【金乱】 3フェーズリプレイ一覧

  1. 対バルペオル戦闘
  2. 対ナイトメア戦闘
  3. 市民救出

1.対バルペオル戦闘

●それでも、私達は 01

 黄金絢爛の嵐が渦巻く。
 その唸りは、その先へと挑む者らを立ち止まらせんとばかりに――立ちはだかる。

 ――金色濁乱停滞楽土、不眠城『酒池肉林』。
 人は停滞と怠惰の魔境に、挑む。その先の凪を夢見て。

「見なさい! 貴方達が夢を見たことで化物に与えた力が、戦友達を傷つけてるのよ!」

 稲妻のような破壊の光が降り注ぐ――その轟音に負けじとツギハギ(la0529)はありったけの声を張る。小型カメラを介して世界中の人々に訴える。
 映すのは霧と嵐の悍ましき魔神。その咆哮は人間を本能的に震撼させる――そして、あれこそが停滞と怠惰に窶してしまった人類の罪でもある。見つめ、贖い、乗り超えねばならない『悪』である。
「貴方達の絶望で、化物を育んで、誰かを傷付けてもいいの!? 誰かと自分を犠牲にしてまで見る夢なんか――そんなの――『夢』じゃない!」
 壊れちゃ駄目よとツギハギは叫ぶ。降り注ぐ破壊に抗うのは異界の大盾であり、それが増幅する機械の願い。呪い。恐怖。叫び。――テセウスの船のように、バラバラになって継ぎ接ぎされた心と体で、『それでも』。
「私達は歩いていきましょう。それでも隣人と手を繋いで、現実を……未来を!」

 齎される立て続けの破壊。
 人間の思念の盾を瞬く間に壊していく災禍。
 なれども――涼風 心葉(la0033)はひび割れたイマジナリーシールドの中、凛然と。

「何度も貴方に喰らわせるほど甘くないですよ!」

 瞬かせるのは聖なる光。有漏晩餐による継続損傷を浄化していく。
 この霧の中全てが奴の戦域。どれだけ離れても攻撃は襲いかかってくる。それでも、臆していては飲みこまれよう。心葉は回復役としてこの戦場に臨んでいる。その為にあらゆる手筈を整えてきたのだ。
 仲間を生きて帰す為に全力を尽くす――それが心葉の電子の心に抱かれた絶対的プロトコル。 自分が救った人の数が心葉の価値となり、意志となる。さぁ行こう。この世界に「『心葉」』の存在を示す為に。

「仕留められるか、勝負所か――」

 ケット・C・シュトラウス(la3631)はSL-X『Iris』を駆り、天空の騎士となる。パーツ展開、ワルキューレ・フリューゲル――黄金の嵐よりもなお煌めく金襴の装甲が、破壊の稲妻から仲間を護る盾となる。
 コックピット内、ケットは瞳孔を猫のように細くしていた。見やる先は嵐の渦中、金色の魔神。
「特殊兵装『ジャミング』展開、っと……!」
 爪で切り裂くようにアイリスの手を振るわせる。飛ばされる斬撃状の電磁波はバルペオルのリジェクションフィールドに干渉し、その知覚を狂わせる。抵抗力の高いバルペオルだが、流石に効果値の高いものは有効になるようだ。尤も長くはもたないだろうが、それでもいい。
 防御に回復。支援の為の手段は豊富にある。アイリスの思念の盾は固く分厚い。まだまだ戦える。抗ってみせる。ここで立ち止まる訳にはいかないから。

 ――ライセンサー側の支援は分厚い。だがそれは、攻撃手の少なさにも繋がる。
 しかし支援が多いということは、たとえアタッカーが少なめでも彼らが存分に暴れ、効果的な攻勢を保つことができるということで。

 小隊【シン&梓】がまさにその戦略であった。
 三代 梓(la2064)の駆るSL-Xはニーベルンゲンの歌を奏でる――重奏するのは小隊友軍機のブリュンヒルド。
 二つの歌を受け――梓の恋人シン・グリフォリシア(la0754)が乗っているXN-01『リベリオン・リーゼ』は、赤き単眼を光らせる。

「なるようになるかね、と」

 そう気軽に一つ言って――巨剣キャリアーバスターを構え、刹那に爆ぜさせるのは全てを灰に還さんばかりの超新星爆発。怨敵のみを襲う敵意の奔流。その破壊力は一瞬、周辺の霧すら消滅させたほどだった。
 梓は彼を支え続ける。今日の彼女は指揮者である。

「歌劇は得意じゃないけれど、私の声は劇場でも良く通ると評判だったのよ!」

 梓は散開した乙女達の歌を束ねる。徹底的に、シンに攻撃を続けさせる為に。いずれ回復が底を尽きようとも――リベリオン・リーゼには『偉大なる終幕』がある。
 さあ、グランドフィナーレを迎えるその時まで。
 待て――しかして希望せよ!

