オープニング詳細|WTRPG11 グロリアスドライヴ
  1. グロリアスドライヴ

  2. SALF本部

  3. 【堕天】私はソラリス

連動 【堕天】私はソラリス ガンマ

形態
ショート
難易度
普通
価格
1500(EX)
ジャンル
堕天 バトル  
参加人数
83~8人
予約人数
10010100
基本報酬
200000G
200SP
2000EXP
おまけ報酬
20000G
相談期間
4
締切
2019/07/29 20:00
完成予定
2019/08/11 20:00
機体使用
関連シナリオ
-

●Werewolf 01

 ――裏切り者、と言われた。

 この事態は、お前が裏でエヌイーと繋がっていたんだろう、と。
 違う、と答えた。
 体内に盗聴器などの妙な機械を仕組まれてもいない、その調査記録は既に公表されていた。だからこそ私は任務に出たり、他のライセンサーと共に時間を過ごすことを許されたのだから。
 けれど、そんな筈はない、と言われた。
 生死が隣り合わせの状況。人々の焦りが手に取るようにわかる。
 その焦りは疑念を加速させる。

 死ぬかもしれない。
 誰の所為だ?
 怪しい奴がいる。
 そいつの所為ではないのか?

 電子の脳は、それは人間として自然な反応であると考えた。
 自分だって、もしも明らかに怪しい者が傍に居れば、警戒するだろうから。
 だけど心が、苦しかった。

 違う。
 信じて。
 私を信じて。

 もう一度叫んだ私に、向けられたのは銃口だった。


●Werewolf 02
 大破炎上した機体から、なんとか這って脱出する。
 人間のような姿を与えてくれたカバーは溶けて落ちて、人工の髪も燃えて消えて、私の姿は鉄くずのオバケのようだった。
 剥き出しの眼球で周囲を見る。どうにか無事だったEXISを掴む。

(まだ、動ける……)

 空を見た。夜が近い。仄暗い黄昏時だった。
 ライセンサーとナイトメアの戦いはまだあちこちで続いている。ここはインソムニア『ネザー』周辺の、フロントライン。

(助けを……)

 戦闘はままならない。だからそう判断して、立ち上がって、そのまま……立ち尽くした。
 ネザーから生きて戻って来た。それは人間にとって、悪いこと、だった?
 剥き出しのフレームの掌を見る。武骨な金属。服も燃えてしまって、本当に、こうして立ち尽くしていると鉄色のカカシのようである。人間らしさなど、手が二つ・足が二つ程度しか当てはまらない。きっと今、人間の前に現れても、気持ちの悪いバケモノかナイトメアと勘違いされてしまいそうだった。
 そもそも。
 自分の生還を、SALFは……人間は望んでいるのだろうか?

(分からない……)

 なのに、心が苦しい。
 楽しかった思い出がある。向けられた笑顔が。たくさんのライセンサー達の優しさが。
 キラキラしている思い出達。それが、ロボットの中のないはずの心をぎゅっと締め付ける。
 それは、「死にたくない」「消えたくない」「まだ生きたい」という感情だった。

 ――空の上を、グラートが音を立てて飛んで行く。
 遠くの方で、爆発音が聞こえた。


●汝は……
 君達はライセンサーだ。
 今はインソムニア『ネザー』周辺のナイトメアと交戦している。
 任務はある程度のナイトメアの撃破。
 黄昏れていく空の下、掃討戦は、未だ続いていた。

このシナリオでは限定的に「生身での参加」を許可。
ACに乗らない場合、プレに【非搭乗】と明記すること。
【非搭乗】者はACに乗らず終始生身で任務に参加しているとして扱う。
宣言のない者はAC搭乗者として扱う。

●目標
ナイトメア10体以上の撃破

●登場
いずれのナイトメアは不特定に戦場に出現する。
数比率的にはテンペスト<使徒

ナイトメア『テンペスト』
 戦闘機のような外見。
 機動力に非常に優れる。地上から4~6スクエア上空を飛行。
 白兵戦闘手段は持たない。物理・知覚射撃攻撃を行う。使い分けはまちまちだが、相手の防御の弱い方を学習し て行使する傾向にある。
・ドッグファイト(アクティブ)
 命中判定の際、対象の回避を大きくマイナスした状態で対決を行う。
・フルファイア(アクティブ)
 対象の防御値を大きくカットした状態でダメージを算出する。
 このスキルを使用したナイトメアは、次のターン通常攻撃とスキル攻撃を行えない。
・リフレッシュ(パッシブ)
 不利な状態異常やバッドステータスが付与された際、生命力を1D6点消費することで、
 直ちにそれを解除する。

ナイトメア『使徒』
・攻撃型
 白兵攻撃型と知覚攻撃型に分かれる。近~中距離アタッカー。
・防御型
 自身を中心に半径5スクエアに障壁を展開し、内部にいるナイトメアの防御性能を向上。
 さらに毎ターンその生命を回復させる。

ソラリス
 存在はPL情報。ただし「堕天】辺獄のフロントライン」の結果から、作戦領域周辺にいるのではないかと予測してOK。
 PCから何かアクションがない限りは立ち尽くしている。戦場から少しだけ離れた場所にいる。

アサルトコア『ダンテ』
 AC搭乗者はプレに【ダンテ】と記載することで、ダンテに搭乗しているとして扱う。
 装備は搭乗者のAC装備を装備しているとして扱う。
 パラメータやスキルは特設ページ参照。

●状況
 ロシア、ネザー周辺。ナイトメアの残骸が散らばる荒野。
 時間帯は黄昏時。戦闘中に時間経過で夜にならないが、やや薄暗いので遠くの方の見通しは悪い。

●MSより
 こんにちはガンマです。
 ソラリスの救助は成功条件に一切関係しません。
 よろしくお願い申し上げます。

  • 人魚の揺り籠
    そよぎla0080
    人間15才|ネメシスフォース×セイント

「ソラリスちゃん、大丈夫かしら?
ねー、ひーちゃん?」


機体:ひーちゃん(飛燕)

