【FI】Fugitive and Invasion 2フェーズリプレイ一覧

  1. 放浪者説得(PC参加)
  2. 戦闘介入(AC・キャリアー参加)

1.放浪者説得(PC参加)


 グロリアスベースに保護されたピングイノ星出身の放浪者ことペンギン達は仲間達に再会するなり涙を流して歓声を上げた。
 その様子をビデオカメラに収めるているのは【龍爪火】小隊長の巳堂 和火(la2924)。
 彼は全世界にペンギン説得の様子を伝えるため、映像配信の準備に勤しんでいるのだ。
「よし……準備は万端です……」
 とうに予告を終えた配信画面を見てぼそ、と満足げに呟く和火。
 そんな彼の隣で弟の陽乃杜 来火(la2917)がペンギンの着ぐるみ相手に格闘している。
「か、カズ兄……俺達はペギー達の説得に来たんだよな? それが何故着ぐるみ着用前提なんだ? ……しかも俺だけ……」
 何しろ来火の体の4割は鱗に覆われている。着ぐるみにそれが引っかかっては外し、再び着用に取り掛かるという作業を繰り返すのはかなりの難儀だ。
 しかし和火の表情は飄々としており、眼鏡をくいと中指で押し上げる。
「異種族との交流には親和性も大切なのですよ。彼らと同じ姿をすることも交流のひとつの手段。期待していますよ、我が弟」
 そう言いながらも和火の目には言葉以上の高揚感が漂っている。――ああ、こうなってしまった兄を止める手段はない。
 諦め顔の来火はようやく背中のファスナーを閉じると、頭にがっぽりと重いペンギンのマスクを被った。

 一方で【リラの後押し】をはじめとした小隊はSALFの管理部よりEXISをペンギンの人数分揃えると、次々とペンギン達が休息をとる訓練場に運び込んだ。
(ペンギンの皆様は適合者……それならばEXISを実際に触れることでナイトメアと戦えると実感していただきましょう。さすればトラウマも少しずつ癒されていくはずです)
 そう考えたフェリシテ(la3287)は得意の弓を手に、ペンギン達に歩み寄る。するとペンギンの代表格である技師ペギーが小首を傾げた。
「何か賑々しい気配ペン。どうしたのペン?」
「今日は皆様の少しでもお力になれればと、訓練用のEXISをご用意しました。我々がまずはこれらの扱い方を指導し、実際に初歩的な戦術から経験を積むことで皆様もナイトメアから身を守る術を得られるのではと思まして。勿論訓練では負傷するような事態は発生しませんので……」
 ここまでのフェリシテの言動には決して棘など存在しなかった。むしろ柔和で、ペンギン達に寄り添う意思さえも見せていた。
 しかしその言葉を受けた途端、ペンギンの何人かが肩を震わせる。そこでフェリシテは子供達を宥めつつ、精一杯言葉を重ねた。
「この世界にナイトメアが現れて以来、多くの敗北が重ねられ、一時は世界的な危機にも陥りました。しかしライセンサーが長年にわたりナイトメアと戦い、経験を積んだことで力を高め、今はインソムニアを攻略するほどの力さえ蓄えました。ペギーさん達もライセンサーとなればフェリシテ達と同じ力を扱えるようになります。それは皆様自身を守るお力でもあることをどうかご承知ください」
 その一方で【Gullinkambi】所属の泉(la3088)は泣きじゃくる子供達を次々と優しく抱擁し、頭を撫でながら柔らかな言葉を紡いだ。
「失うんが……傷つくんが怖いんなんか、当たり前やもん……。そんでえぇんやで」
「……」
「SALFには戦う為の力も方法もある。せやけどアレに立ち向かうだけが強さやあらへんやろ? ただな、進むべき道は自分の意思で選ばなあかん」
 泉の声はいたわりの中に、悲しみに暮れる心を支える強さが秘められていた。そのためだろうか、ペンギン達の怒号や悲嘆が静まる。
「その拳を振り上げるかどうかを決めるんはアンタ等や。ウチ等は無理強いはしたぁない。怖いんやったら怖いでえぇ……。戦わんでえぇねん」
 その優しさに【Gullinkambi】小隊長のマサト・ハシバ(la0581)が大きく頷いた。
「恐怖に勝つ方法? そんなものがあるのなら俺も知りたいな」
 ――マサトはかつて国連軍所属時代に協力なナイトメアと交戦した経験がある。
 その際に隊が壊滅し自身も深手を負い、30年もの時を病院で眠り続けていた。目覚めた時の戸惑いと哀しみは如何ほどだっただろうか。
「SALFもなく、EXISも碌な物がなかった過去の戦場。それでも抗い、多くを失って今自分がここにいる。……正直に言うと今でも戦は怖いさ。だが、失う方がもっと怖い。だから俺は失わないために戦う。それだけだ」
 その言葉にペンギン達はただただ静かに聞き入る。既に故郷はインベーダーに蹂躙された。それなら今守るべきものは――。
 そんな中、【白羊宮】の芳篠 遵(la3738)とフィンダファー(la2553)はニュージーランドで発生した事件の報告書をもとに作ったピングイノ星の民俗料理を振る舞い始めた。
「ま、いきなり戦闘訓練というのも緊張しちゃうものね。まだ考えが纏まっていない子はこっちでゆっくり考えて頂戴な。献立はお望みの冷製魚介スープよ」
 そう言って遵が給仕に励む間、フィンダファーは淡々とした口調ながら「みんなのせかいのことをおしえてほしい」とペンギンに問いかけた。元より音楽や舞踏に関心を持つフィンダファーはすぐさま彼らの歌を覚え、簡単な民謡を口ずさむ。その優しい歌声に泣き崩れるペンギン達。
 そんな彼らにフィンダファーは寄り添い、傷跡の手入れをしながらひたすらに耳を傾ける。彼らの心の痛みを柔らかな毛布のようにしっかりと受け止めて。
「……みんなのこきょうはこころにいきているのだ。ぜったいにほろびないのだ。だからあきらめるな、いきることを」
 その言葉に何度も頷くペンギン。大鍋を空にしたばかりの遵も救急治療セットを手に、彼らに治療方法を教えつつ穏やかに微笑む。
「芳篠さんたち癒し手が必ず傍にいるわ。安心して大丈夫よ、もし心が赴くのであれば共に戦って?」
 その願いにはっきりとした返事はなかったが――ペンギン達の目から恐怖の色は確実に薄れているのは確かだった、



