【DD】Decisive battle for dignity 3フェーズリプレイ一覧

  1. フォン・ヘス討伐<危険>
  2. ザルバ抑制<危険>
  3. オリジナル・インソムニア破壊

1.フォン・ヘス討伐<危険>

●狂騒
「くふふはははは! ああ、そうだ。私はこうして人類に魅せてやるのだったな。ショウ・タイム!」
 数多の下級ナイトメアに縁取られたブリッツクリーク群、その先頭を行く個体の背に仁王立つフォン・ヘスが、狂気を乗せた指を弾く。乾いた高音が小気味よく弾け、そして。
 彼の書よりあふれ出した力が幾何学模様を描き出し、光の矢を射放した。
 後方のキャリアーを守るべく先行していたアサルトコア第一陣は、この豪雨を避けるべく散開しながらも打ち据えられ、がくがくと高度を損なっていく。
『先陣、もうちょっとがんばって!』
【帰宅部】の澄野 歌奏(la3894)が、FS-10“赫映 ‐kaguya‐”の艦首をフォン・ヘスの乗るブリッツクリークへ据え、特殊兵装『ポセイドン』を撃ち放した。
 狙い過たず、エネルギー弾は目標ポイントで爆ぜ、敵群の鼻先を抑えたが――奥より現われたフォン・ヘスの笑みは揺らがない。狂気に浮き立つ両眼をすがめ、声なく笑い、嗤い続けている。
『戦果はわかんないけど次よろしくー!』
 フォン・ヘスの足場を討つ。実にシンプルにして困難な【帰宅部】の作戦を指揮する小隊長、日下 葵葉(la3792)。彼女はフォン・ヘスの矢の射程外に置いたSJ-02S“癸亥”よりパルスサーチを放ち、後方にて待機する砲撃担当へ淡々と告げた。
『サーチで捉えた個体へ全火力集中』
 言い終えたころにはもう、癸亥はポジションを変えている。指揮官は最後まで僚機を導くことこそが任務。それを果たすため、葵葉は愛機を飛ばす。
 この通信を受けた桜居 エリン(la3791)は『了解だよ』、それだけを応えてSJ-03の重い機体を固定した。
 すでに砲弾の装填は完了している。狙いはたった今、定まった。あとはただ、引き金を絞るばかり。
 愛機が撃った貫通徹甲弾と僚機が撃ったとりどりの弾、弾、弾。それらを一身に受けたブリッツクリークが「泳ぐ」様を確かめ、彼女は自動装填された次弾を撃ち込んだ。
 そして。
【帰宅部】の弾幕をより厚く、より拡げゆくのは【第二帰宅部】の隊員たちである。
『各機へ。各種データを圧縮転送します。また、被弾された際はいつでもお立ち寄りください』
 FS-10“シンフォニア”を予定通りのポジションにつけた隊員、杜若綾女(la3810)は同僚へ告げ、攻撃指示を出した。敵味方が密集しがちな最前線では、バックアッパーとなるキャリアーのポジショニングが重要だ。ひとつ処へ立ち止まってなどいられない。故に動き続け、カバーし続ける。
 シンフォニアの甲板上にあるSJ-03。機体を操るA・ナルギス(la3821)は特殊砲台「FS51」の砲口を巡らせて……止めた瞬間、ヨーヨーのごとくに2枚の円盤が飛び、シンフォニアへふわふわと接近しつつあったモルフォソーンを引き裂いた。
『周囲の警戒と迎撃はお任せを』
 味方が攻めの作戦に力を尽くせるよう、この“家”を守る。自らに課した彼女はトリガーにかけた指を再び引き絞るのだ。


 射撃と砲撃、さらにはキャリアーの指示を追い風とし、体勢を立て直した先行部隊が敵群へ斬り込んでいく。機械と肉ならぬ肉とが打ち合い、裂き合い、千切り合い……フォン・ヘスへの道を1ミリ、また1ミリと拓きゆく。