(全体)テンペスト優先掃討の為、
周辺使徒の抑え&撃破を優先する(個人)

対処
テンペスト:
フルファイア時アクセルモード
他通常回避


戦闘
ランスで接近戦がメイン
飛行状態でない、テンペスト優先の味方の周囲に位置取り
優先順は防御型>味方狙い>他
その為、周囲に防御型がいなければアサルトライフルへ切替
使徒狙いの仲間と対象揃えて早めに撃破心掛ける

デッドペネトレーション:
味方の周辺に使徒が複数いる際に


ソラリス
終了後接触
大変なお怪我ないか確認したいの

エヌイーと繋がっていたか?ナイトメアの側なのか?
そんなことは、「どっちだっていいの」

  • スターゲイザー
    エドウィナla0837
    放浪者12才|ネメシスフォース×セイント

「確かに戦域的にはこの辺りだが……探す気か?」
この大規模な戦場の中で、たった一人はぐれた者を?
「そうか。……なら、その分までこちらが暴れなくてはな」

テンペスト対応を最優先
テンペストにはプレーンブースターによる飛行で対応
「懐かしいなぁ、お前の相手も!」
敵の出鼻を挫いたり味方の隙をカバーしたりと、周囲に合わせながら妨害をメインに動く
あの時と同じ敵と、あの時と同じように。ただし
「……今回は、殲滅だがな!」
次点で攻撃型の妨害
敵から敵へと飛び回り撹乱を狙う
「おっと、お前に真面目に取り合う気は無いんでな。」
ダイブモードは致命的な攻撃への回避・妨害や、手負いの敵へのトドメに使用
但し緊急離脱時用に1回は残す

ソラリス発見・回収後も行動は変えず、むしろより暴れて気を引く
「……まさか本当に見付けるとはな。誰のかは知らんが、随分運がいいらしい」
「しかしまぁ、だったら尚更まだ退けんなぁ!」
回収班撤退後も前線を維持できる範囲で戦闘続行、無理が出る前にタイミングを合わせて一気に引く
「よーしそろそろいいか、色んな意味で」

  • 静寂を生み出す弾き手
    九重 陸la1069
    ヴァルキュリア18才|ネメシスフォース×スピリットウォーリア

アドリブ絡み歓迎

『ヴァルキュリアだから』『機械だから』…そう思ってなけりゃ、幾ら何でもここまで惨い事出来ないはずだ
くそッ、一時的にでも自分の身体を失うことがどれだけキツイか知りもしないくせに!

【非搭乗】
AC班と通信を行い、テンペストが攻撃態勢に入ったら注意喚起するよう頼む
踏まれたり、逆に邪魔になったりしないよう立ち回る

ソラリスや味方が側にいない事を確認し
範囲攻撃で速やかに使徒を殲滅しソラリスを救助
「音楽を愛する心も無い奴が俺の邪魔をするな!
「そんなに俺を怒らせたいか、ならイヤでも聴いてもらうぜ…俺の音楽をくらえ!
敵が離れてる際は本で咲き乱れる赤
接近したら斧を持ちバーストクラッシュ
生命半減で勇猛なる行軍使用
テンペストが攻撃の姿勢に入ったら盾で防御

「ソラリスーっ、無事かー!?聞こえたら何か音を出してくれ!
地上が粗方静かになったら聴覚駆使し捜索開始
「…そこにいるんだな!?
発見したら自分のマントをかけてやり
「さ、帰ろうぜ。綺麗さっぱり修理して、文句の1つでもつけに行こう
「…どうしたんだ?帰りたく…ないのか?そりゃ不安かもしれないけど、SALFにはソラリスの味方だっていっぱい…
冒頭の心情を聞き
「何で…何で人間に遠慮する必要があるんだ?誰かの所有物じゃなく、お前はお前のものだろ!
「ソラリスはどうしたい?自分で決めろ。俺はそうしてきたぜ


  • VMP∴Sla2374
    ヴァルキュリア62才|スナイパー×グラップラー

任務 敵対勢力の撃破
主行動 前衛
敵攻撃に対し自機を遮蔽物として使用。射撃、近接戦闘を行う
前回の戦闘で帰還者が不足していたる事態を把握し その回収も念頭に

攻撃対象優先度
テンペスト(甲)<使徒(乙)
基本的に主兵装で射撃 状況により副兵装での近接戦
攻撃<庇護 敵の攻撃から友軍機を庇護する 直接攻撃より重要度を高く設定し行動
敵の攻撃に対し防御での対応を優先し 甲の攻撃に対しスキル1を多用
使徒への対応が必要と判断した場合は優先度を撃破へやや吊り上げ 状況に応じた機動を配慮
友軍機との連携を取り 早急に敵戦力を沈黙させる
甲に対し 知覚 物理 効力 情報が確認でき次第その情報の共有化を行う

ソラリス(丙)の座標情報は確認 他の友軍機が保護をする場合は例外
丙の座標に対し敵機の攻撃 射線が向く際には自機を防壁として使用 その身柄の安全圏確保にも努める

  • 煉獄を征く者
    志多 龍一la2673
    人間31才|スピリットウォーリア×スナイパー

◆方針
ソラリス本人が求めた場合のみ救助
捜索は索敵のついでに
敵10体撃破を目標。テンペストを優先対応
周辺索敵担当

◆準備
テンペストとの戦闘記録映像確認→攻撃パターンと予備動作把握
ソラリスの作戦行動範囲確認

◆行動
敵から包囲や奇襲受けないよう周辺索敵を重視
発見した敵位置は味方に連絡、なるべく孤立している敵の撃破を提案
索敵中、破損したアサルトコアがあればソラリスの存在を念頭に調査