 ペンギン達が食事を終え、ひと心地ついた頃。
 まずは【エルロード】のアークレディア・クレセント(la0542)はSALFから取り寄せたインベーダーの交戦記録をスクリーンに映すと、ライセンサー達の戦果を映像を含めてペンギン達へ紹介した。
「これは先日の大規模作戦の記録だ。この通りわたし達は襲来したインベーダーの多くより体は小さいが、アサルトコアやキャリアーという兵器を使うことで戦闘力を大きくカバーすることに成功している」
 巨大な武具を己が手足のように扱い、インベーダーを駆逐していくライセンサー達の映像。それらはペンギン達の拳を無意識に握らせ、息を呑ませた。
 そのタイミングで【エルロード】の山神 水音(la2058)がスクリーンの画像を切り替える。それはアサルトコアの外観とコクピット内部の映像。元来優れた技術力を持つペンギン達にとってそれは非常に興味深く、まじまじと見つめている。
 彼らの反応に安堵した水音は「ん」と小さく頷き、解説を始めた。
「アサルトコアはご覧の通りの戦闘機械。だから生身で戦う必要はないんだ。何より、ペンギンさん達は急ごしらえとはいえ宇宙船を作れる技術力がある。アサルトコアにペンギンさん達の力が加わるなら百人力、すごく大きなメリットがあるんだよ!」
 そんな水音の熱弁に今まで静かに状況を見守っていた【Jokers】の鷹代 由稀(la2999)が徐に口を開いた。
「そうね、あたしとしちゃ君達には技術的なことで協力してほしい。そういう戦い方だってあるんだから」
「技術の……戦い?」
「そう。これから奴らはあたしらを喰い尽くすためもっと厄介な敵を送り込んでくる可能性がある。そんな時、高い技術力を持つ君達がより強力な兵器を開発してくれたなら……ね、互いにwin-winじゃない?」
「そっか、それなら戦の役に立てるペン!」
 ほっとしたように顔を見合わせるペンギン達。そこで由稀は「でもね」と人差し指を立てた。
「ただ、技術を活かすにも、イマジナリードライブが使えなきゃ活かせない。アサルトコアを動かすために必要な力なのだから。起動実験をするにも最低ひとつの覚悟は必要よ」
「つまりライセンサーにならないと何もできないペン?」
「何もかもそうだとは言わない。もしライセンサーという道を選ばなくても、オペレーティングや兵站の管理という重要な裏方仕事もあるしね。……別に今すぐじゃなくてもいいわ。殴り合うだけが戦いじゃない。ただ、技術面に特化したライセンサーだっていいじゃない。あたしが言いたいのはそういう道があるということよ」
 そう言って壁に背中を預ける由稀。彼女は再び思案に耽るのだろう。
 由稀の意見に頷いたアークレディアはスクリーンの画像を一旦切ると、ペンギン達の瞳をひとりひとり見つめ、真摯に告げた。
「可否の話なら結果はもう出てるし、あとはやるか否かだけだろう。違うかな?」
 しかしペンギン達の顔は今なお困惑の色が強い。ライセンサーは人類を守る盾である。もし前線に出た仲間達が倒れたなら自分達もと考えると足が竦むのだ。
 その姿を見とめた【ESPOIR】の孔雀(la4222)は引き締まった端正な体を誇示するように得物を堂々と構えた。
「あれ程、我々を拒んでおいて……気の弱い小物であったか? ペンギンよ」
 口調こそ煽り立てるものだが、その胸にはペンギン達に奮起してほしいという願いがある。それは孔雀自身もこの世界に転移して間もない存在だからだ。
 そこで孔雀はライセンサーとしての力を魅せるべく、空間そのものを斬り裂いた。剣舞の如き動きに、ペンギン達は怒気を抜かれたのかすっかり見惚れている。
「ライセンサーになればこのような苛烈な攻撃も可能となる。まずは己を守れるようになるのだ。さもなくば、仲間を守れぬぞ」
 その問いかけに何人かの軍人ペンギンが覚悟を決めた。
「我々に……我々に生き残れる可能性があるのなら指南を頼むペン!」
 何とも勇ましい声だ。早速【GLORIA】の小隊長、化野 鳥太郎(la0108)が仲間達に早速指示を出す。
「それじゃあまあ、軽く体を動かしてみましょってことで!」
 鳥太郎の役割は後方に備える指揮官である。しかし相手とて相応の経験を積んできた軍人達。隙を見るや吶喊を試みるペンギンを見て(流石だな)と感じた。
 そこで鳥太郎は星空色の炎を纏い、ゼロブラストを発動。自分に肉迫したペンギンを瞬時に弾き飛ばす。
「……っ! あれ、でも痛くないペン?」
 咄嗟に立ち上がるも不思議そうな顔で体をあらためるペンギン。
 そんな彼らに連携攻撃を披露していた白川 楓(la1167)がEXISやイマジナリードライブとシールドの関係を解説する。
「ナイトメア達はリジェクションフィールドで通常兵器による攻撃を遮断しますが、EXISも発動させることで同等の防御能力を発揮します。それにイマジナリードライブの一部にはシールドを回復させる能力もありますから、以前よりも被害を抑えながら戦えるはず。また、EXISはリジェクションフィールドを突破し、彼らを傷つける力があるから……」
「我々がEXISを使いこなせるようになればいつか仲間の敵討ちも、故郷も取り戻すこともできるかもしれないペンか!?」
「えーと……SALFにはナイトメアに故郷を奪われた放浪者が少なくありませんから、地球のことが終わり技術が追いつき次第……という可能性はあり得ると思います。いずれにせよ、2年前までただの民間人だった僕でも戦えるようになったんですから、皆さんも訓練すれば十分に戦えるはずです!」
 この発言に沸き立つ軍人ペンギン達。彼らは我も我もとEXISを手に取り、ライセンサーを相手に訓練を開始する。
 そのさなか、水音はアリーガードで仲間を守りつつ、多岐にわたる戦術を見せた。彼女は彼らに願う。どうか今は前を向いてと。
「トラウマを打ち破れるように頑張っていこうね!」



