3フェーズリプレイ一覧

  1. マスターズリーグ
  2. ルーキーリーグ

1.マスターズリーグ

●十人の猛者たち

 ルーキーリーグ決勝戦の余韻がいまだ冷めやらぬ中、陽気なアナウンスが会場に響き渡った。
「皆さんお待ちかね! ライセンサーバトルカーニバルのメインイベントもいよいよ大詰め! マスターリーグ決勝戦を開始します!! 実況はわたくし、ペドロ・オリヴェイラ! そして解説にはSALFを代表するライセンサー、水月ハルカさんをお迎えしました!」
「よろしくお願いいたします」
「んー? ハルカくん堅いねー、もっとお気楽にどーぞ」
「そのようなわけにも参りません。オリヴェイラ社長の南米戦線での活躍はつとに名高く――」
「はいはい、そーいうの禁止! この放送中は敬語使ったらダーメ!」
「……了解した。ではよろしく頼む、ペドロのおっさん」
「キミ、意外と簡単に割り切るタイプね」



「それでは選手入場! ……と言っても、もう全員シミュレーター用の小部屋にそれぞれ入ってもらってるね」
「相手の装備を見て自分の装備やスキルをぎりぎりで変更するなどの駆け引きが予想されるからな。それはそれで面白くはあるが、きりがない」
「応援してる人のコメントも、何人分か本人にお届けするよ」

 最初に三代 梓(la2064)が巨大モニターに映し出された。
「まずはBAR『MISHIRO』のママにして腕利きライセンサーの三代梓! 綺麗な薔薇には棘があるってやつだね!」
「ライセンサーの力を棘呼ばわりするなおっさん。クラスはスピリットウォーリアのグラップラーだが、今回の戦闘スタイルとしては完全にグラップラー寄りだな。かわして殴る、敵に回したら非常に厄介な相手だ」
「『どこにでもいるバーテンダー』はLBC決勝にもいるわ! 表彰台にも……?」
 モニターの向こうから梓が微笑みかける。元舞台女優ゆえか、その視線移動などは堂に入ったものだ。会場からも主に男たちの魂を抜かれたような吐息が漏れる。
「梓君がんばれがんばれ絶対行けるって諦めないで諦めたらそこで終了だよ」
 チケットの束を握りしめながら、彼女のパートナーであるシン・グリフォリシア(la0754)が祈るように呟き続けている。



 次にNoli me Tanger(la2823)――グレイロウが登場する。
「ダンディな男のお出ましだ! 紫煙と酒精が良く似合うグレイロウ!!」
「スナイパーはスナイピングによって圧倒的な火力を生む。そこにセイントのスキルによる自己回復が加われば、待ちに徹して一対一の局面なら非常に強力だろう」
「オッズでも第三位、堂々の優勝候補だねえ!」

「神父様……どうかご無事で……」
 シスター・ジャンヌ(la2827)はグレイロウを気遣い、手を合わせてはらはらする。
 たまには自分の御心のままに、あまり他の方を気遣うことなく……彼の勝利のみを祈る。



 絢爛、とも呼べる美女が現れた。
「誰よりも美しく戦えることを証明したい……そのために、全員、電子の海に華と散ってもらうわ!」
「その堅牢な防御力はライセンサー屈指! オッズ第二位と評価も高い、ユリア・スメラギ(la0717)の登場です!」
「決勝まで残った唯一のゼルクナイトだ。セイントでもあり、耐久力では一、二を争う強さだろう。攻撃力自体も高く、隙は少ない」

「がんばって下さい! ユリアさん! 全力を出せるように、全力で応援していますから!」
 恋人の霜月 愁(la0034)が届ける声に、ユリアはうれしそうに手を振って答える。
「愁君ありがとう!」
「……素敵な姿、見せて下さいね?」

「今のわたくしは、あの女に遠く及ばないと認めざるを得ません……」
 豊かな髪を縦ロールにした少女が声を張った。
「ユリア……! このエリーヌ・ペルグラン(la3172)、特別に貴女のバックアップをしてさしあげますわ! 貴女の強さ、わたくしの前で証明してみせなさい!」
「ツンツンのエリーヌちゃん可愛い!」
 二人のやり取りを眺めつつ、月鏡 由利菜(la3027)は微笑む。
「出場している皆様いずれも、素晴らしい方々ばかりですが……やはり私は、ユリア姉様に優勝していただきたいです! どうか、最後まで立っていて下さい……!」



「さすがに今回優勝すれば、自称か弱いも返上か? 雨崎 千羽矢(la1885)が登場です!」
「この面子の中ではどう見てもか弱いじゃないですか!」
「そんな面子が並ぶマスターリーグ決勝に進出してる点で君も尋常では……」
 当人からの反論に、ハルカは指摘せずにはいられない。
「バランスが良いグラップラーにしてセイント。普通に考えればサバイバビリティは非常に高く、戦い方が問われることになりそうだ」

「いけー、ちひゃーちゃん! 戦うグラ×セイ乙女の力を見せてやれー!」
 セーラー服着用の柳生 響(la0630)が声援を送る。会場の席には「グラ×セイ乙女の希望の星!」と記した横断幕もぶら下げる。