・戦闘
味方との集中攻撃で早期に敵数削減及び反撃の間なく撃破することを重視
特にテンペストを重視。飛行からの白兵攻撃
但し生身の味方が敵射程内に居る場合、射線を塞ぐ立ち位置を取り、生身への攻撃には射線の妨害でカバーを優先。味方機が同役割を実施する場合を除く

テンペスト:
フルファイアはダイブ・モードで回避
行動が読める場合、ドッグファイトは事前に盾装備で防御

・ソラリス
生きる事に後ろ向きなら声掛け
「だから言ったろうが、裏切ってねぇなら死んでおいた方がマシ、ってよォ」
今後も疑いは晴れず、SALF調査が不十分なら、本人のせいで大被害が起きる可能性もあると
耐えられないなら死ぬ方が良い。だがもし
「テメェの生きる理由を他人に預けてんじゃねぇよ、ガキかテメェは
自分の為に生きられるなら前を向けると志多は考える。なら力を貸す
「貸しだ、後で返せや

言いたい事を言ったら後は他に任せる

スパイね…もし本当にそうならもっと上手くやってそうなもんだけど。

飛燕で出撃
攻撃優先度はテンペスト>防御型>攻撃型
テンペストに対しては砲撃。
一気に追い詰める時は【飛行】してダイブ・モード使用、すれ違うように槍で攻撃。
アサルトコアなら俺でも接近戦できるし、良い槍が無駄にならずに済む。

テンペストが居ないときは、防御型に特殊兵装『神風』使用し突撃。
もし攻撃型が防御型を守るような動きを見せたら、【飛行】を使って飛び越え、真上から防御型に突っ込む。

撤退時、必要ならソラリスや生身の仲間を機体の手に乗せて撤収。

ソラリスその格好、ちょっと露出度高過ぎじゃないか?
いつもの姿の方がずっと良いから早く帰って治してもらおうぜ。

う~ん、君の帰還を人間が望んでいるかって聞かれても答えづらいな…
だって俺たちは別に人間代表じゃねぇし。もちろん君を撃った奴らだって人間代表じゃない。
ただ言えるのは、帰ってきて欲しいと思ってる奴らが今ここにこんだけは確実に居る、ってことだ。

テンペスト>防御型使徒>攻撃型使徒


上空のテンペストに対しては星河一天を使用する
機動力に優れる(=移動力、≠回避?)とのことなので、回避されないよう移動位置を予測し狙う
もしくは避けられないよう、攻撃行動のタイミングに被せたり、背後や死角から狙ったり


地上の敵とはジハードで戦う
防御型使徒は毎ターン回復をするので、ダメージ分散しないよう、味方と連携して同一個体にダメージを与える


ソラリスが居るかもしれないという未確認情報もあるため
アサルトコアで踏み潰さないよう注意
また、射撃の流れ弾の方向に人影が無いかも警戒
射線上に人がいる場合は、敵の射撃は回避せずに受ける


比較的固めの機体なので、前衛寄りで動く
生身行動の面々やソラリスを庇うよう位置どる
フルファイアに対しては思念式展開装甲で対抗する


ソラリスについては、戦闘中は身体の安全を守って、心のフォローは戦闘後に行う

ネザーにも行けず(プレイング忘れ)、されど僥倖
必ずソラリスちゃんを見つけて、文句言う奴を殴り倒して、共に帰るですの

【目的】
ソラリスの確保救助

【準備】
九十七ちゃんの予備の制服(服飾欄)

【行動】
目的はあくまでもソラリスちゃんの捜索と救助ですの
歯が立たないテンペストには要警戒…!
ACを壁と成すよう後背に陣取るですの(踏まれないよう留意)
もしや身一つの可能性有ります故、予備の制服を持ってくですの(あげる)(胸入る…?)
御髪が乱れてるかもですし、その時は九十七ちゃんの帽子貸すですの

【戦闘】
ACを攻撃の主力とする為、ACに纏わりつく使徒を排除
テンペストの対応はACへ
厄介者の防御型の即殺を志向
主に『ライフル』による長射程攻撃を主力
可能な限りACの前面には出ぬ様留意(邪魔になる為)
接近戦には『ショットガン』と『精密狙撃』で対抗
『ハイヒール』はソラリス分を保持

●誰そ彼 01

 夜が近い。

 真っ暗闇ではない、だが遠くの方から夜の闇に閉ざされ始めている。
 悪夢は向こう側からやって来る。奈落の底から、夜の向こう側から。

 索敵役である志多 龍一(la2673)は、闇に閉ざされていく世界に眉根を寄せた。周囲は問題ないが、遠くとなると見通しが悪い。そしてナイトメア連中は夜でも見通せる視界を持っているのか、その動きに乱れもなく。
 暗くて見えない遠方から、バーシニャやら長距離射撃、グラートによる爆撃による奇襲をされないことを祈るばかりだ。ひとまず、見える範囲にそういった存在は見受けられないが……。

 つまりどういうことかというと、この戦場は人間に多大なプレッシャー与えている、ということである。
 倒せども倒せども湧いて来る悪夢達、鳴り続く爆撃の音、戦闘機型の悪夢が空を切る嫌な音、使徒共の「たすけて」という不協和音――。

「ソラリスちゃん、大丈夫かしら? ねー、ひーちゃん?」
 そんな戦場にたった一人で取り残されるのはどんな気分なんだろう? ……という共感からの具体的な結論には到達していないが、そよぎ(la0080)は「なんだかそんな気がする」と感じたことを愛機MS-01J『ひーちゃん』に語りかける。ひーちゃんには音声認識機能が付いている、だがそよぎの言葉に返事をする機能はなく、彼の問いに答える声はなかった。

