【金乱】 2フェーズリプレイ一覧

  1. 対バルペオル戦闘
  2. 対ナイトメア戦闘
  3. 市民救出

1.対バルペオル戦闘

●黄金の深淵 01

 彼方に巨影――黄金の霧が嵐のように渦巻く、酒池肉林の深奥にて。

 あまりに巨大なナイトメアの頂上、バルペオルはゆっくりと目を開けて挑みくるライセンサーを見た。
「いいさ、何度だって挑んでこいよ」
 怪物は煙管の先を揺らした――絢爛たる霧が凝固していく。

 なれど。

 次の瞬間、歪んだ光が魔境に満ちる。想いの力の波動――【仮設部】を率いるケヴィン(la0192)のSJ-04ODによるディストーションが、向けられる敵意を完全に霧散させていく。
「……ま、時間稼ぎくらいはね」
 とはいえディストーションは狙われた時にしか使えない。今のでバルペオルは学習したことだろう。同じ手段は二度三度と通用しないだろう。とはいえ――たった一手、されど一手、相手の手番を潰せたことは大きい。
「次はこれだ……システム『リムネラ』起動――!」
 友軍のキャリアー上から奏でるのは、イコライザー。連中の厄介な回復能力を封じにかかる。対するバルペオルはロシャンにそれを庇わせた。ロシャンは回復不能状態となるが、ほどなくそれを自力解除する。かなり抵抗力が高そうだ。だが運が良ければ、わずかな間でも活路を見いだせるかもしれない。
 ならば次、とケヴィンは冷静にリムネラの準備を始める。スケルツォ・タランテラならば抵抗力も関係なしに連中の防御機能を低下させることができるだろう。一矢でも百矢でも報いんと、ケヴィンは悪魔を見澄ました。

「えらいド派手なくず鉄の山やなぁ」
 BD-01PT『火焔蝶』を飛行形態で走らせつつ、鳳(la3789)は巨躯のロシャンを上空から見下ろしていた。
 歩兵部隊との乱戦が始まれば、バルペオルへの無差別範囲攻撃は難しくなるだろう。だからこそ、今。

「距離よし、角度よし、視界よし。プロトディメントレーザー起動――くず鉄にしたる!」

 柳眉を吊り上げ、発射するのは動力を攻勢エネルギーに変換した色鮮やかな光線だった。酒池肉林の黄金の霧よりもなお鮮烈な光は、絶大なる威力を以て、バルペオルとロシャンを巻き込んで強烈な破壊をもたらしていく。
「あー……やっぱ厄介だな、お前らのその鉄人形」
 並のナイトメアならば木っ端微塵。なれどバルペオルは首をゆるりと傾げるのみだった。その輪郭が少し煙のようにボヤけている辺り、決してノーダメージというわけではないらしい。

 直後のことである。ロシャンの表面が揺らぎ――針のような脚が幾つも、周囲八方へ繰り出された。
 巨体が取りまわすそれは、その質量がそのままおぞましき凶器である。よほど物理防御に自信がある者でもない限り、直撃すればただでは済まない。

 なればこそ。

「全砲門展開、防衛射撃開始――一撃退場は流石に目覚めが悪いのでね……!」
 小隊【頑張って帰り隊】を率いるシリウス・スターゲイザー(la2780)は、FS-10『医療修理艦:全速帰宅号』の砲門を全て開いた。立て続けに砲声が連なり、圧倒的な弾幕が展開される。それはロシャンの爪の勢いを幾らか削ぎつつも、幾つもの砲弾をその体表に炸裂させた。
 直後に船体が大きく揺れる。ロシャンの爪は容易くシールドに穴を開けていた。シリウスはその挙動をつぶさに観察しつつ、手元の端末に高速で記録していく。攻撃力、範囲、射程、挙動、etc……。
 シリウス達は観測手。全てはこの先の勝利の為、次の最終決戦の為、少しでも多くの情報を集めねばならぬ。
「ふぅ……。生きてデータを持ち帰らなくてはね……。我々は勝たねばならない」
 そう仲間を鼓舞し――戦術リンクシステム起動、攻撃指示展開。戦う仲間達へ、ありったけの支援を行っていく。足場にしてもいい、避難場所に使ってもいい、形振り構って勝利は掴めない!

