3フェーズリプレイ一覧

  1. マスターズリーグ
  2. ルーキーリーグ

2.ルーキーリーグ

「第1回ライセンサーバトルカーニバル、まずはルーキーリーグの決勝です」
 実況席でそうアナウンスを開始するのはリシナ・斉藤である。
「解説にはお馴染み……らしいんですが、シヴァレース・ヘッジ博士に来て頂きました」
「どーも。っていうか、らしいって台本にツッコミを入れるなよ」
「そもそも、実況役を押し付けてきたのは博士の方なのに、まるでこちらが博士を呼んだみたいに……」
「マイク入ってんぞ」
 少しの沈黙。の後、気を取り直した様子のリシナの声が響く。
「……失礼しました。
 決勝の模様をお伝えする前に、決勝参戦者の簡単なプロフィールを紹介します――」

 プロフィール紹介が終わり、会場のモニターが決勝開始へのカウントダウンを表示する。
「……今更ですが、どうして私たちがこんな事をしなければならなかったのでしょうね」
「あのおっさんの口車に真っ先に賛同しちまったからだろうなぁ……。まぁ、こういうのもたまにはいいだろ」
 そんな二人の小さな会話をよそに、ルーキーリーグ決勝の開始を告げるゴングが鳴り響いた。

●戦闘開始
 会場のモニターが10の個々を映す小さい画面と、ピックアップした映像を映す大画面とに区切られた。
 開始直後、参加者たちはまだ索敵も兼ねて各々の思惑通りに移動している。
 その中で最初にピックアップされたのは芳野(la2976)。全力移動で移動する者もいる中、彼女は遮蔽物を利用しながら少しずつ移動していた。
「よしのんファイトー! ……つっても、よしのん強いから心配ないっしょ?」
 clover(la0874)はモニター越しの彼女にそんな声援を送っていると、芳野がモニターに目線を飛ばす。
 そして移動しながら小さく手を振った。
 観客席に居る常陸 祭莉(la0023)はその様子を見て困惑してしまう。自分に向けて手を振っていたのではないかという想像が過った。
 さらに困惑の原因はもうひとつ。
「……なんで、母さんと店長が決勝で並んでる……の?」
 『店長』とは同じく決勝参加者であるゼロ=シックチップ(la0672)のことである。
 近しいライセンサーが二人も決勝の舞台にいるのはどちらを応援するか若干困るのだが――この場合、母の応援をするのは少しばかり恥ずかしい、なので……。
「ジャンク屋、代表……がんば……」
 彼の声援は、ゼロに送られた。一方の芳野はといえば。
(祭莉ー、儂がんばるけんなぁ)
 祭莉の予感は的中していたのだった。もっとも、誰にも伝わりはしないのだが。

「店長さーん、優勝したら店で豪華に祝勝会やりますよー!」
「店長! がんばるっす! 宣伝効果で店も大繁盛っす~!!」
 ゼロに対しては他にも、桐生 柊也(la0503)や源三郎(la0740)らの応援があったりだとか、笹良 権之介(la0137)らが観客席で販売するたこ焼きの幟には「ゼロ=シックチップを応援しています!」などと書かれていたりしており、ルーキーリーグの決勝参加者の中でも一際大勢の応援を受けていた。
「何や……?」
 そのゼロは、開始後少し経過したところで不意にちょっとした違和感を感じ、周囲を見渡す。
 視界の端に、ソレイユ・フラム(la0139)の姿が映った。
 間違いなくソレイユもゼロを視認している。それどころか、既にスナイパーライフルを此方に向けて構えているではないか。
 いきなり退場はよくない。ゼロは来た道を引き返し始める。

(殴り合いだと勝ち目は無いから、スナイパーらしく狙い撃っていくわよ!)
 そんな思惑を元に、ソレイユは自分と距離を置こうとするゼロを追う。
 追うと言っても、勿論そんなに距離を詰めるつもりはない。感覚を研ぎ澄ませ、ライフルの引き金を引く。
 銃声。刹那の後に弾丸が空間を切り裂く。が、
(かわされた!)
 ソレイユは思わず唇を噛む。
 遙か前方を往くゼロの動きからして、手応えはなかった。いざ射撃をされた時の準備を、ゼロがスキルを含めてしっかり取っていたのが大きい。
 ゼロは引き続き後退していたし、ソレイユも一旦態勢を立て直す必要がありそうだった。彼女も自らゼロと距離を置き、この場での戦闘は終了する。