「今回は重体じゃないからね!」

 MS-02S『夜昊』――柳生 響(la0630)が駆るのは、黒兎のような鋼の天女。その赤い目は全てを見渡す天眼、仲間を魔神の攻撃から護り切りながら浮遊砲台「八咫烏」でバルペオルを狙う。
 放たれる光――直後には目まぐるしく、その身を翻した。空を蹴る。急上昇。火焔を散らしながら。分厚い霧の中でもその世界は明瞭。狙うべき敵を見誤りはしない。
「流星、受けてみなよ――!」
 反転。加速。重力。星が手を引くそのままに、一直線。飛脚「霞渡」による急降下蹴撃がバルペオルに直撃する。その勢いは問答無用で、嵐の体である悪夢のダメージカットすら無視して、その身に傷を叩き込む。

 小隊【黄道十二宮】も攻勢に加わる。
 オペレーション:レッドレイン――R2作戦、始動。旗艦S-01『アリエス』上、多数展開したのはSJ-03機達。彼らの狙いはMS-02S『ビルゴMk.3』による霧に阻害されない観測によって、着弾地点が万全に修正されている。

「一斉攻撃だ、火の雨を降らせてやろう」

 SJ-03『リーオーMk.2』内、レオ(la2351)が低く告げた――刹那である。
 砲撃音が連なる。徹甲榴弾が、貫通徹甲弾が、雨霰と降り注ぐ。黄金の霧の中、火焔の雨が瞬いた。識別不可能攻撃である為、射線や着弾点の調整が必要だが、その辺りも抜け目ない。
 爆煙の中、バルペオルが【黄道十二宮】を見上げる。霧の圧縮、多数の武装を展開し、上空へお返しとばかりに放たれた――シールドが砕ける、装甲が割れる、しかし無傷で倒せるなど思ってはいない。こういう時の為に搭載修理機能があるのだ。

 SJ-04N『ヴィニェーラ』内、イリヤ・R・ルネフ(la0162)は戦況を見ている。霧に有耶無耶の視界ではある、しかし小隊【独立機械化歩兵小隊【Заря】】のMS-02S『スーパーストライクフェアリーⅢ』ら飛娘娘の視界共有によってその問題もいくらか緩和されている。

「数多の粒。固まらず、而して渾然一体。人もまた、霧のようなものでしょうか」

 呟いた――システム「リムネラ」起動、奏でるのはアメージング・グレイス。小隊旗艦FS-10『Model-DAGDA』のリペアシューターと合わせて効率的に、『素晴らしき恩寵』は友軍機のシールドを修復していく。
 更に立て続け、休む間もなく次の歌。威風堂々第1番。リゾルート。決然と。一人でも多く、一秒でも長く生かす為に。

 仲間からの支援を受け、MS-02Sのナタリア・フィッツジェラルド(la2736)はスーパーストライクフェアリーⅢと――そして小隊の枠を超えて、全てのライセンサーと連携して霧の悪魔に挑む。
 小隊長であるイリヤを天の瞳による絶対回避で守りつつ、肉迫するは一迅の嵐のごとく。バトルアックス「赤龍雷神」を手に、唯我の蒼穹にて天女は躍る。カウンターも許さぬと躍動する。

「殺しきらなきゃならないのさ……八百万の希望を抱いてるのは私達とて同じでね」

 停滞。諦念。怠惰。放棄。――それは努力と野心の権化であるナタリアにとっては不倶戴天の概念で。
 なればこそ、この『悪』はここで摘まねばならぬ。たとえ眼前の嵐がどれだけ激しく、思念の盾も装甲も軋んでいこうとも。武器を、握り直す。