「皆様、スポーツマンシップにのっとり、がんばってくださいまし!」
 軍服風衣装でバトントワリングする華倫(la0118)は、本選で当たった千羽矢を中心に皆を応援する。
 今は敵でも明日は肩を並べ背を任す同志なのだ。遺恨は残らぬようにフェアプレイを重視して戦って欲しいと願う。

「ちーちゃんがんばれー! 大好きー!」
「ありがとー!」
 Sala(la0720)に返事をして、少女はいくさ場に向かう。



「次に紹介するのは、小隊ティアマトを率いるダスク・L・オーゼン(la2698)! 炎を操る巨躯の紳士!」
「スピリットウォーリア兼ネメシスフォースだ。今回は回避に重きを置いているようだな。そして彼も攻撃力が非常に高い強者だ」

「うぉぉぉぉ!! オーゼンやっちまえ!!! 俺の分まで暴れて来るんだぜ!! ティアマト魂を見せてやれ!!」
 ティアマトの横断幕を作って巨大な棒に括り付け、炎のオーラを撒き散らしながら旗のように振って応援するはヴォルフガング・ブレイズ(la2784)。
「気張ってお行き、ダスク! あたしらがついているよ! あんたの強さ、存分に見せておやり」
 ヴァルヴォサ(la2322)も発破をかける。
 それらの声に、ダスクは所作正しく悠然と手を振った。



「グラップラーはここにもいるぞ! 腕の立つゼルクナィト×セイント三人を敵に回して決勝進出した狭間 久志(la0848)!」
「彼もグラップラー要素が強い。ただネメシスフォースとしてフォースアローも使えるので、それがどう活かされるかも見どころになるかもしれん」

「流石にマスタークラスは強者揃いだが、俺は久志なら勝てると思ってる。あいつの回避はトップクラスだ。それに誰より冷静な判断力を備えてるからな」
「私の世界の彼は“素戔嗚尊”と呼ばれていました。彼が使った神剣の名に由来するものでしたが……鮮やかな身のこなしと太刀捌きで敵をも“酔わせる”のです。この世界の彼もそうなのでしょう」
「皆、ライセンサーとしての経歴に然程違いは無い。であるならば明確に違いが出るのは“生き様”や“信念”だ。己を確と持ち、己の武器を把握し。最大限に活用しろ」
 不知火 仙火(la2785)と日暮 さくら(la2809)、そして不知火 仙寿之介(la3450)らが声を掛けていく。そして仙火が一同を代表するように声を張り上げた。
「久志! 格好良い立ち回り、期待してるぜ!」
「うおおおおおおおおおお狭間どのおおおおおお!!!! ファイトですぞ―――――!!!!」
 そしてNoname(la1052)もスタジアムの席でガッシャンガッシャン跳ねながら友人を応援する。

「勝ち残った手前、見せ場の一つくらいは作らんとな……!」
 久志は思いを新たにした。



 続いてスナイパーにしてスピリットウォーリアの赤羽 恭弥(la0774)が現れる。
「名古屋では残敵掃討の作戦立案に大きな働きのあった男だ。今回も彼の戦術には期待したいところだな」

「あかばねへ。こんどあいすじぇんが、しにいきま、す。あいすじぇんがも、けっしょーせんも、たのし、みー」
 灰空 散華(la2998)のコメントに、恭弥も「STIで待ってるよー」と明るく応じる。会場もどこかほっこり。
 次いで高柳京四郎(la0389)が「堅いけど泥臭い戦いを期待してます」と声を掛ける。
 そしてシグニット・ミッドフォード(la2773)も(うう、どの人も応援したいけれど……やっぱり、僕達の小隊長に優勝して欲しいな)と悩んだ末、「赤羽さん、がんばってくださーい!」と手を大きく振った。

 だが、まともなのはそこまで。
「勝てなかったら斬りに行く故……そのつもりでおれよ、赤羽? なに、それくらいの緊張感があった方が楽しかろうて、かかかっ!」
 鬼 迅衛(la0556)は実に晴々しいにこやかな表情で、本戦で自分を撃った赤羽に宣告する。
「ちょ、ちょっ、待っ――」
「赤羽恭弥を応援ですの」
 十八 九十七(la3323)が続いて手を挙げる。
「赤羽ェ! 勝て! 勝つんだ赤羽ェ! こちとら貴公に大枚賭けンだ! 負けて大損とあらば! 深夜の!新月の!夜道コースですの!」
「俺への応援、変なコメントが多すぎない?!」



「明るく優しいネメシスフォース! 茅野 敦(la2650)!」
「魔導書装備で、スナイパー要素は薄めだな。戦闘とは別の意味でだが、彼の視野の広さには、私も助けられたことがある。もちろん戦闘力も高いので、両者が噛み合っていい結果になることを期待したい」