 ――SALFライセンサー、ヴァルキュリアのソラリス。

 彼女がつい先ほどの任務において所在不明となったことについては、この場の一同を始めVMP∴S(la2374)にもインプットされた情報だ。
 生と死の狭間、生きるか死ぬかの状況、焦燥と不安に心が削れ、疑心暗鬼とパニックに陥り、余裕と理性が崩れていく瞬間が生んだ――それはまさに事故だろう。

「スパイね……もし本当にそうならもっと上手くやってそうなもんだけど」
 MS-01Jのコックピット内、詠代 静流(la2992)は独り言ちた。
 ソラリスが本当に人類にとっての悪だったのか、確かめる術はない。……なにせ、あれだけソラリスのボディの検査が実施され「問題はなかった」と示されても、「いやしかし」と疑う者がいるのだから。一度芽吹いた疑心暗鬼を消すことは難しい。信頼とは、そういったものなのだから。
 だからこそ――そう、ソラリスを見捨てた、ソラリスを疑っている、そういった者が全て悪と断言することは、きっと間違っている。特に今回の場合は、ライセンサー達の精神状態も大いに考慮すべきである。ゆえに彼らの処分は解雇等の最も重いものではなく、然るべき措置が既に実施された。

 ……『然るべき処置』。字面にすればそれは存外に呆気なく感じて――決してSALFの方でも軽んじた判断をしたわけではないのだけれど――それでも、九重 陸(la1069)は同じヴァルキュリアとして、今回の事件に憤りを抑えきれない。

「『ヴァルキュリアだから』『機械だから』…そう思ってなけりゃ、幾ら何でもここまで惨いことはできないはずだ。くそッ、一時的にでも自分の身体を失うことがどれだけキツイか知りもしないくせに!」
 機械の体は、肉と違って修理すれば元通りだ。腕がもげても、胴の中身がこぼれても。
 だけどそれは、壊していい理由なんかじゃない。治るから壊していいなんて、そんな理由がまかり通っていいはずがない。
「情報によると、このあたりでソラリスはロストしたそうだね」
 対照的に、グザヴィエ・ユリエル(la3266)がHN-01のコックピット内で口にした言葉はいつも通りの穏やかさだった。
「アサルトコアで踏みつけないようにしないと……皆、足元には気を配ってね」
 その言葉を聴いて、エドウィナ(la0837)はMS-01J『Nguyen Mauria』のコックピット内で片眉を上げた。
「確かに戦域的にはこの辺りだが……探す気か?」
 この大規模な戦場の中で、たった一人はぐれた者を? ――そんなエドウィナの問いに答えたのは、十八 九十七(la3323)だった。
「必ずソラリスちゃんを見つけて、文句言う奴を殴り倒して、共に帰るですの」
「――そうか。……なら、その分までこちらが暴れなくてはな」

 鉄の巨人が一歩、前に出る。
 迫る闇を切り裂くように、人間は彼方を見通した。



●誰そ彼 02
 テンペストに対応すべく動き始めたのは、エドウィナ、龍一、静流、グザヴィエ。
 同時に地上にはびこる使徒を狙うのは、そよぎ、S、九十七、陸。
 この中でアサルトコアに登場していないのは陸と九十七だ。
 また、陸と九十七はソラリスの捜索、龍一は周辺索敵を主眼に置いていた。

 ――空を飛び回るのは、嵐の名を冠した悪夢共。数は3、編隊を組んでライセンサーへと迫る。アウトレンジ、かつ、速い。大きくて目立つアサルトコアの死角を狙い、猛射撃の急襲を降り注がせる。
 流石に――かわし切れない。アサルトコアのイマジナリーシールドに幾つも銃弾が爆ぜ、火花が散る。パイロットにも衝撃が響くだろう。
「ち――」
 龍一は舌打ちをした。事前にテンペストの映像記録は見ている。相手の手の内は把握している、だがあの速さは『知っているからかわせる』とはまた別の話だ。尤も、知らないからこそのデメリットが発生しないという点はあるが。

 だが、たった一撃で落ちるほど、人間は、アサルトコアは、ヤワじゃない。

「懐かしいなぁ、お前の相手も!」
 エドウィナのグエンマウリアが、プレーンブースターによって一気に空へと飛び上がる。アサルトソード「リーネア」を構え、見据える先にはテンペスト。あの時と同じ敵と、あの時と同じように――ただし。
「……今回は、殲滅だがな!」
 手心は一切無用。重力に逆らい、逃れようとする悪夢に肉迫し、その機体を剣先で一閃。テンペストの体に火花と共に切り傷が刻まれる。流石に飛行していれば機体の安定感や攻撃精度は低下する、だがグエンマウリアは単騎で戦っているのではない。
 空へと続くのは龍一だ。エドウィナと同じMS-01J、ただし武装は剣ではなく拳、羅漢N209による知覚攻撃である。
「おらッ!」
 想像の力を纏う拳が、グエンマウリアが切りつけたテンペストを強烈に殴りつける。リジェクションフィールドをブチ抜く拳が、その不気味な機体に突き刺さる。
 殴り抜かれ押しやられた悪夢が、勢いのまま空中でふらついた。
「これでも……喰らえッ」
 そのテンペストにベヒモス砲の照準を合わせていたのは、静流のMS-01Jだ。巨獣の名を冠する砲が雷と吼えれば、破壊力抜群の砲撃が空に爆華の大輪を咲かせる。

 MS-01J、「エースの機体」として語られることも少なくないそのアサルトコアの攻撃出力は素晴らしい。

「集中狙い、各個撃破、と……確実に、着実にね」
 早くもボロボロになったテンペストを狙ったのは、グザヴィエの駆るHN-01が構えるアサルトコア用バルカン星河一天。放たれる流星群の弾幕が、満身創痍となっていたテンペストにトドメを刺した。
「この調子なら――あと二、三〇秒もあれば、残る二機もどうにかできそうだな」
 エドウィナが、攪乱するかのように飛び回るテンペストを見定めながら言う。「ああ」と静流がコックピットの中で頷いた。
「……乱入がないことを祈るしかないな」
「戦闘時間が長引くだけ、不確定要素も入り易いだろうからねぇ。早期解決を頑張りたいところだ」
 グザヴィエが言う。龍一は黙したまま、さもありなんと態度で示した。
 一番星の煌く空、空には悪夢が飛び回っている。