風見 雫鈴(la3465)は双蝶【鳳】をその手に、鬼面をかけた亡者共と踊る。落花啜ふ籠釣瓶。鉄扇を手に、ひらりと舞う胡蝶のよう。この黄金の霧を薙ぐように。
(この大戦が、貴方にとって、今まで世界に在り続けた意味があったと、そう言えるものでありますよう――)
 銀の瞳が見つめる先に、黄金絢爛の霧の魔神。
「お前は、何度でも俺に挑んでくるんだな。どれだけ痛い目に遭っても」
 振り下ろされる掌。重い衝撃。鋼の意志を纏えども、遂に乙女の盾は砕け。巨大な掌が、雫鈴の右腕を掴む。白花を手折るかのように、骨と肉が圧に砕ける。
 それでも、血をびゅうびゅう腕から吹き出しながらも。雫鈴は左手で十文字槍「氷月」を構えるのだ。腕一つで繰り出す神速の三連撃。鬼神の如く。

「だって――結局なにも変わらない、なんて、貴方に申し訳ないもの」

 その声にバルペオルは小さく笑う。
 殊勝な女だ。そう言って、怪物は心からの敬意と殺意を以て――咢を開く。


●それでも、私達は 02

 ――幾度目か、この怪物に酷く傷付けられるのは。

 音切 奏(la2594)の駆るMS-02S『ギンバイカ』はボロボロだった。壮麗な装甲はひび割れ、頭部ユニットも半壊、肩に足に霧の武具が突き刺さっている。
 小隊【Lilac】。友軍による必殺攻撃を天の瞳で『真の必殺』にし尽くし、後は純粋な殴り合い。トドメを刺してあげるのも女子力のお仕事――乙女達は連携して魔神に挑む。ひとりまたひとり、落ちていこうとも。

「王の座を捨てた獣に敬意をはらう必要はありませんわね? 踏み潰します!」

 この蒼穹は独壇場。火を散らし駆け抜けるは一迅の嵐のごとく。何度でも。奏は剣を突き立てる。挑み続ける。
「『姫』を貫く私に『王』を捨てた貴方が敵うはずないでしょう?」
「俺は神でも王でもないさ。お前達の悪夢だよ」
 バルペオルは受けた刃を掴んで笑った。
「お前の信念、好きだよ。妄想でも妄執でも貫きゃ真実になる。お前はいつまで、目を閉じずに夢見てられるかな?」
 それは称賛であり驚嘆であり、敬意であり敵意であり、祝福であり呪詛であり。
 剣を掴んだ反対側の手で大槍を顕現する――コックピットに突き立てる、一撃。
「っかは、……!」
 装甲を貫通した刃は乙女の胸を貫く。致命的な攻撃に、血を吐く乙女の意識は暗転する――。

「ははは。ははは。次はお前だぁ」
 たとえ一人を必ず潰すことで、他の者への攻撃の手が緩もうとも。バルペオルは昂揚していた。振り返る相貌は、詠代 静流(la2992)の乗るMS-02S『魔竜』へ。
「いいさ、かかってこい――!」
 迫る嵐に立ち向かうは、一迅に駆け抜ける嵐。カラミティサイズと、霧の剣がぶつかり合った。
「あるんだろ必殺技がよぉ、出せよ見せろよ出し惜しんでんじゃねぇぞ!」
 剣で魔竜を弾き飛ばし、悪魔は嗤う。
 ならば。静流は火焔を散らし急上昇するのだ――カウンターが来る、それでも、ここで日和って全力を出さないなど、あまりにももったいない!

「喜べバルペオル。今度の機体はお前の為に……お前を狩る為に作られた力だ!」

 音すら置き去りにする速さを纏い――燦然と輝くイマジナリーシールドが落ちる様は、一縷の流星。
 バルペオルは真っ向から受ける。そして、体を激しく損傷しながらも、その機体に触れた。
「もらってけ、お前の為のとっておきさ!」
 雷鳴。刹那、魔竜の体はばらばらになる――砕けたコックピットから、全身をズタズタに引き裂かれた静流の体が落ちていく――。

 我が身は雷。それは無防備で受けねばならないという、バルペオルからすれば大変なリスクを背負う技である。だからこそ連打はしない。本当に使いたい相手にしか、使わない。
 それは逆に――バルペオルが強い感情を向けている相手が多いほど、その者が犠牲になる前提でこそあるけれど、奴にとんでもないダメージを与えられるチャンスでもある。