「フレーフレーあっちゃん! フレフレあっちゃ~ん♪」
 藤井 亜梨紗(la2744)はいつもより安心して応援していた。
「依頼ではナイトメアが相手ですから心配が先立ちますが、お祭りですからね♪ 皆の希望になる為って言ってたものね。孤児院の皆もきっと見てます! ファイトです♪」
 その隣で稲葉 奈津(la3052)がはやし立てる。
「がんばれー! 敦~! 良いとこみせたら、きっと亜梨紗がご褒美くれるわよ~♪ 何かな~何かな~楽しみよねっ? ……集中力欠くかしら?」
「う、うるせえよ!?」
「とりま、思いっきりやっちゃいなっ!!」



「小隊CBを率いて真の漢を目指す好野 渚(la0076)! 名古屋の大規模作戦では子蜘蛛の爆破処理で大きな功績を上げました!」
「ネメシスフォースにしてスピリットウォーリア。範囲攻撃には目を見張るものがある。はまれば爆発力はすごいだろう」
 渚は重体の身でありながら、熱い鉄板を抱えていた。

「隊長さん、重体には驚きましたが大会に影響がないようで何よりです。素晴らしいですね、シミュレーター。今度特訓しましょうよ」
 濡烏 夜見(la0107)は渚の戦いが不完全なものにならないことを強く喜んだ。
「それはさておき、全力をもって応援します!」

「それにしてもあの鉄板は何だろうね? 今回のルールでは携帯品までは使用できないのだけれど……」
「お守り、なのであろうか。戦士はジンクスを大切にするものだ」

「此処までこれた俺の運命力とこの熱い鉄板の集まる皆の応援力を信じる」
 渚のその声に応えるように、加倉 一臣(la2985)は観客席で鰹の描かれた大漁旗を派手に振る。
「男は! 逆境でこそ燃えるもの! 俺は! 渚くんの運命力と! 鉄板を信じてる!」
「わっしょいわっしょい!」
 するとそんな一臣をノーリ=シュバイツァー(la3070)らが担ぎ上げる。
「な、なんだと……俺が、俺たちが鰹神輿だ!!」
「ハルカくん、あれは?」
「……奇祭の一種、であろうか。担がれている彼は……確か先日北海道では鰹のナイトメアに飲み込まれたそうだが」

「渚ー! ブチかましてやれー!」
「マスターは一択で渚応援すんでぇ。がーんばれぇー♪ 勝てたらご褒美やでぇ♪」
 九十九里浜 宴(la0024)と泉(la3088)も、友人を応援する。



「ところでハルカちゃ~ん」
「やめろおっさん」
「……ハルカくん、今回の大会どう思うかな? 競い合って高め合う、それもシミュレーター使用だから血も流れない、なかなかの名企画だと自画自賛しちゃうんだけども?」
「おおむね同意ではあるが……ライセンサーの本来の戦い方との齟齬は大きいな」
「ふむふむ?」
「我々は力を束ねてナイトメアに立ち向かうために技を生み出し鍛え上げている。ゼルクナイトの敵を惹きつけるスキルも味方を庇う能力も、このルールでは活かしようもない。セイントの有用極まりない範囲回復も、この戦場では無意味だ」
「そこは割り切るしかないんだよね~。ルール改良は次回以降への課題ってことで」

「……まあ、にも関わらずオッズでの一番人気はセイントでネメシスフォースの彼女なのだが」
「それも無理はないところ! どんなナイトメアだろうと首を落とせば殺せると、シンプルかつワイルドなセオリーで斧を振るうお姉さんの登場だ!!」
 最後に紹介された紅迅 斬華(la2548)に、会場は大いに盛り上がる。

「強烈な印象を残す戦い方に見惚れる、というかある種の憧れを抱いたので応援させていただきます。この方なら優勝できると思い、チケットも買わせていただきました」
 各務 与一(la0444)が眼鏡の奥の目を細める。
「今日は何人狩られるのかな?」と、京四郎も興味を隠せない。
「もふ~くびかりのおねえちゃんがんばれもふ~! もふもふ、おべんとおいしいもふ~」
 おまんじゅう(la0254)は応援しつつ、売り子さんが来るたびに呼び止めて飲み食いする。
 それらの声に応えて愛用の斧を高々と掲げる斬華。会場は熱狂し、御鏡淵 優彌(la0130)は本戦での彼女との対戦を思い出してそっと首をさすった。

 が、シミュレーター装置へ入る直前。彼女は斧を壁にかけ、代わりにスナイパーライフル「ドロレス」を手にした。
「これは予想外! 首狩りお姉さんが斧ではなく狙撃銃を得物に選んだ!」
「ふむ……理屈はわかるが」
「おおっと? 解説よろしく!」
「視界の確保を図ったのだろう。今回のルールでは長射程の武器を装備することで遠くまで見えることになる」
「まあ、射程7なのに動いてない敵は5以内じゃないと見えないなんてのは理不尽だしね」
「ライフルも日頃から使いこなしているし、悪い選択ではないだろう。が、さてこれは吉と出るか凶と出るか……?」



「さてと……上の戦いとやらを見せてもらおうか」
 玖瀬=ロイスタンド(la0741)は酒を片手に観戦する。自身が本選で敗れた首狩り姫と、以前一緒に依頼に行った敦に着目していた。
「どうせならお前らに勝って欲しいもんだ」