 小隊【S&A】も怪物共へと攻勢をしかける。旗艦S-01より飛び出したのは、FF-01『Ennosigaios』を駆るマルティーノ=ヴェラルディ(la2584)。友軍の放つファイアバグはロシャンが庇う――赤々とした火の粉の舞い散る中、エンノシガイオスは特殊兵装『プラズマシューター』の銃口を向けた。

「バルペオル――私たちは、人類は。歩みを止めることはないのだよ」

 外部通信オン。真正面、真っ向勝負、高らかに、マルティーノはバルペオルへ告げた。
「ほー。じゃあどこまで歩き続けられるかな。根性見せろや」
 口角を吊った悪魔へ。然らばとマルティーノは想いの力を特殊兵装EXISに込めて――放つ。無数の光弾は流星群のように、酒池肉林の怪物共へと降り注ぐ。
 小隊【S&A】の目標は継続戦闘。連携して、彼らは攻撃を間断なく敢行し続ける。

 バルペオルは光を払う。炎上するロシャンの上、システム『リムネラ』に妨害されぬよう狙いを制限し――今度こそ、黄金の霧を無数の武具に変えてライセンサーへと降り注がせた。当たればイマジナリーシールドを蝕む呪いが込められたそれは、吹き荒れる黄金の嵐と共にライセンサー達のシールドをたちまちに崩れさせていく。

 その一撃を防衛射撃によって迎撃したのはFS-10『ピュクシス』の桐生 柊也(la0503)だ。反撃の斉射を敢行しつつ、ロシャンやバルペオルの攻撃で大ダメージを負った者へリペアシューターをすぐさま放つ。

「――考え方は嫌いじゃないけど、こっちもやることはやっておく主義だからね」

 ピュクシスが位置するはロシャン頭上。ハッチを展開すれば――小隊【Back the Styx】の面々が、降下突撃を開始する。「武運を」、と仲間達の健闘を祈る。もちろん祈るだけじゃない。祈って願うだけでは何も変わらない。ゆえに戦術リンクシステムによる支援で、ありったけの後押しを。

「天清浄 地清浄 内外清浄 六根清浄と祓給う――」
 雪鳥奏上【清浄祓】。降下する吉野 雪花(la0141)が太刀君影をひょうと奮えば、滔々と落ちる幻想の雪が刃となり、魔境の怪物へ降り注ぐ。
「出番だよ……×さん」
 同時。中空の常陸 祭莉(la0023)が呟けば、現れるのは銀の死神――翼ぶ呼を風、りよ参拾壱は死【ⅢⅩ】。死の前に逃げ場はなく、振り抜かれる鎌は炎上するロシャンと共に、バルペオルの霧の体を残酷無比に切り裂いた。
「いいねえ」
 雪の刃を体に刺し、死神に一閃された首は霧が揺らめき。しかしバルペオルはのたりと笑うのだ。煙管を揺らす。稲妻のような光がライセンサー達へ降り注ぐ。
 範囲攻撃――幻想之壁などでなければ庇うことあたわず。それでも奴の攻撃が範囲攻撃だけでないことを雪花は知っている。
「掛介麻久母畏伎伊邪那岐大神――」
 雪鳥奏上【祓詞】によって身を護る雪花は祭莉を気にかける。彼の、そして仲間の盾として彼は在るつもりだ。

「いいよ、大丈夫。祓うのは役目だから……まだ、やれる」

 凛と。新雪よりもなお清らかに無垢に。
 雪花に守られつつ、祭莉はバルペオルを見やった。塞がったばかりの傷がじくりと痛む。
「ところで……食べた体、……肉は、どこ行ってるの……?」
「がんばって消化したよ。固形物は趣味じゃねえんだがな。つーか懲りずによく来るねぇ……いいよ、何度だって怖い目に遭わせてやる。何度だって。嫌になるまで」
 一歩。ロシャンの鉄爪と、黄金の武具を周囲に。祭莉は身構え、再び死神を召喚する。目の前の怪物を殺す為に。殺さねばならないから。