『うっちおとせー♪』
 かろやかなフロウを刻む夜兎 響(la0509)。その中でトリガーを絞り込めばSJ-03“バーニィ”が対AC無反動砲『斜光』よりプラズマまといし砲弾を撃ち込み、ブリッツクリークの1体へ重い一打を食らわせた。
『着弾確認ー! いい感じでダメージ負わせたよ!』
 砲撃で揺らいだ個体へ僚機が殺到し、引きずり落としていく様を見やり、彼女は追撃を叩き込むべく砲を構え直す。
『そのまま放り出して!』
 高度を引き下げられた個体の下方より、NBs-01スヴァローグを噴かして押し迫るSJ-04OD“だいちゃん”。
 パイロットである坂本・アレクサンドラ(la0063)は上方の僚機が蹴り落としたブリッツクリークの背へしがみつくと同時。イコライザーを発動させた。
 彼女が解除したものは「飛行」。このまま共に下まで落ち、身動きのままならぬ“竜”をそこで屠るのだ。
 そして【ジェリコのラッパ】小隊長、ヨハン・クルーゲ(la1595)が駆るKZ-00は、キャリアーバスターを手に戦闘機動。下方から射撃を続けるレールワームのやわらかい腹を断ち斬っていく。
『みなさまのフライトを妨げていただくわけに参りませんので――失礼を』
 涼やかな口調とは裏腹な急制動と急加速をSBs-01白鳥へ強い、ヨハンは操縦桿をさらに強く握り込んだ。

 一方、【久遠翼】はフォン・ヘスの足場ではなく、戦域の端に在るブリッツクリークを狙い、猛攻を加えていた。
『一気に攻め切ります!! 護衛各機は連携を密に! ほころびを作らないことを心がけてください!』
 小隊長、黄昏ひりょ(la2991)は前方へ跳ばしたFS-Xに鎮守礼装『八咫鏡』を展開させ、後方の砲撃担当の盾となる。
 ――俺たちはフォン・ヘスの次の足場を減らす! 行き先が限定できれば、それだけ味方の攻撃も集中しやすくなるはずだから!

 ビスケットが端から欠けゆくように、ナイトメアの密集陣がわずかずつ損なわれていく。
 ブリッツクリークは未だ嗤い続けるフォン・ヘスを護らんと一層密集し、小者どもをもかき寄せた――と、1体が噴き飛び、陣に大穴が開いた。
「下種(げす)が私の目を塞ぐな」
 喉を鳴らし、フォン・ヘスは濁々と淀む思考の内で唱える。
 幸いであった。人類がただの餌でなく、ナイトメアの天敵たりえることを実感できたのだから。――而(しか)して、滅する。この私が、この私の手をもって、この私の敵を。
 フォン・ヘスは指を打ち鳴らした。溢れ出す光の矢が無粋な機械兵を射落とす様を見やり、低く嗤う。

●到来
 それなりの数を墜としたはずのブリッツクリークだが、その陣容に穴は見受けられない。
 しかし、周辺戦力排除担当者たちは絶望に沈むことなくブースターを噴かし、次の敵へ向かっていくのだ。発進の機をじりじりと待ちわびているフォン・ヘス討伐を担う僚機のため。

 向坂 巴(la3180)の操るXN-01“影”が誰より早く敵の防衛線を突き抜けられたのは、僚機との連動がもたらした偶然であり、もしかすればコード「666」で猛り濁った心が強大な気に引き寄せられた必然なのかもしれない。
 猛るままズルフィカール・ジハードを振るい、濁るまま突き立てる。
 傷つけると同じほど傷つき、体勢が崩れたときには――敵の防衛網が崩れていて。
『突破口、空きました』