●誰そ彼 03
 同刻、地上に群れるは歪なる使徒共だ。
「助けて……痛い……」
「おうちに帰して……」
「寒いよ……母さん……」
 口々に唱える憐れなる言の葉。言語なれど、そこに意味はないことをライセンサー達は知っている。ただのプログラム、再生機にセットされたカセット。容赦も躊躇も、してはいけない。

「ひーちゃん、突撃ーっ」

 そよぎのアサルトコアが、アサルトランス「マフルート」を構えて一閃に駆けた。致死的貫通、デッドペネトレーションによって地上の使徒共を蹴散らしていく。
 人間サイズ。アサルトコアからすれば使徒は小さい。ともすれば使徒の全長よりも口径の大きなバズーカ砲を、Sは機械的な動作で地上に向ける。
 爆発音、地響き、凄まじい土煙。
 エレファントノーズの一撃が、そよぎの一撃によって負傷していた使徒を木端微塵に――否、狙われた使徒は未だ存在している。防御型の障壁によるものだ。それでもその身に大きな傷を負っている。

 パラパラと吹き飛ばされた砂利が降り、土煙が荒涼と流れる。

 九十七は目を細め、Sの機体の後方より、狙うべき敵へとスナイパーライフルCT-3の銃口を向けた。狙うは防御型使徒、引き金を引く。使徒の肉が弾丸に爆ぜ、人間のような血飛沫が飛ぶ。
「いたい……いたい、どうして、やめてぇ」
 頭部が半壊した防御型使徒は、子供の声ですすり泣く。幼い声なれど、その外見は醜く膨れた異形そのものだ。
「防御型使徒を即殺しますの! あのガード性能はちと厄介ですゆえ!」
 寄って来る使徒共に備えて武器をブラストショットガン――専用の超特大ソウドオフショットガンだ――に持ち替えつつ、九十七が声を張った。いかに使徒が人間の声で泣き喚こうが聞く耳持たずと宣言するかのごとく。
「音楽を愛する心もない奴が、俺の邪魔をするな!」
 柳眉を吊り上げる陸が、魔導書「沈黙の予言」を手に想像の力を練り上げる。青い瞳は、虚ろな声を漏らす木偶らを睨み付けた。
「そんなに俺を怒らせたいか、ならイヤでも聴いてもらうぜ……俺の音楽をくらえ!」
 掌を翳す。刹那、咲き乱れるのは煉獄の火焔だ。生身ながらアサルトコアもかくやなる火力を以て、防御型を焼き尽くしながら、その周囲の攻撃型の身をも焦がす。
 そのすぐ上をテンペストが飛んで行き、それを追うように仲間のアサルトコアがブースターを噴かせて飛んで行った。
 通り過ぎる大きな音と風に、陸は腕を顔の前にして風圧に耐える。腕を下ろせば、立ち塞がるSのイマジナリーシールドを使徒らが攻撃している姿が目に入った。
 ならばと陸は烈火の戦斧に武装を持ち替えながら――爆発と土煙と呻きと黄昏に包まれる戦場で、大きく声を張り上げた。

「ソラリスーっ、無事かー!? 聞こえたら何か音を出してくれ! 助けに来たんだっ!」

 機械の声。なれど、人間と何も変わらない。血は通っていないけれど、心の通った声だった。
 ソラリスの声はなく、代わりのように銃声が響く。こうもうるさい場所では、小さな音は拾い難い。
 ひーちゃんのB02アサルトライフルが、防御型の障壁を失った攻撃型を撃ち抜いた音。あるいは、グザヴィエの星河一天がテンペストを追って放たれ続ける音。アサルトコア用の巨大銃はそれだけ銃声も派手だ。
 重なるのはテンペストのフルファイアによる連続的な銃声砲声。空に無数の光を描くそれは、しかし、ダイブ・モードを起動した龍一のMS-01Jを捉えられない。動き辛い空中での紙一重の回避、幸運の女神が微笑んだか。
 そのテンペストへと肉迫するのは、アサルトコア用ランスであるブランディストックOMを構えた静流のMS-01Jだ。科学の力で空を駆ける。
「ダイブ・モード起動――アサルトコアなら、俺だって殴り合いができるんだよッ」
 良い槍が無駄にならずに済む。そう思いながらの、すれ違い様の一閃。煌めく穂先が、悪夢を切り裂く。
 砕かれたテンペストの破片が空に散る。それを吹き飛ばすのは、黄昏の空を飛び回るグエンマウリアだ。彼女は残る一機のテンペストを視界に捉えながら、一瞬、地面に降り立った――否、地面の攻撃型使徒を踏み潰しがてらその動きを妨害したのだ。
「おっと、お前に真面目に取り合う気はないんでな」
 ぐっと踏みにじり、エドウィナはそのまま再び空へ。剣を手に、嵐を追う。

 ナイトメアは倒してもまた新手が湧いて来るのだろう。ナイトメアを一掃してからソラリスを探すことは実質不可能だ。
 ならば、戦いながらでも進んで、周囲を探さねばならない。