 激しい攻勢――そこに加わるのは小隊【Lilac】。鉄人形を駆る乙女達が、銘々に武器を怪物へと向けるのだ。
 彼女らは殺気立っていた――無理もない。小隊長たる音切 奏(la2594)がバルペオルに深手を負わせられたのはつい先日。そんな想いが乗った猛攻が――
「斉射開始!」
 奏の指揮の下、降り注ぐ。MS-02S『ギンバイカ』の目に、霧による欺瞞は全て看破されている。弾幕パーティは女子力の輝き、女の敵は木っ端微塵だ。
「仲間思いなんだか暴走してんだか……まったくもうチョイ落ち着きな」
 ビリビリと伝わる仲間達の熱意。FF-01『ネイト』のコックピット内、火煉・W・紅露(la0004)は肩を竦めていた。
 なれど、紅露も気持ちは同じなのだ。仕方がないのだ。ネイトの手にはキャノン「ロウシュヴァウスト」。展開される弾幕の中、彼女もまた敵を睨む。

「まぁあたしもうちの子が怪我させられると怒るってことさね。喰らいな!」

 とにかく広範囲な敵の攻撃に、乙女らのシールドも無事ではない。だがその程度で臆するなど乙女ではない。
 おびただしい爆炎は花束のよう。乙女達による殺意という名のブーケトス。爆煙がもうもうと立ち昇る――その頂点、空より、一迅の嵐が怪物共を真上から貫いた。超風火二輪に乗った鋼鉄の天女、ギンバイカである。

「ごきげんようバルペオル。王が姫に踏みつけられる気分はいかがですか?」
「また来たのか――ああ、楽しいよ。とってもな!」

 絶え間ないバルペオルの攻撃と渦巻く嵐に、ギンバイカのシールドもただでは済んでいない。しかし。挑むのだ。何度だって。
 ギンバイカが宙を舞う。火焔の軌跡を残しながら――唯我の蒼穹。黄金の霧の中、踊るように舞うように。重力にすら縛られぬ天女の剣閃は不可侵。防御も回避も許さずに、怪物の体を切り開く。

「さーーーぶっ潰す為の作戦開始ィ!!!」

 更にもう一機のMS-02S、ジャック=チハヤ(la3438)の駆る飛翔ノ機『MAONYAN』が超風火二輪による火焔を散らしながら、ギンバイカのように真上からの降下突撃――一迅の嵐。深い霧による乱戦なれど、この鋼鉄の天女らによる澄み渡った視界は仲間内に共有されている。
 嫋やかなマオニャンが操るのは無骨な鉄球「破砕」。ひとひらの花弁のように舞いながら、繰り出すのは苛烈な攻撃。
「遊んでもらいましょ、飽きて嫌になるまでさ!」
 この蒼穹は人間のもの。重力から解放された天女らの庭。煌めく思念の光衣をまとう飛娘達は、地を這う化物に容赦をしない。

 MS-02『アル・ニヤト』を駆るアンタレスla2909)は、無数に突き出されたロシャンの脚を刹那で掻い潜り――あるいは蹴り払い刃で叩き落とし――間隙を飛ぶ燕のごとく。火焔の軌跡を残しながら一気に大怪物へと肉薄する。

「突き刺せ! アル・ニヤト!」

 [EX]斬艦刀「天翼」による一閃、その勢いのまま飛脚「霞渡」による足刀。双龍舞。小さな機体であるMS-02が天翼を取りまわしながら飛翔する姿は、さながら片翼の天使か。
 否、天使などではない。それは蠍。獲物を突き刺し、その毒で巨人オリオンすら戦慄させる、脅威の蠍座。
 アンタレスの属する小隊【民間軍事会社「Beowulf」】は、ロシャンとバルペオルへ攻撃し続ける。
 S-01『轢き逃げスフェス二クス』による粒子加速砲『ウルフバード』を横目に――艦上を拠点として、MS-00『GECKO』のレイヴ リンクス(la2313)は仲間の支援に徹していた。
「霧に隠れても、ここまで近づけば関係ありません」
 特殊兵装『防護用天幕』によってダメージコントロール。被弾が深刻な対象へは特殊兵装『緊急修復セット』。もちろんバルペオルの『視界内』にいる関係上、ゲッコーとて無傷では済まない。シールドに霧を圧縮した武具が幾つも突き刺さり、亀裂が入る。
「っと……一時避難します」
 撃墜される前にすぐさま旗艦へ避難。ピットインと特殊兵装『補助エネルギーS型』によって、事実上戦場にキャリアーがある限りは超長期支援機として、ゲッコーは君臨し続ける。