 チアリーダー風のアイドル衣装で、水無瀬 奏(la0244)は華麗なバトンチアを披露し応援会場を盛り上げる。個人的に応援しているのはユリアと梓。
「優勝めざしてファイトです!」

「みんなーがんばってねー」
 お弁当を準備して悠々観戦する野津 雪信(la0182)。
 注目するのは交友のある敦と渚だが、負けても勝っても参加者を褒め称えたい。

「恭弥さんが導き出された勝利への方程式の解、見せてください」
 フェリシテ(la3287)が応援するのは恭弥とユリアだ。
「ユリアさんの美技、皆さんも見てくださいね」

「え、何っ? バトルカーニバル?? ちょ、何よ、いつの間にそんな面白そうなコトやってたのー?! てゆか敦にグレイロウに斬華おねーさんに店長サンもマスターの決勝進出してる、すごい! 誰を応援しようか迷っちゃう……」
 キャロル・スノウホワイト(la2690)は頭を悩ませると同時に、ついつい悔やんでしまう。
「もー、知ってたらあたしも絶対参加してたのに……! まぁいいわ、みんながんばー!」

「さてハルカくん、どのような試合になると思う?」
「各人がかなり尖った構成にしているようだ。出くわす相手との相性次第では、なかなか決着がつかない長期戦も、逆にあっけないほどの一撃決着もあるだろう。勝敗自体に関心が向くのは当然だが、各々の思考や努力を見て欲しいし、巡り合わせの妙味を楽しむのもありだろうと思う」


●戦場配置

「鉄板が使えない、だと……!」
 相手の注意を惹くデコイとして設置しようと思っていた鉄板が、仮想空間では手元に存在しないことに、渚は愕然とする。
「まあ、しかたないな」
 だがすぐに気を切り替え、動き始めた。
 彼の位置はマップ北の中央寄り。

 南東中央寄りに配置された恭弥は、改めて状態を確認する。
「これ、普通の戦場より音が多いよな……」
 このシミュレーターでは、自然音が再現されていた。されすぎていたとすら言える。
 風の音や、瓦礫が自然と崩れる音、鳥の鳴き声等々が常に聞こえている。視界にルール的な制限がかけられている上にこれでは、索敵は難しくなりそうだ。
 であるならば、これは自分に有利なのかもしれない。
「敵に見つからずヒット&アウェイで確実に。スナイパーの基本が求められるな」
 出現地点すぐ傍の瓦礫に隠れ、ひたすらに時を待つ。
 ――ゼルクナイトやセイントを見かけたら、こっそり後を追って集中攻撃を仕掛けられるようにしたくはあるが。

 南西中央寄りの梓も、南へ大きく移動してからは潜伏を選んだ。
「BAR『MISHIRO』は皆様のお越しをお待ちしております」
 そして、バーの宣伝を小声で始める。
「営業は月水金土の21時半から。お好みのカクテルお作りします。ワインのラベルをお客様に剥がしていただきコレクションしていただく企画なども――」
 しゃべることはたくさんある。

「上階に上がれそうな建物は……見当たらないな」
 マップ中央に現れたグレイロウは、建物の上階へ移動しようとしたのだが視界の範囲には見当たらない。
 代わりに、気配を隠すのに充分適した手近な建物と瓦礫の陰に速やかに潜伏、そこで精密狙撃によって己の命中と攻撃を高めた(と同時に移動と回避は下がる)後、一切動かなくなる。

 ――さて、どうすっかな。
 東の中央寄りから、敦は割と自由に動いていく。
 ――グロリアスベースに来て自分がどこまで成長できたんか? あの日誓った想い! 『強くなる』……試すのにちょーどいいぜ!

 ――私は一人じゃ何もできないから、だから私は、私にできそうなことを精一杯する。
 思いを胸に、千羽矢は西から、探索・追跡のスキルで周囲を常に警戒しながら歩く。

 中央やや南の斬華も、姿勢を低く保って障害物の陰に隠れながら動く。
 彼女は一対多の状況にならないよう強く注意を払っていた。

 ダスクは北から、外周寄りに建物の影を利用しながら反時計回りに移動していく。
「普段ならすべてまとめて消し炭にするものだが……今回ばかりは、私は首狩りだ」

 ユリアは西の中央寄りの地点。中央を取り囲むような動きで、建物に沿って彼女も反時計回りに動いていく。
「一番警戒したいのはスナイパーよね……」
 複数の敵に遭遇した場合、真っ先に潰すのはスナイパーと心に決めていた。その他の場合でも、方針としては届く中で一番遠くにいる敵から落としていきたい。

 北東端から、久志は中央へと向けて移動。
 彼の最優先目標も、スナイパーとして知られる面々だ。だがユリアのことも強く警戒している。

 俯瞰で見ると、グレイロウと斬華を中心に、周囲を取り囲むような配置となった。
 久志が特に離れており、ダスクと渚、ユリアと千羽矢がごく近い位置でのスタート。
 ただ、ある程度は離れているため、互いが互いに気づいてはいない。