 訓練が熱を帯びていく中で、大勢いるペンギンの中にはやはり怯えを隠せない者もいた。
 一旦はEXISを手にしながらも、戦いから逃げるように訓練場の隅に身を寄せる者達――そんな彼らのもとに【悪夢粉砕機構『蜜月猟』】所属の透羽=アリゼ・橘(la3690)と桐原深咲(la0106)が歩み寄る。
 すぐさま顔を硬直させるペンギンに透羽は(さて。何とか出来れば良いんだけど)と逡巡しつつ優しく微笑んだ。
「僕らは君達に答えを急いでいるわけじゃないんだ。それより悩みや吐き出したいことがあったら、僕でよければ聞かせて。心の中に澱ませるより言葉にすることで見えてくるものもあるかもしれないから」
 彼女はそう言って子供ペンギンの頭を抱き寄せ、よしよしと撫でる。
 深咲も「秘密は守ります、なんてね。まあのんびり話しましょうか」と笑顔を作り、床に腰を下ろした。
 そこからふたりが聞き取ったのは多くの悲劇。家族や友人の死、故郷の消失、先細っていく未来への絶望。
 それらを咀嚼するように聞き取った透羽は、彼らの傷口をいたわりながら「辛かったよね」と何度も呟いて抱きしめる。
(ピングイノ星での戦乱がこの子達の心身に大きな傷を齎した。戦乱の収束も心の傷の癒しも簡単に叶うものじゃない……だから痛みを共有するしか、今は)
 ――その時、今まで模擬戦で派手な戦ぶりを見せていた【F.A.Lucifer】小隊長のユリア・スメラギ(la0717)がふいにペンギン達に歩み寄ると静かに語り始めた。
「ねえ、知っているかしら。ライセンサーは適合者でなければなれない反面、あたしのような戦いと無縁だった元民間人も多いの」
「僕らと同じ?」
「そう。元々はあたしの弟がライセンサーで、でもナイトメアに殺されて。それであたしは復讐のために剣を執った。でもライセンサーとして戦っていくうちに不思議と復讐の感情は静かに消えていったの。それはあたしなりに新しい目標が出来たからかもしれない」
「目標?」
 きょとんとした顔でユリアを見上げるペンギン。するとユリアは先ほどまで憂いを帯びていた顔に穏やかな明るさを宿した。
「あたしの戦う理由は……弟が望んだ平和な世界を姉として実現させる為、ね。自分をいたわることも大切だけど、自分を諦めてもいけない。少なくとも今はそう思うわ」
 そう言い残し、再び訓練に戻るユリア。深咲は彼女を見送りながらペンギン達に声を弾ませる。
「あの、さ。直接戦闘以外でも悪夢打倒に貢献出来ることは多いんだよ。開発整備、ライフラインの整備や娯楽の提供とか。そういうのを兼業でやってるライセンサーは多い。だから君らもやりたい事をやろう。もし武器を取る気になったなら歓迎。楽しいぜ」
「そうだね。完全な結論が出る前に裏方仕事でSALFを知るのもいいかもしれない。優秀な人材は万年人手不足だからね」
 透羽はこくりと頷くと、激しさを増していく訓練を静かに眺めた。
 その一方で、未だ治らぬ傷を持つペンギン達に【GLORIA】所属の桜壱(la0205)は健康状態を確認すると、適切な投薬や治療を行いながらおもむろに心の傷を吐き出させた。
「……そうでしたか。それはとても恐ろしく、苦しかったでしょうね。でもここに来たからには大丈夫。貴方達が自分で納得した道を選べる時間くらい、Weが守ってみせる。だからもう恐れないで、それを乗り越える方法を一緒に考えましょう」
「……うん」
「それと一つだけ、どうか忘れないで。貴方を一番大切にできるのは貴方自身なのです」
 そう言って治りかけの傷を包帯越しに優しく撫でる桜壱の左目にはペンギン達の笑顔が映っていた。



