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ジダンが演説を行う予定の会場に、マンティコアの群れが攻め込んできた。あまりの数に、指示を出しているであろうエルゴマンサーの姿が見当たらない。
「まずは、迅速にマンティコアの集団を撃つ! 騎士の名にかけて、全員、前方へ進め!」
【VOLKNIGHTS】小隊を指揮するのは、エヴァ・サラマンドラ(la2692)だ。エヴァの放った『龍震虎咆・閃』が合図となり、仲間たちが攻撃をしかけていく。
「前方への進路を確保します」
キリン(la2513)が和弓「御雷」に矢を番え『オーバーストライク』を放った。
「一気に、蹴散らすぞ!」
ウバタマ(la2521)はマンティコアに接近して、シールドランス「エイニオサウルス」を振るい、敵にダメージを与えていく。
「足止めも必要ですね」
グレタ・アンドロミカ(la0867)がレイピア「タルジュラキーク」による『宵闇斬』を繰り出し、マンティコアを足止めしていく。
「助かります、グレタ」
後衛にいたシェンラーテ(la2770)が和弓「御雷」を構え『オーバーストライク』を放つ。前衛にいる仲間たちの道を切り開くように、放たれた矢は雷撃のようなオーラをまとって、マンティコアを撃ち、斬り裂いていった。
「まったく、嫌んなるほどいるね。まあ、精々、踊りなってのよ」
ヴォルカ・エルブロンテ(la3541)は、そう呟きつつも、マガジンを装備した嵐弾銃「グロームネクサス」にてマンティコアに狙いを定め『オーバーストライク』で狙撃していく。
「騎士として、やるべきことを果たします」
リオ・ファニング(la3170)が、仲間を援護するため、『フレイムロード』を放ち、離れたマンティコアたちを炎に巻き込んでいく。
「ははん、ここまで来たら、攻めてくる敵を叩き潰すだけだぜ!」
前衛にいたカナン(la2740)が、リオとは別の方向へ向けて『メテオダイブ』を繰り出した。範囲内にいたマンティコアたちが、多大なダメージを受けていく。
ジゼル・ヴィーラ(la2695)は小隊長エヴァと常に隣接して、マンティコアが密集している位置に狙いを定めて『天罰』を落とした。
「人々を傷つけるならば、容赦はしません」
「私も、剣を持つ者として、この義を果たそう」
エレト・ライラ・イグノーツァ(la2700)が、灼刀「空切撫子」を構え『マジェスティブレード』でマンティコアを斬り裂いていく。一点集中の状況を避けるため、マンティコアを自分に引き付けるのが、エレトの役目だ。
奴らの狙いは、分っている。ジダンだ。
だが、敵の司令塔であるエルゴマンサーが見当たらない状況では、マンティコアをできるだけ減らすのが先決だ。
そのため、【VOLKNIGHTS】のメンバーたちは、マンティコアを倒すことに優先して戦い続いていた。
【エルロード】小隊長のシオン・エルロード(la1531)は、こうした戦況になった時、ジダンがどのような行動に出るのか、予測していた。
「ジダン、貴様はやはり、自分より市民を守ることを優先すると思っていた。ならば協力してやろう」
「ふむ、市民の誘導はこちらに任せてくれ」
ジダンは、片手をあげ、叫んだ。
「我らは、市民の安全を優先する。まずは、子供、女性を優先して、避難させろ!」
ジダンの指示で、眠らぬ獅子のメンバーたちは、市民たちを会場の外…後方へと誘導して、戦況から離脱していった。
だが、ジダンだけは、逃げなかった。彼も分かっていたのだ。自分が狙われていることを。
ならば、自分が囮になろうと考えていたのだろう。
【エルロード】のメンバーたちは、それを見越して、ジダンを守る陣形をしていた。
「市民たちには、絶対に近づけさせないから!」
ナハト・シュヴェーアト(la0450)はフォイヤーハルバードを振るい回し、『大嵐屠凰波』でマンティコアを次々と斬りつけていく。
「獣さん、こっちに来なさいな」