「どうした、どうした、どうした人間! 肉を切らせて骨を断つ覚悟がねぇならよ、ザルバにも『ゴグマ』にも勝てねぇぞ!」

 おそらく人間ならば血みどろで、相当な深手を負っているのだろう。血を吐きながら叫んでいるのだろう。
「……『それでも』」
 ぽつり、血だらけの顔を俯けて雨月 氷夜(la3833)が呟いた。

「――なーんて言うと思ったか? 夢も理由も俺様にはねえな。ただ破壊するだけだぜ」

 顔を上げる。へらへら嗤う。高速装填――対物ライフル「EX-Ⅴ」による狙撃、コンボ、超集中によって思念の弾丸を形成し、さらにもう一射。弾丸は嵐の体に消えていく。血も爆ぜる肉もなく。
「いいねぇ、ギラギラの欲望だ。ギラつきすぎて、人間から退治されないよう気ぃつけろよ」
「いやぁそれがもう既にワンアウトなんだよなぁ?」
 銃口から立ち上る煙と、黄金の煙が絡んで酒池肉林に消えていく。
 嵐は吹き荒れ続け、立ち続ける人間の思念の力を殺いでいく。
 眩む視界。力が抜けていく体。ああ、と氷夜は装填と照準をほぼ同時に行いながら思う。愉しい。破壊の渦中の只中で。
「オマエと会えて楽しかったぜ」
 放つ弾丸と交差する、悪夢が放つ黄金の杭。切っ先が胸に突き刺さる直前、氷夜は口角をつった。

 バルペオルの攻撃はあまりにも重く、広い。
 第一次攻勢の比ではない。多くのライセンサーが戦闘不能に追い込まれていく。機体が煙を吹いて落ちていく。
 鎮守礼装『天岩戸』で防御する策を用いる者らもいたけれど、バルペオルの攻撃は直線だけではなく、上から降るような――射線が意味を成さないものがほとんどであり、そもそもバルペオル自体が移動をすれば意味がなくなってしまう。情報に記されていた通り、霧散する悪夢の移動は縦横無尽なのだ。

 それでも。
 挑まなければならない。
 越えなければならないのだ、この嵐を。
 越えられなければ――無間の停滞と、滅亡が待つ。

 ゆえにこそ、【閃光】は煌めく。【嵐を壊す】為に。
 それは小隊【GLORIA】が提唱した多数の小隊にわたる作戦。一気に畳みかける為の総攻撃。
 小隊【黒子抄】のキャリアーが彼らを運び、【NAGASAWA】と共に回復などの支援を。戦闘不能者は【ぐろりあすしXXX支店】が安全圏へ運ぶ。
 小隊【遠距離攻撃特化部隊「LRA」】が鎮守礼装『天岩戸』展開と後方火力支援を。
 そして【GLORIA】、【Back the Styx】、【ヴァローナ・グニズド】が三方向等間隔に展開・バルペオルを包囲するように布陣する。【New Divide】が遊撃的に攻勢に出る。
 長期戦を見据え、適宜にローテーションし、思念の盾を治しながら、彼らは戦い続けていた。

「夢はいずれ終わるわ。諦め絶望なさい……そしていつか顔を上げ空を見て。貴方達が再び歩く日を私は信じて戦うわ」
 小隊【対空部隊スカイセイバーズ】の一員、アルバ・フィオーレ(la0549)はカメラの向こうの人々に告げる。異聞「ヴァン・ガード」を手に、降らせる治癒の雨雫で仲間達の盾を修復していく。
 それも尽きれば攻勢の時。【閃光】が嵐を貫く時。

「あの一言、怒ったのだわ! 夜明けに咲き誇る『私(花)』の名、覚えていきなさい!」

 なんだよ枯れるのか――そう言われたことにアルバは立腹だった。諦めから一番遠い感情が乙女を突き動かす。降り抜く盾は夜明けの色をして、バルペオルを強く押しやった。
「覚えて欲しい? じゃあ、俺と一つになるかッ!」
 巨大な掌が乙女の体を掴んだ。渾身の力がシールドを粉砕する。開かれる咢。一瞬だ。ぞぶり、と牙が肌を突き破って――。

 ――それを阻害せんと動くのは小隊【ミュージアム】。

 アンヌ・鐚・ルビス(la0030)率いる三人のライセンサーが、バルペオルへ猛攻を浴びせた。
 彼らの目的はバルペオルの捕食阻止。何にも強い執着心を見せなかったこのエルゴマンサーは今、かつてなく昂揚している。そうすれば励起されるのは原始本能。食いたい。まだ続けたい。タノシイ。ゆえにこそ気に入った者へ喰らいつく。それは奴の攻撃の中で最も危険な手段である。