 時は来た。
 フォン・ヘス討伐のため己を温存してきたキャリアー群が急加速、戦域の端から一気に中心へ滑り込む。
『全機攻撃準備!』
【遠距離攻撃特化部隊「LRA」】各機が小隊長、赤羽 恭弥(la0774)の指示で展開し、速やかに陣を整えた。互いの射線を殺し合わず、着弾点をひとつに絞り込んだ連携陣を。
 キャノン「ロウシュヴァウスト」を構えた恭弥の恭弥のSJ-03が射撃体勢を定め、『撃て!』。
 一斉射撃は針穴を通すほどの精密さで束ねられ、防御網をすり抜けた。
 自らの存在をも揺らがせる衝撃に、フォン・ヘスは笑みを傾げて「ああ」。
「顔が見えぬな。私を拝しに来たのではないのか、人類? ……いや、いい」
 独り言ち、踏み出す。
「待つばかりではつまらぬ故な。私が赴こう」
 ブリッツクリークがあわてて自らを前へ押し出した。そう、フォン・ヘスの足場となるためにだ。“橋”を為さずに広く散ったのは当然、こちらに火力を集中され、断ち斬られぬためだろうが。
『攻撃を止めるな!』
 万一敵に聞き取られても知られぬよう、あえてシンプルな指示を出し、恭弥はトリガーを絞った。
 他隊の機体からの射撃を合わせた十字砲火。
 それを浴びる寸前に瞬間移動したフォン・ヘスだが、鋭く伸べられた円盤2枚に打たれて半歩分のたたらを踏んだ。
『目標を捉えました。これより追撃に移ります』
【遠距離攻撃特化部隊「LRA」】の一員である戦闘用自動人形 参式(la2357)。彼女は表情を変えることもなく、MS-01J“逆月”へ特殊砲台「FS51」の再チャージを命じる。
 フォン・ヘスの瞬間移動は厄介なカウンタースキルだが、こちらが攻め続けることで次の足場を絞り込み、限定することは可能。それを踏まえての予測攻撃が見事に決まった。
「小賢しい。実に、小賢しい」
 茫洋とした薄笑みを上げたフォン・ヘス。彼が見たものは、【民間軍事会社「Beowulf」】のアサルトコアによる包囲陣だった。
 その中から跳び出し、特殊兵装「雷電」を発動させたMS-02“アル・ニヤト”がフォン・ヘスへ迫り。
『ハロー、色男。見ない間にずいぶん残念な感じになったわね』
 口の端をシニカルに吊り上げたアンタレス(la2909)は紫電と化した機体でフォン・ヘスを灼く。
『介錯が必要かしら?』
 すれ違い様、アンタレスが残していった言葉。
「落とせるか――落とせるつもりか――落とせるものか。この私の首を」
 紫電の残滓を払い落としたフォン・ヘス。その面に刻まれた笑みが、再び熱を帯びた。
 拓かれた書が彼の頭上へ幾何学模様を描き出し、引き伸ばして、押し広げて、巡らせて。
『封印が来ます! 周辺域のアサルトコア全機、急いで退避しでください!』
 MS-02S“紅天姫”の内より秋姫・フローズン(la2694)が警告を跳ばし、僚機の退避を支援すべく対AC無反動砲『斜光』を撃ち込む。
 包囲を固める中、彼女は注視していたのだ。フォン・ヘスの周囲を押し固めるアサルトコアの自由を奪う封印の発動に。
 フォン・ヘスへ肉迫していた機体は退避しきれず、封印に巻かれ、押し固められていった。それでも半ば以上が逃れられたのは秋姫あってこそだ。
 その間にもフォン・ヘスを、アサルトコア陣の長距離攻撃が突く。彼は吊り上げたままの口の端を歪め、
「小うるさい、小うるさい、小うるさい」
 動きを奪った機体から目を離し、前に出た。周囲のアサルトコア陣の攻撃をも無視して進み、突き出した右手を強く握り込む。
 不可視の導火線に点けられた不可視の火が空を駆け抜けて……今も攻撃を止めぬ後衛のただ中で爆炎を起爆した。
 光の矢を大きく凌ぐ超ダメージを受け、シールドを損ない低空へと沈み込むキャリアーとアサルトコア。
 フォン・ヘスはすがめた両眼でその様を撫で斬り、
「未だ、小うるさい」
 周囲を固めに駆けつけたナイトメアどもを引き連れ、さらに前進、前進、前進。

『――オレが引きつける。陣形を立て直し次第、攻撃を再開してくれ』
 恭弥は陣の立て直しを急ぐ僚機へ言い置き、ウォールシールド「金剛不壊」を構えた愛機を進ませた。フォン・ヘスを、1ミリでも仲間から引き離すがために。