山神 水音(la2058)は『ロードリーオーラ』でマンティコアを自分に引きつけ、ジダンから少しでも敵が離れるように誘導していた。
「ジダンさん、市民たちの避難は無事に済んだようです」
来栖・望(la0468)は、ジダンの6sq以内の位置にいるように心掛け、迫りくるマンティコアたちが射程内に入ると『天罰』を撃ち落とし、さらに敵の行動を妨害させていく。
「ジダンは、民のために戦っている。私は、仲間たちのために戦う!」
海付 深羽(la0767)がスナイパーライフルCT-3を射程7の位置から構え、『オーバーストライク』でマンティコアたちを撃ちぬいていく。
ジダンの傍には、シオンが出現させた『幻想之騎士』の姿があった。
【天満月】の杉 小虎(la3711)が、ジダンの周囲にいる仲間たちに『ブレイブフィールド』を張り巡らせた。
「まだ、敵の司令塔がどこにいるのか分からないから、用心ですわ」
「ダークネスの名は知っているが、どのような姿なのか、私たちには分からない。注意しても、し過ぎることはないだろう」
南雲 士元(la3160)は、ジダンを守る位置から『幻想之刃』を放ち、マンティコアたちを斬り裂いていく。
「マンティコアの群れに紛れて、ダークネスがジダンに接近している恐れもあるからな」
【天満月】の小隊長、高柳京四郎(la0389)は、前方にいるマンティコアの群れに対して双矛「捉月ノ指」の矛先を地につけ『ブラッディクロス』を解き放った。
乱戦が続く中、ライセンサーたちの隙をついて、黒い刃が飛んできた。
とっさに庇ったのは、士元だ。『幻想之壁』を発動させ、ジダンを守ることができた。
「飛んできた刃の先か」
シオンは『ロードリーオーラ』を纏い、マンティコアを引き付けようとしたが、敵はシオンには見向きもしなかった。
「そういうの、かえって怪しいですよ!」
ナハトが『暴圧』をしかけるが、マンティコアは動じることはなく、ナハトの士気が高まる。
「そういうことですか」
望が『天罰』を繰り出す。範囲内にいたマンティコアが倒れ込むと、一人の老人が姿を現した。
「ククク、そう簡単にはいかないということかの」
老人は杖を掲げ、『使徒の恵み』を展開させると、自分の周囲にいるマンティコアの生命力を回復させていく。
「貴様が、ダークネスか。会うのは初めてだが、これで最後にしてやろう」
シオンの挑発に対して、ダークネスは皮肉にも笑っていた。
「愉快、愉快、楽しみは後でということか……」
そう言った後、ダークネスはマンティコアの群れに隠れて、姿を晦ましていた。
●
激戦は続く。
ジダンを狙って、複数のマンティコアが口から炎を発した。
「くっ……やはり、狙いはジダンさんですか」
【戦闘支援機関「オーケアノス」】の護鋼 刀夜(la2104)が『幻想之壁』を駆使して、マンティコアが放つ炎を防いでいく。ダークネスを倒すためにも、ジダンを死守せねばなるまい。
ヴォルフガング・ブレイズ(la2784)が『リフレクション』で、マンティコアが放つ炎を跳ね返し反撃……敵の炎はジダンまで届くことはなかった。
「ダークネスめ、隠れやがって……出てこい!」
マンティコアの集団が押し寄せる中、なかなかダークネスが見当たらない。だが、どこかにいるはずだ。
「毒針で、お痛するなんて……だけど、安心して」
【Nigrum Anguis】のヴァレンディエス(la4290)が、マンティコアの毒針で行動不能になった仲間に『天啓』を施す。
「ふぅ、やっと動けるわ」
小隊長のディアヴァルナ(la4312)は、一匹でも多く、マンティコアを倒すために、爆斧「バロッツァ」を振るい『崩撃』を繰り出す。
「うりゃー、てめぇら、これでも喰らえっての!」
ベルフォルツァ(la4218)はネーベルナハトグレイブの剣先を地面に突き刺し『ブラッディクロス』を放った。範囲内にいたマンティコアが、剣戟で切り裂かれて、ダメージを喰らっていた。