 だが、ゼロの動きにはまだ続きがあった。
 ソレイユの発砲音がアグラーヤ(la0287)には聴こえており、戦闘と見做してやってきた彼女と遭遇して『しまった』のだ。
 他に誰もいないこの状況はゼロの思惑的にはよろしくない。追ってくるであろうことは勿論承知のうえで、ゼロは別方向への撤退を開始した。

●最初の脱落者
 一方、花咲 ポチ(la2813)は、身を潜めるため、開始直後に全力移動で手近な樹木地帯へと移動していた。
(愛しき『人間』の皆様。臆病なわたくしの、ささやかな策をお受け取り下さい)
 後は超射程を活かしてここで待ち続け、他の参加者の不意を打つ算段だったのだが、その前に一つの誤算があった。

 樹木地帯は確かに、静かだった。
「来ませんね……」
 飛んで火にいる何とやら、が実行出来るのはいつになるのか。などと考えていると、不意に何かの気配を感じた。
 否、感じざるを得なかった。
 何故ならそれは、目にも留まらぬ速さで自分の身に迫る危険そのものだったのだから。
 しかし文字通り視認できなければ、いかにポチが待機していたところで回避することは難しい。
 気配を察してからわずか一瞬。それの正体を掴む前に反射的に回避を試みるも、取れる選択肢は多くない。
 そこで生じた逡巡が決定打となった。
 ポチの身体を、銃弾が貫く。一発でシールドを打ち破られた。
「あ……」
 これは駄目だ。受けてはいけないダメージを一発で持っていかれた。
 身体に力が入らないポチは木から落下し、彼女を映し出していたモニターに『K.O.』の文字が表示された後、暗くなった。

 その様子をモニターで見ていた観客席が沸く。
「うまくやりましたね」
「花咲も発想はよかったけどな。まさか樹木地帯に駆けていく姿を目撃されていたとは思わなかったんだろう」

 狙撃者はアンヌ・鐚・ルビス(la0030)。
 ポチが潜伏先として目星をつけたた樹木地帯へとより近くに配置されていたアンヌは、全力移動で駆け抜けるポチを視認し、即座にエリアスナイプを行った。
 後は続くターンで僅かに不足している距離を詰め、狙撃銃による一撃必殺――というわけである。アンヌはその後、先程までポチが居たエリアに侵入し、リロードしながら待機に入った。

 その頃、いせ ひゅうが(la3229)は戦場の東側から南へと移動していた。
 南東部にはビル群が広がっている。隠密を駆使し徹底的に物陰に潜み、隙あらば遠距離から攻撃する狙いだったのだが――そこで、坂本 雨龍(la3077)と遭遇した。
 お互いに他の参加者との距離感や遮蔽を気にして移動していた故にビル群に入り込んだのだが、ビルの遮蔽をくぐり抜けた二人が互いの存在に気づいたときにはもはや相当な距離まで接近してしまっていた。こうなると戦闘は避けられない。
 先手を打ったのは雨龍。全力移動で接敵すると、勢いのままに爪の付いた手甲を下から振り上げる。
 既の所で回避したひゅうがは後退しながら氷の槍を生み出したものの、グラップラーだけあり回避能力に長けた雨龍はこれを難なく回避した。それどころか反撃とばかりに再度肉薄、今度の一撃は命中し、ひゅうがは吹っ飛ばされる格好になった。
(このままだとまずいです)
 ひゅうがに少し焦りが生じる。一撃離脱をしようにも雨龍はすぐに接近してくる。勝つ以外に逃げ場はないが、今の状況だと回避能力の差分だけ此方が不利だ。
 だからといってそんな相手に取れる手段は限られているのだが。
 その限られた手段は同時に、直撃さえすれば一撃必殺ものの威力を相手に与えるものだった。

(恐縮ですけど、勝たせて頂きます)
 遭遇してからいまだわずか数十秒。その短い時間で、雨龍は圧倒的優位な状況を作り出したといっても過言ではなかった。
 思わぬ遭遇に一瞬焦りこそしたが、懐に入れれば負ける相手ではない。
 ひゅうがの命中精度は、雨龍の俊敏性に及ぶほどではない。ワンサイドゲームに持っていけるという自信はあったし、実際そういう状況になった。
 後退する相手とそれを追い詰める自分、余裕があるのはどちらかは明白だ。
 だからこそ雨龍は確実にトドメを刺しにいった、はずだった。
 再び距離を離して直線状の射撃攻撃を放つひゅうが。これを回避すべく地面を蹴り上げようとした瞬間、不意に体がよろめいた。
「……あ、が」
 直後にシールドが破られ強烈な衝撃が叩き込まれる。
 間違いなく攻撃を見切っていたはずだった。己の身に起きた事態を整理する間もなく、雨龍の意識は暗転した。

