【ER】名古屋侵攻阻止作戦~Exclusion of raid~ 1フェーズリプレイ一覧

  1. 侵攻防衛
  2. 爆発阻止
  3. ボマー接触<危険>

1.侵攻防衛

●忍び寄る影
 遠くに広がる、今は無人となった名古屋の市街地。
 そこから湧き出るように無数のナイトメアが姿を現した。周囲の民家に目を向ける事なく、ひたすら進軍を続けている。
 まっさきに目に付くのは鎌のような腕を持つナイトメア・マンティス。どれもがアサルトコアに匹敵する体格をしている。後方に垣間見えるのはレールワーム。それを守護するかのように、一回り大きな万能型・ロックが追従していた。
 いったいどれだけの数がいるのか、ここからでは全貌を確認する事はできない。
 工場地帯防衛のために集まったアサルトコアは200機余り。中には装備の調達が間に合わない者も多く存在した。
 それでも、必ずこの地を守り抜くという強い意志をもって戦いに臨んでいるのだ。


●疾風のように
(僕にできることで、少しでもお役に立ちます!)
 戦うことへの恐怖から、アサルトコア『FF-01』の操縦桿を握る白川 楓(la1167)の手が震える。
 それでも犠牲を減らしたいという思いは強く、意を決してプレーンブースターを作動させた。
 足場を利用してより高く跳び、敵の布陣を僚機へと伝えていく。

 その情報を基に、【クラーク駆逐隊】が先陣を切って動き出す。
「弾幕を張って、少しでも動きを止められれば!」
 遠距離攻撃を持たないマンティスを相手にする場合、近づけさせない事がセオリー。
 クラーク・アシュレイ(la0685)の駆る『FF-01』とリディア・B・ラスコーヴァの『HN-01』は、リロードのタイミングが重ならないよう、時間差でB02アサルトライフルを撃ち放つ。
 二重の弾幕を受けたマンティスの歩みが目に見えて鈍った。
 それも僅かな間の事。クラークがリロードに入り弾幕が薄れた瞬間を狙い、マンティスが突進してきたのだ。
 十数メートルの距離を一気に縮めて斬りかかるマンティス。リディアは思念式展開装甲を展開し、『HN-01』が受けるダメージを軽減させた。
「この感覚……懐かしい。俺は戦場へ戻ってきた!」
 そこにブライアン・シュライバー(la1646)の『FF-01』が乱入。身体に染み付いた戦いの本能のままアサルトランス「マフルート」を揮い、マンティスを串刺しにする勢いで突き立てた。
 ガツンという音と立て、右腕の鎌でアサルトランスを弾いたマンティス。
 その側面からサーシャ・ミトライ(la3210)の『HN-01』が静かに間合いを詰める。
 徒手空拳――無手ではあるが、アサルトコア自体を巨大なEXISと見立てるなら、ナイトメア相手に立ち回る事は充分に可能。
「落ち着け落ち着け……。とにかく冷静にいこう!」
 続いて袋井 雅人(la1089)の『ラブコメ1号』がアサルトソード「リーネア」を翻し、袈裟懸けに斬りかかる。どさりと音がして、片腕が地に転がった。
「やった!」
「いいえ、まだです」
 撃破の予感に歓喜した雅人に、マンティスが残された腕で反撃の鎌を振り上げる。
 サーシャの拳を受け、刃は雅人の首下を掠めるに終わった。
「一気に畳みかけるぞ」
 再び【クラーク駆逐隊】が弾幕を張る。その猛攻でマンティスは大きく仰け反った。

「相手がどんな奴だろうが、俺は俺の戦い方をするまで。派手に暴れてやらぁ!」
 指の関節を鳴らし心の準備運動を終え、五代 真(la2482)は『泰山』を操りマンティスに近接する。
 一方的に腐れ縁と認定できるほどに刃を交えたタイプである。真はその特性を思い浮かべ、C-203アサルトバルカンの乱射を織り交ぜて交戦するが、次第に圧され始める。
「こいつらゾロゾロとッ!! 好き勝手やらせるかよ!!」
「工業地帯には行かせないわ!」
 そこに助力に入ったのは伊波 総士(la0437)の『FF-01』とユウ・オルグレン(la0150)の『叢雲』だ。
 ユウの放つB02アサルトライフルの弾幕を受け、マンティスが数歩身を退いた。
「今よ!」
 頭部を守るように腕で覆っているこの瞬間ならば、反撃の鎌を繰り出す事は難しいはず。
 タイミングを伝えるユウの掛け声より一瞬早く、態勢を整え直した真と総士がファングブーストで左右から斬りかかった。