【ESPOIR騎士団】のメンバーたちは、ダークネスに辿り着くための戦略を実戦に移すことにした。
「将を落とすには、周囲の獣を封じねばな」
森之松 (la1629)は、マンティコアを優先的に狙い『忍法「影縫いの術」』を駆使して、範囲内のマンティコアを足止めしていく。
「備えあれば、なんとやらだ」
ソル=ド=ゴール(la0538)が『束ね重なる因果』を発動させた。
「助かります、ソル君」
小隊長のコレット・アストレア(la0420)がブレイズソード「ビクトリア」を構え『宵闇斬』を繰り出すと、マンティコアが移動不能となった。
「ついに見つけました、ダークネス!」
その隙をついて、都築 聖史(la2730)が『ガーディアンストライク』を放ち、ダークネスを巻き込むように攻撃を繰り出した。
「決めてみせる!」
孔雀(la4222)がシュヴァリエ・ブランシュの大剣を振り下ろし『パワークラッシュ』が、ダークネスの胴体に叩きつけられた。
「フォフォ、やりおるのう」
ダークネスは、不気味に笑うと『闇の刃』を解き放った。狙いは、対峙しているライセンサーたちではなく、その後方にいたジダンだった。
その刹那。
シオンが『アテナの盾』で攻撃を防ぎ、刀夜の『幻想之壁』が、ジダンを狙ったマンティコアの毒針を払いのけていく。だが、ジダンを守っていたライセンサーの中には、マンティコアの毒針で行動不能になる者が続出した。
「ジダンさん! 皆さん!」
望は『先詠の歌』を詠唱し、仲間の状態変化を解除……さらに回復させ、自身には不屈を付与していた。
「ナハト、無事か!」
珍しく叫ぶシオンに、ナハトがフォイヤーハルバードを掲げ『オンスロート』でマンティコアたちをなぎ倒していく。
「お陰様で、この通り!」
●
その頃。
会場から離れた場所にいた人々たちは、ライセンサーたちの手当てを受けていた。
【小隊【白羊宮】】の芳篠 遵(la3738)とフィンダファー(la2553)は、救急治療セットを使い、手分けして人々のケアをしていた。
「まずは、お子様たちから手当てするわよ」
遵が、手際よく、子供たちの腕に包帯を巻いていく。
「いたかったり、つらかったら、おちつけないのだ」
フィンダファーもまた、子供たちの怪我の具合を確認しながら、手当てしていく。
その様子を、避難していた大人たちは黙って見ていたが、しばらくすると、この場から立ち去ろうしている男性が、数名いた。
「……どこに、いくつもりだ? まずは、手当てを……」
皇 快晴(la3046)が、呼び止めるが、男性たちは警戒するような眼差しで言い返した。
「こんなことになったのも、あんたらのせいだ! ジダンさんは、今まで長い間、私たちを守るために戦ってきてくれた。これ以上、余計なことはしないでくれ」
それを聞いて、【赤き風】の小隊長ヴァルヴォサ(la2322)が、懸命に話しかけた。
「すまなかった。だが、怪我人の手当てをすることは必要なことだろう?」
風祭 寧々(la4121)が、穏やかな物腰ながらも、真摯に告げた。
「すぐに信じて欲しいなどと、おこがましいことだとは重々、承知……せやけど、手当てするのを見逃すことはできやしまへん」
ヴァルヴォサと寧々の言葉で、男性たちは少しだけ落ち着いたのか、元の場所に戻り、座り込んだ。
快晴が、そっと男性に近づき、救急治療セットを使いながら、手当てをしていた。
「……この傷薬を、塗るよ」
男性の肩に薬を塗った後、快晴はテキパキと包帯を巻いていく。
手当てされた男性たちは、黙ったまま、快晴たちの様子を見ていた。
寧々が優しく女性たちに声をかけながら、丁寧に手当てをしていた。
子供たちは、手当てが終わると、遵とフィンダファーの周囲に集まってきた。
「ありがとう、お姉ちゃんたち」
「どういたしまして。芳篠さん、そう言ってもらえて、うれしいわ」
遵が、微笑む。
「よかったのだ。いたいの、よく我慢したのだ」
フィンダファーが、安堵する。
すると、朧式神(la3005)が、気になっていたことを子供たちに尋ねた。