「座標的にはこの辺り……! この辺りに必ず、いるはずですの!」
 イマジナリーシールドで攻撃型の爪を受け止め、九十七は顔をしかめながら使徒を蹴り飛ばし、開いた間合いからショットガンを撃ち込む。今、九十七にあるのは荒れ狂う『狂気/正義』ではなく、仲間を見つけ出さねばという冷静だった。
「クソ、面倒臭ェ……」
 龍一はコックピット内で毒づいた。ソラリスの救助は一銭にもならないし、任務の目標ですらないことだ。むしろ彼女を探して長く戦場を彷徨うとなれば、今度はこっちが危険なのだ。木乃伊取りがなんとやら。
(そもそも――)
 もしも本人が助けを求めていないなら、助けるだけ無駄だろうに。だが「面倒だから帰る」と踵を返すこともできない。龍一は集中力を研ぎ澄ませ、暗がりの向こうへ目を凝らした。

 ――そうすれば見付けたのは、彼方に転がるアサルトコアだった。大破炎上し、赤々と横たわっている。

 ソラリスが乗っていたものと同じ機体。
 まさかとその周囲を見れば、彼女はいた。
 いや、『彼女』と呼んでいいのか分からない――『皮膚』の溶け落ちた、不気味な鉄人形。

「おい、十時の方向」
 龍一の通信機越しの声が陸に届く。ならばと陸はそちらを向いて、何度目かの大きな声を張り上げた。
「ソラリス! ……そこにいるんだな!? 助けに来たんだ、もう大丈夫だ! 今からそっちに行く!」
 陸は力の限り叫んだ。そして、耳を澄ませて――確かに聞いたのだ。

 ――助けて。

 まだ生きたいと望む声。
 死にたくないと願う声を。

「ナイトメアはこっちでどうにかする、ソラリスの救助は頼んだ!」
 静流はブースターを噴かせて空を駆りながら、テンペストを追う。
 その声に応えたのはSだ。言葉はなく、動作を以て。彼の駆るHN-01『Ex-At』が目標地点へと進み始める。その巨体は、随行する歩兵二人――陸と九十七にとってはテンペストの砲撃に対する頼もしい遮蔽となる。
 Sにとって、ソラリスは同じヴァルキュリアなれど『人命』だ。人命ならば、消耗品たる己を使い潰してでも救わねばならない存在だ。
 その行く手を阻まんとばかりに襲ってくるのは使徒の群れである。飛びかかる雑兵共が、Ex-Atのイマジナリーシールドを傷付ける。だが堅牢なその機体に傷をつけるのは容易ではない。
「邪魔ァッ!!」
 群がるそれらを蹴散らすのは、九十七のショットガンだ。精密な集中力のもと、その肉を散弾で吹き飛ばす。更に陸のバーストクラッシュが道を切り開く。

 時間にしてわずか。
 しかし、焦れるほど長く感じた。

 ――燃え上がるアサルトコアの残骸の隣、立ち尽くしていたヴァルキュリア一人。
 見た目からはおよそソラリスと判別できないほど損傷したロボット。だけど、それは確かにソラリスだった。

「どうして……」

 ノイズだらけの声だった。泣きそうに震えた声だった。酷い姿だった。人間の女性らしく造られていた体は焼けて溶けて壊れて。むき出しの眼球のマゼンタピンクの色彩だけが、ソラリスとしての最後の名残になってしまっている。
 だから――九十七は返事の代わりに、予備所有していたSALF制服を彼女に羽織らせ、そして頭髪すら焼け落ちた武骨な頭部に、自分の帽子を深く被せた。
「よくぞ耐え切りましたの」
「さ、帰ろうぜ。綺麗さっぱり修理して、文句の一つでもつけに行こう」
 陸は笑顔でそう言った。しかし、ソラリスは俯いてしまう。陸は首を傾げた。
「……どうしたんだ? 帰りたく……ないのか? そりゃ不安かもしれないけど、SALFにはソラリスの味方だっていっぱい――」
「私の救助は、SALFからの正式な任務ですか?」
 九十七にかけてもらった制服を握り締める機械の手は、震えていた。SALFの紋章が皴で歪む。
 SALFは、人々は、己の帰還を望んでいるのか否か。捨てた人間達の元に戻るべきか否か。それが分からない、なのに心が苦しい、優しい人達を覚えているから。綺麗な思い出が消滅を拒絶し、生きていたいと叫んでいるから。
 その吐露を聴いて、陸は思わず彼女の両肩を掴む。
「何で……何で人間に遠慮する必要があるんだ? 誰かの所有物じゃなく、お前はお前のものだろ! ……ソラリスはどうしたい? 自分で決めろ。俺はそうしてきたぜ」

 ヴァルキュリア、それは人間に作られたロボット。
 だけど。だとしても。

 今、こうして動いて喋って悩んで生きているではないか。

「だから言ったろうが、裏切ってねぇなら死んでおいた方がマシ、ってよォ」
 通信機を介して、吐き捨てるように言ったのは龍一だった。
「SALFは軍隊でなけりゃ、仲良しサークルでもねェ。どれだけ足掻いてもこれからもテメェを疑う奴はいるだろうよ。その考えの違いの所為で大被害が起きる可能性だってある。そうなりゃテメェの所為だって言われるだろうよ。それに耐えられないならここで死んだ方が良い。……だが」
 龍一は深く溜息を吐いて、続けた。
「テメェの生きる理由を他人に預けてんじゃねぇよ、ガキかテメェは。自分の為に生きられるなら、どうすりゃいいかは分かるだろ。俺は死にたがりには死ねっつーが、生きたがりには手を貸してやらんこともねェ」
 彼の言葉は刺々しく、攻撃的かもしれない。だが、遠慮やら取り繕いやらのないそれは、真っ直ぐなまでの本心でもあった。
「貸しだ、後で返せや。……それとさっさと戻れ、周囲に使徒がいる」
 そう言って、彼は返事も待たないで一方的に通信を終了してしまう。