●口撃
 足場のブリッツクリークを墜とされ、フォン・ヘスが瞬間移動で25メートルを跳び越える。
 彼の面を飾る笑みは狂気を極限まで押し詰めたような凄まじさを持ちながら、いっそ優美と表わしたくなるほど静やかで。
 しかしだ。彼の進行で勢いづいたと思われたナイトメア群の動きは闇雲で、ただただ数の暴力をもって押し込んでくるばかり。
 フォン・ヘスは気づいていなかった。彼が正しく指揮を執るだけで無敵と化す兵が、他ならぬ彼の暴走によって実力を封じられていることに。

『攻めるならフォン・ヘスさんが孤立している今なのです――!』
【ぐろりあすしXXX本店】小隊長、フィノシュトラ(la0927)が愛機FS-Xの右手を強く握り込ませる。
 そう、敵群がフォン・ヘスに振り回され、彼が剥き出されている今こそが好機。
『あの作戦を実行しますよ! すしや魂(マインド)燃え立たせるのです!』
 彼女の言葉に応え、【ぐろりあすしXXX本店】及び【ぐろりあすしXXX支店】の面々がキャリアーより飛び立った。そして1列に整列、飛行装備をつけていない機体はキャリアーの艦首に乗って、フォン・ヘスへ突撃――!
 挑発しつつ行列を作ることでフォン・ヘスの攻めを引きつけ、たとえ自分たちが撃破されようともそれだけの時間を稼ごうという意外に真っ当な作戦なのだが――
『フォン・ヘス疲れてんだねかわいそう! 癒やしてやんよ、このふわふわMUNAG』
 先頭を行くFF-01“MUNAGE(羊毛製)”のコクピットで胸をはだけかけた月居 愁也(la2983)。ボタンを外すのに手間取ったせいで操縦桿から手が離れ、もろに攻撃を食らって轟沈。
『すみませんマナー守って始発で来たファンなんですけどフォンさん握手会はこちらですか握手券はー、あれ?』
 カーディス=キャットフィールド(la3073)は手作り握手券をMS-01Jに投げつけさせようとして気づく。チケット、人間サイズだったからどこに行ったかわからない! 探している間に轟沈。
『フォン・ヘス、お母さんは泣いているぞ! あの日、肩ブルマに微笑んだおまえはどどどどど』
 SL-X“寿司桶2号”のスピーカー「ギャラルホルン」を最大音量、夜来野 遥久(la2984)はフォン・ヘスの心を揺らしにかかり、逆にブリッツクリークどもに激しく揺らされたあげく燃やされて轟沈。
 そんな面々を乗せたFS-10“白シャリ”艦長、仮森 仰雨(la3605)は察したものだ。ここがワタシの最後のステージ? 全員退艦準備?
『今ものすごく思いついたことあるけど版権がアレだから言えな』
 いヤダー! まで言い切れないのはお約束。あとは当然、轟沈だ。
 ちなみにフィノシュトラ、すでにひっそり轟沈していた。まあ、小隊長の宿命というものである。

「うるさい、うるさいうるさい私に集るな……!」
 まとわりついていた輩を払い退け、ようやく自陣の奥へ戻ろうとしたフォン・ヘスだったが、その後ろ髪を【ミュージアム】の魔手が掴み止めたのだ。
 小隊長、アンヌ・鐚・ルビス(la0030)は愛機FF-03QのJRo-01 カルメンをフル稼働させて地を駆け、三連装砲「サンシオンPD7」を撃ち上げて。
『前しか見ない男子っぽさはかわいいけど、それじゃずるい大人に足下掬われるわよ?』
 ガキ扱いはもちろん挑発だ、ようやく孤立してくれた今、あっさり引かせるわけにはいかない。しつこくまとわりついてもっと苛立たせてさらに突出させる。
『あー、今言ったばっかりなのにー!』
 SBs-01白鳥を噴かし、フォン・ヘスの真下からFF-01が伸び上がる。そのコクピットより高く言い放ったももぴー・スターライナー(la2851)は、愛機に渾身のファングブーストを突き上げた。
 フォン・ヘスはこれを掌で押し止め、振り払ったが、アンヌと連動するももぴーから視線を外しきれない。と、そこへ。
『ひょ~当たった、当たったでござるよ。ヘイヘイヘイ。……おやおやフォン・ヘス殿、もしや鈍ってござる?』
 奇妙な挑発ポーズをびしりと決め、他の2機が奪ったフォン・ヘスの目を釘づける涅槃(la2201)のMS-01J“彼岸花”。
 常のフォン・ヘスであれば怒りに我を忘れるようなことはあるまいが――此度の奴は明らかに冷静さを欠いてござるゆえな。