「子ども達よ、この戦いが終わった後の世界は、どうなるか、分かるであるか?」
「……分からないけど、みんなが仲良くできる世界になれば良いなと思ってるよ」
子供たちは、とても純粋だ。
「我は、未来を守るのが、我々の役目であると考えているぞよ」
朧式神がそう告げると、むしろ、大人たちの顔が強張った。生きようと思ったのは、子供たちがいたからだと、大人たちは、改めて実感していた。
「……悪かった。本当に、すまなかった」
とある男性は、泣きながら我が子を抱きしめ、とある女性は、我が子を愛おしそうに見つめながら、優しく抱き寄せていた。
「おお、我は、何故か、感動しているぞよ」
朧式神は、子供たちを抱きしめる大人たちの姿を見て、「夢を持っているのは、子供も、大人も同じぞよ」と呟いていた。
「……しばらくは、手当てに専念できるな」
快晴は、暴動が起きないように警戒していたが、朧式神がいるならば、人々の間に争いは起こらないだろうと、ふと感じていた。
●
【VOLKNIGHTS】小隊は、引き続き、エヴァの指揮でマンティコアを優先的に攻撃していた。
その甲斐もあり、ダークネスは隠れる場所が少なくなり、ライセンサーたちの前に姿を現すようになった。
「小癪な……」
ダークネスは『使徒の恵み』を発動させ、周囲にいるマンティコアの生命力を回復させ、範囲内にいた京四郎と小虎が攻撃を受けた瞬間、二人の『リフレクション』が発動する。
京四郎が振るった双矛「捉月ノ指」がダークネスに放たれ、小虎のガントレット「インビンシブル」から攻撃が迸り、ダークネスを狙い撃ち、二人の攻撃はダークネスにダメージを与えていた。
リフレクションは敵の攻撃を反射するが、ダークネスを倒すには、ダメージが足らない。つまり、『使徒の恵み』によるダメージは、それほどではないことが判明した。
「まだ撃つ手はある」
すかさず、攻撃態勢に入る京四郎……『エクストラバッシュ』を放ち、ダークネスにダメージを与えていく。
「私は貴方を止めることで、ジダンさんを……この場にいる人々を守ります!」
聖史の『ガーディアンストライク』がダークネス目掛けて迸り、守ろうとする想いがエネルギーとなって撃ち込まれていく。
孔雀が『崩撃』を繰り出す。
「我々の道を切り拓くのだ、散りゆけ!!」
ダークネスが崩撃を喰らい、カタストロフのごとく崩れ去り、その場に膝をついた。
「おのれ……」
歯軋りをするダークネスに、問答無用で、コレットがブレイズソード「ビクトリア」から放った『メテオダイブ』を叩き込んだ。
「これで、終わりにしましょう!」
コレットの凄まじい一撃により、周囲にいたマンティコアもダメージを喰らい、ついにダークネスを討ち果たすことができたのだった。
ダークネスが倒されたとしても、マンティコアの群れが全て消え去った訳ではない。
【VOLKNIGHTS】小隊のメンバーは、誰一人として、マンティコアを取り逃がすことはしなかった。
ジゼルの『聖域』により、エヴァは常に守られ、行動不能になることはなかった。
「残りのマンティコアも、全て叩き潰せ!」
小隊長のエヴァが、創星剣「ダイナロード」を構え『大嵐屠凰波』を駆使して駆け抜けながら、擦れ違うマンティコアを次々と切り裂いていく。
「獣たちよ、主の元へとお行きなさい」
ジゼルが放った『天罰』の刃が、マンティコアたちに降り注ぎ、多大なダメージを喰らい、その場に崩れ落ちた。
それが最後だったのか、激戦の音は消え去り、辺りは静まり返っていた。
●
脅威が消え去り、会場には人々が戻ってきた。
だが、まだ油断はできない。
「案の定ね」
【GLORIA】の宵闇 風(la3318)は、会場に張らせていくテントの影に回り込み、ナイフを持った男性を取り押さえた。
「こ、このっ!」
男性は抵抗するようにナイフを突きつけてきたが、風は難なく回避して、こう告げた。
「レヴェルだか、親トゥタッティーオ派かは知らないけど、ジダンを狙うなら、容赦しないわよ」