「大嵐が相手だってね、そこにお宝があると思ったら飛び込むのよ、怪盗はッ!」

 ロングボウ「レクセル」を高速装填しながらアンヌは言う。そうすればバルペオルは牙を突き刺し咥えていたアルバをペッと吐き――向かってくる人間へ嗤うのだ。

「喉元、喰らい付いてやる――」

 意趣返しのように梅雨(la2804)が駆ける。跳びかかる――前回の腹の傷のお返しを。友人の傷の倍返しを。
「また来たか、来ると思ってたよ」
 構えられる掌。喉の代わりに梅雨の牙はそこに突き立てられる。そうすれば横合い、今度は桜壱(la0205)が顕現させる水銀の『鯨』が、悪夢の霧の体をばくんと喰らうのだ。

「もちろん、皆で殺してみせますとも! 期待してくださいなっ!!」

 いつだって桜壱は盾であり薬。持てる技術と経験で仲間を守り、癒し、戦い続ける。
「性懲りもなく来たんだなァ!」
 噛み付いた梅雨の体を握り、『潰し』、そのままの拳を桜壱へ振り下ろす。二体のヴァルキュリアを強烈にひしゃげさせる。
「鉄の体だ。痛くないんだろ?」
 そう言われ、その通りだと言わんばかり、二人はボロボロの体で立ち上がる。落ちる稲妻で更にパーツを零そうとも。醜い亀裂が装甲を覆おうとも。
「全員生きて帰す。必ず」
「皆の命を……繋ぐ為に!」
 想いは同じ。砕かれながら、何度でも、挑む。

 化野 鳥太郎(la0108)のSJ-04『GLORIA』もまた、酷い有様だった。片足が取れ、装甲も傷だらけで――それでも。

「約束だからな。お前の為の葬送曲……弾き続けるのだけは得意だよ、俺は」

 奏でる。Kyrie『極光』。力を与え、そして見送る為の、哀しくも美しい鎮魂歌。透明な旋律に鮮やかな熱情。鳥太郎が奏でるピアノの旋律が戦場に響く――霧をも凍らす旋律よ。皆の想いを届かせる旋律であれ。
「全員で殺す、俺が届かせる、これが人類の力だ!」
 雨のように降り注ぐ破壊の切っ先を真っ向から見据え、怖気ることはなかった。砕かれ貫かれ、回る視界、指先は止まらず。

 ――ばきん、と砕ける。

 カトリン・ゾルゲ(la0153)が駆るMS-02S『ゾネ』の片腕が砕け散る。太陽色の装甲が割れて火花を上げる。シールド損傷のバックファイアにカトリンは唇を噛み締める。
 それでも。

「君を喜ばせる悲鳴も絶望もあげないよ。不敵に笑って立ち上がって、君を倒すんだ――!」

 唯我の蒼穹、グロリアが奏でる旋律と共に『太陽』は煌めく。たった一本の腕、羅漢N209で武装した拳でバルペオルを殴りつける。燃えて、輝いて、舞って。業火を燃やし続ける。あの太陽のように。飛娘娘の超機動はあらゆる対抗を許さない。
「いいさ。今度は……ハラワタ引きずり出してやろうか?」
 魔神の掌が爪を突き立てゾネを掴む。そして――歩兵部隊へと、叩き付ける。

 砕けて飛び散る装甲、思念の盾、血。

 時間が経過するほど、ライセンサーの損傷はただならぬことになっている。
 戦える者は半分以上に減っているだろうか。驚異的な怪物である。
 それでも、その怪物を殺し尽くさねばならないから。

「大丈夫、私達が回復させます……っ!」

 千日紅 レン(la2672)は重歩盾「スメーラスチ」を手に、仲間へ癒しの術を使い続ける。
 回復リソースは尽きる寸前だ。レンだけではない、多くのライセンサーの回復手段は刻一刻と尽きつつある。
 絶望が迫る。渦巻く嵐が立ち上がる気力すらも殺いでいく。レンとて無傷ではない。額は裂け、血が流れ、片方の視界を赤く染めている。脇腹にも霧による武具が突き刺さって、おびただしく出血していた。だけど。
「負けません!!」
 彼女をはじめ、小隊【NAGASAWA】の面々は尽力し続ける。この戦いに、勝つ為に。