 そして二分以上経った後、ついに事態は動き始める。


●思惑と、相性と

 マップ中央に近い北東部で、久志とユリアが遭遇した。
 ――いきなりか!
 久志は乱戦の状況を作るべく、ユリアを誘い込むように西へ逃げる。ユリアが追わない理由もない。
 そして久志の狙い通り、少し進むと千羽矢に出会ったが、二人を認識した彼女の行動は予想外だった。

 ――私は一人じゃ何もできないから。
 千羽矢は大声で叫ぶと、全力移動で逃げていく。

 その声に、近くにいた斬華が気づいた。
 ――最初の相手は千羽矢ちゃんですか。

 ――一人で彼女の相手はきついって!
 久志は懸命に、はるか先を行く千羽矢の後を追う。ユリアに追いつかれないからいいものの、そうでなかったらいきなり肝の冷える戦闘の幕開けだ。

 ――首筋を狙って……
 斬華が千羽矢に射撃を仕掛ける。だが障害物越しの攻撃が災いしたか、不意打ちながらも外してしまった。

 ――危なかった!
 千羽矢はさらに逃げていく。後ろの三人が潰し合ってくれることに期待した。



 ――狙撃銃はもどかしいですね。
 千羽矢の後を追う久志を見つけた斬華。しかしリロードしなければ攻撃できない。
 しかたなく彼を見送ったそのすぐ後、久志を追うユリアがやって来た。
 ――いきなり厄介ですけど、いずれは当たらなきゃ、ですしね♪
 斬華は背後からユリアを狙撃、命中させた。

「……早いか遅いかの違いよね」
 ユリアは足を止めると、斬華と戦うことにした。
 斬華はリロードを繰り返しつつも、高い移動力で西へ移動し、常にユリアとの距離を保ちながら攻撃してくる。

 ――よし!
 乱戦になったことで、久志も引き返すことにする。
 うまく潰し合ってもらいつつ、まずはユリアを倒すことにしよう。
 彼のこの選択は、後々に影響を及ぼしていく。

「意外と早く使うことになったわね」
 ユリアはハイヒールを用いた。斬華の狙撃に加え、途中からは戻ってきつつある久志のフォースアローも受けていく。最低保証ダメージも、二人分が積み重なっていくとさすがに馬鹿にならない。
 しかしこのマップは平地ばかりでもない。
「食らいなさい!」
 瓦礫を乗り越えきれず、斬華は距離を詰められてユリアの幻想之刃を受ける。生命力二倍ルールがなかったらいきなり危険水域突入の威力。

 しかしまた斬華には距離を広げられる。そして久志が刀による接近戦を仕掛けてきた。
 ――もちろん彼も気になるけれど……
 スナイパー的な戦い方をする斬華の方が優先だとユリアは判断した。彼女の方が当てやすく、その分沈めやすいだろう。

「**退場、残るは九人!」
 退場者をアナウンスするペドロの声が響いた。
「**退場、残るは八人!」
 あまり間を置かずに、もう一人。ここ以外の戦場も動き始めている。



 いつしか三人は、マップ西端へ達していた。

 その派手な戦闘音は、北から外周を回り込んでいたダスクに事前に察知される。
 ――思い描いていた展開通りではあるが。
 今回の回避重視の仕様で、どれほどユリアや斬華に通じるものか。
 しかし、あの二人が戦っているならば互いに消耗しているはず。
 身を潜め、相手の接近を待つ。

 ――スイフトクラッシュ!
 じっと待機した後、斬華に死角から襲い掛かる。次いで攻撃すれば疑似二回行動。
 しかし。
 ダスクに先んじて、斬華当人が動く。そしてハイヒールでたちまち回復。

 ――今はまだ無理か。
 素早く判断し、ダスクはその場から全力移動で離脱した。



 外周を南へ向かいながら、戦闘は長く続く。
 久志と斬華がユリアを削り、たまにハイヒールで回復。ユリアは斬華に反撃して、斬華もハイヒール。
 そして二人ともハイヒールを使いきった。
 回復手段を失ったユリアは着々と削られる。たまに運良く回避できるが、そうそう期待できるものではない。
 ――スキルを回復しなければ!
 ヘビィバッシュで斬華へ攻めかかるが、今度はヒールで粘られる。

 そして南西の瓦礫帯へ差し掛かった時。
「宣伝はここまでかしらね」
 そんな声と共に梓が飛び出してきた。

 彼女が標的としたのは斬華。旋空連牙・心で、自身の生命力と引き換えに斬華にそれなりのダメージを与えていく。
 ――一対他は避けないと!
 斬華は全力移動で中央部へと逃げていった。

 梓を認識した久志は、受け流しを使用して備える。
 生命力がすでに二桁のユリアだが、グラップラー二人と戦う以外に道はなかった。

「**退場、残るは七人!」


●潜伏者の一弾

 少し時間を遡る。

 全力移動で久志や斬華から逃れた千羽矢だが、ひとまず物陰に隠れようとしたところで敦と鉢合わせした。

 ――行くぜ!
 敦はすぐさま凍り閉ざす銀を繰り出した。二倍の生命力が万全だろうと、これに耐えきれる者は、決勝進出者の中でも数少ない。
 だが千羽矢はその数少ない側だった。攻撃に耐えて、倒れもせず踏み止まる。
 ――しくじったか!
 反撃を覚悟した敦だが、千羽矢は大声を出して猛スピードで逃げていく。