スナイパーライフル「ドロレス」を構えた風は、男性を『足止め』するため、相手の足を撃ち抜き、動きさえもを阻害していた。
男性は逃げようとするが、すぐさま、風に捕まってしまう。
「ジダンの演説が終わるまでの辛抱よ。大人しくしてなさい」
こうして、風が秘密裏に取り押さえていたこともあり、それほどの騒ぎにはならなかった。
少しずつ、会場に人々が集まってきた。
入口に誘導しながら、来場者に花を贈っていたのは、卸 椛(la3419)だ。
断る人もいたが、無理強いはせず、希望者のみに、椛は花を配っていた。
「どうぞ、今日は、じっくりと演説を聞いてくださいね」
もう一度人を信じ歩み寄る、きっかけの日になってほしい……そう願いながら。
優しく声掛けしながらも、椛は怪しい人物が紛れていないかも、観察していた。
「さすがに、ピアノはないか」
少し残念そうに言ったのは、化野 鳥太郎(la0108)……【GLORIA】の小隊長だ。
「楽譜はあるんだがな」
未完の総譜を手に取り、考え込む鳥太郎に、ジダンが声をかけてきた。
「部下が使っているオルガンならあるが、どうだ?」
「いいのかい? なら、一曲、弾かせて欲しい」
壇上の横に運ばれてきたのは、古いオルガンだった。おそらく、三十年は経ったものだろう。
鳥太郎は軽く鍵盤を弾くと、すぐに分かった。
「そうだよな……調律している暇もないくらい、激戦を潜り抜けてきたんだな」
一息付くと、鳥太郎はオルガンを弾き始めた。
魂の全てをかけて弾こう。前に踏み出す祈りと共に……。
鳥太郎が奏でる曲は、優しさの中に哀しみが包まれているような、それでいて、温かさも感じるメロディだった。
仲間のカトリン・ゾルゲ(la0153)が、鳥太郎が弾く曲に合わせて、舞いを披露していた。
幽玄羽織が、カトリンの舞によって、しなやかに、ふわりと舞い上がる。
優雅な舞ではあったが、カトリンは不審な人物がいないか警戒していた。
鳥太郎の曲が終わると、テレビ局のカメラマンたちが壇上の周囲に集まってきた。
「まだ、時間ではありません。しばらくお待ちください」
会場に、アナウンスが流れた。
「ジダンの演説は、まだ先か」
【龍爪火】の巳堂 和火(la2924)は、カメラマンたちを押しのけると、陽乃杜 来火(la2917)を壇上に立つように促した。
「ジダンの演説前に、聞いてほしいことがある」
来火がそう告げると、カメラマンが一斉に壇上へと視点を向けた。世界中に、映像が流れていた。
「戦ってきたのは適合者だけじゃない。世界中の人が苦しんで、戦ってきた。アフリカを諦めた罪は消えない。でも俺達は、これからを一緒に歩みたい。俺は兄や友が育ったこの世界が好きだから……もう諦めたくない!」
懸命に叫ぶ来火の姿に、和火は感動していたが、すぐに気持ちを切り替え、壇上へと上がった。
見渡すと、来火の訴えを聞いて、互いに顔を合わせ、何やら戸惑っている人々の姿があった。
和火は、人々の様子を見ながら、こう告げた。
「私達も互いに過ごした時間は、貴重と呼べるモノです。誰よりも強い絆ですから。これから先の未来の礎を築くのは、あなた方なのだから……未来を守る為に居ると、誇りを持ってください」
人々の間に動揺が走る。
続けて、アシュリー・クラネス(la3257)が壇上の前に立ち、想いの丈を述べた。
普段は、ぶっきらぼうのアシュリーだが、世界中に映像が流れると知ると、にっこりと微笑み、丁寧な口調になっていた。
「許せない事、取り戻せないもの、割り切れるはずはありませんよね。ですが、今だけは若い皆さんのために未来の話をしましょう! 過去三十年は取り戻すことはできません。けれど、これから手に入れられるものもあるはずです!」
拍手はなかったが、人々は次第に落ち着いていくようにも見えた。
アシュリーたちが壇上から降りて、しばらくすると、人々の前にジダンが現れた。
これから、新しい未来が待ち受けているかのようであった。