 奇しくもレイヴと同じように仲間を支援し続けているのは、MS-00のポニタ(la3755)。
 戦気と殺意の溢れる恐ろしい戦場は、平和でのどかな世界から来たポニタにとっててんやわんやである。
「はわわわわわわ……」
 てんやわんやしつつも、誰かが傷つくのを無視はできない。手近にいたキャリアーの艦上を拠点にさせてもらい、LBa-02ファゲットによるバリアで身を包み、せっせせっせと特殊兵装『緊急修復セット』を仲間へ自分へ使い続ける。
 と、「バキン!」と音を立ててシールドが敵の攻撃で大損傷する。「ひえっ」とコックピット内で身を竦ませつつ、ポニタはキャリアー内へ緊急避難を。ピットインで緊急修復セットの再起動を行う。

 黒帳 子夜(la3066)もまた、MS-00『薄明』によって仲間の支援を行っていた。
「っ――」
 ロシャンの一撃は重い。シールド・ヴァレッタを手に仲間を庇う薄明のシールドに、大きな大きな亀裂が走った。伝わる衝撃に眉根を寄せるも、子夜は怯むことも臆することもなく、防御用天幕を仲間達へと施していく。
「よし、まだ戦えますね。――さて」
 視線を霧の中で巡らせる。飛娘に乗った仲間からの視界情報と照らし合わせ、負傷者を探す。見つけたならばすぐに駆け付け、緊急修復セットで支援を。

「夜明け前はまだ暗く――されど明けを目指しましょう」

 バルペオルは回復不能を付与するよりも火力で押し切る作戦に出ているようだ。ロシャンと共に繰り出される攻撃は苛烈、なれどライセンサー側の支援は手厚い。
 傷ついて、押しやられ、傷を負い、それでも、前へ、挑んでいく。

「がんばるっす!」

 小清水 椛(la3754)はSJ-02を駆り、味方キャリアー上から浮遊砲台「八咫烏」を連打し続ける。だけでなく仲間から共有される視界情報ももとに、友軍の状態にも気を配る。戦闘不能者がいれば即座に安全地帯へ運ぶ心算でいた。
 誰しも一人で戦っているのではない。椛もその一人だ。暴れ狂うロシャンの鉄爪にバルペオルの術がシールドをたちまちに消耗させていく――それでも。負けるものかと歯を食い縛る。

「第一歩となりますよう」

 白野 飛鳥(la3468)はロシャンの上、淡い赤色の蛍火を周囲に灯す――赤蛍火。周囲にいる仲間達のシールドを修復していく。
 誇張抜きで無傷の者は誰もいない。飛鳥も同じだ。ボロボロだ。シールドは治した傍からまた崩れ始める。バックファイアにくらくらする。
 それでも、日本刀「黒帳」をぐっと握り直し。何度でも想いを連ねる。仲間を癒し、支援していく。だが回復リソースも有限だ。回復が底を尽けば――あとはもうがむしゃらに攻めるのみ。挑み続けるのみである。



●黄金の深淵 02

 ――戦いは激戦へ、血みどろの戦いへ。

 黄金の嵐はますます勢いをましている。
 バルペオルへは間断なく攻撃が降り注いでいる。しかし奴は避ける気がない代わりにそれなりの防御力をしているらしい、それに加えて衝撃を殺す嵐の体。そして幾らか低下しているとはいえ、それでも十二分以上に驚異的な再生能力。インソムニア管理者として、途方もない怪物として、未だに人間の前に君臨している。
 ダメージは蓄積しているのだろうか。通常の生物とは異なる身体構造のバルペオルに一見して生物的損傷は見当たらない。それでも――今必要なのは、奴を消耗させることなのだ。塵も積もれば山となる。どんなかすり傷でも、今は、与えることが重要だ。

 ――ぽろぽろと崩れ落ちていく思念の壁の欠片は、舞い散る桜花のよう。

「まだまだ、――お相手っ……! よろしくお願いします!!」

 風見 雫鈴(la3465)は十文字槍「氷月」を杖のように突いて、倒れることを拒絶する。不壊の想いを力に変えて、凛とバルペオルを見澄ましている。
 眼前の悪魔は――数多の攻撃を浴びつつ、あるいはロシャンに庇わせつつ、血の流れぬ体で立ちはだかっている。
「根性出せ、命懸けで」
 嗤っている――愉しんでいる。ふ、と雫鈴は微笑した。割れたシールドの隙間から浴びた攻撃で額が裂け、深紅の血が伝うかんばせで。
「愉しいのなら、よかったです。是非、遊んでいってくださいね」
 だん、と踏み込む。正中線三連撃。
 ぞぶりと刺し込まれる刃。真っ向から受けるバルペオルは――これまで幾度も挑んできた雫鈴への敬愛を以て、その肩口から首元に食らいつく。