 ――きっと、越えられぬ嵐なんてない。

 XN-01『アニヒレイター』は、パイロットであるアグラーヤ(la0287)の攻撃性をどこまでも純粋に研ぎ澄ませる。報復を。復讐を。「赦さない」。斬艦刀「天翼」が羽搏く。深紅の堕天使はその身を砕かれようとも、黄金の霧で思念を蝕まれようとも、暴れ続ける。
 その果ての果てに――さあ、大いなる終幕を。

「言った以上、ちゃんとやらないとね。さて、お望みの『最期』だよ、バルペオル」

 再起動。そして、アグラーヤの視界と世界は真っ赤に染まる。
 完全暴走。獣性に全てを委ね、「666」のプログラムを過剰起動させ――機体も思念も焼き焦がれるほどの大出力を、その剣に纏った。全てを破壊する黒。絶望と苦難の果て、しかして足掻く者にのみ許された、最後の希望。
「が――アァアアッッ――!!」

 塗り潰す。

「はははッ、流石に、効いたなぁ……!」
 並のエルゴマンサーならばどれだけの骸が積み上がっていることか。人を絶望させんばかりの耐久性、再生力。まだバルペオルは倒れていない――これこそが醒めぬ悪夢なのだと人間を震撼させんがごとく。

 ならばそれすら刈り落とそう。飛び出だしたのは、紅迅 斬華(la2548)のKZ-00『華斬王』。
 小隊【戦闘支援機関「オーケアノス」】は全て斬華の為にあった。仲間達の支援をその背に受けて――多くの者の期待があるからこそ、ここは譲れなくて。

「その節はどうも♪ 防御不能の首刈り連撃を見せてあげましょう♪」

 一意専心。KSII。深紅の大鎌カラミティサイズを振り被る。
 血色のオーラをその身に纏う。朧なる影となりて、血祭。武器も四肢も全てが凶器。
 MS-00『獄炎』によるユニオンモード『紫電一閃』。MS-02S『日輪』による天の瞳。防御も回避も許さぬ、絶対必中にして超絶火力の二連撃が嵐の魔神を切り刻む。
「全くおもしれぇことするよなぁ」
 三撃目――これをバルペオルは無防備に受けた。
「お前にはこうしてやろうって戦う前から決めてたんさ。だってお前つえーもん」
「――ふ、ふふっ……!」
 操縦桿を手の筋が浮かぶほど握り込み、斬華は笑む。ひやりと本能が叫ぶ危機。
 刹那である。稲妻が落ち、華斬王の機体はバラバラに。コックピット内に、乙女の血飛沫が飛び散る――。

 たった三撃。しかしてこの戦場における最大火力。
 しかもその内の一発を、バルペオルは無防御で受けた。
 エースの戦線撤退という大損失に見合う、おつりで溺れるほどの、紛れもない大成果。

 ――その最中で、常陸 祭莉(la0023)は銀の魔弾「セレブロ」を手に儀式を進めていた。長い長い祈りの果て、かくしてそれは完遂する。
「我は嵐の中を歩みし者、名を叫ぶ……“ヌル・イタカ”」
 -null- 凍牙嵐賛。凍てつく嵐が、黄金の嵐の中にびょうと吹いた。顕現する幻影は、大いなる白き沈黙の神。風に乗りて歩むもの。
「我慢比べ……と、行こうか。耐えきるか、人の力が押し勝つか。約束を果たそう」
 見澄ます先に怠惰の悪魔。祭莉は怪物へ、真っ直ぐに想いを向ける。

「――来いよ。お前の生きた証、刻み付けてみろ……ボクは全部、喰らってやる」
「じゃあ死ぬなよ。大見得切ったんなら貫いてみせろ」

 嵐が――銀と金が――祭莉の友人によるユニオンモード『紫電一閃』の閃光と共に――交差する、その直前だった。

「――!」

 かき消されぬよう、張られた声。
 通信機を介し、ネムリアス=レスティングス(la1966)が祭莉に届けた言葉。
「……うん、わかった。ありがとう」
 祭莉は呟いた。そして彼の『助言』通りに魔術を僅かに操作する。