●勇気ある選択
 【民間軍事会社「Beowulf」】は、共闘する【Hope】を併せればこの戦域で最大のグループとなる。
 頭数もさることながら、高く練り上げられた連携攻撃で瞬く間に防衛ラインを押し上げていく。
「シャウラ、派手にいくわよ!」
 アンタレス(la2909)は愛機『シャウラ』に声を掛け、プレーンブースターを起動させる。
 空から見た敵の布陣は初期と変わらず。足の遅いレールワームやロックに対し、マンティスが更に突出した形だ。
「さあて、ここから先は一歩も通さんぜぇ」
 二列横隊の前衛に立つラル・晴(la1088)の『ニル・デスペランドゥム』が重装甲を活かして壁となり、風花雪乃(la2627)の『雪風』達がB02アサルトライフルを放ち、マンティスの進軍を阻む。
 自分達の肩に掛っているのはこの戦域だけではない。
 ナイトメアに対抗する力を造り出す工場地帯。そこを守る同胞。近い未来、それらによって救われるだろう数多の命のためにも――そんな不退転の決意で立ち続ける。
「C2方面……からマンディスが……2体、接近……しています」
 このままでは後方の砲撃手へ接近する前に、側面を取られる危険性がある。
 【八咫烏】秋姫・フローズン(la2694)の分析を受け、【■■■■■】機体S型壱号機(la0567)が対応に向かった。
「敵性多数認識……排除、排除―――排除……」
 ともすれば攻撃一辺倒になりかねない機体S型壱号機を、レムリー・クラウン(la3023)率いる【Hope】がカバーする。
「いっちょやったりますか!」
 仲間の射撃に援護されつつ、レムリーは愛機『ネオン』を繰り、マンティスの攪乱を続けた。

 【ヴァローナ・グニズド】の小隊長であるアグラーヤ(la0287)は、マイリア・オルター(la0611)ら前衛陣と共にプレーンブースターを起動、跳躍し、マンティスの頭上を飛び越え後方へと回り込む。
 自分達に意識を引き付ける事でナイトメアの無防備な背中を後衛へ晒させ、射撃を援ける……作戦だった。
 順調に進んでいると思われたその作戦は、ひと筋のレーザー砲によって断ち切られる事となった。
 ゆっくりと前進を続けていたロックが、ついに防衛ラインの先端を射程に捕らえたのだ。
 その一撃でアグラーヤの愛機『デュオハーツ』は手にしていたアサルトソード「リーネア」を取り落としてしまう。
「姉さん!」
 とっさに駆け寄ったクラースナヤ(la0298)の『紅』にも、容赦なくレーザー砲が襲い掛かる。
 続けざまにもう一発。クラスーナヤは姉・アグラーヤの盾となり、その一撃を真正面で受け止めた。
「姉さんの背中は……あたしが、守る!」
 装甲が薄い機体には一溜まりもない。続けざまに二発のレーザー砲を受け大きく破損した『紅』は、ついに大地に膝を落してしまった。
「……まずいですね」
 ここを突破口と見定めたのか、周囲のマンティスが集まりだしている。
 孤立した前衛を離脱させるため、コル=カロリ(la2910)は後衛担当の仲間達と共にマンティスを掃射するが、対応が追い付かない。そうしている間にも、後方からはレーザー砲が放たれ続けている。
 あわやの危機を救ったのは、同胞の救援を主目的に据えた小隊【380戦術機甲小隊】だった。
 隊員一丸の援護射撃により周囲のマンティスは複数に分断され、【ヴァローナ・グニズド】は次々とプレーンブースターを起動し、無事に最前線から退く事ができた。
「星斗、深追いは無用だ……。他にも孤立した僚機がいる」
 撃破数最多を狙い追撃に向かう黒井 星斗(la0952)を小隊長である伊藤 毅(la0675)が引き留める。
 レールワームやロックの射程圏内となった事で、突出していた複数のアサルトコアが被害を受けていた。
 防衛ラインの死守は大切だが、それを保持するためには『戦える者が健在である事』が必要不可欠なのだ。ここは一度退き、態勢を整え直すのが得策だろう。