 息荒くEXISを握るペンギン達に訓練終了を知らせる笛が鳴り響く。
 それまで連携の大切さやイマジナリードライブの可能性を彼らに教えてきた鳥太郎はサングラス越しににっと笑うと、彼らに手を伸ばした。
「ほら、協力すれば俺達のことも徐々に押し返せるようになってきた。俺達とそんなあんた達の力、合わせればかなりのもんだと思わない? そうすりゃいつかきっと星にだって手が届く……なんてね!」
 もちろんまだペンギン達は正式にライセンサーとなったわけではない。しかしその瞳には強さが宿りかけている。
 そこで愛くるしいペンギン姿の来火が動画の締めにとことことペギーに向かい、凛とした声を張った。
「故郷を諦めるほど追いつめられていたなら怖いのも当然だ。……だがそのトラウマはここで守られていて解消出来るものだろうか? 今君の目の前にこれからの運命を変えるかもしれない力がある。これからも諦め続けるか?」
 するとペギーは同胞たちの顔を眺め、逡巡した。以前と異なり悲しみを抱きながらも立ち上がろうとする者、インベーダーへの報復に闘志を燃やす者が確かにここにいる。
「戦うかどうか、それを決意するのはペギー達だ」
「それはワタシが一存して決めることではないが、まずはワタシが共にあると宣言するペン」
 そう言って来火と握手を交わすペギー。次いで血気盛んなペンギン達が拳を天に突き上げた。
 和火はその決定的なシーンをクローズアップし、世界に配信する。
(これで世界中の放浪者に情報が行き渡るはず。どうか彼らの前途が開けるように……)

 翌日、ライセンサーとペンギン達の交流は世界中のメディアで紹介され、驚きと喜びを齎した。
 一方で――秘蔵の弟映像コレクションが増えた和火はペンギン来火の映像を見返すたび満足げに微笑むのであった。

リプレイ執筆
ことね桃

リプレイ監修
WTRPG・OMC運営チーム

文責
株式会社フロンティアワークス
  1. 放浪者説得(PC参加)
  2. 戦闘介入(AC・キャリアー参加)