「坂本選手、戦闘不能です。起死回生の一撃でした」
「いせも必死になった甲斐があったな。こんだけ強力なレールガンが直撃すりゃ、そりゃ立っていられる奴のが少ないだろうさ。
 それに坂本は回避をしようとした瞬間に、ちょっとした瓦礫に足をとられていた。まさに勝負は時の運ってやつだな」
 実況と解説のそんなやり取りをよそに、雨龍を映していたモニターも表示されなくなった。

●中盤戦・1
『坂本雨龍選手、戦闘不能』
 そういったアナウンスは、当然戦場内のライセンサーに対しても行われている。
 だが、それをまともに聞いている余裕がない者がいた。
 ゼロである。
 彼は今もなお、アグラーヤに追跡されていた。
 相手も同じクラス……このバトルロワイヤルで、早期で相手するには最悪の相性だ。

 一方で、ゼロを追い続けるだけのこの状態は、本来奇襲を狙うアグラーヤにとっても都合が良いと言えた。
 クラスこそ完全に一致しているが、此度の戦闘における戦略性はまるで違った。
 ゼロがこのまま戦う素振りも見せず先を走リ続けるというのなら、どこかに潜む敵が真っ先に目にするのは自分ではなく、ゼロだ。
 特に遠距離攻撃を得意とする敵を炙り出すための的になってくれるというのならば、それが一番いい。

 もちろん、ゼロも充分に自分の置かれる状況は理解していた。
 あまりに遮蔽物がない場所では相手を撒きようがないどころか、スナイパーなどの目に付きかねない。見つかるだけならいいのだが狙撃されるのは非常によろしくない。
 故に瓦礫の山が積み重なる場所を進むことを選んだのだが。
「捕まえた」
 一度登攀に失敗し足を取られたのがタイムロスになった。途中でアグラーヤに接敵を許してしまう。
 足甲による力のこもった一撃を回避しようと攻撃の流れをイメージするも、またしても足を瓦礫に取られてしまった。直後にシールド越しに腹に強い衝撃が走り、身体が宙に浮くのを感じた。
 数メートル離れた瓦礫に叩きつけられる。それでもこの場で戦闘を続けるのは、ゼロにとっては得策ではない。反撃よりも、逃走を優先した。
 そこから先はアグラーヤもゼロと同様に移動に手こずったらしく、その後は追いつかれることなく瓦礫の山を通り抜け――桃簾(la0911)と遭遇した。
(あぁ、やっとや)
 両者の思惑の元で繰り広げられた「賭け」に勝ったのはゼロだった。
 やっと自身の戦略を実行できる。
 ゼロはここからが本番とばかりに足に力を込めた。

 自身が働くスーパーの制服姿で戦場に現れていた桃簾。その目的は優勝以前に、店の宣伝にあった。
 長く場に残存して存在感を放つために、自身を映すモニターの存在を常に意識しながらも壁際を素早く移動していたところに、前方にゼロと、それを追跡するアグラーヤが現れた。
 三人の立ち位置は両脇に遮蔽物があり、ゼロを挟み込んだ格好となったが、ゼロは速度を緩めるつもりはないようだ。
「本日のお買得は店員が解体したマグロです!」
 戦闘に入ると観客も注目するし、いい宣伝効果がある。そんなわけで小太刀を構えた桃簾はそんな宣伝文句とともに一閃を見舞う。
 しかしゼロはこれを読んでいたらしい。跳躍してかわしたかと思うと、桃簾の上を通過して着地、なおも疾走を続けていく。
 こうなると今度は挟まれたのは桃簾自身。とはいえ、ゼロには攻撃の意思はないようだ。
 一方で、ゼロを追ってきていたアグラーヤは、立ちはだかる桃簾を前に足を止めた。