 ――先に気づければ、まだ良かったけれど。
 千羽矢の攻撃力は高くない。反撃しても一撃で倒せず、次の敦の攻撃で落とされると、千羽矢は冷静に判断した。
 やはりか弱い自分は乱戦に持ち込むしかないのだと、敦から離れたところでハイヒールを使う。
 そして敦にぶつけられる他の相手はいないものかと、身を隠しながら痕跡を探していると。
 不意に猛烈な勢いの銃弾を食らい、なす術もなく地面に転がった。

 千羽矢本人の大声によって、グレイロウはあらかじめ彼女の接近に備えられた。
 乱戦に持ち込みたいという意図は把握したが、グレイロウは一発ごとにリロードが必要なスナイパーライフルを装備し、移動力も回避も捨てた精密狙撃を用いて、一人一人仕留めていくスタイルに特化している。
 千羽矢の思惑に乗る理由は何一つない。
「深淵を覗くなかれ――汝の信じる神の、祝福があらん事を……amen――」
 ごく小さく呟きながら、リロードに取り掛かる。
 彼女が大声を上げた原因が、もうすぐここへ来てもおかしくない。

 こうして、千羽矢が最初の退場者となった。


●横腹を見せたものから喰われる

 千羽矢を追っていた敦は、彼女がいきなり倒れ伏すのを視界ぎりぎりで認めた。
 ――狙撃か!
 立ち止まり、千羽矢の倒れた方向から狙撃手の位置を判断して、そちらからの遮蔽になる瓦礫へ隠れる。
 ――俺までは視界に入っていないはずだ。
 束ね連なる因果を自分だけに用いながら、考える。狙撃銃などで視界を遠く取るにも限度はある。千羽矢をよほど近くまで引き寄せたならまだしも、彼女が気づいていた様子はなかった。
 そこまではわかったが、どうするか。
 ――って、選択肢は特にないよな。
 千羽矢の大声の理由からこちらの存在は推測されているだろう。勝ち抜くためには戦うしかない。手がかりを得た以上、そのアドバンテージを最大限活かすばかりだ。

 耳を澄まして、なるべく静かに、しかし極力急いで、狙撃手がいると思しきエリアへ接近していく。
 しかし相手の立てる音は聴き取れない。誰かはわからないが、よほどの凄腕なのだろう。
 ――自分がなりてぇ自分で在るために、全力でぶつかっていくのみだぜぃ!!
 内心で己に喝を入れ、踏み込んで、ここぞと見込みを立てた空間へと咲き乱れる赤!
 高火力の想像力の炎が、広い範囲をなめ尽くす。
 しかし。
「ほんの少しずれてたか……!」
 炎の縁のすぐ外から反撃の一弾を受けて、敦は退場を余儀なくされた。

 ――運は私にあるようだな。
 グレイロウはすぐさまリロードして、また潜伏をする。



 渚は、北側で機を窺いながらじっと潜んでいた。
 そこへダスクが全力移動で踏み込んできて、目が合う。
 距離は二十五メートル。渚は咄嗟に惑い写す青を使い、ダスクの命中力を低下させる。
「何の!」
 それを気にせず詰め寄って放つはデモリッシュクロス!
 だが、渚は奇跡的な身のこなしで回避する!!
 ――食らってもらう!
 反撃の凍り閉ざす銀が、ダスクの回避を物ともせずに命中。この一撃で勝負は決した。


●回避、回避、また回避

「とにかく当てるわ!」
 梓にヘビィバッシュを繰り出すユリアだが、かわされる。
 梓は最後の旋空連牙・心でユリアへ攻撃を二発とも命中させた。久志もそこへ追撃を入れる。
 ユリアのヘビィバッシュが初めて久志へと向かう。しかしそうそう当たるものではない。
 ユリアに会心の一撃が出れば、またはグラップラーに痛恨の回避ミスが生じれば、たちまち試合終了。だがそれは、数回の試行で得られる成果ではなかった。
 ――斬華姉さんにこだわりすぎたわね……
 梓の次なる一撃に、ユリアはついに倒れるのだった。



 かくして、グラップラー同士の戦いが始まる。
 久志から梓への初撃はかわされ、梓は回復した旋空連牙・心。しかし久志は無拍逆襲撃で応じ、二発とも回避した上でカウンターが一発入る。
 受け流しを用いた久志。そして旋空連牙・心と無拍逆襲撃の激突再び。今度は梓が一発入れて、久志の生命力を一息に減らした。
 直後、久志が一撃入れて梓も瀕死に。
 そのまま回避がしばし続き……
「どうにか、ね」
 梓の攻撃が鮮やかに決まり、久志を大地に沈めるのだった。


●もう一つの三つ巴

 いくらか、時間を遡る。

 包囲を避けて南西から中央へ逃走してきた斬華は、三回目のヒールで回復する。
 と、そこで銃撃を受けた。グレイロウが遠くに見える。非常に重たい一撃だ。
 ――これは、危険!
 すぐに身を翻し、来た道を戻る。