●時を待つ
「此方後方警戒の【フォーサイシア】! 現在の後退の最適路と注意箇所を伝えるよ!」
 桃武 侑飛(la0525)は『FF-01』の通信機を通じ、周囲のライセンサーへと語り掛ける。
 ナイトメアの分布やライセンサーとの戦力比。破損が激しい者の撤退路も。それらは自身と仲間が危険を冒しながらも収集・分析した情報だ。
 ダメージの蓄積により最前線からの撤退を決めたライセンサーは、その情報を基に退路を選び、後方に控えていたライセンサーと無駄のない動きで入れ替る。

「さて、わしはもう少し暴れさせて貰うとしようぞ!」
 四神の長の名を冠した『黄竜』に乗る龍 天華(la0350)が落ち着いた口調で告げる。
「装甲を活かせばよお。最後まで銃を撃てるんだぜえ!」
 赤城 龍一郎(la0851)も『HN-01』と共に最前線に立ち続ける意欲を誇示した。
 それは行動を共にする他の【黄竜会】小隊メンバーも同様で。大きく下がった防衛ラインを押し返そうと暴れまわる。
 後方の小隊員を庇うように、天華はマンティスの突撃をアサルトランスでがっしりと受け止めた。しばしの鍔迫り合いの末、競り勝ったのは天華。
 ランスを一閃させ、その切っ先を深々と胸元へと突き刺した。

 サムライたるもの常に前に進まねばならない――そんな信念を持ったシセ・カジュ(la2517)は、破損した同胞達と入れ替わるように、愛機『MS-01J』と共に最前線へと出た。
 それを待ち構えていたかのようにマンティスが突撃する。
「無念よの、平打ちじゃ」
 すれ違い際の一撃を辛うじて避けたシセは、無防備な背を晒すマンティスに向き直る。
「そぉぉりゃぁあ!! サムライブレード!!」
 そして高らかに技名を叫びながら、唐竹を割るようにアサルトソード「リーネア」を振り下ろした。

 高架の上に陣取っていた霜月 愁(la0034)の視界に、マンティスの群れと戦う1機のアサルトコアが映った。
 ガルシア・ペレイロ(la0370)が操縦する『HN-01』だ。
 単独行動という身軽さを活かし囮役を演じていたガルシアは、高度を落とした時にロックが放つレーザー照射の的となったのだ。
 幸いレーザーは機体に届く事はなかったが、ガルシアはこれ以上の飛行は危険と判断した。しかし『安全な場所』へ降りるには少々時間が足りなかったようだ。
 着地したとたん複数のマンティスに囲まれ、現在に至る。 
「単独でどこまでいけるか試したかったが……これが限度か?」
 包囲を振り切るまで、ガルシアは『HN-01』の装甲と思念式展開装甲をフルに活用してマンティスの猛攻を凌ぐ。
「アサルトコアでの初陣です。上手く戦えると良いのですが……」
 援護としてG37アサルトライフルを数発放ち、状況が変わらない事を認識した後、愁はプレーンブースターを起動させ、ひと蹴りでマンティスの群れへと近づいた。
 地に足を付け、懐に深く入り込んでアサルトソード「リーネア」を薙ぐ。そして反撃の鎌が振り下ろされるより前に、ダイブ・モードでマンティスの間合いから遠のいた。
 マンティス達は新たに現れた愁をも獲物と定めて襲い掛かる。
「援護に感謝する」
 標的が増えた事で、自機に掛かる負担は各段に減った。ガルシアは即座に体勢を整えると、アサルトソード「リーネア」を構え、マンティスへと斬りかかった。