「ゼロ選手はずっとこれを狙っていたようですね」
「なかなか対象が見つからず苦労したようだけどな」

 他の参加者同士をぶつけ合って消耗させる。
 その目論見が果たされたところで、ゼロはようやく一時の自由を得ることになった。

 その頃、戦場のやや西側のビル群を散策していた芳野は一つの人影に気がついて、物陰に身を潜めた。
 最初のゼロとの接触以後索敵を続けていたソレイユが、目の前の十字路を通り過ぎようとしていたのだ。
 勿論ソレイユ側も十二分に周囲を観察していただろうが、そもそも芳野がソレイユの姿を捉えたのは彼女が十字路から姿を消すほんの少しだけ前だった。
 つまりソレイユからすれば芳野に気づこうとするには後方の物陰にも隈なく目を向けなければいけないわけで、気付けというのは無理な話だろう。
 かなりの射程を持つスナイパーに視界に捉えられたら、そのまま射程外に外れることは難しい。だから芳野は動かず、ソレイユの姿が消えるまでやり過ごす。

 そのソレイユはといえば、芳野に気づかぬままビル群を通り過ぎようとした時――前方に、水樹 蒼(la0097)の姿を見つけた。
 まだかなりの距離はあるが、それもスナイパーなら大した問題にはならない。エリアスナイプで蒼を射程に収めてその時を待つ。
 しかし――戦場の外周沿いを移動していた蒼はソレイユの存在に気づいておらず、そのままスナイプの対象エリアを通過してしまう。
 ソレイユも慌てて追いかけるが、わずかにエリアスナイプの射程から外れてしまい、結局彼女を見逃すことになってしまった。

●中盤戦・2
 会場のモニターが大きく取り上げたのは、アグラーヤと桃簾の一騎打ち。

 先手を打ったのは桃簾。アグラーヤに肉薄し、力の籠もった腕で小太刀を振るう。
 アグラーヤはこれを回避し、返す刀で此方も足甲を高く掲げては振り下ろす。
 アグラーヤの踵が肩のあたりに張られたシールドを捉え、桃簾は衝撃で態勢を大きく崩しかける。
 しかし彼女も一発では折れない。なんとか足に力を込め踏みとどまると、低い姿勢からカウンターとばかりにもう一度小太刀を振り上げた。
 今度は此方もアグラーヤの頬を裂いて――。

「今日一番の肉弾戦です!」
「パワークラッシュの応酬だなありゃ。あそこまでいくとあとは火力勝負か」

 ヘッジの推測どおり、一撃が与えるダメージの大きさが勝負を分けた。
 攻撃と相手の防御、それらを考慮した時に、より効果的に一撃でダメージを与えられるのはアグラーヤの方だった。
 最後に桃簾が放った一閃はアグラーヤの胴を裂こうとするも、そこまでの深手には至らない。
 一方、小太刀を振り抜いた後のモーションバックを突いたアグラーヤの膝蹴りが桃簾の腹に入ると、ついに耐えかねた桃簾が数歩引く。
 そのまま動けずにいるところにアグラーヤは再度肉薄すると最後の一撃を見舞った。

『桃簾選手、戦闘不能です』
 そのアナウンスを聴いて、ゼロは「ふう」と息をついた。
(こうやって敵に敵をぶつけるっちゅうのも意外と骨が折れるもんやな――っと!?)
 特に戦闘に巻き込まれておらず、周囲に注意を向ける余裕があったのが幸いしたといえるだろう。
 とっさに回避行動を取ると、寸前までゼロがいたところを銃弾が貫いていた。
 撃ち込まれたのは、東の樹木地帯から。まだ距離があって視認はしにくいが、あそこにスナイパーの誰かがいる。
 ゼロはその方向へ向けて、今度は自分から距離を詰め始めた。

(なかなかうまくいかないわね)
 少し面倒臭そうな表情を浮かべるのはアンヌ。今いるのは、先程ポチを倒したエリアである。
 樹木地帯の外の射程範囲にゼロが入り込んだのでエリアスナイプを実行したものの、奇跡的な反応速度で避けられてしまった。当たったと思ったのに。
 うまくいかないのはそればかりではない。
 ゼロが、迷うことなくアンヌの潜む方向へと駆け寄ってきたのだ。
 リロードが間に合わない。牽制をする間もなく接近を許し、ゼロの足甲による一撃を食らう。
「いたたたた……」
 位置がバレたのであれば、留まり続ける理由はない。高速でのリロードを実行して樹木地帯を脱出、即座に反撃に出るも、先ほどとは逆に樹木地帯に留まったままのゼロには狙いが定まらない。
 ゼロはといえば、攻撃の為ならば開けた位置に飛び出すことも躊躇わず追撃に躍り出る。アンヌにはその俊敏な攻撃を避けきることができない。
 圧倒的に不利な状況のままアンヌは高速装填を使い切ってしまい、撤退を選ばざるを得なかった。