 我が身は雷。
 ネムリアスはそれを観察し続けていた。人の姿を捨てたそれに、前回までの経験は無意味と悟った彼は、その回避術で猛攻を掻い潜りながら見極め続けていた。
 それは困難を極めた。実際、そのカウンターによって何人もの仲間が沈んだ。
 それでも。
 諦めなかった。
 前もできたのだからできるだろう、そんな楽観では決して成し得られなかった。
 全てはネムリアスの勤勉の帰結。
「もう片方の戦場も気になるが……ここまで来たら、最後までアンタとやり合うべきだろう?」
 遂に彼は見極めたのだ。言葉では説明できない、だから見極める方法を仲間に共有することはできない、なれど「どうすればいいか」は伝えるこができる。

 その結果――彼の助言による祭莉の一撃は、絶対的にして劇的なる命中となる。
 稲妻は、閃かない。

「うわぁ、はははッ、マジかよぉ……」
 霧の悪魔は千々に引き裂かれ、その身を霞ませていく。
 もうネムリアスがいる限り、あの恐るべき一撃は意味を成さない。――このようなこと、数多の世界を渡ってきたバルペオルとて初めてだった。想定を超えていた。
「すげーよなぁ、ビックリした! ああ、すごいすごい! ハハハ! アハハハハ!」
 それが嬉しい。なぜだろう――バルペオルは体を崩していきながらも、その嵐で人間らを薙ぎ払いながら考える。
 進化。そうだ、人間は進化している。そして進化を目指すナイトメアという種族の本能が、それに焦がれる――ああ、進みて化けること。なんて美しいのか!

「アンタのお陰で、少しは強くなれた」

 炎熱幻影『陽炎』。嵐を越え、ネムリアスはバルペオルの眼前に立つ。
 魔神はすでに半身が消えていた。致命傷に項垂れ、血反吐のように煙を吐き。

「ほーら悪いバケモノだぞ。がおー。キッチリ殺せ、正義の味方を名乗るンならなァ!」

 彼を食い潰さんと。
 最期までナイトメアらしく。
 血濡れた牙を剥いて襲いかかったのだ。
 これまで幾千幾万と、食らい奪い殺戮してきたその得物で。

「ありがとよ」

 牙は届かない。
 一瞬。ネムリアスは怪物の懐に踏み込んで。

「そして、さようならだ」

 大鷲の爪翼による手刀で、正面から切り捨てた――。


●それでも、私達は 03
「……いいさ。お前らは進みなよ」
 消えて解けていく体。バルペオルは長い長い溜息を吐いた。
「――讌ス縺励°縺」縺溘〒縺励g縺?シ」
 半壊以上の機体。桜壱はノイズ交じりの声で呟いた。
 悪夢は鼻で笑った。その問いに肯定を返すかのように。そして酒池肉林を見渡すのだ――『肉林』は奪い尽くされ。手下共もほとんど討たれ。ああ、スティーヴも終わったのか。エトンは泣くかな。ザルバはどうせ次の手立てでも考えてるんだろう。
 それにしても。とても……永かったものだ。一間の後、人間を見る。

「無間のような繰り返しに。終わりのない戦いに。果てのない道に。……進めなくなって、諦めて、立ち止まって、死にやがったら、地獄でお前らを喰ってやる。嫌なら精々――血を吐いて――苦しんで苦しんで苦しんで――終わりなく足掻けや!」

 そう言って。呪詛という名の祝福を人間にぶつけて。
 緩やかに倒れていくバルペオルは――その黄金の霧の体を、完全に溶かしていった。
 祭莉は霞む視界でその姿を見つめていた。「おやすみ、バルペオル」と――言葉の直後に、ぶわりと風が吹く。強い風に人々が一瞬、目を伏せた次の瞬間には――

 そこには『何もなかった』。
 黄金の楽土の風景は掻き消え。
 残ったのは、何もない、灰色の荒れ地。

 ――全てはバルペオルの、あの霧の、幻だったのだ。黄金にきらめく桃源郷の風景など、なかったのだ。
 皮肉なものである。あれだけ豪華絢爛な風景の魔境の正体が、何もない痩せ果てた荒れ地だったとは。
 まるで夢から醒めるかのよう。苦しい現実に戻るかのよう。
 これで終わりではない。次の戦場が。多くの課題が。残っている。この先もずっと。

 それでも……。

 それでも、君達はまた、進んでいくのだろう?


『了』

リプレイ執筆
ガンマ

リプレイ監修
WTRPG・OMC運営チーム

文責
株式会社フロンティアワークス
  1. 対バルペオル戦闘
  2. 対ナイトメア戦闘
  3. 市民救出