 ライセンサーの尽力により部分的に戦線は押し上げられているが、一部は未だ乱戦状態のまま、不安定な防衛ラインが構築されている。
 ならばそこを支配するのが自分達海賊の役目。
「野郎共! お仕事の時間だよ!! フルクトゥス一家の力、見せてやりな!」
 レフニー・フルクトゥス(la0174)の号令を受け、高架上に並んだ【海賊「フルクトゥス一家」】が待っていましたとばかりに歓声を上げる。
 すでに傷を負った個体に狙いを定め、確実に撃破を重ねていくレフニー。
 倒れた敵がバリケードになれば……と目論んでいたが、マンティスは仲間の骸を無造作に蹴散らしながら猛然と歩を進める。
 ホリィ・ホース(la0092)とモー(la1404)、二人息の合った狙撃により頭部を打ち抜かれたマンティスは、そこからさらに数メートル歩いた所で、崩れ落ちるように倒れた。
 その状態でもなお進もうとしているのか、足をばたつかせている。
 ひとり地上に待機する野月 桔梗(la0096)がB02アサルトライフルを死にぞこないのマンティスに突き付ける。
 鈍い銃声。
 超至近距離で胸元を粉砕されたマンティスは今度こそ確実に動かなくなった。
「モー、敵が多すぎて困ったぜもー」
「でも、ここでいいとこ見せとかないと、スポンサー様に顔向けできないよねぇ」
 なおも増え続けるマンティスを見下ろしながら、2機の『ホークカスタム』がまるでコントのような会話を交わす。
 更なる一斉射撃を耐えきったマンティスに止めを刺すため、スプリガン(la1124)が高架から飛び降り、地上の桔梗と合流。自機『カーディアン』を壁として侵攻を防ぐ。
「ここより、先……通行止め、だ。 ……船長が、そう望んでいる」
 追加の装甲を纏っていないほぼ初期状態の機体だが、スプリガンは『カーディアン』生来の頑強さを活かし、マンティスと格闘戦を繰り広げた。
 そしてまた1体、マンティスが防衛網を抜けてくる。
「まったくうじゃうじゃときりがないわね」
 桔梗は口元に冷めた笑みを浮かべながら引き金に指を添えた。
「行けー!」
 レフニーの声と共に、三度【海賊「フルクトゥス一家」】の銃声が重なり、マンティスは次々と倒れていく。


●ロック・オン
「大変や、向こうからぎょーさん来てはるー」
 プレーンブースターで飛行し、立体的に戦場を眺めていた【フォーサイシア】の灯日 すずな(la2786)が声を上げた。
 間延びした緊張感のない口調だが、伝えられたのは数体のロックが迫ってくいるという緊迫した情報。
 そのうちの1体はレーザーを照射すべき獲物を品定めするように、眼らしき器官が妖しい光を蓄えていた。
「これは1発ぶちかますつもりかも知れへんなー」
 恐らく多くのアサルトコアがナイトメアと乱戦を繰り広げている場所へ。
 そうなれば更なる混乱は必至だろう――そう思った時、ロックの眼から光が消えた。一瞬の後、迸った光。標的となったのは他でもない、すずな自身。
 不安定なブースター中、完全に避ける事は難しい。レーザー砲は『HN-01』の肩を掠め、虚空に消えた。
「アハッ」
その様子を見て、【独立機械化歩兵小隊【Заря】】の小隊長、イリヤ・R・ルネフ(la0162)は『НВ-01бис』の操縦席で笑いを零した。
 未遂に終わったとはいえ、ロックが撃ち落とそうとしたのは古巣であるノヴァ社が誇るHN-01なのだから。
 もっともレーザー照射の一発や二発でどうにかできるほど、ヤワな機体だとは思っていない。
「お仲間は花火が好きみたいだ。キミ達の分は僕らが手伝ってあげようねー」
 次に倒すべき対象として定めたロック目掛け、仲間と共に戦場を駆ける。
 ほぼ同時にキャプテン・ブロッサム(la2215)率いる【戦闘支援機関「オーケアノス」】も動き出していた。
 敵陣の奥に位置するレールワームの撃破を目標に掲げる【戦闘支援機関「オーケアノス」】だが、周囲のナイトメアに阻まれ、中々射線が通らない。
「あのさ、ロックは僕らに任せてクレル?」
 そこに割って入ったイリヤ。豪快にB02アサルトライフルを撃ち放ち、ロックの意識を自身へと向けさせる。
「ロシア戦線の屈辱はここで晴らします」
 ギラガース ディエーヴゥシカ(la2413)も『Верный』――ヴェールヌイを操り、戦いを挑む。
 撃ち、ゆっくりと退く。隙を見せつけ、敢えて攻撃を受けた上でもう一度。そうして開けた空間にイリヤが割り込み、ナイトメアの群れを分断させる。
 周囲のマンティスは【黄竜会】が引き受けてくれた。絶妙な連携で切り開かれた道を、数機のアサルトコアが駆け抜けていく。