 フォン・ヘスは笑みを一層歪ませ、自らを中心に爆炎を燃え立たせた。
「まだ、うるさい」
 隙を突いて突撃をかけてきたアサルトコア陣を追い散らし、フォン・ヘスは加速する。
 しかし、その目は目先にばかり向いていて、必殺の攻めは戦局の芯を捉えることなく、部下どもはさらに遠く置き去られていく。

『全方位に気を配れよ! 仲間を守って自分も守れ!』
【DSP】所属のレオーネ・ベラルディーノ(la0378)が僚機へ告げ、SL-Xをブリッツクリークへ向かわせた。
 と、ウォールシールド「金剛不壊」に電撃が弾け、装甲を抜けた衝撃が彼の腕を痺れさせる。
 痛ぇな。が、泣き出すほどのもんでもねぇ。
 残された右眼をすがめ、さらに愛機を前へ。小隊員という家族を守りぬく、それだけを心に決めて。
 レオーネの後方で指揮を執り、自らもSJ-03を据えて砲台役を担う小隊長、ロレンツォ・オルジャーニ(la0377)。足場となるキャリアーに最大射程を保たせ、フォン・ヘスに追いつこうと急ぐナイトメアを屠っていく。
『退路の確保はできているかな? そろそろ俺たちも前へ出るよ』
 最前線にある僚機をフォローするには回復の手が必要だ。敵の統制が崩れきった今こそ、その手を足しに行くときだ。

●導手
「邪魔をするな下種が下衆が下司が!」
 フォン・ヘスの頭上に描き出された紋様巡り、アサルトコアを封印する。
 縫い止められた機体の装甲を引き裂き、噛みちぎらんと、ナイトメア群が殺到するが――
『させるわけにはいかないのであります!』
 モルフォソーンに狙われた僚機をかばうSL-XΛ“極聖機ラムダヴァンガード”。そのパイロットである【桜華光舞隊】のラムダ・ランバート・ラシュレー(la0557)はアルティメイターシールドで敵を押し返し、自らへ破軍星をまとわせた。
 封印に注視し、迅速なカバーを心がけてきた彼女は、傷ついた僚機を守り、仲間が担う次の手を守るため、敵の目を釘づける。
 そして戦域へ鼻先ならぬ艦首を突き込んだ、【桜華光舞隊】小隊長、神上・桜(la0412)が繰るFS-10“桜華乱舞”。
『通させはせぬ! やらせもせぬ! 汝らに我が知己たちを傷つけさせはせぬわ!』
 言い放つと同時、特殊兵装『ビーハイブ』の発射管を全門開放。撃ち放たれた小型ミサイルは雹のごとくにナイトメア群を打ち据え、感電させる。
 かくて動きを鈍らせられた敵群が、このときを待ち受けていた隊員たちの射撃に押し込まれ、千切られていく。
『今の内に傷ついた者は内へ入れ! まだ戦いは続く。汝らも我らも、こんなところで散ってはおれぬゆえにな!』

 桜華乱舞同様に戦戦域の中心へまで突っ込み、破損した機体を掬い続けているキャリアーがあった。個人参戦者のひとり、九鬼 要(la1279)のS-01“琉”である。
『搭載修理完了。広域偵察データ反映。――みなさん、衝撃に備えてください!』
 カウンターシェルを発動させ、群がり来る敵どもを、その攻撃ごと一気に噴き飛ばす。
『発進ルートが空きました! 各機、準備整い次第出てください!』