 悍ましくて強い生き物の原始的行為、捕食――雨月 氷夜(la3833)はゾクゾクとしながらも、怪物の脳天めがけて対物ライフル「EX-Ⅴ」によるポイントバレッドを発射した。重厚な砲撃音、命中箇所が一瞬だけ霧のように掻き消えて揺らぐ。

「バルぺオル! 俺様の殺意を認めてくれて、ありがとよ! 一緒に遊ぼうぜ!!」

 超集中による思念の弾丸にリロードの必要はない。氷夜の呼びかけに、牙を離したバルペオルが振り返る。手の甲で口元を拭い、嗤い、黄金の武具とロシャンの爪をうぞりと数多に構えるのだ。
「そうだよ、遊ぼう。まあゆっくりしていけや」
 氷夜の被弾も深刻なものになり始めている。そろそろまずいかな、なんて口角をつりながら思った。それでも眼前に在る怪物は、前に会った時は不快でしかなかったのに、今は好ましく――なぜか嬉しいのだ。だから何もせずに帰るなんて、もったいない!

 破壊が降り注ぐ。
 ブライアン・シュライバー(la1646)のXN-01はその凶撃に『牙を剥き』ながら――シールドが砕け、装甲が傷ついて火花を上げていきながらも――どうにか踏みとどまる。苦難の煉獄を進む意地を以て、武器を構えてみせる。

「今回は貴様の力を削ぐことに専念させてもらう」

 アラートの鳴り響くコックピット内。コード「666」を起動し、増幅された攻撃性に視界が赤らむ中、それでも人間としての理性を以て狂いはしない。獣の数字は、人間を意味する。巨剣キャリアーバスターを振り上げた。何度でも。何度だって。立ち止まることは、決してしない。

 ――ひとり、またひとり、黄金の霧の中に落ちていく。
 落下した者が悪夢に圧砕されることはない。戦闘不能になった者を救助せんと構えていた者が多かったからだ。彼らが居なければ、下手をすれば死者すら出かねない危険な状況だったろう。

 そんな中で、黄金の嵐による損傷のみである驚異的な存在もいる。
「どうせバレてんだろ? よく見ろよ、俺はここにいる」
 黄金の武具を、ロシャンの鉄爪を掻い潜り受け流し。ネムリアス=レスティングス(la1966)は大鷲の爪翼による旋空連牙・技を叩き込み、更にもう一撃を悪魔に突き立て飛び下がる。
「んー……前より速くなった?」
「リベンジだからな、当然だ。――期待しとけ、ご期待通りに以前より……”速い”ぞ?」
 ネムリアスは警戒していた。【我が身は雷】――一度受けたあのカウンターだ。ノーガードになった瞬間がスイッチ。バルペオルがその素振りを見せたら即座に攻撃を中断していた。これは誰もが真似できるモノではない。一度受けたネムリアスが最大限に警戒しているからこそ、奇跡的にうまくいっているのである。
「いいねえ……」
 その勤勉さにバルペオルは狂おしいほどの愉悦と殺意を覚えるのだ。手の中に武具を作り出し、一直線を貫く投擲――
「陽炎の如く――」
 炎熱幻影『陽炎』。切っ先が貫いたのは揺らめく蒼炎の幻影。刹那には肉薄、無拍逆襲撃。挑み続ける意地を見せる。

 立て続け、中天より怪物共を強襲するはMS-02S『ゾネ』――火焔を散らし、虹色の光を纏い、魔を撃ち抜くは一迅の嵐。カトリン・ゾルゲ(la0153)の機体だ。
「また会ったね、悪夢の怪物」
 黒いバリアをまとう鋼の天女は、超装甲大盾を構えて凛と告げる。前に戦った時のようにやられるつもりはない。どうにか動くようになった足首がじくりと痛むけれど、カトリンは臆さない。

