かって手を伸ばした。
 もちろんそれは何も掴むことはできず、宙を数秒彷徨ったのちにアスファルトへ落下し、粉々になったのだが。
(蜘蛛が最後に天へ手を伸ばした……味方も敵もいない、虚空に向かって。どうして……)
 不穏な空気を感じたケイがまっすぐに宙を睨む。
 しかし彼女の瞳に映ったものは夜闇とそれを囲むように並ぶビルばかり。
 アラクネの最期に見た光景の答えはそこにはなかった。

「化物、私はこっちよ!」
 ツギハギはチルルと小虎に合流すると、敵誘灯のもとで大剣を振り回した。
 これは我武者羅な攻撃などではなく、敵を引きつけるための所作である。
 しかしツギハギに敵意を抱くアラクネらには十分な効果があったようだ。
 2体のアラクネが奇声をあげて8本脚で跳躍する。
「チルル、小虎っ、今よ!」
 空中を舞う無防備なカラダ。小虎は不敵に笑うとハンマーをゴルフクラブをフルスイングする要領で振り上げた。
「蜘蛛の身、崩させていただきますっ!!」
 ゴボォッ!!
 ハンマーがアラクネの脚を折り、腹にめり込む。
 鋭角なヘッドが殻を切り裂くとアラクネは意識を失ったのか、地面にぐしゃりと崩れ落ちた。
「やるね、小虎! あたいもカッコイイとこ見せちゃうよ!」
 チルルの周囲に無数の雪と風が現れ、2体のアラクネを轟と巻き込んだ。
「あたいの猛吹雪でどこまでも吹っ飛んじゃってー! パスチャライゼーションっ!!」
 宣言と同時に大剣を縦横無尽に振り抜くチルル。暴走とも捉えられかねない強大なエネルギーが凄まじい音をたてた。
 ――ドォンッ!!!
 鼓膜を揺らす苛烈すぎる音。 
 仲間達が耳鳴りに顔を歪める中でチルルは満足そうに目を細め、大剣を鞘に納めた。
 凍結と爆発という極端なエネルギーの奔流の中でアラクネはとうに千々の塵と化し、消えていくのを目にしたからだ。
「やっぱりあたいはさいきょーねっ」
 元気いっぱいに宣言するチルル。足止め班の無事を確認するべく、彼女は休みを挟まずロータリーを巡った。


●硝煙と紫煙

「……よっと」
 レイヴはデッキを巡りナイトメアの生き残りがいないことを確認すると、軽やかに手摺を跳び越えた。
 軍隊で仕込まれた五点着地、それにヒロイックなポージングを加えた派手な動作での着地。
(スーパーヒーロー着地、なーんて)
 指先をぴんと立てて背筋を伸ばせば何とも爽快な気持ちになる。
 しかし彼はすぐさま「格好つけすぎたかな」と頬を染めた。
「……やっぱり実戦向きじゃないですね、これ。着地直後の隙が大きすぎる。さて、僕も足止め班の手当てをしないと……」
 どうやらスーパーヒーロー着地は従軍経験者のおめがねに適わなかったらしい。
 レイヴは皆の待つ駅舎に向けて駆けだした。

「皆、お疲れ様。治療するわよ」
 駅舎に移ったツギハギはライセンサーを自分の周囲に集めると福音の雨雫を発動させた。温かな雫がシールドを修復していく。
 チルルは救急治療セットを広げ、新人の手首に触れた。
「これは捻挫ね。本当は氷水が一番なんだけど、今は湿布で。帰ったらきちんと冷やして明日は休むこと。痛みが続くなら病院行きね」
「ありがとうございます、チルルさん」
「んーん、きみ達が頑張ってくれたから蜘蛛女軍団を逃がさずに済んだの。こっちこそありがと、だよ!」
 にこ、と明るく微笑むチルル。その愛らしさに新人ライセンサーの胸が高鳴った。

 一方、アクイレギアは黙々と足止め班の傷に応急処置を施す菫青の手伝いをした後、おもむろに口を開いた。
「なー、菫青のねーちゃん。俺気になったんだけどー」
「なに」
 空っぽの視線だけがアクイレギアに向けられる。しかし彼はそれを気に留めることなく、屈託のない口ぶりで問うた。
「アンタどんだけ傷ついてもって言ってたけどさ。それってどーいうリクツ?」
「ナイトメアは人類の敵。戦う力を持つ者ならば戦う力のない人達のために戦うのは義務だと思うけど」
 当然のこととばかりに答える菫青。
 しかしアクイレギアは回答に満足がいかなかったようだ。
「……それにしちゃ随分と……まぁ、いいや。俺が言いたいのはさ、あのクラスのナイトメアに無茶するのはどーなのってこと。人類を守るってご立派な大義名分があるにしても、つまんねー雑魚に無茶しすぎてケガしまくって、本来ブッ殺さないとならねー連中とやりあう前にシんじまったり再起不能になっちまったら意味ねーじゃんって」
 彼の純粋な疑問に菫青は吐息を漏らした。今まで考えたこともなかった、とでも言いたげに。
「……それもそうね。望む未来に手が届かないのなら死ぬ時と場所ぐらいは自分で決めないと不愉快だわ」
 返されたものは何とも不穏な言葉。それでもアクイレギアは「だろ?」と嬉しそうに片眉を吊り上げた。

 ――と、その時。かつんと上層階から硬質な音が響いた。

 駅舎内は今なお封鎖されており、ライセンサー以外の人間は存在しないはず。
 一行が顔を見合わせると響が怪訝そうに立ち上がった。
「今、EXISが反応したよね?」
 彼女は斧を手に急いで階段を駆け上る。菫青もその後に続いた。
 上層階は土産物店と飲食スペースが立ち並ぶショッピングエリアだ。
 灯りが煌々とついた静寂な空間には何の気配もなかった。
「気のせい……だったのかな。でもたしかにこの斧が震えたんだ。ほんの一瞬だけど、本当に……あれ?」
「どうしたの」
 ふいに響が通路の隅にしゃがみ込み、煙草の吸殻を拾う。
「これ、火が残ってる。ここにはボクらしかいないはずなのに。避難し遅れた人がいたのかなぁ。……それにしたってこんなとこに捨てていくのはひどいよね、火事になったら大変だよ」
 吸殻は灰皿に捨てないと……喫煙所に向かおうとする響。その手を菫青がにわかに掴んだ。
「菫青ちゃん?」
「……ここにいたのね」
 吸殻を見つめる菫青の青い目が生気を取り戻したように輝いた。
 煙草の銘柄は日本の市販品ではない。国連軍の中だけで2年前まで流通していた古いものだ。
 何かあったの、と瞳を揺らす響に菫青が答える。
「これはあの人が好きだった銘柄……やはり私が日本に来たことは間違いじゃなかった。ありがとう、響。私にもやっと生きる理由ができたみたい」
 菫青が初めて浮かべた笑みは穏やかな温かみにあふれていた。
 しかし響は素直に笑みを返すことができなかった。
 菫青の瞳に希望はなく、獲物を前にした獣の獰猛さのみを宿していたのだから。

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