 が、ゼロ以外にも敵はいた。
 アンヌが逃げようとした先から、桃簾を倒し、かつ発砲音を聞きつけたアグラーヤが現れたのだ。
「なんなのよーっ!」
 逃げながら狙撃銃の引き金を引くも、照準を満足に合わせることも出来なかった一発をアグラーヤは難なく避けてしまう。
「これであと、五人」
 アンヌは意識が暗転する直前、ハイキックを叩き込んできたアグラーヤがそんなことを呟くのを耳にした、気がした。

「アンヌ・鐚・ルビス選手、戦闘不能です」
「姉さーん! 勝ったら、焼肉だぞー!」
 早くも二人を倒したアグラーヤにそんな声援を送るのは、彼女の唯一の肉親でもあるクラースナヤ(la0298)。一方で、
「アグー、負けたらアレな」
 ミリア・ラスティソード(la3398)はそんな応援(?)を飛ばしていた。アレとは一体何なのか明かされる日は来るのだろうか。

 一方、アグラーヤがアンヌへと一撃を叩き込むその僅かな間に、ゼロはその現場付近から離脱していた。またアグラーヤに追いかけられるのは御免だからだ。
 しかしながら逃げたら逃げたで、また別の狙撃手の射程に入ってしまう。
「またか……!」
 銃撃を、ギリギリのところでかわす。空間を切り裂く風圧がゼロの頬に強く当たった。

 エリアスナイプを放ったのはソレイユだ。
 最後のエリアスナイプだっただけに当てたかったが、当たらなかったものは仕方がない。
 接近されたら勝ち目はない。だからソレイユは、次は迷わず逃げの一手を取った。
 ゼロも今は事を構える気がないのか追ってくる気配はなく、安堵したものだが――それも僅かの間のことだった。
 逃げた先で、激化してきた戦場を少し離れた位置で警戒し続けていた芳野と遭遇してしまったのだ。
 リロードはまだ出来ていない。慌てるソレイユをよそに、芳野はにんまりと笑う。
「だいぶ激しくなってるようやなぁ。なら、こういうのはどうやろか?」
 言って放つは、ブラッディクロス。真紅の十字架の中心に据えられたのは当然ながらソレイユで。
 まるで彼女を爆心地とするかのように、大きな爆発が巻き起こった。

「何があったんや……」
 おそらくソレイユが逃げたであろう方向で巻き起こった爆発を横目に、ゼロは彼女とは違い北へと向かっていた。
 そろそろ戦場の外周に近付こうかという時、新たな敵との遭遇が待っていた。蒼だ。

「水樹、俺たちの分まで頑張ってくれ」
 蒼と同じ白狼丸(la3107)が願うような眼差しでモニターを見つめる。優勝したらケーキを作ってプレゼントしよう。

 そんな蒼は事ここに至るまで、一番消耗していないと言ってよかった。スナイピングの対象にされかけたが、いずれもすぐに射程から逃れていた。
 だから、ゼロが大分消耗している状態で此方に向かってくるのを待っている余裕があった。
 射程に入ってくるのを待って、高速の二連撃――旋空連牙を見舞うも、勢いが勝ったかゼロはこれを回避する。
「甘いな、嬢ちゃん」
 小さく呟いたゼロの膝蹴りが蒼を捉えるも、彼女はぐっと堪えた。
 ゼロの攻撃のひとつひとつは、決して痛手にならない。それでも、積み重なればいずれは危機に陥る。
 蒼にとっての最大の武器は、一撃の大きさだ。
 偶然でもいいから、ただ一度攻撃が当たればそれでいい……ゼロへと向けて繰り返される旋空連牙。
 力と技の対決は――ついに蒼の振るう斧の一撃が、ゼロの身体を捉えることで決する。
「手応え、あり……!」

「ゼロ選手、ここで脱落です」
「水樹の方は消耗がなかった分、命中率を捨てて手数勝負に出る余裕があったか。
 しかし、ゼロも逃げて戦ってを繰り返して、ずいぶんと戦場を荒らして回ったな。
 特に、スナイパーたちはこの男に作戦が狂わされたといっても過言じゃないだろう」

 こうして残るは、四人。

●決着
 樹木地帯の中でもまた一つ動きがあった。
 北へ向かっていたひゅうがと、南へ向かっていた芳野が鉢合わせたのだ。
「こんなところやとやりにくいわあ……」
 などと言いながら芳野がスキルの射程内に収めようとするも、僅かに届かない。
 逆にひゅうがは芳野が接近したのを利用して、先制の氷の槍を放つ。が、これも芳野は回避に成功した。