●反撃の狼煙
「姐さん」
 最終防衛ラインの守りとして高架上に控えていた超菜 ノト(la0800)は、傍らに立つ【メインディッシュ】のおっかさん……もとい、小隊長・珠(la2593)に視線を向け……
「敵が少し突破しやしたぜ。ぶちのめしますかい?」
 ……可憐な声色にはあまり似つかわしくない品のない言葉を吐いた。
「そうねぇ……」
 次第に迫ってくるロックを前に考えを巡らせた珠は、にっこりと微笑んで良しと頷いた。
「みんな、行きますよ」
 その一言で、【メインディッシュ】の隊員達は素早く戦闘態勢を整える。
 万能型であるロックは装甲も硬く、気まぐれに狙撃した程度ではピクリともしないだろう。
 もっと効率的にダメージを集中させ、迅速確実に数を減らしていくのだ。
 珠が目を付けたのは、積極的にレーザー砲を連発している好戦的な中型のロックだ。
 見える範囲でそのロックと対峙しているのはフェルリア・アルクス(la0654)が操る『MS-01J』のみ。
 物理と知覚、性質の異なるアサルトライフルを駆使して狙撃するフェルリアは、ロックにとって鬱陶しい存在だろう。
 しかしレーザー砲が他方へ向けられているという事は、他にも交戦しているアサルトコアがいるのかも知れない。
「こちら高架上【メインディッシュ】。ロック撃破、助力します」
『『感謝します』』
 珠の呼びかけに応えたのは2人。
 やや離れた橋脚の陰から佐々宮 鈴奈(la2878)の『MS-01』が顔を出し、自機の位置を知らせる。
 2機の『MS-01J』と【メインディッシュ】は三角形を描く形で、ロックはその中心辺りに位置している。これほど絶好の標的はあるだろうか。
『この個体の防御ですが、物理・知覚に片よりはなさそうです』
『合図はそちらに任せるよ』
 即席の連携だが、意志の疎通に要した言葉はごく僅か。
「では……」
 こほん、と咳払いを1つして、珠はカウントダウンを始め、
「そーれ、撃て~い!」
 少々気の抜けた珠の掛け声と共に嵐のような銃弾が中型ロックに襲い掛かる。
 ロックは忌まわしそうに身を震わせガードを固めるが、多方面から撃ち込まれる攻撃に対応しきれないでいた。

 高架上に陣取った鈴鴨(la0379)はバイザーで隠された白と黒の瞳で眺めた戦場の情報を分析、周囲の同胞達に伝えていく。
『敵発見、個体識別完了、ND-012レールワーム中型、4体。位置は……』
 それぞれのレールワームにはNU-001――ロックが追従しているらしい。
 先にそれらを排除しなければ、レールワームに攻撃が届く事は届かないだろう。
「向原 大那、二荒に乗って出陣!!」
 真っ先に囮役として名乗りを上げたのは向原 大那(la0585)だった。
 アサルトコアでの戦いは初めてだが、アサルトコアはライセンサーの分身のようなもの――だとすれば大きさが違うだけで生身の戦いと変わらない。何も難しく考える必要はない。
 体育会系的思考のもと、大那は『二荒』のプレーンブースターを起動すると、ロックの眼に止まるよう戦場をがむしゃらに駆け回った。
 早速、1体のロックが釣られて動き出した。大那はレーザー砲を巧みに回避しつつ、一定の距離を取って誘導を続ける。
 そのロックが射程圏に入り込んだ瞬間を待ち、丸井 義三(la0317)率いる【White-Angel】が一斉にアサルトライフルを撃ち放った。
「せせり、しゅつげーき! わん!」
 可愛らしい声で猛々しく叫び、だいふく(la0785)は攻撃を一か所に集めるため、狙撃するべき対象を指し示す。自らも火力として参加し、手堅く1体を撃破。