 キャリアーを軸に据えた救援活動が進められる中、その行く先と引く先とを見定めるべく【フォーサイシア】は戦域を駆け続け、跳び続け、飛び続ける。
『ブリッツクリーク先陣、動き出したよ! 予想攻撃範囲内にいる人、ギリギリまで引きつけて!』
 小隊長、桃武 侑飛(la0525)は僚機へのデータ送信を終えた途端、MS-02“縁斬羅車”のモニタをにらみつける。
 細分化された画面に写る敵はもれなくブリッツクリークだ。最大の難敵に的を絞ることで情報精度を上げ、味方に優位をもたらす。その尽力はついに実を結びつつあった。
『展開したモルフォソーンが止まった! 棘ばらまいてくるぞ、注意しろ!』
 警告を飛ばした桃武 侑輝(la0845)はHN-01“シーニーグローム”を加速させた。
 主にモルフォソーンの情報収集を担う彼は、どうしてもブリッツクリークに目を奪われがちなライセンサーたちを敵の奇襲から守り続けている。
『シールドがやばい機体はオレの後ろに入ってそのまま下がれ! がんばるのは修理した後でいいんだからな!』
 FS-10“Oleander”に搭乗する桃武 侑芽(la0860)、彼女の任は弟ふたりが集めて送ってくる断片的な情報を整理し、僚機へ送り届けることである。
『収納を完了したキャリアーは航路指示通りに下がってください。――ああ、心配ありませんよ、あと10秒は安全ですから』
 そのやわらかな声音は僚機を導くがため。不安に揺れず、恐怖に震えず、情報と自らを信じ、彼女は示し続ける。

●開封
 実弾と光線とですり潰し合うライセンサーとナイトメアだが、互いに逃げられぬ状況で勝機を掴んだのはライセンサーたちだった。徹底した遠距離攻撃の集中と、キャリアーによるシールド回復。損傷率を抑えた作戦は、損なうばかりのナイトメアを押し込み、ついに数の不利をも覆してみせたのだ。
 とはいえライセンサーたちも甚大な被害を出していた。
 前進したフォン・ヘスの強力な範囲攻撃は、容赦なく遠距離攻撃を担ってきた機体を灼き、回復を間に合わせず沈めていく。
 しかしだ。
“盾”を置き去り前進し続けたフォン・ヘスについて来られた個体は存在せず、故に彼は今、アサルトコアのカメラにその身を剥き出していた。

 フォン・ヘスを隠す蓑はもう存在しない。
 僚機の支援を受けて跳び出し、陣を展開したのは【仮設部】である。
『吠え散らかすの止めてくれたのはありがたいよ。ついでに私の負けですうとかって跪けよ。僕のヒールで踏んでやるぜ?』
 折り畳まれていたシールドパイクを伸ばす“FS-X『星墜』”。その内より六波羅 愛未(la3562)が挑発を投げた。
 フォン・ヘスは未だ笑んでいるが、その表情に先ほどまでの狂気は感じられない。この挑発には敵の目を引きつけると同時、敵の正気の度合を計る意図を含めてある。
「安い台詞だな。私を買いたくば相応に償え」
 幾何学模様巡らせたフォン・ヘスが、周囲のアサルトコアもろとも星墜を灼き払うと思いきや――ディストレーションの波動が爆炎と打ち合い、相殺した。
『やっと会えたんだし、踊ろうよ、最後の最後までさ』
 星墜に守られたSJ-04ODに乗る小隊長ケヴィン(la0192)が続けてスケルツォ・タランテラを発動させ、フォン・ヘスの守りを損なわせた。
 ケヴィンの意図はフォン・ヘスへの徹底的な嫌がらせである。そのためにスキルを厳選し、愛未に守りを任せてここまできた。あとはもう、フォン・ヘスに最後の最後を演じさせるだけだ。
 そのフォン・ヘスは瞬間移動にて一時後退を試みる。
 外殻の半ばを損ないながらも駆けつけてきたブリッツクリークが、彼の足場となるべく高度を下げた、そのとき。ひび割れていた頭部殻が撃ち砕かれ、そのまま体内をかき回されて爆ぜ飛んだ。
 足場といっしょに爆発なの。
【クラーク駆逐隊】所属の白(la4079)は万一にも狙いを逸らさぬよう胸中で言(ご)ち、トリガーへかけた指に力を込め直す。
 愛機FF-03Xの構える電磁戦艦砲「覇」の超攻撃力とワームスナイプの必中の面攻撃化、ブリッツクリークはもちろん、瞬間移動で視界を断ち切られたフォン・ヘスも避けられようはずはない。
「っ!」
 衝撃に飛ばされたフォン・ヘスは宙で無理矢理に体勢を立て直し、地へ降り立った。
 このままケヴィン機を生かしておいてはままならぬが、仕末するにもあの小うるさい護衛を退けねば――思考しながら踏み出した足ががくりと揺らいだ。これまで受けてきたダメージが、狂気という栓を抜かれてその身を侵し始めている。
 しかし。
 倒れるわけにはいかない。これ以上の無様を人類に晒せようはずがない。
 ああ、そうだ。私はフォン・ヘスなのだから。
「来よ、人類」
 果たして不遜な笑みを閃かせ、誘う。