 樹木地帯から飛び出した芳野だったが、まだひゅうがは隠れている。
 飛び出してきた氷の槍をかわすと再び樹木地帯に入り込む。ひゅうがは凍り閉ざす銀だけでなくレールガンも放ってきたが、樹木の遮蔽もあって芳野は距離を詰めながら迎撃を回避することに成功した。
 そして――樹木地帯の中で、本日二度目の大爆発が巻き起こる。

 気づけば巨大モニターの中の分割の数も大分少なくなった。
 戦場に残る参加者が少なくなった分索敵にも時間がかかったが、暫くして、相変わらず外周沿いを移動していた蒼が、アグラーヤと遭遇した。

「アグラーヤ選手からすれば、標的を横取りした相手になりますね」
「ずっと追っていたしな。もうちょっとで決着ってとこだからこそ起こる事態か」

 そんな実況解説をよそに、お互いが距離を詰め始める。
 先に攻撃の手を繰り出したのは蒼だったが、アグラーヤは彼女の斧の切っ先を読んでかわすことに成功する。
「そちらがそう来るなら」
 二連撃をかわしきったアグラーヤはそう呟くと、咄嗟に精神を集中させた。
 そうすることでより威力と正確性を伴った渾身の二連撃は蒼に命中するものの、やはり消耗が未だ少なめである蒼はまだ立っていた。
 その時である。

「おっと、芳野選手もここで戦場に姿を見せました!」
「どうやらここが最後の戦闘になりそうだな」

 戦闘音を聞きつけて周辺の様子を伺っていた芳野が、偶然にも姿を現した。
 全員が不意に鉢合わせ、奇しくも三つ巴のような構図になったところを、即座に崩しにかかったのは蒼だった。全力移動で芳野へ急加速とともに襲いかかる。
「びっくしたわぁ」
 精度の欠けた蒼の一撃を難なく回避し、切り返しにと芳野の放った一撃は、蒼を的確に捉えた。ここに来て初めて手痛いダメージを受けた蒼は思わず膝をつきかけるが、何とか耐える。
「ここまで来たからには……!」
 状況は芳野にとっても決して良くはないはずだ。飄々とした態度と裏腹に、顔色から余裕は感じられない。
 二人の攻撃の応酬の合間に、迫りくるアグラーヤ。
 その姿を視界の隅に収めながら、自らを奮い立たせた蒼が放った一撃は芳野のシールドを打ち破り、彼女の身体をも切り裂いた。

 とうとう残りは二人となり、しかも即座に戦闘となるだけあって観客席の盛り上がりは最高潮だった。
 とはいえ、流石に蒼もアグラーヤもそれほど余力があるわけではない。それはシールドも、手持ちのスキルにしてもそうだ。
 それでも先に動いたのは蒼。つい先程芳野にトドメを刺した時同様、勇猛なる行軍で敵を削りながら自らのシールドの回復を試みるも、敏捷に優れるアグラーヤには回避されてしまう。
 待っていたのはアグラーヤのカウンターだ。しかも連続攻撃。
 蒼はパワークラッシュこそ食らったものの、続けざまに放たれた旋空連牙・心による二連撃のうち、片方を何とか避けた。おそらく避けられなかったら、勝負はここで決まっていたかもしれない。

 再び蒼は、自らを鼓舞する為の一閃を放つ。
 アグラーヤも回避行動を取る――はずだったが、これまでの戦闘でシールドで防ぎきれなかったダメージが、不意に彼女の動きを鈍らせたのか。
 強烈な一撃が、届く。

 蒼が振り上げた斧の切っ先は、アグラーヤのシールドを切り裂いて。
 そのまま彼女の身体を、高く高く打ち上げた。

 シミュレーターの戦場の中からアグラーヤの姿が消え、残されたのは蒼ただ一人。

「戦闘終了、ルーキーリーグ優勝は水樹蒼選手です!」

 そんなアナウンスが蒼のもとにも届き――。

「……や、やった!」
 最後の方は緊張で顔が強張っていた彼女も、やっと表情を緩めるのだった。

リプレイ執筆
津山佑弥

リプレイ監修
クラウドゲート

文責
株式会社フロンティアワークス
  1. マスターズリーグ
  2. ルーキーリーグ