 高架上からの狙撃により、戦いの趨勢は次第にライセンサーの側へと傾いていった。
 よし――
 この調子だ――
 今ならきっと――
 高揚した士気に背中を押され、ライセンサーは更なる功績を求めて奮起する。
 そんな折。
『マップ位置D3、粒子砲の兆候を確認、到達予想時間まで10秒!』
 再び鈴鴨の声が響いた。
 それはレールワーム撃破に向け動いていた【戦闘支援機関「オーケアノス」】からの報告だった。
 10秒後――鈴鴨の分析通り、一条の光が戦場を迸った。
 明らかにアサルトコアの密度が高い場所を狙った攻撃。幸い射程の先端が届く事はなかったが、大地を抉った衝撃がダイレクトに伝わり、高架は激しく振動した。
 地上に位置していたライセンサーの多くも回避行動をとり、直撃を受けた者はいなかった。
『B5、E7、兆候確認。高架は射程圏内と予想……』
「ええい、総員退避! ……うちの子たちを、危険な目に合わせるわけにいかんのじゃあっ!」
 義三の叫びで【White-Angel】メンバーはもちろん、高架上に居たアサルトコアが次々とプレーンブースターを起動させる。
 直後、続けざまに2方向から放たれた粒子砲が、橋脚と橋桁を打ち砕いた。
 轟音と振動、朦朦と砂塵を巻き上げて。それまでアサルトコアが立ち並んでいた高架が、無残な瓦礫となって積みあがる。
 奇しくもそれが障害物となり、ナイトメアの進軍を阻む事となった。
 
 高架はこれまで人々の生活を支え続けた、いわば大動脈と呼べるものだった。
 その姿はまるでナイトメアの手で破壊されたのではなく、ナイトメアから街を守るために、自ら防壁としての役目を果たすのだと宣言しているように感じられた。
「さあ、SALFの勇士達よ。行くが良い。そなたらが舞い、この場に戻ってこれるよう、我も歌おうではないかっ!」
 アヤトユカティミーナ(la3080)の歌声に鼓舞されて、ライセンサーは前を向く。
「マンティスは私達に任せて」
「ロックは俺達が引き受ける」
 初動で損害を受け一時撤退していた者達も、再び前線に復帰する。
 ライセンサーの士気は、これまで以上に高まっていた。


●勝利への道
 高架という足場を失った【小隊百鬼】の長宗我部 鬼親(la2639)は、粒子砲が放たれた源へ目を向けた。
 自身の目でレールワームの位置を確認すると、ロックの砲撃を掻い潜って『MS-01J』で敵陣を駆け抜けた。
 それに追いつくべく、小隊長である獅子王 砕牙(la3094)は地上を走る。
「おらどけどけっ、チョーさんが全部倒しちまう!!」
 ロックは排除されたが、前方には未だ多数のマンティスが群がっている。
 すれ違い際にアサルトソード「リーネア」の剣戟を一発。その後の対応を信頼する隊員に託し、砕牙は再び先を目指す。
「さて、芋虫駆除を始めますか……」
 砕牙の姿を確認した鬼親は、相方の到着を待たずにダイブ・モードで機動力を上げ、空からの襲撃を敢行した。
 おそらくこの個体は知覚防御特化型だったのだろう。鬼親が突き立てたアサルトランス「マフルート」は音を立ててレールワームの装甲を割り砕き、深々と突き刺さった。
「抜け駆けは無しだっての」
 挟み撃ちで対処する計画ではなかったのか? そうぼやきながらも、砕牙はレールワームの意識が頭上へ向けられている間に、死角からアサルトソードで斬りかかった。