「――どんなに強大な存在として立ちはだかろうとも、僕は負けない」

 火焔を散らす天女が舞う。この空は飛娘娘の独壇場。唯我の蒼穹。圧し潰すように、大盾の一撃を振り下ろす。
「いいねえ……次は四肢を毟ってやろうか、カトリンよ?」
 がん、と重い音が響いた。バルペオルは片腕で超重量の一撃を耐え、そのまま持ち上げるように押し返す――
 ――そこを狙い、駆ける獣があった。
(あれは、許さない)
 梅雨(la2804)は小隊【GLORIA】の一員として、回復と支援に徹していた。だが天佑の雨雫は既に尽き、できることはもう攻撃のみ。ならば。

「怪我の代償は、払ってもらう――!」

 魔導書、戦友への誄詩を武装デバイスとして獣の機体に組み込んだ梅雨は、バルペオルへと跳びかかる。牙を剥き、友人へ奴が成したように、その腹部へと噛み付いた。ありったけの怒りを込めて。
「あー。ワンちゃんおすわり」
 バルペオルの前蹴りが、梅雨の腹部に直撃する。
「っ、!」
 ごしゃり、と装甲がひしゃげ砕け割れて――パーツをこぼしながら宙を舞ったその体は、末摘 篝(la3025)が受け止める。直後にバルペオルが両手に霧の武器を顕現し、二度、周囲を薙ぎ払った。
「っッ――!」
 篝は守護刀「寥」を構え、ぐっと踏みとどまって耐え忍ぶ。シールドはほとんど形を成しておらず、満身創痍だった。血だらけだった。それでも黄金の瞳で、魔境の悪魔を見澄ましている。
 導の露灯の光は尽き、またひとつとライセンサー側の回復リソースはなくなっていく――しからばと、乙女は刃に想いの力を込めるのだ。
「篝、今回は怒ってるなのよ」
 煌めく刃を居合に構え、そして。

「人の子の邪魔する悪い子は、だぁれ? なの」

 一閃。大切なものを守らんが為、剣を以て盾と成す。黄金の刃閃が怪物を掻き切る。
 その同時に繰り出されたのは、宵闇 風(la3318)が構えるスナイパーライフル「ドロレス」より放たれる弾丸だった。

「このまま終わらせないよ! 強力な一撃をお見舞いしてあげる!」

 ワイルドスナイパー。膝立ちの狙撃姿勢にて極限の集中。風はリロードをしながら想いを込める――全て全てが一撃必殺。今までの戦闘記録から奴らに状態異常の付与は難しい、ゆえに支援射撃は諦めて攻撃に専念を。
 もちろん攻撃だけじゃない。必要な場面でハイヒールも用いて、風は戦線に貢献していく。
「バルペオル――強いと思うけど、皆がいる。だから絶対に、負けるもんか!」

 そうだ、負けるものか。FS-10『サンタマルタ』を駆る卸 椛(la3419)は、悪夢らと激戦を繰り広げる仲間達へリペアシューターを放った。
 できうる限りの支援をありったけ。カタパルトフィールドに攻撃指示。戦闘不能者の緊急収容。そして危険になった時に逃げる為の箱舟として。
 サンタマルタが沈めば、ロシャン上のライセンサーが離脱する術が制限されてしまう。だから沈むわけにはいかない。――今も尚、黄金の霧がシールドを蝕んでいくけれども。キャリアーの大装甲はダテではない。まだまだ、戦える。

「大丈夫、思いっきりやっちゃってくださいませ」

 鼓舞をする。支え続ける。
 SL-Xの白川 楓(la1167)も、その一員。回復が尽きたその時、戦線は瓦解するだろう。無尽めいた再生力を持つ悪魔を消耗させるために、人類はズタボロになることが前提で。

「それでも――積み上げます!!」

 その機体は天空の騎士。黄金絢爛の魔境にて、燃え尽き倒れることが前提の、悲壮にして勇猛なる盾。護り続ける。その身を呈し続ける。思念の盾が砕け、装甲が砕け、火花を上げ、機体を串刺され、そんな中で、楓は奏でる――戦い続ける英雄の勝利を約束する、戦乙女の歌を。
 ここで終わりなどではないのだから。

「少しでも多く削る。少しでも、近づくために!」
「ええ、ええ、ぼっこぼこにします! 頑張りますともっ!!!」

 サンタマルタ甲板上で化野 鳥太郎(la0108)が、前線にて桜壱(la0205)が、声を揃えた。
 霧の彼方なれど、飛娘らの視界情報で位置は掴めている。ありったけの『曲』を奏で続けていた鳥太郎は手を振り上げた。指揮者のように――組曲『破砕』。奏でるは究極の音。現れる五つの透明な柱は、悪夢のみを苛む破砕の音を響かせる。絶大な破壊力を以て、ロシャンの表面に亀裂が走っていく。