 モードチェンジで高空まで持って行ったBD-01HHH“飛隼”をポストストール機動。【守護刀】所属の狭間 久志(la0848)が、まさに獲物を狩る隼のごとくのファルコンダイブを為し、フォン・ヘスへ降り落ちる。
『言われた通りに来てやったぜ、フォン・ヘス』
 対して光の矢を下から上へ噴き、これを迎撃したフォン・ヘスだが、久志という戦士を体現する技を止めきれずに押し込まれた。
 と、その後じさる先を塞ぐ機体があった。同じ小隊の仲間として飛隼と連動し、その“次”を担った日暮 さくら(la2809)のMS-02S“金烏”である。
 特殊兵装「超風火二輪」を噴かし、一迅の嵐を発動させた。フォン・ヘスへの一撃を決めた機体は、彼がたたらを踏む様に目もくれず、墜とされた飛隼のカバーへ回る。
 あとは頼みましたよ――!
『おおおおおお!!』
 連動を継いだのは【守護刀】小隊長、不知火 仙火(la2785)が繰るXN-01“掌中の炎”だ。
 フェイントはかけない。先のふたりの強襲と奇襲でフォン・ヘスはすでに惑っているはずだし、コード「666」で濁った彼に細かな技は使いこなせない。
 だからこその真っ向勝負。アンブッシュリーパーの加速に乗り、掌中の炎はズルフィカール・ジハードをまっすぐ斬り下ろした。
 フォン・ヘスの受けの手は――間に合わない。
 額を割られた彼は、それでも掌中の炎の腹へ光の矢を捻り込み、蹴り退けて笑う。
 命尽きかけているとはいえ、瞬間移動でライセンサーの攻めをくぐることは可能であろう。しかし、ここへ至って生にしがみつくような無粋を演じるものか。この期であればこそ矜持を掲げ、貫くのだ。フォン・ヘスとしての全き有り様を。
「足らん。私が斃れるにはまだ足りておらんぞ、人類」

 それが促しであることは明白だった。
【Lilac】の一員としてこの場に在り、フォン・ヘスと対峙してきた音切 奏(la2594)は、MS-02S“ギンバイカ”の特殊兵装「超風火二輪」の出力を最大に高めて飛ぶ。彼女の意を察した隊の仲間と他の僚機に支えられ、
 私たちは先へ進みます。今日という日に停滞してきたあなたが見ようともしなかった明日へ!
 唯我の蒼穹、仁王立つエルゴマンサーへと降り落ちて――
「我が無様は差し置き、こればかりは言い置こうか。見事であった、仇敵よ」
 果たしてフォン・ヘスは消滅した。不遜な笑みの余韻ばかりを空に残して。


 フォン・ヘスの死により、ここまで抵抗を続けてきたナイトメア群は一気に崩れた。
 あっけない閉幕だったが、ライセンサー側が負った被害を見れば快勝と呼べる戦いではありえなかったと知れよう。
 しかし、それでも勝った。
 無事を保つキャリアーに分乗したライセンサーはささやかなる万感を噛み締め、最終決戦来たる明日へと向かう。

リプレイ執筆
電気石八生

リプレイ監修
WTRPG・OMC運営チーム

文責
株式会社フロンティアワークス
  1. フォン・ヘス討伐<危険>
  2. ザルバ抑制<危険>
  3. オリジナル・インソムニア破壊