 【Jokers】のメンバーは小隊を功衛・守衛・後衛に分け、三班態勢で戦いに臨む。
 撃破優先目標はレールワーム。
 粒子砲を放った直後の隙を突き、功衛の一枚を担う楊 嗣志(la2717)『MS-01J』で一気に肉迫する。
「いくぞっ」
「はい……!  織葉、頑張ります! 織葉、やれるんです!」
 EX-17 織葉(la0795)は自身の能力を肯定するように何度も呟くと、レールワームの側面に陣取る嗣志の隣に乗騎『FF-01』を付けた。
 二機で力を合わせ、レールワームの横転を試みる。
 もちろんレールワームも大人しく持ち上げられてはくれない。激しく足を動かしてアサルトコアを振り解こうと爪を突き立てる。
「いい子ですから、おとなしくしてください!」
 織葉はレールワーム前方に回り込むと、頭部に突き出た角的な部分をむんずと掴んだ。そしてそのまま腕ひねりをするかのように重心を傾ける。
「よし、その調子だ、織葉!」
 完全転覆には至らなかったが、嗣志はレールワームの下部にアサルトランス「マフルート」を差し込むと、自機の足を支点としたテコの原理で、ついに裏返しを成し遂げた。
「総員、射撃開始!」
 晒し出された腹に、【Jokers】メンバー8名が一斉に攻撃を叩き込む。
 銃弾を受ける度にレールワームの身体が大きく弾け、体液をまき散らせた。

 【Jokers】の戦いを見守っていた坂本 雨龍(la3077)が、ある奇策を思いつく。
 問題は、自分にそれができるか否かだ。
(……僕は、父さんみたいな臆病者じゃない!)
 いったい両者の間にどんな確執があるというのだろうか。
 父への反感を心の糧として、雨龍はレールワームの背後へと回り込むと、尾にあたる部分に手をかけた。プレーンブースターの推進力を利用してそのまま空中へと引っ張り上げる。
 腕にかかる半端ない重さに堪えながら、天辺まで上り詰めた所で手を離す。
 自由落下で地面に叩きつけられるレールワーム。
 その体を目掛け、今度は自分自身が墜落状態となって落下する。
「四肢が砕けようと、コクピットさえ無事なら構わないっ」
 地球の重力を乗せた攻撃――それは半ば捨て身の蛮行と言えるだろう。
「ぐはっ」
 拳を叩き込むことに成功したものの、受け身を取る事ができなかった『銀兎』を、イマジナリーシールドでは防ぎきれない激しい衝撃が襲う。
 幸い四肢が砕ける事はなく、意識も続いていたが、落下の余韻が抜けきれない雨龍は指一本動かせない。
「そうだ、レールワームは?」
 レールワームは……まだ生きていた。砕けた装甲を引きずりながら、にじりと近づいてくる。
 絶体絶命の危機に駆け付けたのは、遊撃的に戦場を駆け回っていた【スイーパー】の3名だった。
 弱っている敵を確実に始末する。――そう小隊方針に掲げて『FF-01』を駆る天ヶ原 箒(la3200)、ティーア ナハト(la1213)達はファングブーストで攻撃力を高めたB02アサルトライフルを叩き込む。
「……せっかくの機会だ。楽しませてもらおうか」
 物理防御に特化したレールワームは中々にしぶとい。それでもメンバー一丸となり、装甲が剥がれた箇所に狙いを定め、何度も銃弾を撃ち込んでいく。
 やがてレールワームは完全に動きを止めた。
 その頃には雨龍の身体も回復していたが、これ以上『銀兎』で戦う事は難しいと思われた。
 撤退の援護を後方支援の同胞に託し、【スイーパー】は新たな活躍の場を求めて動き出した。