 ――遠くで爆発の音が聞こえた。

「……ソラリスちゃんの帰還を望まぬ存在があるのは存じてますの。なれど……ソラリスちゃん自身の意志や生存を曲げてまで、それに付き合う必要は皆目チットモありませんの」
 爆発。忌々しい破壊の音が聞こえてくる。九十七は夜が昇ってくる東の空に背を向けて、友へと言うのだ。
「報われないことが、どれだけ魂を焦がすか。それがどれだけ、艱難辛苦をもたらすか。けれど……一緒に帰るですの。ソラリスちゃんの帰りを待つ皆のもとへ」
 手を差し出した。ずっと銃を握ってばかりで、タコだらけのゴツい手だ。
「世界の向ける悪意に、それでも、それでもと繰り返し生きて行くしかありませんの。だって、残されてしまった者は、未練に狂い生きて行かねばなりませんゆえ……」
 これ以上、未練に狂う正義を産んではいけない。後悔と憤怒と絶望に焼かれ続け、それでも立ち止まれなくなってしまう者なんて、もう。
 ソラリスが顔を上げる。陸と九十七を見る。おずおずと、それでも伸ばされたのは、機械の手。それは九十七の手を取った。手が重なった瞬間、九十七がもたらす治癒の光が黄昏に灯る。薄闇に輝く光は、星のようであった。



●誰そ彼 04
「……まさか本当に見付けるとはな。誰のかは知らんが、随分と運がいいらしい」
 着地のスライディングで使徒共を蹴散らしつつ、グエンマウリアのエドウィナは感心したように呟いた。
 ソラリスのピックアップは完了した。仲間達が彼女を堅固に護っているので、そう易々とソラリスが負傷することはないだろう。
「しかしまぁ、だったら尚更まだ退けんなぁ! ――Nguyen Mauria、もう一暴れするかッ!」
 再び、プレーンブースターに火を灯す。大きく暴れることで気を引かんとするかのように、新たに飛んできたテンペストの編隊へと吶喊を仕掛けるのだ。
「ん! よかったよかった。じゃあ、あとは、帰るまでが任務っ」
 そよぎはウンと頷くと、再びデッドペネトレーションによって地上の使徒を槍で切り裂く。大地ごと切り裂く穂先が、小さな使徒を粉砕する。
「あともうひと踏ん張りだね!」
 火の雨がごとく降るテンペストのフルファイアを、グザヴィエは思念式展開装甲で真っ向から受け止めた。衝撃がパイロットにまで伝わるが、被害は最小限に食い止められている。イマジナリーシールドから爆煙を立ち上らせながら、HN-01は手にした剣ズルフィカール・ジハードを振るった。その圧倒的な想像の力で、防御型使徒を展開された障壁ごと破壊する。
 グザヴィエ、Sの機体に護られながら、陸と九十七はソラリスを連れて戦場を駆ける。

 ミッション自体はほぼ完了した。あとは下がりながらの露払いで十二分。
 ここで消耗を強いてまで戦い続ける理由はない。なにせ相手は無尽蔵、今は決着の時ではない。

 凄まじい土煙が噴き上がった。それは高速機動型ブースター『神風―KAMIKAZE―』を展開した静流のMS-01Jが、まるで隕石のように歩兵部隊らの前に降り立った際の衝撃である。
 MS-01Jは片手でブランディストックOMをくるりと回し――その穂先は今しがた、防御型使徒を切り裂いたばかりだ――もう反対側の手を、しゃがみながら彼らへと差し出した。
「ソラリスその格好、ちょっと露出度が高過ぎじゃないか? いつもの姿の方がずっと良いから、早く帰って治してもらおうぜ」
 軽口と共に、「この手に乗って」と促した。九十七と陸に手を引かれ、ソラリスは仲間と共にアサルトコアの掌に乗る。
「よし、帰ろうか」
 アサルトコアが立ち上がる。戦場を見渡し、仲間と共に撤退を始める。
 風を切る音。その中で、静流は通信機越しに掌の中の鉄乙女へと言葉を放った。
「ん~……君の帰還を人間が望んでいるかどうか、俺にはちょっと答え辛いな。だって俺たちは別に人間代表じゃねぇし。もちろん君を撃った奴らだって人間代表じゃない。ただ言えるのは、帰ってきて欲しいと思ってる奴らが今ここにこんだけは確実に居る、ってことだ」
 それをどうか忘れないで。静流は――人助けとかそういうのは未だ良く分からないけれど――精一杯の言葉をソラリスに伝えた。

「よーしそろそろいいか、色んな意味で」
 同刻、しんがりのエドウィナはギリギリまで戦いを続けていたが、撤退となるや空で身を翻し、一気に撤退の為に加速する。上空、チラと見下ろすのは静流の手の中にいるソラリスだ。

「『そんなものは軽いリスクでしかない。貴女の自由と引き替えにするには軽すぎる』」

 それはあの初夏の中、ツツジの花が咲く公園で、ソラリスに向けられる疑いに関して伝えた言葉。
 存分に悩んで、好きに生きてくれ。我々が救ったのはそういう自由だ――エドウィナのその言葉を、ソラリスは覚えていた。
「エドウィナさん……」
「この言葉を覚えているのならば――当然、我々の罪とやらはあなたが立証してくれるのだよな? 公の場で、誠実に」
 そう言って、笑って、エドウィナは表情を引き締めてから空を見据え直すのだ。遥かな地平線。黄昏ゆく世界。そして呟く。彼女の自由を冒した連中への怒りを。
「……保身しか頭にない腰抜けめ。エヌイーの相手なぞ務まらなくて当然だ」