 その音に伴奏するように――桜壱もまた攻勢に出る。
 セイクリッドガーデンを張り直す。幻想之壁もフィールキュアも尽きている。あとはもう攻撃あるのみ――感情プログラム:絶望(Despair)起動。異聞「ヴァン・ガード」を手に目を閉じて、想起するは奈落の怪物。全てを飲みこむみずがねの災厄。命を震撼させる涼やかな微笑。それはしろがねの鯨となって、現れる。
「呑み込んで! モンストロ!!!」
 のたうつ銀の大怪物が、悪夢へ大きく口を開けた。食らいつく。食い千切る。
「エンピレオのにおい……いや、記憶か? へえ、IMDっておもしれーなぁ。ちょっと懐かしい気持ちになったよ」
 霧となった姿がまた人の形に再形成される。バルペオルは首を緩やかに傾げた。

 ――稲妻のように光が降る。ロシャンはかなり消耗しているようだが、それでもまだ健在だ。
 続く戦い。ライセンサー側もそろそろ限界だ。他の戦線で戦果を挙げている以上、ここで無理をし過ぎて次の戦いに支障が出るのはまずい。

 ――またシールドが砕け、血や装甲が飛び散っていく。撤退の文字が脳裏に浮かび始める。

 だからこそ、最後に。詠代 静流(la2992)はシールドがほぼ全損したXN-01『星竜』をなんとか駆り、バルペオルへ立ち塞がる。
 剥く牙も尽きた。斬艦刀「天翼」を手にした5枚羽の堕天使は暴れ続けた。それでもまだ、できることがある。
「どうやってエンピレオに勝ったのって言ってたな。その力の一部、味わうか?」
「おー、いいよ。なに?」
「じゃあ――攻撃してこい」
 もしもバルペオルが用心深ければ拒否しただろう。だが奴は、人間の勤勉さが大好きだった――ふわりと掻き消え、次の瞬間には星竜の機体上に。悪魔の掌には霧による3本の杭。それを真下に串刺した。明らかにコックピットを狙って。
 弛緩した機体。砕けた装甲の隙間から血が流れる。
 ゾッと誰もが戦慄した。死――誰もがそう思う。
 なれど。凄まじい咆哮が響いた。それは静流のものであり、共鳴する星竜のものであり。
 グランドフィナーレ。絶対的死すら超越してみせる機能不明の大権能。星の竜は荒れ狂う。纏うのは漆黒の破壊。

 待て、然して希望せよ――逆襲の時を!



●黄金の深淵 03
 全てを塗り潰す漆黒の奔流の後。
 ライセンサー達が一時退却をした、酒池肉林の深奥。
「あーひっさびさにビックリした」
 座り込んだバルペオルは煙管を吹かしていた。半壊したロシャンの上だった。咄嗟に星竜の一撃をロシャンに庇わせたのだが、これまでのダメージがじわじわ蓄積していたのか、ロシャンはそろそろダメそうだ。
 まあ上出来か、とバルペオルは思う。もうちょっと攻勢が激しければロシャンは撃沈していたかもしれない――バルペオルからすれば、今の戦いを耐えきっただけで僥倖というもので。
「さて」
 また奴らは体勢を立て直して挑んでくるのだろう。
 ならば。
 バルペオルはロシャンに触れ、霧に還した――そして捕食する。
 かくしてその姿は人の形を放棄する。黄金の霧で形作られた霧の魔神。下半身は蛇のように足はなく霧に溶け、大きな長い手をした、貌のない双角の異形。常に輪郭がゆらゆらとした、曖昧なる大怪物。

「――菫コ繧呈ョコ縺帙k縺具シ」

 嵐は唸りを上げている。
 停滞と堕落の黄金の果て。
 それに打ち克ち、乗り越えられぬのならば――破滅という未来へと堕落するのみ。



『了』

リプレイ執筆
ガンマ

リプレイ監修
WTRPG・OMC運営チーム

文責
株式会社フロンティアワークス
  1. 対バルペオル戦闘
  2. 対ナイトメア戦闘
  3. 市民救出