 【戦闘支援機関「オーケアノス」】と【極楽電脳無軌道小隊【オフ会】】が対峙するのは、この場にいるレールワームの中で最も大きな個体だ。
 ブロッサムと君野 エミル(la0035)、両小隊長の下に集ったメンバーは総計9名、そこに浦戸 真木(la0870)が加わって、総勢10名での戦闘となる。
 レールワームの左翼から攻めるのは【戦闘支援機関「オーケアノス」】だ。
「さあ、皆、派手にいくぜ!」
 ブロッサムは『キッド』に搭乗し、武器をアサルトソード「リーネア」に持ち替え前衛を担う。
 粒子砲以外は恐れるに足りないと言われる威力だが、ここまで大きくなれば油断は禁物。
 ブロッサムはぴったりと張り付きながらも、万一の時はいつでも思念式展開装甲で後衛を庇う構えを取る。
 『ハームレス』に乗る雨崎 千羽矢(la1885)は、G37アサルトライフルで前衛のサポートをしつつ、他ナイトメアによる奇襲にも気を配る。
 【戦闘支援機関「オーケアノス」】は対する右翼に陣を張っていた。
「よっしゃ、全員集合! 無茶しない程度に連中をかき回してやろうぜ!」
 『スターダスト・ファンタズマ』に搭乗する前衛のエミルはやや広めに間合いを取り、隊員と共にヒット&アウェイで攻撃を繰り返す。
 楓斗 メイフィールド(la2962)はその後方からB02アサルトライフルを放つ。稀に前衛がレールワームの爪で薙ぎ払われた時は、体勢を整える時間を与えるため、進んで前衛へ回った。
 レールワームが左右どちらかに攻撃を向ければ、死角となった片翼がありったけの火力を叩き込む。
 真木は『吹雪』を駆り、後方に回り込んでは装甲の接合部を狙い、アサルトソード「リーネア」を抉った。
 レールワームの動きが止まった。砲台が帯電し、薄い光を纏う。
「気を付けて、粒子砲の兆候だよ!」
 異変を感じた楓斗が警告を発する。
 周囲が身構える中、エミルはプレーンブースターを起動。空を蹴って舞い上がると、頭上からアサルトソードを叩き込んだ。
 粒子をため込んだ砲台が下を向き、直後に放たれた粒子砲は大地を深く抉る。
 行き場を失った衝撃のいくらかはレールワーム自身に返ったらしく、レールワームは悲鳴にも似た咆哮を上げた。
 砲台の先端が吹き飛んでいる。あの様子では、もう粒子砲を撃つ事はできないかもしれない。
「チャンスだよ、吹雪!」
 今が攻め時。真木は前方へと回り込むと、頸部の繋ぎ目にアサルトソードを突き立てる。
 一撃離脱、その後に。二小隊持てる限りの攻撃が撃ち込まれ、遂にレールワームを撃破した

 全てのレールワームが斃れたためだろうか。
 それまでひたすら工場群を目指し続けていたナイトメアの進軍が、電池が切れたように止まった。
 統率力を失ったように散り散りになり、ライセンサーの追撃に抗う事なく退いていく。
「これ以上の深追いは無用だぜ」
 ロックの背に照準を定めた小隊員を腕で制止し、【戦闘支援機関「オーケアノス」】隊長・ブロッサムは高らかに勝利宣言をした。


●凱歌をあげよう
 全てのナイトメアが姿を消し、現場は再び静寂に包まれた。
 工場地帯への侵攻を防ぐという任務を完遂したライセンサーは、共に戦った、自身の分身とも言えるアサルトコアを労う。
 もっとも今は仮初の平和。
 街が本来の賑やかさがを取り戻すまで、あと少し、あと少し共に戦ってくれと。
「……ごくろうさま」
 七瀬 葵(la0069)も、小さな声で愛機『みけきゃっと』に言葉をかけた。
 結局、【三毛猫輜車隊】に出番が回ってくる事はなかった。
 それでいい、葵は思う。
 なぜなら、自分達が活躍する時、それは後がないほど戦いが苛烈になる事を示すのだから。
 もちろん彼女達の存在が全く無意味だったという訳でもない。
 弾薬が尽きる事を気にする必要がない――その精神的な支えは、前線で戦うライセンサーにとって、何よりも心強い支援となっていただろう。
 町が本来の賑やかさを取り戻した時、また輜重を運びに来るのも悪くないかもしれない。


 その時は弾薬など物騒なものではなく、もっと街の人々に喜ばれるものにしよう。

リプレイ執筆
真人

リプレイ監修
津山佑弥

文責
株式会社フロンティアワークス
  1. 侵攻防衛
  2. 爆発阻止
  3. ボマー接触<危険>