 ――これで落ちぬとは。
 グレイロウは斬華のタフさに内心舌を巻く。傾注状態からのエリアスナイプは渾身の一撃。しかし仕留めるには至らなかった。
 それでもすぐに気を取り直し、次弾の準備に取り掛かる。

 渚は、鋭敏な聴覚でグレイロウを中心に起きている何度かの戦闘音を聴き取った。
 誰と誰が戦っているかまではわからないが、そこへ向かってじわりじわりと近づいていく。
 そこにユリアが敗れたというアナウンスが聞こえてきた。
 ――この戦いはつくづく先が読めないな。彼女がこんな早く落ちるのか。

 グレイロウから距離を置いた斬華は、最後の二回のヒールで自身を大きく回復する。そして銃を構えた。
 ――反撃開始、ですね♪

 その間にグレイロウはリロードを済ませ、再びエリアスナイプを発動させた。

 グレイロウへ向けて進みながら、斬華は少し困惑する。最長射程を維持したいのだが、ビルが障害になってもう少し踏み込むしかない。
 しかし相手もエリアスナイプは持っているから、ここの一歩で差が生じるわけでもないだろう。
 前へ踏み込み瓦礫に身をかがめて、狙撃する。
「いつもの癖で首を刈ってしまわないよう気をつけなきゃ! でも手が滑りそう♪」
 スナイパーライフルの一撃が、動きの鈍いグレイロウを確かに捉えた。
「ようやく首級を一つ……あげてない?!」
 スキルが回復した感触はない。
 グレイロウは落ちていなかった。

 ――首の皮一枚、というやつだな……。
 グレイロウのダメージは深刻で、イマジナリーシールドはすべて剥がれ、かろうじて気絶だけは免れたという状況。あらゆる装備のどの防御機能を欠いても、今の一撃で終わっていた。
 しかし、それを顕わにするわけはない。シミュレーターなのも幸いして、彼のダメージがどれほどのものなのか斬華には伝わらなかった。
 グレイロウはポーカーフェイスでわずかに前へ出て、瓦礫の中の斬華にエリアスナイプを再び放つ。傾注を維持できたため再度盛大に削り取れたが、回復してきたであろう斬華の焦りは先ほどより小さく見えた。

 そこへ渚が飛び出した。
 もう少し潜伏したまま進行して、できれば斬華とまだ姿の見えぬその相手を同時に捉えたかったものの、共にかなりのダメージを負いしかも弾切れになっていると思しい現状は絶好のチャンスだ。
 ――まずは斬華を仕留める!
 距離の近い斬華しか射程に収められなかったが、凍り閉ざす銀を浴びせる。氷の槍が幾本も降り注ぎ、恐るべきセイントを串刺しにする。
 だが、斬華はそれを耐え抜いた。

 ――さっきよりも瀕死ですね。
 もう一度渚に銀を食らったら、斬華とて確実に沈む。しかし斬華が反撃するにはリロードしなければならない。
 同じく弾切れのグレイロウが高速装填を持っていれば倒してくれるかもしれないが、渚と自分とどちらを脅威と判断するだろう。また、持っていても、セイントの彼はハイヒールなどで体勢を立て直し待ちに入るかもしれない。その場合は二人で銀を食らっても沈むのは斬華だけとなり、その後、高速装填で渚を倒せばいいのだから。
 彼が隠密2を用いたことも精密狙撃で傾注状態にあることも、斬華に把握できるものではなかった。
 ひとまず距離を取るしかない。だが、どの方向へ? これまで向かっていない場所へ進めば恭弥の不意打ちを食らう危険性が高い。
 その時、アナウンスが聞こえてくる。
「狭間久志退場。残るは五人!」
 それが斬華の判断を決めた。
 ――ここは一旦引き返しましょう!
 進んできた道を全力移動で南西へ戻る。渚とグレイロウには潰し合ってもらう。
 その間に自分はリロードを済ませ、ユリアと久志を相手取って大きく消耗したであろう梓を倒してスキルを回復させるのだ。

 ――ここまでの可能性が高いな。
 思いながらも、グレイロウはリロードに取り掛かろうとする。
 傾注によってろくに動けないし回避もできない。それを解いて多少距離を開こうとしたとて、渚が詰め寄るのを止められるわけではない。己が運良くかわすか相手がとんだへまを仕出かす、そして次に先手を取る、そんな偶然の連鎖に頼るしかない。
 それでもグレイロウは最後まで勝つための手を打とうとし。
 渚の凍り閉ざす銀に倒されて敗退した。