●誰そ彼 05
 戦域から離脱し、人類の勢力圏へと無事に帰還できたのはほどなくであった。
 ソラリスはずっと沈黙していた。それはライセンサーの言葉を無視しているのではなく、噛み締め咀嚼し、心に深く刻む為の沈黙だった。あるいは渦巻く感情に、言語表現が追いついていないこともあった。
 静流のMS-01Jの掌より下ろされたソラリスへ、ひーちゃんから降りたそよぎがたたっと駆け寄る。
「大丈夫? 大丈夫? お怪我、痛くない……?」
 子犬のようにその周囲をくるくる回しながら、そよぎはソラリスの体を見る。人間と違って機械だから、傷の具合がどうなのか良く分からない。だけど、酷い状態であることは分かった。なんとか立っているので、重体というほどではないようだが……。
「痛みは……痛覚がありませんので」
 ソラリスはそう答える。その言葉に、そよぎは真ん丸な目をパチクリとさせた。じっとソラリスを見つめた。
 そうすると、同じように機体から降りたグザヴィエがやってくる。ソラリスが無事であることに「良かった」と頷いてから、彼はこう言った。
「古くは魔女狩りのように、人は弱さゆえ立場の弱い者を虐げてしまう。ソラリスさんがどう行動しても、認めない人は認めないし……逆に信じている人は、ソラリスさんが何をしても、信じ続ける。少なくともここにいる人間は、ソラリスさんのことを信じているよ。
 だからどうか、今は難しいかもしれないけれど……不安ゆえに、ソラリスさんを傷つける人を許してあげてほしい。あなたも心の弱さを知っているはずだから、同じ境遇の人を助けられる」
 穏やかに言葉を続け、グザヴィエは優しい瞳でヴァルキュリアの瞳を見た。
「また一緒に戦おう。あなたの力が必要なんだ」
「……いいんですか?」
 ソラリスのその言葉に、機体から降りてさっさとシャワー室へ向かおうとしていた龍一が、背中を向けたまま舌打ちをした。分かりやすいほど大きく。
 最初に会った時、ソラリスは彼からぶつけられた言葉に怒りを覚えた。だけど、SALFの正式任務でもないのに戦場にまで来て、声をかけてくれた彼の本心を、今なら察することができる。
 だから――ソラリスはグザヴィエに、龍一に、そして皆に、こう言うのだ。

「……助けて頂いてありがとうございます。本当に……何と言ったらいいか。……『また一緒に』――こちらこそ。私は……皆さんと、まだ、ずっと、一緒に、これからも、生きていたい……私はまだ、ここにいたい……皆と一緒に……!」

 ソラリスはエヌイーと繋がっていたか? ナイトメア側なのか?
 そんなことは、そよぎにとっては「どっちだっていいの」と言い捨てられるものだった。
 そよぎはライセンサーだ。何年も前から、ライセンサーだ。
 だから『やらなくちゃならない』。何を? ナイトメアを倒すことだ。
 分かっている。それでもナイトメアに「ごめんね」という気持ちがある。
 その態度からそよぎは『ナイトメアからの洗脳疑惑有り』とマークされている――いわば、ソラリスとそよぎは疑われている者同士だ。
 その上で、そよぎはソラリスを信じている。他人のそれとは、中身が少し違うかもしれないけれど、それでも信じていることに違いはない。
 根拠? それは、ソラリスの今の姿を見れば分かる。彼女の意志は、想いは、本物だ。少なくともそよぎにはそう見える。
 それだけで十分だ。

「がんばったね、ありがとう」

 ぎゅ、と抱き着いた。焼けて溶けて不気味で、土埃に汚れた、硬くて冷たい機械の体でも。
 ソラリスは一瞬、驚きに凍り付いた。だけど、震える手で、そよぎの体を抱きしめ返す。
「ありがとう。……ごめんなさい、ありがとう、ありがとうございます……」

 不思議だ。
 涙のない機械なのに、彼女は泣いているように見えた。
 それは喜びと安堵からくる涙であった。



●誰そ彼 06
 来る大きな戦いに向けて、一同の機体は修復・調整され、シールドについても修復された。
 ソラリスについては、これからもSALFライセンサーとして戦い続ける。向けられる疑念は確かにある、だけど、それでも、君達と戦いたいことが、ソラリスの意志だった。……尤も、戦線復帰はまず体を治してから、だけれども。
 疑念は完全には消えないだろう。だけど、薄くすることはできる。

「これは人類を疑心暗鬼にさせようとするエヌイーの策で、少しでもソラリスが怪しいと感じたら、その時点で俺たちは奴の手の平で踊らされているんだ」

 静流は懸命にそう主張し、声を張る。「おのれエヌイー、その手にはのらんぞ!」と大きな声で。
 彼自身、本当に全てエヌイーの計算かは分からない。だけどさて置き、少しでも疑念の矛先が、ソラリスからエヌイーに向けばいい。


 ――かくして、決戦の時が近付いてくる。
 暗き奈落を、綺羅星が撃ち抜くその時が。



『了』

成功度
成功
拍手数
7

現在の拍手ポイント:0

あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
拍手1回につき拍手ポイントを1消費します。

MVP一覧

MVPはいませんでした。

重体者一覧

重体者はいませんでした。

参加者一覧

  • 人魚の揺り籠
    そよぎla0080
    人間15才|
    ネメシスフォース×セイント
  • スターゲイザー
    エドウィナla0837
    放浪者12才|
    ネメシスフォース×セイント
  • 静寂を生み出す弾き手
    九重 陸la1069
    ヴァルキュリア18才|
    ネメシスフォース×スピリットウォーリア

  • VMP∴Sla2374
    ヴァルキュリア62才|
    スナイパー×グラップラー
  • 煉獄を征く者
    志多 龍一la2673
    人間31才|
    スピリットウォーリア×スナイパー
  • 会いたい人
    詠代 静流la2992
    放浪者18才|
    ネメシスフォース×セイント
  • エージェント
    グザヴィエ・ユリエルla3266
    放浪者52才|
    ゼルクナイト×セイント
  • 撃退士
    十八 九十七la3323
    放浪者25才|
    スナイパー×セイント

リンク参加者一覧


スレッド一覧

スレッドタイトル(レス数)最新投稿日時