●最有力候補、陥落

 その一撃が命中していれば、決勝戦の決着はまったく別の形を迎えていただろう。
 しかし結果として、斬華による梓への視界外からの銃撃は、回避された。

 梓は潜伏し直す暇もなく、敵と再び対峙することになる。グレイロウはさっき退場したものの、恭弥か斬華かあるいは渚かは最初わからなかったが、全力移動で接近するうちに斬華とわかった。
 ――何で戻って来たのかわからないけど、来ちゃった以上はやるしかないわよね。
 懐へ飛び込み、通常攻撃をせんとする。回復した旋空連牙・心だが、それを使うほど生命力に余裕はない。
 ダメージが大して通らないのはわかっている。それでも相手は二回に一度はリロードするしかないのだ。こっちは全力移動を使いきってでも食らいつき続け、ひたすら殴り続けてひたすらかわし続ける。
 運が良ければ、一撃食らう前に倒しきれるかもしれない。
 そう思いながら攻撃を仕掛け――

 全力移動直後の梓の攻撃は、精度を欠いている。しかし斬華は食らってしまった。
 斬華の堅牢な防御力は最低保証ダメージしかもたらさない。しかし今の斬華が倒れるにはそれで充分だった。

 ――選択ミス、だったかも。
 グレイロウが倒れたとアナウンスされた時点でもう一度反転し、残った渚を倒しに行くべきだったのではと斬華は思う。
 そしてハイヒールやヒールで生命力を万全に戻してからなら、余裕をもって挑めたのではないか。
 反省しつつ、優勝候補筆頭の斬華はここに敗れ去った。


●再び、潜伏者の一弾

 ほんの少し、時間を遡る。

 ――来たか。
 恭弥は、相手よりも先に接近に気づけた。共に狙撃銃装備で視界を延ばしてはいるが、動かない相手に気づける距離は動く相手に気づける距離より短いというルール上、動かずにいる自分を動いている彼が先に見つけるのは難しい。
 長い長い待機をついに解き、エリアスナイプを使用する。

 ――どこだ。
 渚は斬華を追おうとして見失い、南側へと移動していた。
 残る相手は三人。勝利は次第に現実味を帯びてきた。
 だがそのためには、まず斬華を何としてでも回復前に倒しておかねば。グレイロウの恐らくはスナイピングを用いた一撃と、渚による凍り閉ざす銀、二つを立て続けに食らったのに生き延びていたあの防御力と生命力は危険すぎる。
 油断していたわけはない。視覚も聴覚もフルに働かせ、残るすべての敵に警戒していた。
 しかし一番警戒していたのはやはり斬華。彼女がこちらへ迫ってきたらというイメージは非常に強く。聴覚が拾おうとしていたのは、主に遠くから駆けてくる足音。
 視覚の外、静かに彼へと銃口を向けた際のわずかな音に気づくのは無理な相談で。
 恭弥のエリアスナイプが渚を捉え、一弾の元に仕留める。

 その瞬間、アナウンスは斬華と渚の退場を告げた。


●最後に立っていた者は

 リロードを終えた恭弥は瓦礫に身を潜め、梓をじっと待つ。
 互いに隠れていては、いつまで経っても終わらない。しかしこの場合、梓は出てくるだろうと予想された。
 ――最終戦はスナイパー対グラップラーか。痺れる勝負になりそうだ。

 ――隠れても意味はない。
 梓は最後の敵が恭弥になった時点でそう判断した。
 恭弥が狙撃銃を使っていないわけはなく、ならば梓よりも遠くまで視界が届くルールになっている。よほど完璧に隠れられるならともかく、そうでない限りは恭弥に一方的に発見されて一方的に狙撃されるだけだ。
 だから、自分から踏み込むしかない。そして一撃を回避して相手の居場所を突き止め、全力移動で詰め寄って攻撃を叩き込む。
 彼の命中、こちらの回避、こちらの全力移動後の命中、彼の回避、こちらの攻撃、彼の防御、すべてを考え合わせれば、分の悪い賭けというわけでもなかろう。

 意を決して、先ほど戦闘音のしたエリアに踏み込むと、梓は声を上げた。
「最後はシンプルな話になったみたいね。私がかわすか、あなたが当てるか」
「そうみたいだな」
 言って恭弥が三十五メートルほど先の瓦礫から現れると、すぐに視界から消えた。クーパーT220の改造版は射程7。エリアスナイプにロングレンジスナイプも併せたか。
 見えない距離からの狙撃。それでもだいたいの方向はわかる。タイミングも概ね見当はつく。さっきの斬華の攻撃よりは対処しやすい。
 食らえば終わり、しかしかわせばこちらの好機。

 迫る殺気。音よりも速いそれを視認するなど能わない。
 それでも梓は回避行動に移り――



「三代梓、敗退。……マスターリーグ決勝戦、優勝は赤羽恭弥です!!」
 ペドロのアナウンスが勝者一人の残った空間にも響き渡った。
「危なかった……」
 恭弥は安堵し息をつく。確率的には分の悪い賭け。むしろ梓が勝つ方が自然だったとすら言える。
 そもそも、最初の配置、他の出場者の潰し合い、その結果として自分が戦うことになった相手との相性……いずれもかなりの幸運に恵まれていたと言えるだろう。
 でも、最後まで立っていたのは自分だ。
「スナイパーの基本、守れたかな」
 呟くと同時、仮想の世界から恭弥も退場した。

リプレイ執筆
茶務夏

リプレイ監修
クラウドゲート

文責
株式会社フロンティアワークス
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